うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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182. 太陽の光は燦々と全てを照らす

『見事にこっぴどくやられましたね……まぁ大方予想通りでしたが』

 

 

 

『……古鷹さん。もし提督を取り返したければ摩耶さんに伝えておいてください。あとこれは貴女達のメッセージでもあります……』

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……私たちは小笠原諸島父島で待っていますよ……──』

 

 

 

『──……絶対に……絶対に提督を、救助してください……お願いします……』

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 瞼をゆっくりと開いて視界を開く。

 窓から太陽の光が室内全体を照らしていて、白い天井が見えると言う事は自分はどうやら医療施設に運び込まれて治療を受けていたらしい。

 時計で時間を確認しようとしたが左右へ首を動かすも時計らしき物は見えない。

 右には応急処置を受けた加古が自身の手を握ったまま座って眠っていた。最早何日何時間経ったかすら分からない古鷹は探すのを諦めて身体を安静にする。

 

「っ……」

 

 怪我したはずの身体は案外軽くなっていて、これといって大きな痛みも感じない。ただ少しずつ身体を動かしていくと胸の一部や脇腹、両腕には鋭い痛みがあった。肋骨や内臓が酷く損傷しているのだろうか、いま無理に動かせば傷が広がるかもしれない。

 恐らくこの治癒結果から見て自身の『耐久』による再生と■■医師の応急処置による賜物だろう。七壞星である『貪狼(ディアボルフ)』の攻撃を食らっておいてよく生きていたものだと自身の耐久性を自賛したい所だがそういう余裕や考えは古鷹に全く無かった。

 

「くそっ……」

 

 古鷹は寝たきりの状態で白い天井を見ながら目に涙を浮かべる。

 集積地棲姫に対して全く太刀打ちできなかった事に熱く手を握りたくなるほど後悔していた。

 損害は与えていたはずだった、なのにも関わらず集積地棲姫はあっという間に修復して身体能力を強化、艦娘達をいとも容易く殲滅させて去ってしまった。

 あの桁外れな力こそが七壞星の所以(ゆえん)たる意味だろう、この先その深海棲艦を相手に立ち向かえるか古鷹は不安と後悔の波に彷徨(さまよ)った。

 

「っ……っ! 古鷹! 目を覚ましたんだな! 良かった~……」

 

 古鷹のひ弱で微かな声を聞いた加古は前傾姿勢になっていた身体を起こす。

 遠く意識を失っていた古鷹が目を覚ましたのを見て安堵の息を漏らして顔を俯いた。

 加古も頭に包帯を巻いて折れた片腕はギプスで支えられ、痛ましい怪我を負っている。

 

「何も……できなかった……!」

 

 集積地棲姫に対して全く損傷を与えられなかった事と大怪我を負っている加古の姿を見て、古鷹は目に溜めていた涙を溢れさせ震えた声で自身の無力さを嘆く。七壞星と対峙して戦闘していたはずが妹を守る事すらできなかった自分が悔しくてたまらなかった。

 

「そんな事ないよ……古鷹はあたしを庇ってくれた、もしあのまま受けてたらあたしは……死んでたと思う。あたしは古鷹が五体満足で生きていれば……何も問題無いよ……」

 

 加古は古鷹の目に溢れた頬に伝う涙を指で払って慰めた。

 加古も勿論集積地棲姫に対して何もできなかった事を悔やんでいる。

 古鷹が庇ってなければ当に自分はこの世にいなかった事だろう。自分自身も落ち着かせる為にも加古は古鷹の言う事をひたすら聞いていた。

 

「……あ、そうだ……■■先生呼んでくるから……待ってて」

 

 古鷹が目を覚ました事を■■医師に伝える為に加古は一度病室を去る。一人となった古鷹は首を動かして窓に映る光景をまじまじと見ていた。

 よく見れば瓦礫や建物の崩れた跡が著しく残っている。今日は誰一人として訓練をしていない所為か騒がしい音は全く無く物静かだった。

 数分かして病室の扉から加古とクリップボードを持っていた■■医師が入って来た。戦闘後から不眠不休で働いているおかげか容姿や息遣いなどで疲れているのが目に見える。しかし■■医師は自身が疲労困憊している所を見せたくないようで常に笑顔を絶やさないでいた。

