うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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BGM「閉ざされし氷獄の中で」が似合ってる


180. 君に憎まれて

 突如潮岬町鎮守府の一帯が地震のように揺れ始める。

 雑木林が恐怖に怯えるが如くざわつき、枝に止まっていた鳥達が次々と逃げていった。

 

 広場の舗装された地面は徐々にひび割れていき、海面は行き場を失っている波達が暴れている。

 身体に何倍もの重りを身につけられるプレッシャーが肌をピリピリと感じさせていた。

 

 まるでそれは終末の鐘を鳴らすかのように恐ろしく、悍ましく、心の底に眠る恐怖という感情を抉り取り出されているような感覚だった。

 

「逃げろ!! お前らァァァ!!!!」

 

(レイ)』木曾の必死の勧告も虚しく、攻撃をした艦娘達は『貪狼(ディアボルフ)』集積地棲姫に全員吹き飛ばされた。

 巨大な鋼鉄の籠手を海面に叩き付け衝撃で吹き飛ばしていたのだ。

 圧倒的な緊張を前に『(レイ)』木曾と『(アオグロ)』蒼龍は艦娘達を守ろうと前に出る。

 しかしその前に鹿島が行く手を阻む。

 

「鹿島!! 今すぐ奴を止めろ!! アイツらが殺されてもいいのか!!?」

「……」

 

 鹿島は何も言わずに集積地棲姫の方をひたすら見ていた。

 行く手を阻むだけ何もしない鹿島を前に『(レイ)』木曾と『(アオグロ)』蒼龍は思い切って鹿島の横を通り過ぎる。

 鹿島は何もせずに今度はその二人を見ていた。

 

「艤装解放……」

 

 集積地棲姫は紅黒い光を身に纏う。

 殴る体勢で右の籠手を引いて左の籠手を前に突き出す。

 その時集積地棲姫の中心からサークル状に紅黒い稲妻を帯びる輪が生まれた。

 輪の内輪は海面が著しく沸騰し始め、白く光って集積地棲姫を下から照らす。

 

「設定……天璇(メラク)……」

 

 瞬きした瞬間には集積地棲姫の姿は消えていた。

 

 その刹那、瑞鶴の目の前に『(アオグロ)』蒼龍と巨大な鋼鉄の拳が現れる。

 反応する時すらなく瑞鶴と『(アオグロ)』蒼龍は潮岬町鎮守府を超えた山崖まで殴り飛ばされていた。

 更に追い討ちを掛けるように山崖一帯を砲撃、爆散。

 凄まじい衝撃と爆発で大岩や木々が次々に辺りへ飛んでいった。

 

「……えっ……?」

「今……何が……? うわっ!!!」

 

 刹那的戦闘にその場にいたほぼ全員が今起きた結果に理解不能に陥っていた。視界に映っていたはずの集積地棲姫が突然居なくなり、いつの間にか瑞鶴を殴り飛ばしていたのだ。

 声を出した直後に刹那的戦闘に遅れた衝撃と突風が艦娘達を襲う。

 身を屈まなければ転倒してしまうほどの暴風と衝撃波が海一帯に広がっていった。

 

「もっと……見せてください……! 貴方達の成長を……!」

 

 瑞鶴と『(アオグロ)』蒼龍を殴り飛ばした集積地棲姫は排熱するかのように口から白い息を吐き、潮岬町鎮守府の艦娘達の成長を見たいと興奮を押さえながら言う。巨大な鋼鉄の籠手は若干熱された煙が出ており、隙間から高熱の紅黒い光が漏れていた。

 

「ず、ずい……か、く……? 瑞鶴!!!!

 

 瑞鶴の隣にいた加賀は事の状況をいち早く理解して、殴り飛ばされた瑞鶴の名前を叫んだ。大惨事となって崩れた山崖は所々炎で明るく燃えており、森のように黒煙がシルエットとなって立ち上っていた。加賀のいる海からは瑞鶴が殴り飛ばされた陸地が全く見えない。

 

「まさか、そんな事が……待っ──」

 

 加賀が陸地ばかりを見て最悪の事態に絶望している瞬間、近くにいた集積地棲姫が巨大な鋼鉄の左拳で殴り掛かる。

 

「ッッ!!!!」

 

(レイ)』木曾が加賀を突き飛ばして前に出る。

 集積地棲姫の殴打を軍刀で無理矢理受け流した。

 殴り外しただけでも風圧で海水が飛び散っていく。

 圧倒的威力に受け流すだけでも精一杯だった。

 

(レイ)』木曾はすぐに体勢を立て直す。

 がら空きになった集積地棲姫の左腹と左腕に狙いを定めた。

 

(くそッ!! 浅過ぎたか!!!)

