──小笠原諸島奪還作戦攻撃開始時刻十三時間前。
「各鎮守府作戦担当指揮官に伝達。小笠原諸島奪還作戦発動、作戦に参加する全艦隊に出撃命令を下す。これより行われる全ての作戦指揮系統は横須賀鎮守府海軍大将参謀総長■■橙■が全て担うものとする……各艦隊の戦況は旗艦と担当指揮官の判断を優先、七壞星やその他の最上位危険個体等による異常な行動が見られれば即座に作戦司令本部に報告せよ」
横須賀鎮守府にある小笠原諸島奪還作戦司令本部で一人の老人男性の声が日本各地に設置された鎮守府の司令部へ流される。作戦に参加する鎮守府の艦隊に出撃命令を下し、作戦の総指揮を担う■■大将によって小笠原諸島奪還作戦が発動された。
「連合艦隊司令長官■■■橙より連合艦隊へ伝達。連合艦隊は小笠原諸島海域に到着するまで第三戦闘航行序列を維持、空母機動艦隊は偵察機を発艦させ制空権を確保し、深海棲艦の奇襲に警戒せよ」
『了解』
■■大将は横須賀鎮守府で集めた精鋭集いの連合艦隊を指揮を執った。
作戦司令本部には沢山のオペレーターが作戦に参加する各鎮守府の艦隊と軍人から状況を共有しており、声が騒音となって本部のあちらこちらへ響き渡る。■■大将はオペレーターや主事補を担う軍人達へ命令を与え、自ら率先して作戦に関する情報を流した。
「小笠原諸島奪還作戦基地攻撃開始時刻は午前四時を目標。連合艦隊が攻撃次第、各参加艦隊も攻撃を許可する。各鎮守府艦隊指揮官には事前に共有済みだが、小笠原諸島父島は深海棲艦の巨大前衛基地となっている。沿岸砲や機雷、地対空誘導弾、地対艦誘導弾等の対艦迎撃手段に気をつけよ」
■■大将はモニターに映る小笠原諸島父島と並べられた巨大前衛基地の情報をじっと見続ける。別のモニターには連合艦隊を位置づける矢印のマークが入った太平洋の海図。
■■大将は深海棲艦の動向を伺って呟いた。
「さて……どう行くのかな」
「作戦が始まって十時間が経過……そろそろ連合艦隊が小笠原諸島海域に到着する頃ね……」
小笠原諸島奪還作戦の発動から十時間が経過し、提督救出作戦を実行に移した叢雲達は既に陸地から離れており、輸送機の中でその時を待っていた。この世界における深夜の飛行は危険度が高く、運が悪ければ対空能力の高い深海棲艦に撃ち落とされるなどよくある話だ。
時間は深夜一時頃、輸送機一帯は透き通った星空とあちらこちらに雲が広がっており、真下には月に照らされた永遠に広がる白い雲海が見える。
「アンタ達、気を引き締めていくわよ。今作戦目標は白■大佐の捜索および救出。各自決められた侵入ルートに集合しペアで捜索、地下軍事施設のどこかにいる白■大佐を救出する事。限られた作戦時間およそ一時間。七壞星と接敵次第、撤退しつつ私に報告するのよ。いいわね?」
輸送機の中でただひたすらその時を待つ艦娘達の前に叢雲が金色の鎗を肩に乗せて作戦内容を簡潔に伝える。
飛行音が常時鳴り響く中で大きく声を張って緊張することなく自信満々な表情だった。
「灰さんから入電! 小笠原諸島に向かった横須賀鎮守府の連合艦隊が只今小笠原諸島海域に到着、深海棲艦もそれに気付いたようで迎撃した事により、作戦予定時間より二時間早く攻撃が開始されました!!」
「やっぱりね、作戦予定時間なんて最初からアテにならないわ。こっちは予定通り午前四時に飛び込むわよ、急がず焦らずにね……そう伝えておきなさい」
横須賀鎮守府の連合艦隊と作戦に気付いた小笠原諸島父島前衛基地の深海棲艦の精鋭艦隊が衝突したと灰色から連絡が入った。作戦の戦闘予定時間より二時間ほど早く開始されたらしく、予定としていた前衛基地の奇襲は失敗した事になる。