 

「脈拍も安定、呼吸も落ち着いてる、高速修復材も効いてる、か……問題無いわね」

 

 目を覚ました古鷹の容態を事細かに確認し、クリップボードに挟められた書類に記録していく。

 心電図による心拍数の安定と体温や血圧の測定、高速修復材の摂取状況を確認して問題無しと■■医師は判断した。

 

「点滴を打つ感じだけど……一気に使えないの?」

「分かりやすく言うと古鷹さんは肝臓や腎臓などの内臓破裂、出血多量に肋骨や両腕から両肩までの複雑骨折、頭部外傷とか結構危険な状態。それ等を一気に高速修復材で修復させようとすれば細胞や組織、神経とかが再構築していく際に痛覚神経の生成による激痛があるから、それを和らげる為にはこうやって点滴に似た方法でゆっくりと摂取させていくしか、この状態だとこれしかないの」

 

 点滴のように少しずつ高速修復材を打っていく古鷹を見て加古は何故一気に使わないのか疑問に思っていた。

 ■■医師曰く高速修復材は艦娘に摂取させれば例え致命傷であっても瞬時に修復ができる優れ物だが、修復する際に患部全体から細胞や神経などが一から再生していく為に凄まじい激痛が伴うらしい。

 高速修復材は使う本人の意思や容態を無視した即時修復を最優先としたモノであり、尚且つ外傷や骨折、内臓破裂などの修復を目的としていないため重傷を負った艦娘には摂取が難しくなっている。

 

「そもそもの話、艦娘は砲雷撃戦とかの戦闘で深い外傷や四肢の欠損なんてありえなかったのよね。大体は正装が破けてちょっとした切り傷とか火傷とか艤装が壊れてる程度だったし、最近は味方も敵も少しやり過ぎな所があるわ」

「確かに……最近は近接戦闘も視野に入ってるおかげか色々無理してる感があるな……」

「まぁ私個人としてはあまりやってほしくないわね……それはそれとして、古鷹さんはこのままの調子でいけば後一週間ぐらいで治せそうかな。今後の容態を診て随時スケジュールを調整しましょうね」

「はい……分かりました……」

 

 古鷹の容態を確認した■■医師はこのまま高速修復材を摂取し続ければ一週間ほどで治癒が完了する可能性を診て、今後の検査や治療のスケジュールを調整するようだ。

 次もまた艦娘達を診る為に■■医師は急ぎ足で病室を出ていく。

 加古と二人で病室に取り残された古鷹は今の状況について聞いてみた。

 

「加古、今って……どうなってるの……?」

「……提督は拐われた。奪い返そうとした皆もやられた……誰も強化したアイツに傷一つ……つけられなかった……」

「そんな……! 皆は!? 瑞鶴さんは!?」

 

 古鷹も提督を奪い返そうと強化した『貪狼(ディアボルフ)』集積地棲姫に挑むもあえなく敗北し、その後の記憶は全く無い。

 加古が言うにはその後も集積地棲姫は派手に暴れたらしく、立ち向かう艦娘達全員を相手にしていたようだ。

 唯一護神厄討艦隊の艦娘である『(レイ)』木曾と『(アオグロ)』蒼龍が前線に出て集積地棲姫を圧倒し、更にはビスマルクも参戦して一時は優位に立つものの集積地棲姫は更にエネルギー効率を強化して無理矢理『(レイ)』木曾達を殴り飛ばしていた。

 

「一応無事ではいる……あたしぐらいの損害を持ってる艦娘がほとんどだけど……みんな今すぐ戦えるかは分からない。特に木曾と瑞鶴はかなりの重傷だった……」

「そう、なんだ……じゃ、じゃあ……殲滅された、んだね……あの……集積地棲姫に……」

「うん……今は翠色の木曾と青黒い色の蒼龍が見張ってくれてる。元々エネルギー効率が高い分、【耐久】で治るのが早かったらしいし」

 