 

 軍刀で斬った傷は集積地棲姫の硬い装甲を切り崩すも身体までには浅い切り傷程度までしかいかなかった。更にはパワーアップした【耐久】で瞬時に傷は治ってしまう始末。加賀達が頑張って戦える相手かどうかは関係なく、この集積地棲姫は自身たちでさえもまともにやり合えるかどうか分からないレベルまでに到達していた。

 

「こうなったら()()を使うしかねェのか……!!」

「貴女達も参加しますか? いいでしょう! 私が手掛けた傑作の力……見せてくださ──」

 

 集積地棲姫の話を聞く耳を持たずに『(レイ)』木曾は巨大な鋼鉄の籠手を足場に身体を回転させて蹴り飛ばした。

 

「気を付けろッ!! 俺たちでも食い止められるかどうか分からない!! 自己防衛はちゃんしておけ!!! そして決して奴を見逃すなッッ!! 【速力】は俺達の何十倍だと思え!!!」

 

 『(レイ)』木曾は翡翠色の光を身体を身に纏い、蹴り飛ばした集積地棲姫の元へ向かう。

 最低限の防御体勢を取るようにと艦娘達に指揮して集積地棲姫を食い止める事に専念した。

 何年か前に一度集積地棲姫と戦った事がある『(レイ)』木曾は本当の恐ろしさをその身をもって知っている。

 

「次は誰にしましょうか……──」

 

 殴り飛ばされた集積地棲姫は身体を仰け反らせながらも狂気の笑みで攻撃相手を探していく。

 目に映った相手を血眼で探し尽くし、見つければ即座に急発進。

 また姿が消えたように凄まじい速力で艦娘達へ一直線に向かう。

 

「させるかッッ!!!」

 

 向かった先には木曾と天龍。

 圧倒的速度に反応出来た『(レイ)』木曾が前に出る。

 巨大な鋼鉄の右拳を咄嗟の突き蹴りで逸らしていく。

 しかし逸らすには遅過ぎて間に合わず、巨大な鋼鉄の右拳が木曾の顔面に直撃。

 目に映すだけでも精一杯の瞬速の殴打を掠めた瞬間、木曾は身体を回転させて殴り飛ばされる。

 

「チッ!!」

 

 まずは圧倒的速度を止めるべきだと考えた『(レイ)』木曾は体勢を低くして集積地棲姫の足を蹴って(すく)う。

 体勢を崩された集積地棲姫は仰向けになって倒れそうになる。

 そこに『(レイ)』木曾が跳躍して集積地棲姫を上から軍刀で背中を突き刺した。

 海面に叩き付けられ這うようになる集積地棲姫。

 

「止まれてめぇッ!!! そう簡単には……!!!」

 

 軍刀で突き刺し海面に叩きつけたのはいいものの集積地棲姫の反発で抑える力は足りてなかった。突き刺した軍刀がカタカタと武者震いのように震え、集積地棲姫は興奮が収まらずに動こうと身体を起こしていく。天龍も刀で集積地棲姫の片足を突き刺して動きを止めようとした。

 

「このッ……!! クソがッ……!!」

「ッ……なにッッ!!!?」

 

 有り余る力を使って抑えようともするも集積地棲姫は徐々に起き上がっていく。

 直後、集積地棲姫は巨大な鋼鉄の籠手の手の平を海面につけて、無理矢理抜け出して横移動した。

 突き刺さった軍刀が勢いで集積地棲姫の脇腹や足を半分斬られていくもすり抜けていくように傷が塞がっていく。

 無理矢理横移動した影響で上に乗っていた『(レイ)』木曾と天龍は足を取られて転倒した。

 

加古ッッ!!!

