金剛と天龍が『
三本の黒い塔付近で合流した摩耶と川内は地下軍事施設へ潜入する場所まで移動し到着していた。金剛と天龍が潜入した場所とは真逆の位置で同じく石レンガ造りの古い物置部屋のような建物があった。
摩耶と川内は周囲を警戒しつつ建物の扉まで接近し、地下軍事施設に潜入。階段を真っ直ぐ降りていくとエントランスのような部屋が広がっていた。
「深海棲艦にしては凄く清潔感あるエントランスだ……本当にここにいたのかな……ねぇ? ねぇ摩耶?」
エントランスのような部屋を見て物珍しそうに話し掛ける川内を余所に摩耶は真っ直ぐと先に続く廊下を目指していた。
一言も喋らずゆっくりと黒い塔の下部へ続く廊下を歩いていく。何の警戒もなく突き進む摩耶を不審に思った川内は何度も名前を呼んだ。
「摩耶? 摩耶、どうした──ッ……」
黒い塔の下部へ続く廊下を歩いていた摩耶と川内の先にある人物が現れる。
「お前は……! 鹿島!!!」
「お疲れ様です。摩耶さん、川内さん」
二人の目の前に現れたのは鹿島だった。艤装を展開せずここに来る事を事前に分かっていたかのように待ち構えていた。
鹿島と接敵した川内は激しい戦闘を予想して即座に身構える。
深海棲艦の七壞星『
だが──、
「っ! 何でよ摩耶!!」
戦闘態勢に入った川内を前にいた摩耶が戦闘を止めるように片腕を広げた。
摩耶は後方にいる川内を一瞬視線を移し、その後すぐに鹿島へ顔を向けてあるジェスチャーを見せる。ジェスチャーを見た鹿島はポケットから小型端末を取り出した途端、耳につけていた無線機が変なノイズを立てて聞こえなくなった。
「……これで大丈夫ですよ、摩耶さん」
「あぁ、ありがとな……悪いな鹿島。こんな役にさせてしまって」
「私は大丈夫です。提督の為ならば何だってしますよ」
「っ……!? どういう事なの摩耶!!?」
敵意の無い両者の行動に川内は困惑の表情を隠せずに戸惑っていた。通常であれば最愛の提督を奪われた鹿島を目の敵にしてもおかしくないはずが妙に冷静で慎重な態度を見せていた。
川内の様子を半ば予想していたのか摩耶は川内を落ち着かせて口を開く。
「……ついてきてくれ川内。訳は歩きながら話すよ」
摩耶の言われるがままに川内は二人の後を追う。
廊下の奥まで進んでいくと三本の巨大な黒い塔の下部が丸見えな穴の外側へ辿り着いた。
ふと上を見上げると星一つない雲夜空と三本の巨大な黒い塔が天までそびえ立っており、最深部へ続く穴は中心から放たれた紅い光によって照らされている。見ただけで光を浴びた皮膚が徐々に熱せられていくような感覚がした。
鹿島と摩耶はその光景に対して何もリアクションは無く、円の外周に沿った廊下をひたすら歩いていく。
「実は提督を攫うように頼んだのはあたしだ」
「え……!? な、ななな……何で……?」
二人と川内がエレベーターらしき場所まで辿り着いた途端、摩耶が突然口を開けて耳を疑いたくなるような事を打ち明けた。
またもや困惑する川内を置いて二人はエレベーターへ乗り、川内も慌てて駆け出し乗っていく。
「……これは私にしか知らない事だったが……提督の頭には記憶を操作するデバイスが埋め込まれているんだ」
「記憶を操作する……?」
「そう。提督がまだ深海棲艦の提督として大本営の地下牢獄に収容されていた時、軍の上層部は提督を貴重なサンプルとして私と同じく拷問とも思える数々の実験の実験体として扱われていた」
エレベーターの窓から見える紅い光と下から上へ登って行く影の両方を浴びながら摩耶は自分しか知らない提督の過去について神妙そうに伝えていく。
「提督の身体には人間の遺伝子と進化した深海棲艦の遺伝子の両方が共存して生きている。軍の上層部はそれを何かに役立てないかと考えて提督の身体を外から内の奥まで根こそぎ調べまくったんだ。
当時人類と深海棲艦の混血児である提督は研究者達にとって喉から手が出るほど価値のある貴重な存在だった。