 現在鎮守府近海海域の哨戒は『(レイ)』木曾と『(アオグロ)』蒼龍が十二時間交代で担ってくれている。

 護神厄討艦隊の艦娘だろうと損害の爪痕は激しく残っていたが持ち前の【耐久】で無理矢理にでも回復。

 またビスマルクは修復中の身体に負荷を与え過ぎた影響で島風と共に医療施設の病室へ移動して修復中のようだ。

 

「あと灰司令官と時雨が戻ってきてくれたよ。今この鎮守府の最高責任者は灰司令官が代役になってて、鎮守府存続と運営の為に働いてくれてる」

「灰さんが代行司令官になってくれてるのか……ありがたいな」

 

 灰色と時雨がすぐ駆けつけてくれた事を加古は嬉々として教えてくれた。

 責任者且つ司令官に突然なってしまった灰色としては荷が重いかもしれないだろう。

 灰色は自身がこの状況でやるべき事をやって鎮守府の建て直しと艦隊の復帰にいち早く手をつけている。

 

「……どうなるんだろうね。これから……」

 

 この鎮守府の誰もが思うのは先の見えない不安。

 

 提督を奪われ、戦意を削がれ、資材を失くし、何もかも無くなってしまった。

 

 加古自身でも弱った身体で何が出来るのかと考えれば何も思いつかない。

 他の艦娘達も戦意を削がれて途方に暮れていた。

 

 文字通り崖っぷちにいるような感覚で一歩間違った事をすれば落ちていくのは目に見える。

 古鷹の問いに対して何も答えることができなかった加古は窓の景色を見ながら精一杯考えた言葉で答えた。

 

「さぁ……分からないな……」

 

 

 

 

 

「……! やっと来てくれた……!」

 

 昼の十四時。

 不穏な空気が漂う鎮守府の空に皮肉にも太陽の光が輝く満点の青空が広がっている。

 海から潮風が優しく流れていく広場で灰色と時雨は永遠に続く水平線を手で影を作って覗いていた。

 よく目を凝らすと海に浮かぶ艦娘が二人と輸送船一隻が見える。あの二人を待ち侘びていた灰色は嬉しそうに声を上げて手を大きく振った。

 

「遅くなって悪いわね。ちょっと色んなとこ回ってたから時間掛かっちゃったわ」

「お疲れ様です……」

「お疲れ~……ってまぁ、これまた酷い有様ねぇ~……()を思い出すわ~」

 

 ようやく潮岬町鎮守府に訪れた『(オウゲン)』叢雲と摩耶は久しい長距離航行に疲れているのが肩を回して関節を鳴らしていた。瓦礫だらけの廃屋のような鎮守府の酷い現状に叢雲は苦笑いしながら楽観そうに見ている。

 

「本当にですね……あ、早速で申し訳ないんですけど、後ろにあるそれは何ですか? 中には何が……?」

 

 灰色は叢雲と摩耶の背後にあった輸送船を見て何かと問い質した。

 聞かれた叢雲はドヤ顔で堂々と答える。

 

「ふっふーん……! 聞いて驚きなさい! 全国の鎮守府から奪っ──じゃなくて貰った資材よ! 弾薬、鋼材、ボーキサイト全て基準以上で揃えて来たわ!」

「え!? 本当ですか!!?」

「本当よ! 予め『白』が各地の鎮守府と談話して繋がっていたのを摩耶から聞いてね、資材を少~しお裾分けしてもらっちゃったのよ」

「勿論提督が貯めてた分もな」

 

 潮岬町鎮守府にて秘密裏に襲撃報告があった際、摩耶と叢雲は今後の対応について話し合っていた。そこに摩耶が提督が前から各地の鎮守府を訪れて資材を分けてくれる交渉をしていた事を打ち明ける。

 二人は早速輸送船一隻を借りて一日分の時間を使い、各地の鎮守府を訪れては交渉した分の資材を貰い受けていた。

 

