『いやはや実に有意義な時間でした……ここに来て正解だったようです』
『貴女達の成長を見せてくれたお礼としてですが、貴女に二つほどいい事を教えてあげましょう』
『貴女の翔鶴は今、小笠原諸島父島にいます。そこで行うつもりなのでぜひ来てください。あと……コレを差し上げます』
『中身は、そうですね……簡単に言えば
『それには
「これより作戦会議を開きます」
資材の運搬を終えて夜を越えた翌日の朝八時。
仮執務室にて提督奪還作戦の作戦会議が開かれた。集まったのは艦隊の中心的存在『
座高の低いテーブルを中心にホワイトボードを奥に寄せて灰色が当時の状況について説明する。
「白さんが拐われたのは鹿島の誘拐未遂時刻である午後二十三時十二分より約三時間後の午前二時十五分。『
「私が話そう。鹿島は『
鹿島の関係性について長門は手を挙げて説明する。
長門の発言から考えて鹿島は『
今回の提督誘拐の件についても事前に考えていた素振りを見せており、提督を拐った後の事について灰色達は考えていた。
「確かにそうですね……どこへ行ったのか、突き止めるのにも時間が掛かりそうです」
「いや、そうでもないわ。アイツと鹿島の事だから彼を拐った後の事や時間を考えれば、大体の居場所は絞れるかもしれないわよ」
「と、なると……どこなんだ?」
鹿島と集積地棲姫が逃げた場所について情報が少な過ぎる事に灰色達は頭を悩ませる。
そこに叢雲が日本近海の地図を引っ張り出してテーブルに叩きつけた。
逃げた場所を特定出来るかもしれないと理由を述べて叢雲はペンを手に持ち地図に書いていく。
「私の予想としては大本営地下研究施設、横須賀鎮守府地下研究施設、青島、小笠原諸島父島……ぐらいかしら。遠い場所にはそう簡単に行けないはずよ、必ず設備が整った場所が確保出来る所を選ぶはずだわ」
「そういえばアイツらは提督の容態に関して結構くどく言ってたな。もし提督の身を案じるなら俺は遠い場所を選ぶような真似はしない。ただ小笠原諸島ってのも少し怪しく思えるな」
鹿島は提督を大事そうに抱え、集積地棲姫は身を案じて保護する事を仄めかしていた。
よほど提督に対して慎重に扱う事に違和感を覚えた木曾は自身もそうすると話している。
艦娘の航行速度ではそう簡単に遠い場所へは移動出来ない。
叢雲の予想した小笠原諸島でも半日は掛かってしまう以上、それよりも遠い南方海域や北方海域には行かないはずだ。
誰しもそう考えた。
しかし長門は叢雲が予想した地点に大本営や横須賀鎮守府などが入っている事に少しげんなりしていた。
「しかし……奴は本当に上層部と繋がっているんだな……」
「えぇ繋がってるわ。アイツは艦娘を開発した元人間の成れの果て、自分自身も実験台にするような救い難いドグサレくそ野郎よ。アイツはその才能と技術が認められて世界各国の軍の上層部と繋がってる」
叢雲も『
元は人間だったらしいが艦娘を開発する段階の実験で自らも実験体となって参加し、その実験の影響で深海棲艦になってしまったという。その後も艦娘について研究し続け、研究で得た成果を利用して様々なモノを開発し続けていた。
「それらに目をつけた上の人達はアイツとある契約を結んだ。世界の更なる発展を約束する代わりにその際に実行する実験や試験などの一切の責任を問わない事且つ、最優先保護対象として命の危機に瀕した際には私達護神厄討艦隊が出撃して保護する事、万が一予想外の状況で敵対した場合には司令官自ら指示をして艦隊に戦闘禁止の命令を促し、見逃さなければならない事などの約束があるわ」
「何だよそれ……理不尽だろ……!」
「実際アイツがあげた実績の裏はドス黒いわよ。前に発表された無尽蔵のクリーンエネルギーなんてアレは元々艦娘のエネルギー核を利用してるからね。気象制御装置も本来は国際条約違反だし、人工食糧は本当に貢献してるから別だけど」
希少な才能や技術を持つ集積地棲姫はありとあらゆる国際機関や各国の軍から手厚く保護されている。しかしそれ等は不平等条約のようなもので、集積地棲姫の行動を全て認知した上で責任を取らなくていいと言う理不尽の極みだった。
