うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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初手から「バベルの光」って感じ


189. 絶望と破壊を司る七つの星達の国墜とし

 ──宮城県、仙台湾。

 

 

 青い海が広がる仙台湾の中央で突然沸騰したかのように泡が噴き出す。

 徐々に紅い稲妻の光が放出され、一点を集中して海を穿っていた。

 そして爆発、巨大な水柱を上げて大量の海水が空へ持ち上げられる。

 

「何だ……アレ……」

 

 白く噴き上がる水柱の中をゆっくりと歩く巨大な影が見えた。

 持ち上げられた海水を浴びながら歩くその姿を見て人々は絶望する。

 

「宮城鎮守府から緊急報告!! 仙台湾にて【玉衝(アリオト)】戦艦水鬼の出現を確認!!!」

 

 横須賀鎮守府小笠原諸島奪還作戦司令本部にて■■大将の驚嘆の声が響き渡る。

 オペレーターによると仙台湾にて七壞星【玉衝(アリオト)】戦艦水鬼が現れたとの報告が入ったようだ。

 仙台鎮守府から送られた配信映像には広い仙台湾の中央にて巨大な水柱の中から堂々と現れる戦艦水鬼の姿が確認されていた。周辺に他の深海棲艦らしき存在は見当たらず、単騎突撃で来ているのは一目瞭然だった。

 

「何故アイツが……仙台湾に……!」

「更に佐世保鎮守府からも報告が!! 佐世保湾に『廉貞(ディケオス)』重巡棲姫の出現を確認!!」

「何だと!!?」

 

 

 ──長崎県、佐世保湾。

 

 

 佐世保湾の中央で突然海面から白銀色の光塔が空を穿つ。

 巨大な水柱が立ち上り、白銀色の光が屈折して周辺の山を削った。

 

 海水の豪雨から白銀色の眼を十字光に輝かせ、遠方に見える佐世保鎮守府を睨んだ。

 

 

 ──京都府、若狭湾。

 

 

 若狭湾の中心で凄まじい衝撃と共に巨大な水柱が立ち上る。

 水柱の影で白い彼岸花を咲かす一羽の鶴が目に迸る紅い光を一点集中させた。

 巨大な水柱が紅い光の輝きで跡形もなく消え去り、航空機を飛ばして鎮守府を見つめている。

 

 

「更に各鎮守府から続々と七壞星の出現報告が!!!」

「舞鶴鎮守府では若狭湾に【天権(メグレズ)】深海鶴棲姫……! 呉鎮守府では瀬戸内海にて『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級!」

 

 日本各地の湾内で続々と七壞星の出現報告が司令本部に届く。

 時間は朝の五時を過ぎたところ、朝日が昇って空が徐々に明るくなる時間帯だ。

 何故このタイミングで七壞星が続々と現れるのか、予想外の出来事に司令本部内では戸惑いの声が絶えなかった。

 

「札幌鎮守府からも入電が!! 石狩湾にて『禄存(マグニティス)』港湾棲姫の出現を確認!!」

「南方マーシャル諸島海域の制圧前線では【開陽(ミザール)】深海日棲姫と武曲(シーフォウス)』駆逐水鬼の侵攻を確認しました! 大艦隊を引き連れ前線を上げてきています!!」

 

 現在アリューシャン列島海域で戦闘中の筈である『禄存(マグニティス)』港湾棲姫が突如石狩湾にて白い稲妻のような磁力を響かせながら出現。

 更には南方マーシャル諸島海域にて【開陽(ミザール)】深海日棲姫と『武曲(シーフォウス)』駆逐水鬼が奪われた海域を奪還するべく大艦隊を編成して前線を押し上げてきているらしい。

 小笠原諸島奪還作戦の隙を狙った行動と考えれば簡単に理解できる。

 ■■大将は顎に手を当てて考えるような仕草をした後にオペレーター達へ指示を出した。

 

「慌てるな! こうなる事は私の方で既に対策済みだ。七壞星が出現した海域に属する鎮守府に伝達、只今をもって一部を除いた護神厄討艦隊全員の戦闘待機を解除、無制限戦闘の出撃を命じる。各自七壞星と対応せよ、上陸だけは絶対にさせるな! 我々はこの国と国民を守る義務がある。作戦が優先されるが今回は例外だ、七壞星の対応にあたる鎮守府は対象地域に住む人々を避難させ次第全力で守り通せ!」

 