「白さんが予め……?」

「そう。聞いた話によると各地の鎮守府から無償で資材を提供してもらうよう直接出会って交渉してたそうよ。この鎮守府の印象って最悪だから申請書とか送っても無視されたようだし、電話で聞いても聞く耳を持たせてくれなかったようだし。訪れても責任者たちは当然突っぱねたけど、白は諦めずに頭を下げて土下座までして交渉を続けていた。見せしめに周囲から蔑まれ嘲笑われながら土下座したようだけど……それでも彼は諦めてなかったみたい」

 

 提督は近い内に潮岬町鎮守府が破滅的状況に陥る事を考えて万が一の為に各地の鎮守府から資材を分けてくれるように交渉していた。提督は海軍一の減らず口且つ提督の正体を知る者がいた為、身内でも敵を多く作っていて直接訪れて話し合っても交渉は難航していた。

 それでも提督は決して諦めたりはせず、頭を下げて土下座をしてまで資材を分けてくれるようにせがみ続けたと言う。

 まさにその姿は滑稽と嘲笑われ、一部の責任者は提督に恨みが残っていた為か大勢の艦娘や関係者達の目の前で土下座させていたらしい。

 今まで積み重ねてきた恨みを買ってきた自業自得ゆえの結果だろう。

 

 しかし提督はどれだけ嘲笑われようとも全く諦めなかった。

 

「何で……そこまで……提督がそんな事を……」

「冗談抜きで感謝した方がいいわよアンタ達。彼が交渉しなければこの鎮守府は終わってたわ。何で彼がそこまでアンタ達に干渉したがるか理由は分からないけど……彼がプライドを捨てでまで掻き集めた資材、無駄にしちゃいけないわよね」

 

 この潮岬町鎮守府が破滅的状況に陥るまでに提督が()()()()()()()()()を灰色と時雨は思い出す。出掛けていた理由がこの為だと知って灰色と時雨は熱く拳を握った。

 桃■中将の件も合わせて提督は自分達に希望の光を残し、そして立ち向かえるように託していた。鹿島の事を予め予想していたのか思惑は分からなくともあらゆる状況に合わせて提督は計画していたのだ。

 

「じゃ早速、資材運びでも手伝ってもらおうかしら。長門たちはどこにいるの?」

「長門さん達は今医療施設で治療を受けています。今すぐ力になれるかと言えば難しいのですが……」

「別に戦う訳じゃないんだし運ぶ事ぐらい簡単でしょ? 大丈夫よ、私たちがいるから問題無いわよ。あ、でもちょっと様子見だけしておこうかしら」

 

 輸送船に積まれた大量の資材を倉庫に移す為に叢雲は艦娘達や憲兵達を呼ぼうと居場所を聞いていく。灰色は艦娘達の容態を考えて動けるかどうか不安そうに伝えたが、叢雲は問題無いと医療施設へ歩を進めた。

 

「艦娘達の容態くらいまとめてるでしょ? 見せてくれる?」

「はい、これです」

「ふーん……鹿島といい、『貪狼(ディアボルフ)』集積地棲姫といい、派手にやってくれたわね」

 

 天井に青い空が見える崩れた廊下を歩きながら灰色が渡した艦娘達の治癒状況を軽く読み通していく叢雲。

 予想の範囲内だったのか驚く事はなく鹿島と集積地棲姫に対して挑発的な態度で不気味な笑みを浮かべていた。

 

「叢雲さんでもあの集積地棲姫と戦うのは厳しいですか?」

「ん~……一人で戦うなら少し(ダル)いくらいかしらね。まぁ勝つけど」

 

 『(オウゲン)』叢雲がもし『貪狼(ディアボルフ)』集積地棲姫と戦えばどうなるか、叢雲自身はあまり経験がない為一人で戦って勝つには少し手間がかかるそうだ。やはり最強と呼ばれていてもあの集積地棲姫は対となる存在らしい。

 

「皆さん注目してください!」

 