叢雲が言う限りでは集積地棲姫が挙げてきた実績の裏では凄まじい数の艦娘や人間達を犠牲にしてできた事らしい。
「んでアイツ関わってる国は伊、露、英、仏、米、芬、独、日本の八ヶ国で、オブザーバーに台、中、西、波、蘭がいる。その国々の集まりを【国際機関GPAK】……最初に●
集積地棲姫と関係のある国は八ヶ国、これらを同盟として国際機関【GPAK】を立ち上げ、お互いに手を取り合いながら世界の更なる発展の為に集積地棲姫と共に技術を磨いている。その他今後加入する国は傍観者として五ヶ国を招き入れており、艦娘の開発が急がれているようだ。
世界の中心で暗躍する集積地棲姫を各国は喪失を恐れて表舞台に出ないように縛り付けていた。
これが『
「だから本来この件についても『
「じゃ、じゃあ僕達は……」
「うーん、まぁまずこっぴどく叱られて酷い仕打ちを受ける事は間違いないわね。そしてアイツの実験体となって永遠の一生を過ごし続けるか、ぐらいかしら」
叢雲が冷めた表情で呆気なく伝えた後に、時雨達は深刻そうに顔を青ざめさせる。
「まぁでもこれは、あくまでも
口を止めた時雨達を見て叢雲は可能性の話だと笑いながら冗談のように話した。
今回の件について叢雲は護神厄討艦隊の旗艦として上層部に報告しなければならない義務があるそうだが、面倒事が起きると厄介なので集積地棲姫の事は報告しないと明言した。
寧ろ上層部に対して良く思っていないようで表面上では素直に従っているものの、裏では悪態着くほどストレスを溜めているらしい。
「話がズレたわね。彼とアイツ達の居場所について少し情報が必要だわ、何かいい方法は無い?」
「私から提案があります。一度集積地棲姫の襲撃を受けた艦娘達の話を一人ずつ聞いていくのはどうでしょうか」
「私達にか?」
話が脱線し掛けた所で叢雲は提督を拐った鹿島と集積地棲姫の逃げた場所について情報不足だと断定。何か情報を集める方法が無いか灰色と時雨達に問い掛けた。
そこに灰色が手を挙げて艦娘達に話を聞いてみるのはどうかと提案する。
「はい。襲撃時に長門さんや木曾さんが鹿島や集積地棲姫の話を聞いていたように、他の娘達も何かしら聞いている可能性があります。例えば倒されても意識がある状態で二人の会話を聞いていた、とか。話を聞くとかだけでもやってみる価値はあるかと思います」
「確かにそれはアリね。今の話を聞く限りだとあの二人にプライバシーとかはそれほど無さそうに思えるわ」
「あ、あの……」
灰色と叢雲が意見を交わす中、申し訳なさそうに手を挙げて声を出す艦娘がいた。全員が声の方向に振り向くとそこにはドアに半分身を隠しながら恐る恐るこちらを見る伊168と伊8がいた。
「伊168? どうしたの?」
「実は……その……」
「皆さんが戦ってる時に私達……バレないようにあの深海棲艦が乗っていた船に発信機付けたんです……」
治療を終えた伊168が背中から片手に防水パックに包まれた少し大きめな液晶画面付きのGPS発信機を灰色と時雨達に見せる。
伊168達潜水艦は不知火らが『
「発信機……どこでそんなものを?」
「もし提督が拐われそうになった時の為に瑞鶴さんが以前に翔鶴さんが使っていた情報機器の一つを持ってきてくれたんです……皆さんに差し上げます」
伊168は発信機を灰色と時雨達に渡す。
伊168が使っていた発信機は元々翔鶴が提督を監視する為に使われていた物で翔鶴は■■少尉が残した物をそのまま流用していた。戦争後には不必要となった為に使わずにいたが妹の瑞鶴が念の為にと潜伏行動がしやすい潜水艦達に渡して取り付けてもらうように頼んでいたらしい。
「位置からして横須賀と大本営でない事は確実ね。となると……」
「小笠原諸島かその他周辺の島、になる……」
「いや確実に……小笠原諸島父島です」
仮執務室のドアの手前にいる潜水艦達の奥から加古に支えられて歩く古鷹が現れる。
高速修復材の影響で先に治療が終了した右腕を使って加古に介護してもらいながら仮執務室までわざわざ来ていた。
まだ左腕の複雑骨折や頭部外傷、内臓の損傷は完治していない分痛々しく見える。
流石に長門が心配そうに声をかけた。