しかし■■大将もその事に関しては既に予測済みのようで深海棲艦の精鋭艦隊に対して連合艦隊に指揮を出して適切に対応しているようだ。
「なぁ……木曾、瑞鶴、大丈夫なのか? 本当に…… 」
「問題ない。無理な事はしないって約束でなお且つ監視がいるんだ、なぁ長門」
提督救出作戦の潜入捜索艦隊に瑞鶴と木曾が突然編入された事に天龍は心配していた。
輸送機に乗る際に平然と何気なく乗ってきた二人を止めたものの灰色の判断だと聞いて何も言わなかった天龍。
瑞鶴と木曾は元々の長門と不知火のペアを崩して瑞鶴と不知火、木曾と長門という編成で艦隊を作り直していた。天龍と同じく金剛や川内も瑞鶴や木曾は勿論のこと、早急に戦線復帰した古鷹の事も心配していた。
「私は良いとは思わないが■■先生の判断なら大丈夫なのだろう。この二人には私と不知火がついている」
「寧ろ僕達は戦う訳じゃなくて提督を救出する訳だからね、本当に戦うってなら話は別だけど……大丈夫だよ、頑張ろうよ!」
「うん……ありがとね……」
長門や時雨が二人を庇うようにして問題ないと天龍や金剛達を説得させていく。
叢雲率いる潜入捜索艦隊は戦闘目的ではなく提督救出を最優先目標とした艦隊。無理な戦闘は理にかなっていないと誰しも暗黙の了解で分かりきっている。
二人の編入に対して摩耶は何も言わずに窓の景色を覗くままであまり気にしていないのか簡単に受け入れているようだった。
「横須賀鎮守府連合艦隊が敵艦隊の防衛線を突破!! 小笠原諸島父島まであと十キロメートルの所まで接近し、各鎮守府の作戦参加艦隊も次々と合流しました!! また深海棲艦も小笠原諸島父島前衛基地から精鋭艦隊の出撃を確認!! 大規模戦闘が始まります!!」
「現在地点もそろそろね……降下準備!!」
横須賀鎮守府連合艦隊と深海棲艦の防衛艦隊が戦闘を始めて二時間が経過し、灰色から連合艦隊が深海棲艦の防衛線を突破したと報告が入った。大規模戦闘が始まったのを見計らって叢雲はとうとう提督救出作戦を実行に移す。
艦娘達は保護ゴーグルをつけて立ち上がり、腰や肩に艤装を展開させた。輸送機の後部ハッチがゆっくりと開き出し、肌を凍らせるような冷たい突風がなだれ込んできた。
「パラシュートの動作方法は分かってるでしょ?!! 最初はペアの合流を最優先に行動して頂戴!! その時の状況については各自の判断で任せるわ!!!!」
吹き荒れる突風と耳の奥まで突き刺すような轟音の最中に叢雲が無線を使って必要事項を最終確認していく。長門達は目の前に見える雲海と橙色に色づく朝焼け空に圧倒されながらも叢雲の言葉に耳を傾けて声を発さずに頭を縦に降る。
「作戦開始!!!!」
提督の救出作戦が開始。
叢雲を初めに長門達は輸送機の後部ハッチから次々に降下していく。
真下から突き上げるような暴風に耐えながら身体を垂直にして落下速度を上げていった。
徐々に朝日が顔を出して雲海に光芒を射て刺していく。
「っ……!!」
叢雲から深い雲海へ突入。
保護ゴーグルに水滴が斑模様にこびりつく。
周りは白い雲に包まれ何も見えない。微かに海が見えてきた、地上や水上はまだ夜のようだ。
探照灯の光筋や列に並ぶ曳光弾の光が見えてきた。
朝を迎えた雲海に突入した叢雲達は雲海の海底を抜けて小笠原諸島父島の上空へ辿り着いた。
よく見れば小笠原諸島父島の周辺海域では横須賀鎮守府の連合艦隊と深海棲艦の精鋭艦隊が激しい戦闘を繰り広げている。
「(これが……あの塔、なのか……!?)」
上空を滑空して飛んでいた叢雲達の視線を集めていたのは三つの巨大な塔だった。
