広々とした地下軍事施設の最下層、『ヘカントケイルの間』
天まで昇り立つ三つの黒い塔の根元が最下層まで伸びており、中心の紅い光が空間全体を紅く染めている。
空間の広さはおよそ半径五百メートル、方角で合わせた自動扉が四つ存在し、壁の端には幾つもの柱が立ち並んでいる。
爆煙と土埃が舞う。
コンクリート製の床が所々抉れ、踏む足場も無い。
舞い飛んだ瓦礫がガラス窓を貫き、棚に置かれた部品が吹き飛ばされる。
「ッ!!」
『
回り込むようにして走る金剛の背後から砲弾が傍の壁に着弾。
戦艦棲姫は金剛の走る方向を予測して決め撃ちを仕掛けた。
放たれた砲弾は金剛の足元に着弾、爆発。
巨大な爆煙と土埃が舞う中、空中から金剛が飛び出て現れた。
双方共に力を込めて睨み付ける。
隙を見た天龍が戦艦棲姫の背後へ回り込み、身体を横回転させ大太刀の横薙ぎ。
戦艦棲姫は巨大な黒い腕で受け止め、天龍目掛けて空いた片手で殴り掛かる。
天龍は後方へ跳躍して回避。
しかし直後に戦艦棲姫の砲撃が直撃し、天龍は床に叩き落とされた。
「エネルギーが足りない……! クソッ……──」
叩き落とされた天龍は衝撃に悶え床にひれ伏す。
遮られた土煙から紅い十字光を浴びた天龍は目を見開かせ、即座に身体を動かした。
回避した直後に天龍のいた地点が突然爆発。
天龍は身体を回転させ巧みに動き回り、金剛の元まで合流する。
『
一瞬で二人の目の前に現れ、巨大な黒い拳で殴り掛かった。
咄嗟に天龍と金剛はそれぞれ左右に別れて回避。
巨大な黒い拳の殴打は床に直撃し、瓦礫や破片が宙を舞う。
戦艦棲姫は二人が回避するのを予測し、位置を確認。
跳躍中の金剛を空いた片手で殴り飛ばし、天龍を先程殴った右手で殴り飛ばした。
殴り飛ばされた二人は壁に衝突し、床に倒れ込む。
まともな殴打を食らっても尚二人は立ち上がった。
「やっぱり……強くなってやがる……!!」
戦艦棲姫は先に立ち上がった金剛の元へ一直線に接近。
金剛の目の前に巨大な黒い拳が現れた。
金剛は無意識に無理やり身体を動かして回避する。
その時足元を戦艦棲姫の巨大な黒い拳が掴み取った。
「んな──」
戦艦棲姫は掴んだ金剛を複数回床に叩き付けていく。
叩きつけられていく度にひび割れた床が血濡れていた。
戦艦棲姫は身体を回転させて金剛を天龍の方まで投げ飛ばす。
とてつもない速度で投げられた金剛を受け止められず、天龍は金剛と共にもう一度壁に衝突した。
そして追い討ちに戦艦棲姫は全砲口を天龍と金剛に向けて一斉放射。
放たれた砲弾は同時に着弾し、上の階層の部屋ごと巻き込んで大爆発を起こした。
「大丈夫か……金剛……!」
「大丈夫……ネ……何とか……生きてる……ヨ」
「マダ生キテラレルカ……流石ダナ」
燃え盛る爆煙の中から天龍と金剛が足を引きずりながら現れる。金剛は片腕を抱えながら顔面から胸までが血塗れになっており、天龍は爆発で火傷した脇腹や右腕を晒して生きていた。
「本来ナラ最初ノ攻撃デ簡単ニ倒セルハズダッタガ……私ト同ジクオ前達モ成長シテイルヨウダナ」
鎮守府襲撃以降『
更には砲撃や近接戦闘等での火力の全体的な向上、速力や装甲は成長前よりも倍以上のエネルギー効率を維持し続けている。恵まれた強化を受けた戦艦棲姫に対して対応する天龍と金剛を見て自身と同じく二人も成長している事に高揚感を覚えた。
「接敵から一分……まだカナ……」
「耐えるしかないな……」
「ダガ、ドウスルンダ? ソノ状態デハ戦ウニハ少シキツイヨウニモ思エルガ。サァ……次ハドウスル?」
話し掛ける『
自身達が成長して戦艦棲姫の攻撃を受け止め回避出来たとしても、今のようにまるで一発一発が全力を出したかのような攻撃の猛攻を長時間耐えられるかどうかは分からない。
自身の勘と精神、成長した身体を頼る他は無かった。
「来いよ……全部躱してぶっ倒してやる……」
「覚悟しろ……『
天龍は大太刀の刀先を、金剛は右拳を『
「フフフッ……! イイジャナイカ! ソウデナクテハ面白クナイ!! 何分稼ゲルカ見物ダ!!!」