「古鷹──」

 

 集積地棲姫が向かった先には加古。

 加古を狙っている事に気付いた古鷹は加古を突き飛ばして身を投げる。

 瞬速の鉄拳を食らった古鷹は鎮守府の港の岸辺に衝突し、そのまま貫通して地面の中から両腕が折れた状態で飛ばされた。

 

「古鷹ッッ!!!」

 

 岸辺より遠くの位置の地面に倒れる古鷹から血の池が出来ているのが分かった。

 駆けつけた谷風や浜風が悲惨な姿に青ざめてしまうほどで今すぐ治療しなければ死すらありえる状態だった。

 

「古鷹……! そんな──」「よそ見しちゃダメ!!!」

 

 古鷹の深刻なダメージに加古はパニック状態で過呼吸になる。

 そこに集積地棲姫が加古を殴り飛ばそうと襲いかかってきた。

 

 が、駆けつけた金剛が現れて加古を抱きながら跳躍して殴打を回避。

 不安定な体勢ながらも空中から打ち下ろすように全門斉射で攻撃した。

 

「今だ!! 全員撃ち方始め!!!」

 

 砲撃で動きを止めた集積地棲姫を見逃さず、長門は全員に砲撃するよう指示をする。

 何十名もの艦娘達の砲撃が集積地棲姫目掛けて飛んでいった。

 その間を翡翠色の光を纏う『(レイ)』木曾が光芒となって直進し、爆煙の中にいる集積地棲姫を止める為に急加速して軍刀を前に突き出す。

 巨大な爆煙を片手で振り払い、集積地棲姫は姿を現した。

 

「そこね!!!」

「っ!!?」

 

 『(レイ)』木曾の背後に誰かがいる声が聞こえた。

 闇夜に光る碧眼が一つ、碧色に輝く籠手が一つ。

 身に覚えのある相手に集積地棲姫は珍しく驚きの声を上げた。

 

「ビスマルク!!!」

 

 姿を現したのはビスマルクだ。

 相手の【装甲】エネルギーを打ち消す力を持つ籠手を備えていたビスマルクは集積地棲姫に殴り掛かった。集積地棲姫は驚くあまり『(レイ)』木曾の突きをまともに食らい、更にはビスマルクの渾身の殴打を顔面に食らって殴り飛ばされる。

 勢いよく岸辺の壁にに叩き付けられ、衝撃で空に跳ね上がる集積地棲姫。

 地面に衝突して仰向けに大の字で倒れた。

 

「あぁ……なるほど……! 貴女もいたのですね……!! 素晴らしい……! ちゃんと有効活用できてるではありませんか……!」

 

 鼻から血を出しながら集積地棲姫はビスマルクの事を褒めて立ち上がる。彼女と面識があるのか知ったような口を叩いて懐かしそうに笑っていた。殴られた事で歪んだ顔面が徐々に治っていき、止まることなく流れていた鼻血も無くなっている。

 

「貴女とも是非……! 是非戦って──」「そこまでです」

 

 集積地棲姫が戦闘態勢に入った途端に銀色の光を身に纏う鹿島が前に出て声を上げた。

 更なる戦闘へ突入するかに思えた艦娘達は全員疑惑の表情を浮かべている。

 何故仲間であるはずの鹿島が行動を止めるようにしたのか分からなかった。それと同時にもうあの化け物と戦わなくて済むという安心感が心の奥底に芽生えていた。あのまま戦っていれば全滅されかねない状況だと誰もが感じていたからだった。

 

「博士、そろそろ止めた方がいいかと。成長の眼差しならば今後の為にも放っておくべきです……それに私たちは提督の回収、戦闘目的で来た訳ではありません……怪我などは大丈夫ですか?」

「おっとそれはすいません……いやいやいやいや……大丈夫ですよ。つい興奮して忘れてました、いやはや不覚不覚」

「……さっさと手当てをした方がいいかと。急がないと本当に死んでしまいますよ、その三人は」

 

 鹿島が本来の目的を改めて確認させ、集積地棲姫に戦闘行動を止めさせた。

 集積地棲姫は身に纏っていた紅黒い光を抑えて先程艦娘達に負わされた怪我で顔面に濡れた血を拭う。鹿島は少し沈黙した後に艦娘達へ集積地棲姫の被害を受けた瑞鶴と古鷹と木曾を即刻修復するように促した。

 

「先程は大変失礼致しました……興奮すると何かと忘れる癖がございまして、皆さんには申し訳ない限りであります」

「散々暴れておいてまた馬鹿げた事を言うつもりか……! ふざけるのも大概にしろ!!!」

 

 自身の欲を満たす為だけに力を解放し、古鷹達を傷つけた事に長門は声を荒らげて激昂する。

 潮岬町鎮守府の艦娘達は全員ぶつけたい怒りを噛み締めていた。

 