深海棲艦特有の白髪長髪で深紅の眼、白い肌を持ち、性別は男でありながら女々しい体格で女性器と男性器を両方兼ね備え、超人的な力と深海棲艦を指揮する力を持つ人間ならざる存在。
その貴重な存在が持つ力を人類側でもどうにかして扱えないか考えていた軍の上層部は興奮が止まらない研究者達を使って提督の身体を生きたまま解剖していた。
提督の身体の中には艦娘と同じ構成で出来た深海棲艦のエネルギー核が内蔵されており、それが体内にある限りはエネルギー核の特性でどんな怪我や病気だろうと艦娘や深海棲艦と同じく【耐久】という名の自然治癒力で治癒出来てしまう。
軍の上層部や研究者達はその特性を利用して提督の四肢や消化器等の内臓、骨や筋肉、血液に眼球などありとあらゆるモノを提督の身体から取り出し研究材料として保管していた。
もし使えなくなればまた提督の身体から再生したモノを取り出しての繰り返しで皮膚組織や遺伝子情報、染色体や筋肉組織などを毎日抜き取られていた。
軍の上層部は愉悦に浸る為か深海棲艦の提督という存在をこの世にいてはならない人モドキと蔑み嘲笑し、内臓や筋肉を取り出された後も身体の再生の為に休憩していた提督をひたすら犯しては嬲っていた。
その時の提督にとっては死をも懇願するほどの絶望に明け暮れていただろう。
人として扱われず抵抗もできないまま内臓や血を取り出される残虐行為を受け続け、終わった後は軍人の拷問や強姦などが待ち受けている日々。
地獄とも思える日々に心身ともに何もかも破壊され続けた提督が考えた足掻きの術は軍の上層部達を震え上がらせた。
「提督には軍の上層部にとって不都合な真実や情報を沢山持っていた。上層部は方針で散々調べ尽くした後で殺すのが最適解の処理案だと考えていた。だが提督はその案を予測して捕まる前に各地の重要人物と繋がり、自分が殺されればその情報を全世界に晒すように仕掛けていた為に何人かの軍人が結託して自己保身の為に提督の仲間のフリをして味方にしようと持ち掛けた。その時から記憶制御について既に準備していたんだろうな」
目標階に辿り着いた鹿島達はエレベーターを降りて同じような廊下をまた歩く。
鹿島達がいるのは地下一階から地下十五階の中間、地下七階の所だった。廊下の奥へ進んでいくと地下一階て見た景色とはまた違ってガラス張りで部屋の中が見える所が複数確認できた。
「深海棲艦の提督は超人的な力も含まれていたが、どの軍人よりも艦隊の提督としての才能が凄まじかった。だから味方にすれば深海棲艦を滅ぼす心強い仲間となり、深海棲艦側から見れば見せしめと同時に精神攻撃になる。提督を易々と殺せないと知った軍の上層部は提督を都合のいい手駒として扱うように考えた。それがさっき言った記憶を操作するデバイスとこの遠隔操作装置、の事な」
歩きながら摩耶が手に持ち出したのは提督の記憶を操作するデバイスの遠隔操作装置。提督が持っていたスマートフォンと同じ形のモノで映し出された画面には「ERROR」と表示され動かなかった。
摩耶曰く、提督の記憶を操作するデバイスの操作の他に心拍数や脈拍数など提督の身体の状態が事細かに表示されるらしい。
「提督の頭の中、脳内には遠隔操作が可能な高機能記憶制御端末が埋め込まれてる。軍の手駒として白中将という
「摩耶……」
「あたしは黒■■の条件を飲んで提督の監視役を今まで務めていた……そしてあたしの体内にも監視用の聴音機が埋め込まれてる。だからさっき鹿島には鹿島から半径十メートル以内を限定とした通信妨害をやってもらった、今ならアイツ聞かれずに堂々と言える」
今まで提督の記憶を操っていたのは黒■■と摩耶だった。
白中将という作られた人格を保つ為に摩耶が監視役として秘書艦となり、記憶の操作を遥か遠くにいる黒■■が操っていたのだ。提督は眠っている間や無意識に記憶を改変させられる為に記憶制御端末については全く気付かない。
今まで何の話をしていたのか、今までの自分はどこへ行ったのか不明瞭になり、自分は一体何者なのかと自問自答し続ける時が何度もあった。