戦艦棲姫は巨大な黒い腕をうねらせ、空へ仰ぐように両腕を広げた。
戦艦棲姫の額の角が紅黒い稲妻を帯びており、心臓の鼓動のように光り出して全身に光が伝わっていく。
「サァ……行クゾ!! ココガ、オ前達ノハカ──」
戦艦棲姫が殴り構えて動き出した途端、死角から突如として黄金の軌跡を放つ砲弾が直撃した。
砲弾は三つの黒い塔の支柱に衝突し、戦艦棲姫は攻撃してきた相手をすぐ様に睨み付ける。
「待たせたわね」
金剛達のいる「ヘカントケイルの間」の出入り扉から歌が聞こえた。
扉は既に蹴破られており、奥で何かが光っている。
「私がいない間に随分と盛り上がってるじゃないの」
そこには黄金の十字光を輝かせ背に乗せる艦娘がいた。
「その姿を見る限りじゃ、結構派手に戦ったそうね」
黄金の光を纏う鎗を手に持ち、藍色の髪を靡かせ歩くその姿。
その姿に畏怖する深海棲艦は数を耐えない。
「前のアンタ達だったら瞬殺だったけど……生きてるじゃない。偉いわ」
「ヤハリ来タカ……」
黄金の十字光の眩しさに戦艦棲姫は目を研ぎ澄まして警戒する。
その艦娘の姿を見た天龍と金剛は嬉しさのあまり思わず笑みを漏らした。
「「叢雲!!」」
護神厄討艦隊旗艦『
現日本海軍最強の艦娘と謳われ、深海棲艦の総撃沈数や七壞星との戦勝数は一位を保持し続け、味方敵共にその名を知らしめた圧倒的な存在だ。
「少し遅れたわ。ある物を読んでいたら夢中になってたものでね」
『
叢雲は支柱に張り付く『
「……金剛、天龍、まだ行けそうかしら。行けるなら作戦に移ってほしいのだけれど」
「探すには何も問題ねぇよ……」
「まだ大丈夫ネ……」
叢雲は二人の容態を見て動けるかどうか確かめる。
天龍と金剛は提督を探すくらいなら大丈夫だと息を大きく吸い込みながら歩き出した。
「そう……なら早く探してきて。こっちは任せなさい、文句は後で聞くわ」
「頼んだ……」
仁王立ちする叢雲の傍を天龍と金剛が駆け抜ける。
叢雲が現れた扉の場所まで全速力で駆け走り、提督捜索のため大広間から離脱した。
「さて……アンタと戦うのは半年前かしら? かつては最強と謳われた『
「イツモ馬鹿ニスルソノ性格ハ直ッテイナイヨウデ安心シタヨ……ソウデナイト潰シガイガナイカラナ……!」
二人が離脱したのを見計らって壁から降りてきた戦艦棲姫に話し掛ける叢雲。七壞星を前にして臆せず余裕の表情で堂々と立つ姿は勇ましく思える。
自身の事をバカにされたような気がした戦艦棲姫は微かに苛立ちを見せた。叢雲は戦艦棲姫の背後に聳え立つ三本の黒い塔を見上げて半目で何かを考え込む。
「さっきこの施設をある程度調べたのだけれど、アンタ達とんでもない事を計画してるようね。流石に止めないとまずいかも」
「止メルノモ止メナイノモ自由ダ、勝手ニシロ。私達ノ目的ハオ前ガ想像シテイルモノトハ違ウカラナ」
「へぇ~……じゃあ自由にさせてもらおうかしら」
『
三本の黒い塔の中心で耀く紅白い光が燃える炎のように膨張しては収縮し、肌を焦がすような熱さと石埃を退けるような風圧が二人を襲う。
「この際ここで決着つけない? 長引くのも面倒だし、良い提案だと思うのだけれど」
「素晴ラシイ提案ダ、寧ロ私ハソノツモリダッタガナ」
「あら、それは良かった。互いに気が合いそうね」
「コウモ互イニ気ガ合ウト困ルナァ……ジャア……」
『
片腕を動かした時に見えたその眼は紅く宝石のように光り輝いて見えた。
「始メヨウカッッ!!!」
「ッ!!」
両者共に全砲斉射。
紅黒い軌跡を放つ砲弾と金色の軌跡を放つ砲弾が一気に大衝突を起こした。
凄まじい爆発で二人の間が黒い爆煙で包まれる。
爆発した瞬間に叢雲と戦艦棲姫が共に爆煙を掻き分けて現れた。
巨大な黒い拳と黄金の光を纏う鎗がぶつかり合う。
黒い爆煙は霧のように衝撃で消え去り、コンクリート床が宙に舞い上がった。
『
叢雲は小さな躯体で無駄なく回避。
戦艦棲姫は巨大な黒い拳の連続連打に派生させ攻撃し続ける。
黄金の光を纏う鎗を使いまわして黒い拳を往なして躱し、ズラして躱し続けた。