 医療施設に辿り着いた灰色と叢雲達へ注目させるように響かない大声で憲兵達や艦娘達を呼んでいく。奥にいる全員へ伝える為に人から人へ呼び掛け、なるべく多くの人達が聞こえるように指示を出した。

 

「叢雲さんと摩耶さんが資材を持ってきてくれました! これより資材を倉庫に移すので動ける方は広場の方まで来てください! 高速修復材についても随時使う予定です、ご協力お願いします!」

 

 灰色の呼び掛けに話を聞いた憲兵や整備士達は快く協力してくれた。

 帰還した『(オウゲン)』叢雲と摩耶の存在が大きかったようで、二人の存在は艦娘達も含めて不安や心配が一瞬で消え去るほどの安心感があった。

 しかし不満を漏らす者は少なからず声を上げていて灰色の代わりに憲兵隊隊長と白髭が庇ってそれぞれ指示を与えている。

 

「何よ、随分とお通夜ムードじゃない。動かない兵器は鉄屑だって()()に言われなかったかしら? アンタ達も手伝いなさいな、動ける奴はいるでしょ」

 

 医療施設に残った憲兵や整備士達を置いて全く動かない艦娘達に声を掛ける叢雲。

 艦娘達の治癒状況を確認していた叢雲は治療中でも動ける艦娘達に呼び掛けていた。

 内臓損傷や骨折、外的損傷が多い艦娘は医療施設にて引き続き治療を続行させ、少しでも動ける艦娘は働くように灰色に指示させている。大量の資材を運ぶには艦娘の超人的な力が必要となってくる以上は否が応でも呼び掛けるしかなかった。

 

「鉄屑か……よくもまぁそんな事が言えたものだよね」

「艦娘がどういう存在か、分からな──」「艦娘(わたしたち)は元々人間だった事ぐらい私でも知ってるわよ、それが何か?」

 

 憔悴しきった表情を見せる最上や床を見つめて光を落とす鈴谷が艦娘達の思いを代弁して伝える。

 しかし叢雲が台詞に被せて代弁した言葉を察して堂々と喋った。艦娘が元々人間だったという事実を深く受け止めて心が弱っている艦娘達を淡白な対応で答えている。

 

「今までモノ扱いされておいて何とも思わなかったのか?」

「まぁ思わなかったと言えば嘘になるけど、一々そんな事気にしてたらキリがないと思わない?」

 

 叢雲は艦娘が現れた最初期の頃から戦い続けている数少ない超古参の艦娘だ。

 艦娘の歴史を間近で見てきた叢雲はその歴史の中で生まれた事柄や現象を身をもって知らされている。

 艦娘兵器思想の支配や人間派達の動向、良くも悪くも人間の本性や前を向いて生きる姿を見続けてきた。当然叢雲はその歴史の中では兵器という人として扱われない支配を受け続けている。

 何十年も生き抜いてきた叢雲が艦娘が元々人間だったという事実に対して淡白な表情をしていた事に艦娘達は疑問に思った。

 

「確かに私達は元は人間よ。だけど艦娘になる事を承諾したのは艦娘になる前の貴女達。本人が承諾した上で艦娘になるんだから、今更落ち込んだところでどうしようもないわよ。自分が選んだ人生だもの」

「後悔とか、してないの……?」

「少なくとも私は自分自身が艦娘になった事に後悔はしてない。何かしら艦娘にならなきゃいけない理由があったし、自分が変えた自分の人生に後悔はしたくないわ」

 

 叢雲はその場にいる艦娘達の誰よりも前向きな気持ちで心に思った事を正直に伝えた。

 伝えていく最中でも叢雲は傍で見掛けた暁の治療を手伝っていく。

 嘘偽りなく話し続けていく其の姿は希望の光を放つ太陽の如く不安や心配など消し去るような強靭な精神力で溢れていた。

 

「誰かが言ってなかったかしら? 艦娘(わたしたち)の存在は艦娘(わたしたち)自身が決める事だって。もし本当に兵器だと思ってたら出ない言葉だと思うけど、アンタ達はどうなの? どう決めるの?」