「全ては愛する貴女達と世界の未来のためにですよ長門。私は貴女達艦娘を心から愛している……そして私たちは貴女達が輝ける未来を作る為、そしてこの世界がより素晴らしくなる為に日夜研究に取り組んでいるのです」

「また馬鹿げた事を……!! 綺麗事並べれば善良に聞こえるとでも思ってるのか!!!」

 

 集積地棲姫の行動とは不一致なふざけたような目的に長門は力を抑えながらも吠える。本当は殴って倒したい気持ちを精一杯抑えていた。

 だがあの戦闘で三人も行動不能にされた以上は動くにも動けなかった。

 見たからこそ分かる、圧倒的な格の違いと力の差。

 束になっても到底叶わないのを身体が知ってしまっていた。

 

「いえ長門さん、実際に博士は世界の発展に大きく貢献していますよ」

「どういう事だ……!!」

「ここ数年間、深海棲艦との戦争や他国間の紛争以外に何か災害や環境問題に関する事柄って起きてますか?」

 

 長門の言葉を否定して鹿島が集積地棲姫の貢献を代わりに伝えた。拷問とも思える私利私欲の為の実験をしていた憎しみ深い集積地棲姫が世界の為に貢献しているなどと有り得ないと誰もが思っていた。

 

「起きていたとしても小規模なものばかりですよね……何故ならそれは、全て博士が開発したモノによる恩恵で事なきを得ているからなんですよ」

「……まさか、あの無限に補給できるエネルギーとかも、かしら」

「そうです。博士は環境破壊、エネルギー不足、食糧問題、異常気象、そして人口増加……博士はありとあらゆる問題を解決する為、実験と研究を繰り返して得た技術を駆使して貢献しています。エネルギー不足でいえばビスマルクさんが言っていたような核をベースとした無限に補給できる且つ変換可能なクリーンエネルギー、食糧問題であれば食糧複製と人工食糧の開発、異常気象であれば陸地で使用可能な気象制御装置の開発。各国が深海棲艦に襲われながらも緊急事態宣言を出さずに問題解決や経済を立て直せているのは全て博士のお陰ですよ」

「流石に褒め過ぎです、照れてしまいますね」

 

 鹿島が言うには『貪狼(ディアボルフ)』集積地棲姫は多大な知識量と技術をもって、この世界のありとあらゆる問題を解決に導いていた。前のニュースで取り上げられていた無尽蔵のエネルギーを開発したのも集積地棲姫が関わっており、長年悩まされてきた日本のエネルギー不足を解決へ一歩近付かせていた。

 

「私は常に貴女達艦娘と世界の為に考えています。輝かしい未来の創造、いつかは実現できるその日まで私は頑張っていきたいと思っていますよ」

「待ちなさいよ……!」

 

 精一杯息を込めて出したような声が会話を遮って大きく聞こえる。

 声の方向へ振り向くとそこには『(アオグロ)』蒼龍に片腕を担がれたまま互いに支えて歩く瑞鶴がいた。集積地棲姫の刹那的殴打から瑞鶴を庇った『(アオグロ)』蒼龍は辛うじて意識はあるものの頭から大量の血を流し、顔面全体から首の付け根まで赤く染まっていた。

 瑞鶴も同じく流した血で顔面全体が染まっており、右腕や左脚が酷く爛れて深い火傷を負っている。痛ましい姿に誰もが青ざめた。

 

「立ち上がれましたか瑞鶴。やはり成長の眼差しは確定のようですね」

「うるさい……!! それよりも……どう、いう事……なのよ!! 軍の上層部は私達艦娘と深海棲艦が邪魔だからって……! 潰し合わせる『ABC計画』をやってるくせに……! 艦娘を開発したアンタが輝かしい未来の創造!!? 聞いて呆れるわ!!!」

 

 痰が絡まるような声で吐血しながら怒り心頭に訴える瑞鶴。

 一度提督と摩耶、プリンツらで見た『ABC計画』の真実を知っていた瑞鶴は上層部と繋がっている集積地棲姫に対して怒りが収まらなかった。

 艦娘を開発している重要な人物が上層部の計画を知らないなどと言動が明らかに真逆で、何か狙っているかのようにも思えた。

 

 

 だが──、

 

 

「……何ですかその計画? 初めて聞きましたが」

 

 