殴り続けている最中に砲口の奥が紅く光るのを見た叢雲は後方へ跳躍。
元いた叢雲の位置で戦艦棲姫の砲撃が着弾していた。
身体を捻って回り続け、叢雲は空中で戦艦棲姫へ砲撃を仕掛ける。
戦艦棲姫は巨大な黒い拳で砲弾を無理矢理弾き飛ばした。
叢雲の着地狩りを狙って急発進急加速。
巨大な黒い拳が紅く唸り、大きく振りかぶって殴打する。
叢雲は大きく跳躍して回避し、戦艦棲姫の背後へ着地した。
戦艦棲姫は巨大な黒い右腕を後方へ振り回して薙ぎ払い。
その薙ぎ払いを叢雲は身体を伏せて回避する。
次に巨大な黒い左腕で床を抉りながらもう一度薙ぎ払い。
叢雲は低空跳躍し、身体を回転させて回避。
右手に持っていた鎗で戦艦棲姫の脇腹を殴った。
戦艦棲姫の母体へ鎗の薙ぎ払いが直撃する。
戦艦棲姫は不気味な笑みをしながら歯を食いしばった。
空中で不安定な体勢の叢雲へ巨大な黒い右腕で殴打を仕掛ける。
叢雲は防御体勢に入るも間に合わず、殴打をまともに食らって殴り飛ばされた。
床に何度も転がっては跳ねるも体勢を変えて立ち上がる叢雲。
殴り飛ばされた衝撃で叢雲の通った跡が著しく残っている。
戦艦棲姫は息する暇すら与えないと立ち上がった叢雲へ先攻。
巨大な黒い両腕を手当たり次第振り回し続けた。
押され気味の叢雲は黄金の光を放つ鎗で次々に往なしていく。
そして戦艦棲姫は身体を駒のように回転させ巨大な黒い腕を振り回す。
竜巻かと思える猛攻撃で叢雲の防御を突破。
「隙ガ出来タナ叢雲ォ!!」
防御が崩れて体勢が不安定になった叢雲へ渾身の殴打を仕掛ける。
防御する暇さえ無く叢雲はまた殴打を食らって遠くの壁まで殴り飛ばされた。
殴り飛ばされた叢雲は壁に激突、土煙で見えなくなる。
そこで戦艦棲姫が追い打ちに叢雲へ襲い掛かった。
巨大な黒い拳で身体を掴まれ身動きが取れない叢雲。
戦艦棲姫は掴んだ叢雲を壁に打ち付けて引き摺らせていく。
そして叢雲は投げ飛ばされ、途中の柱へ何度も衝突しては突き破った。
反撃してこない叢雲へ戦艦棲姫は一斉放射。
紅い軌跡を放つ砲弾の雨が空中でうつ伏せになった叢雲を襲う。
しかし叢雲は砲弾が目の前まで来た瞬間に身体に光を纏い呟いた──、
「面白くなってきた……!!」
そう微笑んで紅い軌跡を放つ砲弾の雨を一閃。
黄金の光を纏う鎗で薙ぎ払い、十字光が幾千数と輝く。
薙ぎ払いによる衝撃と砲弾の大爆発で地表もろとも周辺にある全てを穿ち崩した。
瞬間、爆炎が混ざる黒煙の中から金色の十字閃光が煌めく。
無数の星のように輝く十字閃光が巨大な黒煙へ穴を開けた。
十字光の中から叢雲が雄叫びをあげて突進。
「ウオォォォォォォッッッ!!!!!!」
『
『
直後に轟音と共に大衝突。
叢雲が放つ渾身の鎗突きは戦艦棲姫の防御を容易く破壊する。
戦艦棲姫は衝撃に耐え切れず一気に突き飛ばされた。
戦艦棲姫の後を追うように空間を貫いたが如く無数の衝撃波が飛び出る。
戦艦棲姫は一階層上の壁に激突し、その周辺の窓ガラスや壁が全て砕け散った。
濃い土煙と飛び散る瓦礫の奥で紅い光が見える。
その瞬間に叢雲の目の前へ紅い軌跡を放つ砲弾が二つ。
叢雲は砲弾の間を身体の向きを変えて回避。
そして突進してきた戦艦棲姫を鎗で迎え撃った。
巨大な黒い拳を重ねて迎え撃ってきた叢雲をゴリ押す戦艦棲姫。
叢雲は二本の足で何とか踏ん張る。
二人の通った後の床がボロボロに凹んでいた。
叢雲は巨大な黒い拳を受け流して跳躍。
跳躍中に戦艦棲姫の頭上で鎗を振り回して攻撃する。
戦艦棲姫は母体の拳や腕で叢雲の鎗を弾き返した。
叢雲は着地時に巨大な黒い右拳を踏み付ける。
床に埋まった右拳が取れなくなった戦艦棲姫へ巨大な黒い腕を踏み台にして蹴り飛ばす。
「絶対アンタ達なんかには負けないッ!!!」
前突き蹴りの姿勢で金色の光を纏う『
「ッ……ンッッ!!!」
蹴られた『
「アイツを倒すまではッ……!! 絶対に勝つんだからッッ!!!」
「生意気ガァァァ!!!!」
『
互いにぶつかり合った。
次回、瑞鶴がご対面