うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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18. へそくりを隠した場所は大抵バレやすい

「うーんまだ夜の殴られた傷痕が痛むかぁ~」

「何言ってるんだ提督?」

「いやいやこちらの話」

 

 提督達のスパルタ教育が三日間続いた。一日八時間ずつローテーションで艦娘達を厳しく育て上げていく。まさに地獄のような日々が続き始めていた。

 

「マジで休みないのか!?」

「馬鹿言えサラリーマンなんてこれ以上働いてんだぞ甘ったれるな、ほら立て」

「っ……分かったよ……!」

 

 天龍はまだ疑問に思っていた。初めて提督に蹴られた時、まるで鬼クラスの深海棲艦に殴られた様な衝撃がまだ身体に残っている。人間であればまずあんな威力を出す事など有り得ない。それは今も同じだった。

 

「何で提督はあんな強いんだ?」

「愚問だな。俺はお前らより過酷な戦場を渡り歩いて来たんだレベルが違う」

「レベルかぁ……」

「提督」

 

 天龍と手合わせしていた提督。

 時間は十六時、空が茜色に染まっている。提督を呼んだのは鈴谷と他の艦娘達。最上、加賀、金剛の三人だ。恐らく連れてきた要員は差別された側の艦娘という事だろうか。

 

「今はダメ?」

「俺が執務室にいる時に来いと言ったはずだ。だがしかし一々面倒臭い状況に呼び出されるのは腹立つから私の寛大な心に免じてここで言う事を許可するさぁ言いたまえ」

「じゃあお言葉に甘えて、提督。差別を無くしたい、手伝って」

「人に物を頼む時は敬語だと幼き時代に習わなかったのかぁ、ましてや俺はお前の上官だ敬語で言いたまえ」

「っ……差別を無くしたいんです、手伝ってください」

「敬意が篭っていないやり直し。敬愛なる提督様、愚かな差別という行為をこの世から抹消したく存じますのでどうか心許ない私達に救いの手を差し伸べてくださいお願いしますと言いたまえ」

「チッ……!! 敬愛なる提督様、愚かな差別という行為を……この世から抹消したく存じますので、どうか心許ない私達に救いの手を差し伸べてください……お願いします……ッ!!」

「仕方ないなぁこうも言われちゃ手伝う他ないだろう」

「ねぇぶん殴ってもいい?」

「いいぞ」

 

 許可したのは近くを通った摩耶だ。一連の流れを見て、自身も殴りたくなったらしい。

 

「お前が許可してどうする」

「茶番はやめて、早くしてくれないかしら」

「だったら俺の頼み事を聞いてくれ、差別している側と差別された側にいる艦娘達をそれぞれ書類にまとめて別けるんだ。提出は今日から一ヶ月内、俺が執務室にいる時だ、分かったか?」

 

 まずどの艦娘がどちら側にいるかを先に把握しなければならない。今もその差別事情が続いているのであれば前任以外に続けさせている人物か艦娘が存在する。

 だがこの鎮守府に居たはずの整備士や工兵、憲兵や清掃員は前任逃走後に元帥が全員異動。一部は犯罪に手を染めており、刑務所行きになっている。人すらいないこの状況であれば狙いは艦娘だ。

 

「全員だ、全員調べろ! 本当の闇は奥深くに潜んでいる、探って探って探りまくれ! 誰かの紐パンが出ようが誰かのへそくりが出ようが誰かの宝物が出ようが探すんだ、いいな?」

「は、はい……」

「よーし下克上の準備を始めるぞ! 本能寺の変を起こすまで時間はコップに水が溢れる程余っている、本気でやれ!!」

「はい!」

 

 提督の目は本気だ。差別を無くそうとする自分達に最大限の手配をしてくれる。思わず勢いよく返事してしまった。だが少し悪くない気分だ。

 

「お、来たか」

 

 すると遠くからヘリコプターが飛ぶ音が聞こえた。ヘリコプターはこの鎮守府の広場に着陸、誰かが降りてくる。白い軍服姿の男と目つきの悪いどこかで見た艦娘。

 

「ここがあの噂の鎮守府ですね白さん、お久しぶりです」

「久しぶりだなぁ調子はどうかね■■中尉、相変わらずのポーカーフェイスで安心したよ」

「白さんこそ相変わらずの減らず口で安心しましたよ、それに貴方がここに配属されたと聞いた時は驚きました」

「話は執務室でしよう、ここだと機密漏れだ」

 

 

 

 

――執務室応接間

 

「さて私を呼んだのは演習の申し込みと打ち合わせですね」

「如何にも! あの調子づいてるポンコツ兵器共を完膚なきまでに蹴散らしてくれ」

 

 応接間を使って提督と中尉、それぞれの秘書艦を引き連れ話し合っていた。

 それは演習の申し込みと打ち合わせをする為の会議。訓練で練度を上げた艦娘達を力を発揮する演習でそれ以上の練度を持つ相手にぶつけさせる。そして完膚なきまでに敗北させる事でくだらないプライドをぶち壊すという卑屈な計画だ。