 

 叢雲は()()()()()()が言っていた台詞を復唱して艦娘達に問い掛ける。

 暁の治療を終えて叢雲は黄金に輝く鎗を手に持ちゆっくりと立ち上がった。叢雲は復唱した言葉に対して自身は当然人間だと思っている事を遠回しに伝えていく。

 ならば艦娘達はどうなんだと再度問い掛けて選択の余地を与えた。

 

「勿論、人だ」

 

 奥の廊下からはっきりと聞こえるような声が響く。

 声の方向には治療を終えた長門が早歩きで歩いて来ていた。

 頭全体や腹全体に包帯を巻き付け、骨折した左腕をギプスで固定している。目にくまが出来ながらも堂々とした表情で叢雲の方へ近付いてきた。

 

「考える必要など無い。我々は艦娘という人間として生まれ変わったのだ、そこに深い意味は無い。もし我々が艦娘にならなければならない理由があったとするならば、それは大切な誰かを守りたかったからかもしれない。それぞれ理由は単純且つ明確なものばかりだ」

「いいんじゃない? 元々艦娘ってのは国と人間様を守る為に生まれたようなもんだからね、そういう心意気は大切だと思うわ」

 

 長門に連れて後を追うように歩ける艦娘達が次々と列を成して歩いていく。

 足などを骨折して歩けない艦娘は不安そうな表情を消して真っ直ぐと覚悟を決めた表情で叢雲の方へ視線を向けた。

 

「いい表情じゃない。それでいいのよ……さ、んじゃ早速手伝ってもらうわよ。動けない艦娘はそのままでいいわ、無理しないでね」

 

 叢雲は動ける艦娘だけを連れて医療施設から出ていく。

 精々動けるのは八名、心許ない人数と思えるが艦娘となれば百人力だ。

 

「摩耶さん……」

 

 叢雲が艦娘達を連れて行った後に医療施設で■■医師と話していた摩耶へ不知火が話しかけてきた。呼ばれた摩耶は声の方向へ身体を向けるとそこには不知火と川内が憔悴しきった表情で立っている。

 

「どうした? 不知火、川内」

 

 事情を察した摩耶は二人に歩み寄って優しい声で返事を返す。

 

「すいません……! また……司令を……守れません、でした……!!」

「ごめん……」

 

 二人は摩耶に見せる顔がないと俯き、悔し涙を流して謝る。

 重要な時に限って人一人すら守れない自身の無力さを痛感するばかりだった。

 もう二度と同じ失敗はしないと誓ったはずがまた破ってしまった自分自身が嫌になりそうだった。

 

 大切な人を守りたいという気持ちだけでは勝てないなど当に分かりきっている。

 その為に厳しい訓練を受け続けた。

 

 それなのにも関わらず目標に対して何一つ近づいてる気が全くなくなってしまった。

 

「……大丈夫だって、気にすんなよ。仕方ない事だから、不知火達に落ち度は無いぞ……()()()……」

「っ……すいません……!」

 

 摩耶は涙を流す不知火と川内を抱き締め、頭を優しく撫でて慰める。

 慕っている提督の後を追い続け、理由や存在を初めから知っていた二人を摩耶は責めるような真似をしなかった。

 

 

 

「お疲れ様、今日はこの位にしときましょう。資材の搬送が終わっただけ充分よね」

 

 叢雲と摩耶が昼十四時に到着してから資材の搬送まで約五時間。

 憲兵や整備士達と動ける艦娘達の協力で瓦礫の撤去と資材の搬送に別れて行動し、完了した時には既に日も暮れて夜十九時を過ぎていた。

 物置にしまっていたブルーシートなどを使って倉庫の屋根を覆い、道を塞ぐ瓦礫は端に寄せて人が通れるように一時的に整備をした。まだ鎮守府門前に崩れた土砂の撤去や建物内にある瓦礫の撤去などやる事は山ほどあるものの、鎮守府にいる者達は着実に前へ進んでいた。