何度か提督の人格が壊れた事もあった。頭を両手で押さえてただひたすらに自問自答し続ける様は見るに堪えなかった。
提督に対して何も出来なかった自分自身が嫌になった。傍にいながら何一つ提督を救う事ができない無力な自分を殺したく思えた。何も出来ない自分が嫌だった摩耶はある決心をする。
「話を戻すけどありのままの提督を戻したいと思ったあたしは提督の頭に埋め込まれた高機能記憶制御端末を唯一取り外せる『
摩耶は本来の提督を取り戻す為に深海棲艦と手を組んでいた鹿島と『
勿論この事は誰にも知られてはいけない為、鹿島以外の艦娘に口外する事は禁止され、提督を連れていく計画の上で邪魔な存在となる灰色と『
「事情は分かったよ……でも私は二人が許せない。提督を連れていくならば仲間が不用意に傷付けられる必要は無かったし、だったら私にも言って欲しかった……私だって協力する事は出来たはずだよ?」
一通りの事情を聞いた川内は提督の新たな真実や摩耶の心情を聞いても許せない部分があった。
何故そんな大事な事を自分に伝えてくれなかったのか、提督が深海棲艦側だった事や酷い経験を受け続けた事は自分だって知っている。
摩耶と同じく提督を救いたいという気持ちは一緒だ、事情を教えてくれれば協力する気持ちになれたはずだというのに。
自分も協力する立場だったら仲間が傷付けられる事も無かった。
「本当にごめんな……私の事は憎んでいて構わない。どちらにせよ私はそれだけの事をいっぱいしてきたからな、当然の報いだ」
「本来は戦闘を避ける予定でしたが、なにぶん博士が興奮してしまって……あの戦闘は私も予想外でしたね。それはそれとして摩耶さんに言われたとして裏切り者になるのですか? それは止めておいた方が良かったですね、今頃貴女は全員から目の敵にされて指名手配されていますよ、見つかったら海の底でおねんねですね」
鹿島に馬鹿にされたような気がした川内は癪に障ったのか一瞬身体を素早く動かした。
摩耶が川内の前に腕を出して戦闘態勢を解いてほしいと片手でジェスチャーをする。内心不満ばかり積もる川内は鹿島に向けて質問した。
「鹿島は味方なの? 敵なの?」
「私ですか? れっきとした貴女達の敵ですよ。摩耶さんとの協力関係さえなければ今すぐ貴女達と戦闘してもいいくらいには」
「このっ……!」
「やめてくれ川内。お願いだから……頼む……」
鹿島は後方にいる川内に顔だけを向けて不気味に微笑んだ。
苛立ちを抑えきれない川内は砲口を鹿島に向けるも摩耶が立ち塞がる。
摩耶の表情を見て敵対する鹿島を庇う理由も提督が関係しているのなら仕方ないと川内は心の中で割り切るしかなかった。
「ッ!? 何この音!?」
「どうやら……誰かが七壞星と接敵したようですね」
廊下を歩いている最中に突如凄まじい爆音と揺れが鹿島達を襲った。
天井の白い蛍光灯が激しく点滅し、何かを察知した鹿島は摩耶と川内に上の方向を見て呟く。
「接敵!? しかも七壞星だって!!?」
「これは少しばかり急いだ方がいいかもしれませんね。こちらです、走ってください」
嫌な予感がした鹿島は二人を急かして走っていく。摩耶と川内も状況を察して鹿島の後を追っていった。鹿島の案内中では先程同じく凄まじい爆音と揺れが至る所から来ており、走っていてもふらつきそうな程だ。
捜索艦隊のペアが七壊星と接敵して戦闘になってしまったのだろう。
急な事態悪化に摩耶は提督の居場所について鹿島に問い掛ける。
「提督は今どうしてる……!」
「提督は集中治療室で安静に寝ています。高機能記憶制御端末も博士が既に取り外してくれました。救出するなら今ですよ……着きました、この部屋です」
提督がいると思わしき場所へ辿り着く鹿島と摩耶達。
そこは鹿島の案内無しでは絶対に辿り着けないような地下軍事施設から少し離れた集積地棲姫の研究施設だった。一見は何の変哲もない書斎の中にある本棚の本を動かして隠し扉を起動。