「加古に古鷹……! 大丈夫なのか、その身体で……!?」
「問題ありません。高速修復材のおかげで歩ける程度までには回復しました……」
「……で、彼が拐われた場所が小笠原諸島父島である根拠は?」
古鷹の重傷を無視して叢雲は提督が拐われた場所が何故小笠原諸島父島だと断定出来るのか問いただす。
古鷹は少し顔を俯かせ唾を飲んだ後に口を開いた。
「鹿島が私に言い残した言葉です。私達は小笠原諸島父島で待っている、必ず提督を助けろ、と……そして摩耶さんなら分かるはずだとこう言い残しました……『運命とは、最もふさわしい場所へと、貴女の魂を運ぶ』……摩耶さん、どうでしょうか」
鹿島から伝えられたメッセージを簡潔に伝える古鷹。灰色達を試すかのように冷や汗を掻きながら緊張した視線を絶やさなかった。
そして灰色達から摩耶へ視線を移し、その言葉について確かめる。
摩耶は瞼を少し閉じて右手を見た数秒後に古鷹と目を合わせた。
「……あぁそうだな。鹿島ならそうするだろうと思った……叢雲、作戦地点が分かったぞ」
「オーケー、摩耶が言うなら間違いないわ。ならコイツを出しても構わないわね!」
摩耶は鹿島のメッセージについて何か確信があったのか珍しく微笑みを見せた。
作戦地点が分かったとなって叢雲は仮執務室の隅に置いていた筒状にまとめられた地図を手に取る。意気揚々と叢雲はその地図を時雨達が囲んでいたテーブルへ勢いよく叩きつけて見せびらかした。
「これは……何だ?」
「小笠原諸島父島にある深海棲艦の巨大前衛基地の全貌、小笠原諸島奪還作戦の時に使ってる資料よ。凄いでしょ? 確認しただけでも海岸線沿いに百二十門の沿岸砲と対空砲、ミサイルに二百個近くの対艦娘用エネルギー感知型炸裂式浮遊機雷が設置されてる。余程ここが重要なのか奴らは島の中を改造して巨大な軍事施設を作り上げてた。注目してほしいのがこの巨大な穴、この穴には年前に見られた巨大な塔と酷似している塔のような建造物があったわ。どういう物かはまだ分からないけどね」
現在の小笠原諸島父島は深海棲艦の大規模な前衛基地として改造されていた。
島の沿岸には無数もの無人沿岸砲、レイピアシステムを応用した地対艦誘導弾や無人対空機関砲。周辺の海域には対艦船や対艦娘に特化した機雷などと近付くことを拒ませるほどの重装備なのが伺える。
更には島南部の地下に巨大な施設を建てており、以前の偵察作戦時に飛龍と蒼龍が確認した禍々しい黒い三本の塔も地図に記されていた。
「塔のような建造物を取り囲むようにドーナツ状の地下軍事施設がある。地下にある階層は地下一階から地下三十階まで、深さは約百メートル以上よ」
「島の地下にこれだけの軍事施設があるのか……一体どこでこんな技術を……」
「一部は鎮守府の地下軍事施設を利用してるわね、これも集積地棲姫のおかげよ。金と資材は各国からたんまり貰ってるらしいし」
地図に描かれた島内部の地下軍事施設について叢雲はペンで囲みながら説明していく。
想像以上に発展を遂げていた父島の前衛基地に時雨達は作戦について悩んでいた。
「っていうか何でこんな易々と深海棲艦の前衛基地の内容が分かったんだ? 表面上の沿岸砲や対空砲、巨大な穴や塔ならまだしも地下施設の詳細までは分からないだろ」
「『
「マジで何なんだよアイツ腹立つな」
父島の全体的な地図や巨大な地下軍事施設について天龍は詳細な情報が得られる事に疑問に思った。叢雲曰く、『
「さて提督を救助する上でやる事は三つ以上、この巨大な軍事施設にどうやって潜入するのか、施設のどこに提督がいるのか、救助後の脱走ルート計算、そして作戦の大まかな流れ、考える事は山ほどあるわよ」
「まずはそれぞれ役割を持つ艦隊で別けて考えてみてはどうでしょうか。潜入と捜索をして司令を救助する役割、殿を務める役割、陽動の役割。人数は限られますが必要かと」
提督を救出する作戦にあたって必要な事項はいくつも存在する。
どうすれば施設に潜入しつつ提督を捜索し、救出するのか、不知火は手を挙げてそれぞれ役割を分担するように提案した。