 

「瓦礫の掃除もだいぶ進んだわね、前より歩きやすくなったわ。まぁ崩壊した建物に関しては請け負った■■大佐が何とかしてくれるでしょ」

「だといいんですけどね……」

 

 翔鶴達との戦争後で修築中だった寮や司令本部は再び崩壊。

 爆風や殴打などの衝撃で窓ガラスはほぼ破壊され、壁には突き抜けてできた穴やひび割れた痕が見える。

 建設会社には灰色から念の為に現場を封鎖して一時的な休止として連絡している。修築にこれまた膨大なお金が必要になるかと思っていたが鬼の■■大佐が負担してくれるなら問題ないだろうと叢雲は楽観的に考えた。

 

「さて……で? どうする? 行く?

 

 叢雲は鎗を左手で持ち上げて右手の平で左腕の小さな力こぶを覆う。一旦資材を運び終えて休憩中だった艦娘達にさりげなく話し掛けた。

 

「え……? どこへ……?」

「どこって……アンタ達の提督奪い返すのよ。どうするのよ行かないの?」

 

 戸惑いを隠せなかった時雨は思わず何も考えないで問い掛ける。

 叢雲はさぞ当然のように惚けた表情で提督を奪い返す事を艦娘達に逆に聞き返してきた。

 

「そもそも私達戦えるような状況じゃ……」

「そんなもん高速修復材でも使えば治るでしょ、これだけ資材も集まった訳だし」

「でも力的に考えると圧倒的にあっちの方があると思うよ……」

「この私と摩耶達だけじゃ不満だって言うの? 言っておくけど作戦なしに突っ込むほど頭は悪くないわ、ちゃんと考えるわよ……まぁこれからだけど」

 

 叢雲は時雨達の不安や心配の声をものともせず溢れ出る自信を胸に堂々と言い張る。

 自分と摩耶達がいれば提督を奪い返すなど容易い事だと高らかに豪語した。確かに叢雲率いる護神厄討艦隊の艦娘であれば深海棲艦はおろか、七壞星さえも相手に出来る力を有している。

 共に戦えれば心強いが、時雨や最上達にはその力を持っていない。

 仮に戦えたとしても立ち向かえるかどうか分からなかった。

 

「私達は行きます」

「っ……? 不知火、川内……!」

 

 叢雲の背後から暗闇へ抜けるように不知火と川内が早歩きで現れる。

 戦う覚悟を決めたような表情は叢雲や時雨達を圧倒させた。

 

「私達の司令を奪われておいて何もせずに動かないまま、他人に助けを求めるなどあってはならない事……ここで時間を食っている暇などありません、即座に作戦会議を開いて動くべきだと思います」

 

 不知火は頭に巻き付けた包帯を破いては放り捨て、灰色と叢雲に作戦会議を開くよう意見を提示した。自身にとって大切な存在である提督を助けたい気持ちは誰よりも溢れている。今更四の五の言っている暇は無いと過ぎていく時間に焦りを見せていた。

 

「……俺も行く。ここで指を(かじ)って待っているくらいなら、少しでも誰かの為になる事をやった方がマシだ」

「私も行くネ。提督には忘れてはいけない恩がある、必ず返さなきゃいけないの。だから……行くよ」

 

 水平線が永遠に続く海から涼しい風が艦娘達の身体や髪を撫でていく。

 天龍や金剛も同じく不知火に続いて提督救出に参加の意を示した。

 

「私達も行きたい! 司令官を助けたいわ!」

「私達も出来るだけの事は援護します!」

 

 暁や秋月も手を挙げて同行したいと願う。

 その後を追うようにして提督を助ける為に艦娘達が続々と声を挙げていった。

 海から吹いていた風が徐々に強くなっていく。

 

「よし! じゃあ決まりね! 灰■、早速仮執務室で作戦会議よ」

「……分かりました。やるならとことんやりましょう……――

 

 

 

 ――白さんを、救出する為に!」

 

 

 

 




反撃開始……なのかな。
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