その扉の奥に進むと集積地棲姫が研究していたと思われる部屋が廊下の左右にいくつも存在していた。ガラス越しに見える部屋の中には酷い損傷のある血塗れた遺体や何か色の着いた水に漬けられた深海棲艦の素体など見るだけで鳥肌が立つようなモノばかりだった。
「ここです……」
一番奥の部屋に辿り着いた鹿島と摩耶達は走るのを止めて慎重にドアを開けながら部屋へ入る。
そこにいたのは──、
「やっと着きましたか鹿島さん。それに摩耶さんに……まぁ……連れの方ですかね」
「川内だ!!! お前を蹴り飛ばした艦娘だ覚えてけ!!! って……」
研究施設についた鹿島たちを見ては安心した表情をしながらも『
中央の手術台には赤く染まった患者服に着替えられた提督が意識を失くした状態で横たわっている。部屋は手術台に眠る提督を中心におぞましい程の血液が花のように飛び散っており、惨劇と言っても過言ではない状況だった。
「……一体何があったんですか?」
「いやいや私が少し休憩にと休憩室で昼寝をして目覚めたらなんですが……いつの間にかこの子の
「分かりました」
高機能記憶制御端末を取り外した手術を終えた後に休憩していた集積地棲姫は不穏な物音で目が覚め気が付くと提督の胸が文字通り貫かれていたらしい。
脈拍低下に心電図に反応無しの状況に集積地棲姫は咄嗟に動き出して提督の患部を急いで治療し、止血した後に患部を縫い合わせるタイミングで鹿島達が来たようだ。
集積地棲姫が信じられない川内は真っ先に自作自演を演じたと集積地棲姫の事を疑った。
「胸を貫かれていたって……そんな誤魔化しが通じるとでも──」「疑う気持ちも分かりますが今は冷静になってください、お願いします」
鹿島が冷静に話しかけながらマスクと手術用のゴム手袋を装着し、集積地棲姫のアシスタントを務めていく。
提督の爆発的な自然治癒力と集積地棲姫の応急処置で間に合ったのか何とか一命を取り留めたようだ。医療知識が無い摩耶と川内は邪魔をしないように見る事しか出来なかった。
「いやいやまずいですね……よく見たらこの子の身体の中……深海棲艦を使役する
「んな……司令権限をか!!?」
「司令……権限……? 何それ」
集積地棲姫の口から出た司令権限というキーワードに摩耶は驚いた表情を隠せず、川内ははてなマークを浮かべて頭を横に傾けた。
提督について深く知らない川内に摩耶が焦りを見せながら説明していく。
「深海棲艦を操れる……まぁ簡単に言えば深海棲艦に直接命令や司令を下せる力みたいなモノだ。普通は中枢棲姫しか持たない力を提督は特別に分け与えられて持っていた。他の深海棲艦が使えば感情に左右されて叛逆や暴動が起きかねないからな……中枢棲姫は見込んだ者として提督と後もう一人に分け与え、深海棲艦の各勢力のパワーバランスを中立に保っていたんだ。だが……」
「その司令権限が誰かに奪われた。つまりは今まで保たれていた深海棲艦の勢力のパワーバランスが崩壊し、司令権限を奪った何者かが戦争を仕掛けてくる……非常にまずい事態ですね」
摩耶の説明を繋いだ鹿島でさえも深刻な表情をするなど状況は更に悪化しているようだ。
大多数の深海棲艦を使役する事が可能になる『司令権限』が核ごと誰かに奪われてしまった。それは戦争の引き金を引く寸前まで到達している最悪な状況だった。
「我々深海棲艦に属さない貴女に説明しますと、深海棲艦には主に三つの勢力があります。新たな世界の革命を望む革命派、争い無しに穏便に暮らしたい和平派、全てを憎しみ人類の根絶を願う憎悪派。これらの勢力をまとめるために中枢棲姫は自身の能力である深海棲艦の司令権限を二人に分け与え、その二人に革命派と和平派を任せて自身は憎悪派に在駐するように計画しました」
「その勢力から代表として七壞星に属する深海棲艦も存在している。因みに提督は革命派、革命派の司令権限が無くなったとなれば……」