紅黒く光る三つの巨大な塔は地上の穴から地下の奥深くまで建てられていて、中心は空を刺すような紅い光線が島ごと照らして光っていた。
「着地地点はどこだ……あそこか……!?」
長門は周辺を確認して木曾を探し、パラシュートを下ろして降下していく。艦娘の強靭な身体であれば五十メートルの高さでも怪我なく着地できる。
長門は開いたパラシュートを早々に脱いで予め決めた着地地点まで急降下した。
「よし……着地成功……! 着地予定予定地点と少し外れたが……このまま木曾と合流して潜入だ」
急降下して島に無事着地した長門は土埃を払って状況を確認する。空を見上げればパラシュートで降りている仲間は見掛けない。
全員が無事に着地した事を祈って長門は木曾と合流する為に動いた。
「木曾、どこにいる? 聞こえたら応答してくれ」
『木曾だ、こっちは問題ない。森の中に降りたが近くに舗装された道路がある。今すぐ着地予定地点へ向かう』
「了解した。私も今すぐそちらへ向かう」
「……」
単独行動で塔が突き出る地上施設に着地した叢雲は巨大な三本の紅黒い塔を仰いで眺めていた。
中心の紅い光線が塔周辺一帯の森を真っ赤に染め上げ、腕で仰がなければまともに見つめる事は出来ない。黒い塔の影にて潜入場所を探していた叢雲は穴の中をゆっくりと覗く。
「深いけど……ここから行けそうかしら」
三本の黒い塔は地下の奥深くから地上、そして空の上まで伸びており、塔の根元を凝らして見ると何人か深海棲艦が急いでいる様子が観測できた。
叢雲は塔が突き出た穴の中から直接潜入、金色の鎗を壁に突き刺してぶら下がりながら次の足場を見つけて静かに行動する。
ガラス窓を偶然見つけた叢雲は振り子の運動で身体を前後に揺らして勢いよくガラス窓に突入。
突入後は即座に部屋内をクリアリングして周囲を確認する。
「よし……んじゃ早速捜しますか」
部屋のドアに耳を傾けて廊下に足音や物音がしないか耳を澄ませる。誰もいないのを確認した後にドアをゆっくりと開いて左右どちらも奥に続く廊下に出た。施設内は案外清潔で国の病院や軍事施設と何ら変わらない建築になっている。
「ここは地下一階ね、まずは最下層から行こうかしら……っとその前に」
叢雲は捜索艦隊に一度全体へ報告するのを思い出して先程出た部屋の中へもう一度入る。
片耳に装着した小型無線機を使って長門達に指針と目標を伝えた。
『各ペアに通達。それぞれ合流したなら基地に潜入して頂戴。今わたしは地下一階にいるけど、このまま最下層まで降りて下から上の順で捜すわ。アンタ達は上から
『了解した』
『問題ない』
「分かりました……天龍、どう?」
叢雲の無線を受信した金剛は天龍と共に地下軍事施設の入出口と思われる建物の近くまで来ていた。入出口と思うには少し違和感を感じるもので、石レンガ造りの古い物置部屋のような建物だった。
更には周辺警戒中の深海棲艦の姿も全く見当たらない。天龍と金剛は森の茂みに隠れながら深海棲艦の動向を伺っていたが、一向に深海棲艦か来る気配は無かった。
「行けそうだが……なーにか不穏で仕方ねぇ……」
「ん~……なら建物の裏から行ってみよう、何かあったらその時で対処すればいいと思うヨ」
二人は外回りして茂みに隠れながら出入口の建物の裏へ辿り着く。
左右それぞれ壁を伝って周辺を警戒し、怪しい者がいないか確認する。
少しずつ足を動かして出入口の扉まで接近した二人。互いに準備万端だと頭を縦に降って天龍が突入の合図を送った。
「何も……無いネ」
「やっぱり連合艦隊と戦ってるからほとんど出撃してるのかもしれないな」