 作戦内容が深海棲艦側に漏洩している可能性を知った■■大将はこの事態に備えて切り札である護神厄討艦隊の艦娘達の出撃を制限していた。

 ■■元帥からの助言により、もしこの作戦の隙を狙って国を脅かす七壊星がいた場合に対処できるよう待機させていたのだ。

 急いでオペレーター達は各鎮守府へ■■大将の指示を聞きながら伝えていく。

 

「作戦は続行! 関係の無い鎮守府は七壞星に気にせず戦闘を続行せよ!! 奴らの防衛線突破までもうすぐだ、気張っていけ!」

 

 ■■大将が冷静に指示を出しつつ鼓舞を出している最中、一本の着信が専用端末から鳴り響く。

 専用端末を取り出して画面を操作し、耳にそっと当てて着信主の声を聞くと鬼の■■大佐が面倒そうな口振りで煙草を吸っていた。

 

『とんでもない事になっちまったねぇ■■君……』

「あいつの予想は的中でしたよ、■■大佐」

『まぁそうさね……仕方ない、あの餓鬼二人組は私達に任せておくといい。お前は小笠原諸島奪還作戦に集中しておく事だ、分かったか』

「かしこまりました」

 

 ■■大佐はいつも通り【開陽(ミザール)】と『武曲(シーフォウス)』の相手をすると鼻で笑いながら報告した。

 自分達の事は気にせず今は小笠原諸島奪還作戦に集中してほしいという■■大佐の願いだったのかいつもより声が真面目に聞こえた。

 

「■■大将閣下!!!」

「どうした」

「大変です!! 東京湾に凄まじいエネルギー反応が出ています!! 七壞星以上に匹敵する力です!! とてつもなくまずいですっっ!!!」

 

 巨大なモニターでは東京湾の中心に赤く広がる一つの点が映し出されていた。

 線引きで『???』と何もかも不明な状態で情報が残されており、徐々に赤い点が周囲に広がっている。

 

「まさか……」

 

 

 

 ──東京都、東京湾。

 

 

 

 青色を取り戻しつつあった空が突然反転し、まるで地獄のように紅黒く染まる。

 東京湾の中心で紅黒いサークルが海面に刻印され、紅黒いエネルギーの玉が周囲に作られ宙へ浮いた。

 サークルの中心から外へ紅黒い稲妻が海面を裂いて迸る火花のような音を出している。

 

 直後、周囲に散らばっていた紅黒い玉が一気にサークルの中心へ集束する。

 周りの大気や海水など全てを巻き込んで紅黒い光の玉が徐々に大きくなる。

 

 そして紅黒い光の玉は爆発。

 黒い十字光と紅い十字光を輝かせ、白い光に変貌して全てを薙ぎ飛ばす。

 中から白髪白肌の若い女性が禍々しい艤装を展開させて現れた。

 

「【天枢(ドゥーベ)】中枢棲姫……!」

 

 全ての災厄、深海棲艦を統べる女王。

 【天枢(ドゥーベ)】中枢棲姫が単騎で東京湾の中心に出現した。

 両腕を広げて浮遊しつつ、海面にゆっくりと着水する。

 

 出現による衝撃で空に届く巨大な水柱が立ち上り、海面が怯えるが如く波が荒れていく。

 衝撃波が遠くの高層ビル群まで隙間なく広がっていった。

 一番近い所では窓ガラスが割れ、壁に亀裂が走っていく。

 

「本当に生きていたとはな……!」

 

 【天枢(ドゥーベ)】中枢棲姫の身体が白く発光し、周辺の空間が歪み始めた。

 時々輝く猩々緋色の稲妻を身に纏い、悍ましい怪物の姿した艤装が咆哮を上げる。

 中枢棲姫は宝石のような紅い眼を輝かせ、微笑みながら横須賀鎮守府の方向へ振り向いた。

 

「楽しく……いこうカ……♪」

 

 司令本部の共有モニターにはカメラ目線で■■大将達を見つめ続ける【天枢(ドゥーベ)】中枢棲姫の姿が映し出されていた。

 世界に蔓延(はびこ)る深海棲艦を統べる女王として災厄と混沌を(もたら)した白き鋼の艦姫。

 その姿を見てオペレーター達は口を開いて汗を掻き青ざめ、司令本部内は驚きと畏怖の声で溢れ返る。驚くのも無理はない、中枢棲姫は五年前のマウグ島攻略作戦で連合艦隊の一斉砲撃によって()()()()()()()()()だった。