 集積地棲姫は『ABC計画』という言葉を聞いて眉を歪ませて首を傾げていた。

 まるで初めて聞いたかのように呆然とした表情で瑞鶴を見ていた。

 

「とぼけないで!! 上層部が考えた……計画でしょ……!!? 上層部と繋がってるなら知ってるはずよ!!」

 

 瑞鶴は当然激昂する。

 世界各国の軍の上層部達と繋がっているのなら知らないはずがないと声を荒らげて訴えた。

 

「いや……本当に知りません……鹿島、知ってましたか?」

「……いえ初めて聞きました」

 

 本当に知らなかった集積地棲姫は助手の鹿島に聞いてみたものの、本人でさえも知らないと深刻そうな表情をしていた。

 鹿島は指を顎に触れて考える仕草をしながら顔を俯かせている。

 

「ふざ……け、る……な……!!」

 

 更なる罵声が聞こえた。

 声の方向には殴られた古鷹が両足を動かして膝を立たせ、無理矢理上半身を起こして立ち上がっていた。

 両腕は見るに耐えないほどに複雑な方向に折れ曲がっており、突き出た骨が一部外へ露出している。頭部や鼻、口から大量の血を流して前身の殆どが赤く染まっていた。

 瀕死の姿になっても古鷹は修復中の妖精達と共に不屈の精神が灯る真鍮色の鋭い眼で集積地棲姫と鹿島を睨んでいる。

 

「『ABC計画』は艦娘を洗脳し操って深海棲艦と戦わせ、殺し合わせる……そんな高度な技術を今の人間達が開発できるとは思えない……なら、人類へ貢献したお前しか……開発できる奴はいない……!! 少なくとも情報は知っているはずだ!!」

 

 珍しく荒れた口調で集積地棲姫に訴える古鷹。

 立っているのもやっとで傍にいた浜風と谷風が興奮で血が吹き出す姿を見て慌て始める。瑞鶴は何故か摩耶とプリンツ、提督と瑞鶴以外は知らないはずの『ABC計画』を古鷹が知っていた事に驚きの表情を隠せずにいた。

 周辺の艦娘達は『ABC計画』というものがどういう計画なのか分からず困惑している。嘘と聞いて天龍は青葉の名前を急いで呼んだ。

 

「青葉ァ!!」

「……本当ならば私だって嘘だと信じたいのですが……あの二人の言っていた事は全て……本音です。全て嘘偽りなく言ってました……!」

 

 嘘か本当かを聞き分けられる青葉は苦渋に満ちた顔で拳を抑えながら見た事や聞いた事全てを告白する。

 最悪な事に集積地棲姫や鹿島が今まで言っていた事は全て揺るがない事実だった。

 

「本当に言ってるのかそれは!! お前が嘘ついてるんじゃねぇのか!!?」

「仮に嘘だとしたら私だって瑞鶴さんや古鷹さんのように言ってますよ!!!! でも本当に嘘じゃないから私は信じたくないって言ってるんじゃないですか!!!」

「やめろ二人とも!! 言い争うな!!」

 

 天龍が青葉の胸ぐらを掴んで嘘をついているのではないかと疑心暗鬼に苛つきながら訴える。

 しかし全て事実を言っていた事を聞き分けた青葉も苛ついて釈明する為に何度も説明した。

 言い争いが止まらない二人を長門が急いで仲裁する。

 

「……潰し合わせる計画。あの男とは突然深海棲艦の提督になったアレ、ですかね。あまり会ってないものでその方からは契約で艦娘を操作できる機能を開発しろとしか聞いていませんでした、私は艦娘の暴走制御の為にと思ってやっていましたが……この様子だとまだ裏がありそうです。何故私に伝えなかったのかは大抵分かりますが……そうですね、少し予定を変更しますか」

 

 集積地棲姫は事の重大さに勘づいて『ABC計画』を題に過去から現在に至るまでの全ての行動を思い出して考え込んでいた。

 もし瑞鶴や古鷹の言っている事が本当であれば今後の予定に支障をきたしかねないと分析。実験や研究をしている時間じゃないと集積地棲姫は予定を変更する意思を固めた。

 