出入口の扉を蹴飛ばして部屋の中を警戒する。
部屋の中は何も置物や備品などは無く、中心に地下軍事施設へ続く階段が続いていた。若干階段の奥が光っている事から地下一階までの距離は近い方だろう。
天龍と金剛の二人は地下軍事施設へ侵入する事を決心して階段を一歩ずつ降りていく。足音を立てないように背後に気を付けながらゆっくりと足を動かしていき、奇襲を予想した立ち回りを考えて階段の奥へ続く場所を覗いた。
「ここはエントランス、的な何かか……誰もいないネ……」
「さっきの出入口が南だから東と西に第二廊下、北に第一廊下、第一廊下は大穴に沿った
「オーケー、私は左から行くヨ」
天龍と金剛は手分けして西側の第二廊下を捜索する事にした。
塔を中心に円形状になっている地下軍事施設内の廊下は先程潜入したエントランスと階層ごとに繋がっている。廊下の左右には均等に割り当てられた謎の部屋がいくつも並んでいた。どの部屋に提督がいるのか確実にする為に部屋を一つずつ調べていく。
地下一階にある部屋は居住スペースばかりで、本や書類などがまとめられた書棚や机、そして二段ベッドが部屋の左右に二つずつ置かれていた。一見すれば普通の人間の部屋と何ら変わりなく、住もうと思えば何の違和感も無く簡単に過ごせるような空間だった。
深海棲艦も普通に過ごしているのではないかと内心驚いていた。
消し忘れたデスクライトが机を眩しく照らして部屋全体を淡く明るくしていた部屋や書類が床を埋めつくして足の踏み場もない粗末な部屋もあった。
「……」
天龍が床に散らばる書類の一枚を手に取って流し読む。
書類の内容は対艦娘砲撃訓練の経過報告書。
新しく配属された深海棲艦の訓練官を勤めていたらしく、よく読めば何処かの誰かに似たような厳しい指摘を欄からはみ出るほどまで書かれている。
新米の深海棲艦、と思えば少し腑に落ちない部分があった。
「深海棲艦ってのは、一体……何なんだろうな」
天龍は瞼を少し沈ませて呟く。
人類の脅威となる存在がまるで人類のように生活していた事に何か引っ掛かるような感覚があった。心にナイフでも突き刺さったかのような重く言葉に出ない感覚が天龍の中でじわじわと馴染んでいく。
手が震えているように思えた。
だが実際は全く震えておらず、書類の一枚を少し強く掴んでいただけだった。
何かに怯えているような、そんな気がした。
「ここは……天龍、来れる?」
「ん……なんだ?」
天龍のいる部屋に金剛が駆けつけて名前を呼んだ。
金剛曰く、興味深い部屋が見つかったらしい。天龍は金剛の後を追ってその部屋に向かった。
「これは……仕事部屋……?」
金剛が見つけた部屋は先程の居住部屋とは打って変わって沢山の机が均等に並べられた大きな部屋だった。
机の上にはパソコンなどの精密機器や書類の束などが置かれている。窓には紅白い光を放つ塔の地下下部が映っており、部屋全体を紅く染めていた。
「なんか……ドラマで見たようなオフィスみたいだな……」
天龍は開いた口が塞がらないといった表情で茫然と部屋の中を見渡していた。以前に講堂で観ていた恋愛ドラマで似たような綺麗なオフィス部屋と酷似していた事に驚きを隠せずにいた。
部屋はかなり大きく設計されていて北の第一廊下に繋がっており、地下二階へ続く階段も二箇所ほど確認できた。
深海棲艦がここで何をしていたのかは不明だが、明らかにこの塔や地下軍事施設に関しての資料だという事は明白だ。
金剛は提督に関する情報が無いか書類を手に取って調べようとする。
が──、
「待ッテイタゾ」
「っ!! 金──」
謎の聞き覚えのある声と天龍が気付いた瞬間だった。