 だがその中枢棲姫が東京湾の中心で微笑んだ表情をしながら五体満足で居座っている。誰もが考えたくなかった中枢棲姫の復活が()()()()()となってしまったのだ。

 

「そんな……馬鹿な……」

「これはまずいぞ……」

狼狽(うろた)えるな!」

 

 中枢棲姫の出現に青ざめるオペレーターを大きな声で一喝して場を静止させる■■大将。誰もが■■大将の声を聞いて身体を向けた。

 

「政府からは私が連携を取る。直ちに東京湾に接する対象地域の各自治体へ避難指示の要請! 横須賀鎮守府にて待機中の艦隊は海岸線沿いにて対中枢棲姫の任務にあたれ!」

 

 冷静に場の状況を判断しつつオペレーター達へ指示をする。

 ■■大将はモニターに映る中枢棲姫の姿を睨みながら、ある艦娘の二つ名を呼んで話し掛けた。

 

「『(ライテイ)』……すまないが、頼めるか」

「司令官のであれば……大丈夫です」

「任せたぞ……この国の運命はお前達にある」

「分かりました……なのです」

 

 柱の影に隠れる艦娘は碧い眼を光らせ、碧い稲妻を一瞬身に纏う。

 四色の長髪を靡かせて奥の扉へ誘われるように消えていった。

 

 

 

 

 ──大本営

 

 淡く日光に照らされた雲が空を白く覆い、窓から微かに伸びる光が部屋を照らす。

 壁に置かれた檜の本棚や応接用のソファ、机と背もたれの大きい黒い革の椅子が置かれたシンプルな部屋だ。

 その部屋の中でキーボードの軽いタイピング音が規則よく聞こえるも突然の爆音と共に掻き消された。とてつもない爆音に何かの作業をする人物は微動だにせず、ノートパソコンの画面を見つめたままカタカタと文字を打ち続けている。

 

「君か」

 

 部屋のドアから誰かが入ってくる音が聞こえた人物はノートパソコンを閉じて声を掛けた。

 

「お疲れ様です、■■元帥殿」

「お疲れ様。■■■■■君」

 

 部屋にいた人物の名は■■元帥、北方海域での防衛線構築やビスマルク諸島海域の鎮守府設置、五年前のマウグ島攻略作戦などで大きな功績を挙げ、今もなお小笠原諸島奪還作戦でその力を奮う日本海軍の最高位に位置する統率者。

 部屋に入ってきた人物は大本営に属する陸軍大臣管轄の軍令憲兵隊隊長、■■■■■大佐。

 一見関わりの深い関係とは思えない二人が元帥の部屋にて実現した。

 

「今度は何を頼むのかね」

 

 ■■元帥はノートパソコンを机の上の隅に寄せて、左手前にあった書類の束の一ページを手に取る。真っ直ぐ自身の中央奥に立つ■■■大佐を視界から外して、手に取った書類にボールペンで何か書き始めた。

 ■■■大佐は話し掛けに応じず数秒ほど■■元帥を見つめ続け、何か躊躇ったような表情をしながら右腕を上げた。

 

「……なるほど……口封じ、か」

 

 ■■元帥が顔を動かさず目だけを動かして見た先には小さな銃口があった。

 ■■■大佐は右手に消音筒付きの拳銃を持って■■元帥に向けていたのだ。

 

「どうだった? 最高責任者である私を脅し続けてきた日々は。感想を聞かせてはくれまいか」

 

 拳銃の銃口を自身の頭に向けられ命を握られているというのに■■元帥は微動だにせず動揺も無いまま話を続ける。今まで■■元帥を脅し続けて追い詰めていたのは大本営に属する憲兵隊隊長の■■■■■大佐だった。

 

「別に君に怒っていっている訳じゃない。単なる興味本位さ、深い理由は無いよ」

 

 書類の束から一枚ずつ取り出してはボールペンでずらずらと書いていく■■元帥。

 ■■■大佐は口を開く事なく沈黙を貫いたままで、部屋の中が静寂に包まれた。

 

「だんまりか……まぁ、仕方ないね。言いたくない事の一つや二つぐらいあるものか」

「……もう終いです」

 

 ようやく口を開いた■■■大佐の言葉が聞こえた。

 ■■元帥はその言葉を聞いて一瞬ボールペンの手を止め、もう一度何事もなくボールペンで書いていく。

 