 中尉を選んだのも理由がある。

 

「分かりました、では遠慮なく破壊させていただきます。後悔は無いんですね?」

「当然だ、だからお前を選んだんだ。連帯責任や報酬、過酷な訓練のような厳しいルールでついてきた艦娘を鍛え上げたと言われてるお前の艦娘共なら容赦なく叩きのめしてくれるはずだ。頼んだぞ」

 

 中尉は誰にも容赦ない冷酷な軍人として有名だ。戦意の無い艦娘を戦場に引きずり出したり、敵に対しては見敵必殺。戦意喪失した艦娘を連帯責任と称して艦隊ごと解体するという噂まで広がる、まさに冷酷な人物である。

 何より凄いのは過酷な状況下についてこれない艦娘がいない為に解体や轟沈の報告が一回も無いという事実。その結果、南方の鎮守府にて防衛ラインを維持し続ける大事な役割を全うしている。道理で秘書艦の目つきが悪いわけだ。

 

「えぇお任せ下さい。あと白さん、あの件についてですが……」

「大体内容は把握している。奴がこの日本のどこかではなく何処かの鎮守府に潜入している可能性がある事だろう」

 

 紫色のファイルを取り出し、内容を読み上げる。それはこの鎮守府の前任が日本の鎮守府に潜入している可能性がある事だ。一般人から各地でその発見情報が発生している。もう隠し切れないと悟ったのか大本営は各地の鎮守府の責任者のみ知る事ができ、口外禁止となっている。

 

「この鎮守府にも可能性は無くはありません。だからこうして訓練を積んでいる様で安心しました。警戒を強めた方が良いかもしれません」

「ご忠告どうもありがたく参考にさせていただこう。君のその綾波も相当練度が高いようで」

「えぇうちの最高戦力の一人です、私と同じく容赦がありません。どうか楽しみにしていてください」

「あぁ楽しみだ……ってな訳で会議も終わった事だし時間ある限りゲームしようぜぇ!!」

「……良いでしょう」

 

 提督はニンテン〇ースイッチを取り出し、ゲームをしようと誘った。冷酷な中尉であろうと娯楽は大好きだ。暇さえあれば提督と同じゲームをやったりしている。快く中尉と綾波はマイコントローラーを見せびらかし、提督は摩耶を誘って四人でゲームをやった。

 

「何やってんだか」

 

 開いたドアの隙間から艦娘二人が覗いていた。覗いていたのは木曾と青葉、訓練がちょうど良く終わり執務室まで報告しようと向かった時に偶然見ていたらしい。

 

「会話の内容とか聞こえました?」

「あぁ俺が来た時はあの忌まわしい前任について話していた。どうやらこの国とこの鎮守府やどこかの鎮守府にも潜入している可能性があるらしい、俺達も気を付けないといけないな」

「そうですか……しかし提督は貶している様でちゃんと考えてくれているんですね、私達の事」

「あぁそうだな、最初は殺意しかなかったが話せば案外良い奴だ。時々イラつくがな」

 

 あれだけ自分達を罵っておいて考えてくれている提督に少し興味を持つ青葉。少しずつではあるがこの鎮守府も変わりつつある。あのまま提督が来なければ変わろうとは微塵にも思わなかっただろう。

 

「最初からアイツが……は無いな」

「そうですね、それは無いです」

 

 ドアから覗く事を止めて、食堂へ向かう二人。訓練に参加している二人は少しばかり充実していた。

 木曾は提督に剣術を教えてもらい、プリンツや摩耶に先制雷撃の重要さを教えてもらった。青葉は砲雷撃戦時の役割を教えてもらっている。あの三人のおかげで練度もすぐに上がっていく。正直認めざるを得ない。

 

「ん? お前どこに行くんだ?」

「あ、いや提督と話がしたくて……」

「そうか」

 

 二人と翔鶴がすれ違う。何か気まずい空気が廊下を包み込む。何か亀裂がまた広がっているような気がした。

 

「何やってんだ? あの三人……」

 

 その場面を奇遇にも覗いていた提督は翔鶴を一時待機させ、ゲームに戻った。

 ちょうどその時、夕飯の鐘が鳴る。多くの艦娘達が訓練を終え、食堂へ向かっていた。加賀は一足先に食事を終え、二人分の食事を持って空母寮に戻っていく。そしてある部屋に入り、二人分の食事を机の上に置いた。

 部屋には片隅でひたすら怯える飛龍と蒼龍が顔を隠して座っていた。

 

「飛龍、蒼龍……ご飯よ」

「……」

「私は本当にやってはいけないことをした……ごめんなさい」

「……だ、大丈夫です。だから早く出ていってください……」

「……分かったわ」

 

 部屋を出ていく加賀。加賀はその姿をただ見る事しか出来なかった。

 

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