金剛は両腕を交差して防御体勢のまま勢いよく部屋の奥まで吹き飛ばされていた。
均等に置かれていた机が吹き飛ばされた金剛にぶつかって部屋の奥や端に掻き集められていく。
机に置かれた資料が宙を舞い、白煙や埃が霧のように遮られた。
「金剛!!! っ──くそっ!!」
吹き飛ばされた金剛の身を案じて名前を叫ぶ天龍。
金剛の方へ振り向いた瞬間、強烈な殺意を察知した天龍は後方へ身を崩して咄嗟に走った。
天龍のいた位置には紅く照らされた巨大な黒い何かが空間を斬り裂いていた。
天龍は緊急回避の末に金剛の元まで走り寄る。
金剛も無意識に起こした防御体勢でダメージは軽減されていた。
「ヨォ……マタ会エタナ……」
「っ……!! てめぇはッ……!!」
「久シイナ、天龍! 金剛!! オ前ラガ来ルノヲ待チ侘ビタゾ!!」
部屋の手前で笑うのは二本の巨大な黒い腕と怪物を模した歯や砲塔、額に紅黒く滾った角と紅く鋭い殺気を放つ眼を持つ深海棲艦。
人は彼女を人類を最も恐怖に陥れた「最強」と呼び、その姿を見ただけで戦意を喪失させる圧倒的な力を人類に見せつけた恐怖そのもの。
「『
「何でてめぇがここに……!!」
予測不可能な緊急事態に天龍と金剛は緊張と焦りを隠せなかった。
何故七壞星の『
だが小笠原諸島奪還作戦で連合艦隊の襲撃に合っている最中、七壞星自体が未だ地下軍事施設にいるのは全くもって理解できない行動だった。
それはまるで提督救出作戦を事前に知っていたかのように、ここに来る事を分かっていたかのように不可解だった。
「オ前ラガコノ部屋ニ来ル事ハ察知サレテイタカラナ! 半分疑心暗鬼ダッタガ結果オーライダ!!
「知ってたのかよ……!! 俺達が来る事を!! まさか……! いやだが……」
『
鹿島だと考えていたが『
「迷ってる暇は無いヨ天龍……! 接敵したならやるべき事は一つ……この状況じゃ太刀打ちできない、出来れば戦いたい所だけど……今は叢雲を呼んで駆けつけてくれるまで……逃げ耐えるしかない!」
「っ、だよな!! だがアレは……!!」
「フハッハッハッハッハアァァァァァァ!!!!」
金剛の冷静な判断に耳を傾け天龍は落ち着きを取り戻す。
だが狂気的な嘲笑を叫んで巨大な黒い腕を動かして構える『
そして次の瞬間に戦艦棲姫は床を蹴って二人に殴り掛かる。
「その暇すら与えてくれ無さそうだッッ!!!」
地下一階第二廊下。
凄まじい轟音と同時にドアごと後方へ跳躍する金剛と天龍が現れた。
周辺は歪んだドアと壁や床のコンクリート破片が後方へ舞う。
二人は即座に体勢を変えて『
廊下の幅は約二・五メートル前後。
巨大な艤装と腕を持つ戦艦棲姫は通れないと思えばそれは油断だ。
奴は左右の壁ごと無理矢理破壊して二人を追い掛けている。
戦艦棲姫は見境なく狭い廊下で複数砲撃。
逃げ去った二人の位置にすぐ着弾し、爆発。
衝撃で瓦礫や破片が飛び散り、背後から押し飛ばされそうだった。
目くらましに天龍は身体を回転させ、戦艦棲姫へ向いた瞬間に砲撃。
爆煙で姿が見えなくなり二人は逃げていく。
爆煙の中から紅い十字光が輝き、避けるように爆煙に穴が空いた。
天龍と金剛の逃げる先に着弾し、瓦礫が雪崩のように押し流れていく。
廊下が瓦礫で阻まれる前に二人は体勢を低くしてスライディング。
身体や艤装と紙一重になるも瓦礫の雪崩を回避して走った。
直後に戦艦棲姫が即席の瓦礫のバリケードを巨大な黒い腕で薙ぎ飛ばして現れる。
「天龍だ!!! 現在『
徐々に迫り来る戦艦棲姫に追い付かれるのも時間の問題だった。
天龍は声を荒らげて艦隊に至急の応援を伝えた。