「ここで貴方を殺します。覚悟はできていますか?」

「……そっか。予想した時間帯とまぁ大体合ってるな」

 

 ■■■大佐は元帥の暗殺宣言を堂々と冷酷な重い声で伝える。

 今まで脅し続けてようやく暗殺されるのかと元帥は困惑した表情で■■■大佐を見つつ書類に目を通してボールペンの手を動かす。黒■■から元帥の暗殺を命じられた■■■大佐は日本海軍元帥の暗殺を実行する為に部屋へ赴いていた。

 現在時刻は朝の五時過ぎ、小笠原諸島奪還作戦で忙しい最中かつ人数の少ない大本営で暗殺するには絶好のタイミングとも言えるだろう。勿論■■元帥は自身が殺される時まで長くない事を既に察していた。黒■■や■■少尉の計画の進行状況を考慮すれば小笠原諸島奪還作戦発動中に何かしら動きがあるのは誰でも理解できる。

 

「……殺さないのかい。私は無防備だ、君ならいつでもその軽い引き金は引けるだろう?」

「殺す前に幾つか聞きたい事がありますので。答えていただけますでしょうか」

「今更なにを言うかと思えばそんな事か……いいよ、何だね?」

 

 これから暗殺されるというのに一切の動揺もしない■■元帥は急かすように話し掛けてくる。

 ■■■大佐は敵視するかのような鋭い目で睨みつけ、命令口調で質問に答えるよう冷たく伝えた。

 

「何故貴方は何故そんなに死ぬ事に対して躊躇も何も無いのですか? 普通ならば生にしがみつく為に命乞いをしてもおかしくはないはずです」

 

 ■■元帥の妙な落ち着き様に■■■大佐は拭いきれない違和感と不信感が募っていた。死ぬと言う事は今後この世界に二度と生きる事は出来ない、この後の行く末を見届ける事が出来ない全ての終わりを意味する。普通の人間であればまだ生きていたいと慌てて逃げ出すか、涙を流して土下座しながら命を乞うだろう。だが■■元帥にはその様子は全く見られず、まるで死ぬ事を受け入れているように見えた。

 

「簡単な話さ、ただの寿命だよ……私はもう八十近くでね、そろそろ引き際が来るお歳頃なのさ。だからこうやって引導を渡してくれる人がいるなら、どうせならやってもらおうかと思った。それだけの事だよ」

「後悔は無いのですか? やり残した事とかは? 家族は? 友人は? 遺したモノとかは無いのですか?」

「これまでの後悔は全て糧にした。やり残した事もやり尽くして、後は引き継げるように全て任せたからね。家族や友人はいなくなったし、今更遺すモノはないかな」

 

 照れ臭く微笑みながら■■元帥は高齢を理由に死を受け入れる事を選んでいた。

 長く日本海軍の軍人として日本を護り続けた元帥は歳を重ねていく度に老いて朽ち果てていく身体の限界が来た事を悟っていた。

 頭脳においても自身の価値観や考え方が新しい時代に似合わない、追いつく事が出来ないなど元帥の立場に相応しくないと自ら辞めるつもりでいたようだった。家族や友人は既に先へ行ってしまった以上、遺すモノは何も無い。

 失うものは無い以上は生きる事を捨てるのは容易だった。

 

「後は若い子達がやってくれるよ。こんな未来のない老いぼれ一人に任せるより、未来ある若者に任せれば未来はもっと明るくなるだろうからね」

 

 自身の老いた考え方よりも現代の若者達の考え方の方が未来を明るくするだろうと願いを込めて■■元帥は思った事を伝える。

 ■■元帥は自身の事よりも優先的に国の未来を守る姿勢を一切崩さない。

 何十年間も日本という国の未来と今を護り続けてきた最高責任者だからこそ、その背中を見続けた■■■大佐にとって説得力のある言葉だった。

 

「……分かりました、ありがとうございます。次にですが……」

「今度は何かな」

「約三十年前に極秘に実行されていた海上兵器の開発計画に参加していたのは本当でしょうか?」

 

 ■■■大佐の特定の言葉を聞いて元帥は眉を顰めて睨み返す。

 目線からくるプレッシャーが針となって部屋の周囲から身体へ突き刺すように襲い掛かった。

 まるで地雷源を踏んだかのように聞かれたくなかった事なのだろうか、凄まじい緊張と共に戦慄が走った。

 

「あぁそうだよ。()()そのプロジェクトのメンバーだった」

 