「願う事なら和平派に渡ってほしい所ですが……こんな事をする時点で大抵の目星は着きますね」
鹿島と摩耶、集積地棲姫の話を聞いていた川内は頭の中がパンクしそうになるもある答えに辿り着く。革命派の司令権限が無理矢理こじ開けるようにして奪われたのなら和平派のイメージとしては有り得ない。
つまり答えは憎悪派の深海棲艦が犯人となるだろう。
しかしそこである疑問が思い浮かぶ。
「もし憎悪派の七壊星が奪ってたら……どうなるの?」
「七壞星は破滅的な力を手に入れた深海棲艦を組織化したものです。元々中枢棲姫の力をもらった七壞星が司令権限を奪えば更に破滅的な力が増幅し、同胞達を思うがままに利用できます……恐らく深海棲艦の大艦隊を編成して、国を潰しに来るでしょうね……最悪は、人類の根絶……」
「強さの価値基準が一人で国を滅ぼせる事が出来る、だもんね……そりゃ出来そうだ……ヤバくない?」
七壞星に部類される深海棲艦は他の深海棲艦の艦隊に指揮や司令を出す事が出来るが、完全に意のままに深海棲艦を操れる訳では無い。
深海棲艦を完全に意のまま操れるのは中枢棲姫のみであり、七壞星は自身の思い通りに深海棲艦を操る事が出来ない。
もし七壞星が司令権限を奪えば思うがままに深海棲艦を個人から多数まで自由に操れる他、自身の強大な力を増幅させてしまうとても危険な状況になるのだ。提督の司令権限を奪った犯人が誰かも分からず、七壞星の可能性があるならば小笠原諸島奪還作戦や提督救出作戦に大きな支障ができるだろう。
「ただでさえ他の深海棲艦でも持てば危ない力だ、まさか奪われるとは夢にも思わなかった……」
「その話は後にしましょうか。取り敢えず提督の応急処置は終えました。出来ればあと一時間ほど安静にして欲しい所ですが、この状況となれば難しいですかね」
提督の貫かれた胸部を縫いで塞ぎ、応急処置を終えた集積地棲姫が疲れた表情で摩耶に伝えた。応急処置後は外部からの衝撃によって身体への負担を無くしたいと思っていた集積地棲姫は提督の救出を考えて半分諦めていた。
「いやそのままにしておこう。今は提督の容態を最優先に、あたし達は状況の対処を……この声は……!?」
しかし摩耶は提督の容態が安定するまでこの部屋で安静にさせるよう判断した。もし運んでいる最中に提督の身に何かあれば本末転倒になりかねない。
そう思った矢先、地下軍事施設から離れた集積地棲姫の部屋まで叢雲と摩耶を大声で叫び呼ぶ声が聞こえた。
「この声は……金剛と天龍か!!」
「どうやら本当に七壞星と接敵したみたいだね……!」
「おかしいですね……本来あの娘達は連合艦隊と戦闘中の予定のはずでしたが、何故未だ地下軍事施設に待ち構えていたのでしょう」
「明らかに連合艦隊の作戦と摩耶さん達の作戦を全て知り尽くした上での行動ですね。誰かが裏で操っている可能性があります」
七壞星の行動について不審に思った集積地棲姫と鹿島はこの最悪な状況が誰かによって導かれたのではと推測を立てた。
待ち伏せていた七壞星、提督の司令権限の強奪等を考えればおかしいと思える部分はいくつもある。
「摩耶!! 私達も行かないと金剛と天龍が!」
「あぁ行こう、天龍と金剛が危ない」
「待ってください」
七壞星と接敵した天龍と金剛の援護に向かおうと地下軍事施設の方へ走る摩耶と川内。
しかし突然に集積地棲姫が二人を止めようと声を掛けた。
「何なの!! この緊急事態に!!!」
「お二人にはこの子を安全に逃がすためにも、ここにいてもらわないと困ります。それに……」
「それに……? 何なのさ!!!」
集積地棲姫は顔を少し仰いで壁に設置されたモニターから映し出された監視カメラの映像を見続ける。止められた摩耶と川内、鹿島もその映像が気になってモニターの方まで駆け寄った。
「あれは……!」
真っ暗な廊下の中央に佇む金色の十字光。
金色の鎗を片手にゆっくりと歩を進める。
金色に輝く視線のその先には──、
初期の話で摩耶が何かとスマートフォンをいじってた理由はこれですね。