だが誰も反応は無く、声が届いたような雰囲気は全く無い。天龍は何度も訴えて伝えるも誰も反応は無かった。
「駄目だ誰も応答しねぇ!!! くそっ!! どうなってんだよ早く応えてくれ!!!」
「これだけ騒ぎになれば両方気付くはず……!! と言っても結構キツいネ!!!」
会話の最中にも戦艦棲姫は速度を速めて出鱈目に砲撃を繰り返している。
着弾で散らばる瓦礫や破片、爆発の衝撃で逃げているのがやっとだ。
このままでは確実に追い付かれて襲われる。
「ッ……なら!!!」
「っ? 金剛!!?」
金剛は逃げるのをやめてわざと戦艦棲姫の方へ身体を振り向かせた。
急な方向転換で速度を緩める為に足に火花を散りばめて構える金剛。
突然止まり始めた金剛に天龍は困惑の声を上げて名前を叫んだ。
「こうするしかない!!!」
「金剛ォォォォォ!!!!」
『
直後、床が噴火の如く舞い上がる。
巨大な黒い拳は金剛ではなく床を殴っていた。
戦艦棲姫はすぐに金剛の姿を捉える。
金剛は巨大な黒い拳を回避して横の壁に立っていた。
「何ヲ──グッ!!!」
金剛を捉えた瞬間には物凄い衝撃が戦艦棲姫の艤装と母体の腹にのしかかっていた。
壁を強く蹴った金剛が戦艦棲姫へ体当たりしていた。
防御や受け身も取れず戦艦棲姫は金剛と共に吹き飛ばされていく。
横の壁を突き破ってまた更に壁を突き破る。
突き破った先は三本の黒い塔の下部、巨大な穴の中間だった。
瓦礫と共に金剛と戦艦棲姫は最下層へ落下していく。
金剛が上で戦艦棲姫は真下。
最下層へ墜落すればダメージは戦艦棲姫が負う事になる。
落下していく最中、金剛は戦艦棲姫と手を重ねて身体の自由を奪った。
戦艦棲姫は巨大な黒い腕の従属機能を解除して同じく身動きの取れない金剛を殴らせる。
しかしそこに急落下してきた天龍が巨大な黒い拳の甲を刀で貫き殴打を阻止する。
もう一方の巨大な黒い腕は金剛が塔の側面を使って脚で押さえ付けた。
「叢雲ォォォォォォァァァァァ!!!!!」
「摩耶ァァァァァァ!!!!!」
叢雲と摩耶の名前を叫んで金剛と天龍、『
墜落した衝撃で金剛と天龍は吹き飛ばされるも即座に体勢を立て直して立ち上がる。
墜落した地点では床がクレーターのようになり、濃い土煙で姿は見えなかった。
「ッ!!」
「金剛!!」
息する暇も無い。
土煙の中から天龍の刀剣が一閃の如く、金剛の左肩を突き刺した。
突き刺さった衝撃で体勢を崩して身を低くする金剛。
左肩は紅い鮮血で溢れ出している。
金剛が見た先には恐らく刀剣を投げただろう戦艦棲姫が土煙を掻き消して歩いていた。
「成程、ワザト注目ノ集マリ易イ場所ヲ選ンデ名前ヲ叫ンダカ。ドレクライ時間ハ持ツダロウナァ……!」
巨大な黒い腕の従属機能を締結させた戦艦棲姫は戦闘態勢に入って金剛と天龍に脅しを仕掛ける。この広い場所へ向かったのは流石にまずかったかと思ったが、いずれ追い付かれる事を予測すれば一々メリットやデメリットを考えている暇などない。
叢雲と摩耶という応援が確実に呼べないのならば少しでも応援を呼べる確率が高い方を選んだまでだ。
「大丈夫か……!? 金剛……!」
「大丈夫ネ……心配ないヨ……ッ!!」
天龍が走り駆けて金剛の様態を心配した。息が乱れる金剛は問題無いと天龍を落ち着かせる。突き刺さった刀剣の柄を掴み、痛みに耐えながらも抜いて天龍に渡して立ち上がった。
「耐久戦……かナ……! 応援が来るまではここで戦って耐えるしかない……!」
「あぁそうだな……! アイツらの事だ、すぐに来てくれるに違いねぇ……!!」
「行クゾッッ!!! 天龍!! 金剛ッ!!!」
早速襲われるっていう