 数秒後にして■■元帥はにっこりと再度笑顔になり、海上兵器の開発計画に参加していた事を告白する。海上兵器と称されるモノの正体は艦娘、つまり艦娘の開発計画は約三十年前から始まっていた。

 

「何故あんな事を……! あの計画が無ければこの世界は変わらなかった! 本来なら失う事のなかった命も! 深海棲艦に怯え続ける日々も! 私の家族も……! 全てあの計画で……壊されてしまった……!」

 

 黒■■から全てを教えられたのだろうか、■■■大佐は計画によって世界が変わってしまった事を嘆いていた。

 艦娘の開発計画によって失敗作として生み出された深海棲艦が暴れ回り、人々の命が無造作に奪われ続け、艦娘が出現して以降も今日この日まで人類に牙を向き脅かし続けた。その時までに平和だった日常や培った常識は一新され、いつの間にか艦娘と深海棲艦が当たり前として存在する世界に生まれ変わっていた。

 

「何故ですか!!? 何故あんな計画を進めたのですか!! 貴方の娘さんを実験台にしてまで成し遂げるべき事だったのですか!?」

「……そうだよ。全ては世界の“発展の為に“なされた事だからね」

「世界の……発展の……ため……?」

 

 海上兵器仮称“艦娘“の開発計画は全て世界の発展を進化させるための布石であり、本来は艦娘の構造技術や科学技術を利用して現代の環境問題や国際問題を解決に導くために始まったものだった。

 艦娘の身体強化技術は現代において様々な可能性を含む無尽蔵のテクノロジーであり、利用すれば現代の科学や医学は凄まじい進化を促す事を当時の科学者達は考えた。

 現に今世代の科学技術や医療技術は年々進んできており、水中呼吸を可能としたマスクの開発や原因不明とされる難病の原因特定と治療方法の確立など世界中で大いに役立っている。

 

「そう。科学や文化、経済の発展を目的に()()()()()から取り入れた異次元のテクノロジーを使用して、現代を塗り替えた新たな時代を創造する。極めて単純な理由さ」

「その世界の発展の為に貴方の娘さんや人々が犠牲になっているのは目を瞑るのですか……?」

「目を瞑るのではないよ。犠牲という言い方は少し語弊があるけど、その身を捧げてくれた人達のことは感謝している。世界の為に、国の為に、大切な人を守る為に、戦う事を選んだ人達を私は忘れないよ」

 

 ■■元帥は■■■大佐の恨むかの如く鋭い目に対して決して目を逸らさず、話を伝え終わるまで穏やかな表情を崩さなかった。

 世界の発展の為に身を捧げた人々の名前や顔を■■元帥は誰一人として忘れた事は無い。その尊い犠牲が圧倒的な戦力となって深海棲艦から国を護り続け、また技術となって現代の科学技術や医療技術を発展させてきた。

 

「強制的に個人の意見を尊重せずやらせた訳ではなく、自ら艦娘になる事を選んだ人がいると仰いたいのですか」

「うん。計画に参加する事に関しては理由は人それぞれだけど本人の意思で決意してくれてる。あまり勘違いしないでほしいな」

「それは貴方の娘さんも同じだと言うですか?」

 

 ■■元帥は■■■大佐の問いを聞いて顔を少し俯かせ、認める事も拒否する事もなく沈黙を貫いて口を開かなかった。両者共に睨み続けて視線を衝突させる。部屋の窓から徐々に自動車の走行音や鳥のさえずりが明白に聞こえてきた。

 

「……黒■■から色々聞いたようだけど、少し間違った伝え方で勘違いしているようだから、私からも教えてあげるよ。大本営内で潮岬町鎮守府の瑞鶴に会ったり、白くんに話し掛けて動向を探って色々してたけど、それについても話そうか……これから話す事が本当かどうか、信じる信じないかは君の自由だ……だけど一つ約束してほしい」

 

 ■■■大佐に銃口を突きつけられて数十分が経過し、■■元帥はようやくため息を吐きながら重い腰を上げて立ち上がった。

 椅子と机から少し離れてゆっくり歩き、光が指す手前の窓の前で立ち止まる。

 元帥は窓から見える青空へ仰いで眩しそうに話しかけてきた。

 

「この物語は君だけが知る物語として、誰にも語り継ぐことなく天国へ持ち帰ってほしい……真面目で正義感のある君なら守ってくれると思っての約束だ」

「……分かりました」

 




次回は深海棲艦の地下軍事施設での邂逅
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