施設に潜入して提督の居場所を突き止める捜索班や七壊星などの深海棲艦を引きつける陽動班、提督を鎮守府まで護衛する護衛班などやるべき事は沢山だ。
「それについては私が決めていきたいと思っています。仮として今は潜入捜索艦隊、陽動艦隊、護衛艦隊に別けています。それぞれ意に沿わないかもしれませんので、そこは把握しておいて下さい」
「オーケー、分かったわ」
「了解しました」
救出作戦の役割を事前に把握していた灰色は艦隊編成や役割分担を担うと決めていた。
作戦実行権限かつ救出作戦の総司令官としてやるべき事だといち早く理解している。灰色の指揮に対して叢雲や長門は意見も無く承諾した。
「ねぇ確か近々小笠原諸島奪還作戦があるんだよね? ならその作戦と同時に私達の提督を救出する作戦を並行して行えないかな? 陽動的な意味でもリスクは減らせるよ」
「確かに。深海棲艦が別鎮守府の艦隊と戦っている隙に潜入すれば接敵する確率は少しでも減るね。作戦決行の日はいつなの?」
「小笠原諸島奪還作戦決行日は明明後日の深夜四時よ。まぁ作戦の並行は悪くないわね、私が潮岬町鎮守府の艦隊として出撃できる理由にもなるし、万が一の事が起きても護神厄討艦隊の艦娘や味方は大勢いるから応援を呼ぶことも出来る上に七壞星相手でも対処できる」
川内や時雨が提督救出作戦について近日行われる小笠原諸島奪還作戦と並行で出来ないか論じていた。提督救出の為に欠かせない陽動班を小笠原諸島奪還作戦に参加する艦隊に任せて潜入と捜索に割り当てる案を考えた。
叢雲は悪くない方法だと作戦日時を伝えた後に地図に丸や矢印を描いて味方艦隊と敵艦隊の同行などを示していく。
「私もその意見に賛成だ。役割の負担はより軽くなるだろうからな。作戦は並行して行った方が良さそうだ」
「でも作戦決行の日までに提督に何かあったら……それこそ時間は無いんじゃ……」
傍で聞いていた伊168が口を手で覆いながら震えた声で不安を漏らした。
それを聞いた長門達は顔を曇らせる。
すると伊168の背後にいた古鷹が伊168の肩に触れながら真っ直ぐ摩耶を見て口を開いた。
「さっき天龍さんが言ってたように鹿島や集積地棲姫は提督の保護を最優先としてる。確かに無事ではない可能性もあるから急ぐべきだけど……」
「かと言って、この作戦は今すぐあたし達だけで実行できるようなモノじゃない。どうしても他の人の力が必要なんだ……だから今は……信じるしかない……」
信じる。
そこはかとない微かな希望を信じるには無謀にも思えた。
未だ鹿島が提督を攫った本当の目的も知らないままである以上、提督が五体満足で帰ってくるとは決して限らない。
確証の無い希望を信じる他に今の状況を覆す術は無かった。
「っ!」
手を叩く音が聞こえた。
音の方向へ振り向くと灰色が自信満々な表情で注目を集めていた。
「作戦会議の続きをしましょう。大丈夫です、白さんなら問題なく待っていますよ。助けに来たら嫌味でも吐いてくるに違いないです。生きている事を信じましょう!」
今は落ち込んでいる暇など無いと灰色は長門達を元気づける為に励ました。
数々の死線を潜り抜けてきた提督であれば安否確認など必要ないだろう。
きっと余裕の表情でもしながら優雅に待っているはずだ。
灰色の言葉を聞いて長門達は元気を取り戻して再度目を覚ました。
それを見て灰色は作戦会議の進行を進めていく。
「さて……話を戻しますが作戦決行の日時は明明後日の十月二日深夜四時、小笠原諸島奪還作戦の決行時間と並行して行う事にします。次に潜入方法ですが、何かありますか」
次の議題は父島地下にある巨大な地下軍事施設に潜入する方法。
先程叢雲が説明したように父島沿岸には大量の沿岸砲や対空機関砲、周辺海域には炸裂式機雷が設置されている。
島内部に辿り着く事は疎か、海域に近づく事すらままならない。
どうやって弊害なく巨大な地下軍事施設に潜入するか考えていた。
「それについては私の中で思いついたいい方法があるわ」
叢雲が声を挙げて潜入する方法について醸し出すような言葉を言う。
その気になる方法について灰色は問い掛けるも叢雲は人差し指を上に指して何かを示唆した。
「……え? 空?」