「瑞鶴、古鷹、私と手を組みませんか?」

「……はァ……!!?」

「んなっ……!」

「貴女達の言う『ABC計画』、アレのような反艦娘派の危険思想組織による未曾有の殲滅計画だと見受けます。艦娘をこよなく愛する私としてはぜひ阻止させたい……輝かしい未来の為に私と手を組めば必ず阻止させる事ができます。成功した暁には今すぐ空母水鬼と融合した翔鶴を元に戻しましょう、先程回収したこの子も万全な状態で返します。どうですか? 悪くないと思いますが」

 

 集積地棲姫は『ABC計画』を阻止する為に潮岬町鎮守府の艦娘達と手を組まないかと提案をしてきた。具体的な阻止案は無くとも計画の詳細と目的さえ知れば簡単に阻止できると明言する。

 

 もし阻止する事に成功すれば翔鶴を元に戻し、提督を返しても構わないと更に促していく。

 集積地棲姫とは複雑な関係性であっても計画を阻止したいという気持ちは同じはずだ、確かに手を組めば阻止できる可能性は更に高くなる。また翔鶴を元に戻す事もできる上に提督も返して貰えるなら利はこちらにあるかもしれない。

 だがそう目先の利益に囚われるほど瑞鶴と古鷹は甘くなかった。

 

「……悪いけど……断る。青葉の言葉、表情を見て聞いて冷静になれたよ……アンタは本当の善意で言っていても、その取り引きは……”()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()“手を組めば、必ず阻止できるって……意味なんでしょ……?」

「はい! そうですが、それでも駄目ですか?」

 

 青葉の表情を見ていた瑞鶴は一度深呼吸をして落ち着きを取り戻す。

 瑞鶴は今までの集積地棲姫の言動を考えて聞き抜き、集積地棲姫が狙っている本当の目的を述べて手を組む事を断った。

 なお本当の目的を周知に知らされても集積地棲姫は素直に認めて笑顔でもう一度交渉に出る。

 

「ダメね……さっきから言ってる事が二転三転し過ぎよ、危うく騙される所だったわ……そんなの……──」

──こっちから願い下げだッッ!!!!

 

 瑞鶴と古鷹は息を合わせて互いに共通しているだろう考えを集積地棲姫に鳴いて叫ぶ。二人は精一杯の方法でボロボロになった艤装で身構え、それに連なるように艦娘達も一斉に砲口を集積地棲姫と鹿島に向けて威嚇した。

 

 全員の考えは同じだった。

 

「私たちは私たちの方法で計画を止めてみせる!!」

「そして翔鶴姉を元に戻す方法も!! 前の提督さんの受け継がれた想いに報いる為にも!! 提督さんの真意やその過去も!!」

「全て私たちの力で奪い返してみせる!!!! 決してお前なんかには頼らない!!!」

 

 瑞鶴と古鷹は今まで自分達が変わってこれたようにこの先に阻む巨大な壁も突き破ってみせると断言した。

 艦娘と深海棲艦を相討ちさせて殲滅させる『ABC計画』の阻止も、空母水鬼と融合してしまった翔鶴を元に戻す事も、蒼■少尉の遺した想いに報いる為にも、提督の本心や過去その全ても、自分達でやり遂げてみせると改めて誓った。

 世界の概念を根本から変えた極悪なる張本人と手を組むなど言語道断。

 圧倒的な力にひれ伏せられて満身創痍でもなお心に火を灯す不屈の闘志は永遠に燃え盛っている。

 

「なるほど……なるほど……これは面白い……」

 

 集積地棲姫は巨大な鋼鉄の籠手で顔を覆い、抑えきれぬ笑い声を出して身体を震わせ仰け反らせた。

 まるで愚策な道を選んだなと見下して嘲笑うかのように静かに笑う様はその身に潜む恐ろしい狂気を体現していた。深海棲艦の王たる中枢棲姫の側近にしてありとあらゆるモノを創造する知識と技術力、そして実験や研究の為ならばどんな相手だろうと厭わない残虐非道な性格。

 

 今自分達が一体何を相手に戦っているのか改めて理解した。

 

 

 これは──、世界の人々から掻き集めた狂気の集合体だ。

 

 

「いいでしょう。この事は無しとします……実に素晴らしいですよ、その不屈の闘志……貴女達が力ずくで計画を阻止し、いずれは私を倒すというのなら……全力で応えなければなりませんね」

 

 集積地棲姫は自身が提案した契約を無かった事にして瑞鶴と古鷹を褒め称えた。

 そして再度身構える――。

 

「貴女達の未来が……全てを照らす太陽の如く輝かん事を……──」

 




だから某あの人じゃん
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