うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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190. 揺らぐ戦場に邂逅を果たすのは

 ──小笠原諸島、地下軍事施設地下十五階

 

 駆けつけてくれた『(オウゲン)』叢雲の救援により、『巨門(テラスティア)』戦艦棲姫の戦場から脱出できた天龍と金剛は提督の捜索を続けていた。戦艦棲姫が現れ叢雲と戦闘中になった影響もあり、天龍と金剛は焦りを隠せず手当り次第に見つけた部屋の中を探していた。

 依然として手掛かりになるような物は掴めず提督の居場所は分からない。

 通信妨害を受けている状況では連絡も取れない最中、時々戦闘による衝撃や爆発音が身体を揺さぶらせる。

 『(オウゲン)』叢雲が時間稼ぎをしてくれたとはいえ未だに提督に関する手掛かりは全く無い。当てずっぽうで視界に入った部屋のドアを見ては部屋の中を見て確認するしか方法はなかった。

 

「くそっ……! いくら探しても手掛かりが全く無ェ!!」

「時間稼ぎにも限りがあるし、早く急がないと!」

「んな事分かってる!!! ん……? 金剛!!」

 

 そんな中、天龍は偶然目に入った何かと厳重で目立っている二枚扉を見て金剛に声を掛けた。

 天龍は助走をつけて廊下を疾走し、大太刀を両手に身体を駒のように回転させる。

 身についた遠心力と自身の腕力を大太刀に集中させ、厳重そうな二枚扉を一刀両断。

 真っ二つに切断された二枚扉を蹴飛ばして奥へ続く廊下を辿るとそこには更に左右に別れた廊下に均等に配置された幾つもの部屋のドアが見えた。

 

「収容施設?!」

「っぽいな……図を見れば扇状で作られてる……金剛! 俺は部屋の錠を開けてから左から探す、右を頼めるか!」

「分かった!」

 

 壁に貼られた案内図を見ると収容施設は輪環状の地下軍事施設を囲うように扇状にして作られていた。収容部屋は全部で三十六部屋もあり、厳重な二枚扉の手前に監視用のマスタールームが設置されている。部屋のドアにはマスタールームでしか開けれないセキュリティロックが施されており、ドアの小さく細い窓から部屋の内部が少しだけ見える設計だった。

 天龍はマスタールームへ入って全ての収容部屋のドアのロックを解除し、金剛とは真逆の左の方向へ次々に収容部屋のドアを斬り倒しては中を様子を見る。

 

「見たところ、誰も収容されちゃいないようだが……所々水が散らばってたり、酷い血の跡がある……ここで俺たちを収容して尋問してたのか……!」

 

 収容部屋の中は広々としていて成人五人が床で背伸びをして寝れるほど広く、大きなベッドと机と椅子がついているなど設備は充実していた。

 しかし収容部屋の幾つかは過去に収容されていた艦娘の痕跡が残されており、壁や床にこべりついた血痕や散らばった髪の毛に剥がされた爪など見るに堪えないモノだった。ここで鹵獲した艦娘を収容して情報を聞き出す為に尋問や拷問などを行っていたのだろうか、もしかしたら捕まった提督もこの身に遭っている可能性がある。

 静かに募っていた焦燥感が徐々に溢れ出して行く感覚を覚えながら天龍は収容部屋を次々に覗いていく。

 

「ここだけ明かりが……! ッッ!!」

 

 収容施設にある一番奥の行き止まりの収容部屋で小さく細い窓から光が漏れているのが見えた。誰かいるかもしれないと天龍はすぐさま大太刀を構えて部屋のドアを叩き斬る。

 部屋のドアを斬り伏せて入った瞬間、身に覚えのない驚いた声が二つ聞こえた。

 

「艦……娘……?」

「んなっ……! 人……!!? 何でこんな所に……!!」

 

 収容部屋の中にいたのは三十代前半の女性とその親の子供と思える十代にも満たない小さな女の子がいた。収容部屋のベッドに座りながら母親は女の子を守るように抱え、ドアを斬り破ってきた天龍を怯えるように見ている。

 

「もしかして……私達の救助に、来てくれた艦娘さん……ですか?」

「いやそのっ、じゃなくて……! おう! そうだ! 助けに来てやったぜ! もう安心しな!!」

 

 母親は天龍の姿を見て自分達を救助しにきてくれた艦隊のメンバーだと嬉しそうに涙を浮かべていた。天龍は本来の目的とは少し違うものの昔に蒼色から人命救助は最優先と教えられており、咄嗟に状況を見極めて母親と小さな女の子の保護に回った。

 二人の居た収容部屋は駆け回って見たどの収容部屋よりも清潔で物騒な雰囲気は全く無く、二人の健康的な姿から食事も規則正しく摂れているのが見て分かった。

 

「とにかく話は後だ、脱出ルートまで俺たちが援護する。ちょいと走る事になるが、大丈夫か?」

「大丈夫です。助けに来てくれてありがとうございます……! これでやっと……夫も解放されたのですね……!」

「あ、あぁ……そうだな……」

 

 天龍はとりあえず母親と女の子の体調と状態を軽く確認する為に近付いて身体をペタペタと触る。調べた様子では身体的な異常や怪我などは全く無い事から恐らく何かしらの意味があって収容されていたのだろう。

 少し気に掛ける言葉に反応しつつ天龍は一時的に二人を安全な場所まで避難する事を優先事項として選んだ。この作戦の真っ只中で関係の無い一般人が巻き込まれては大変な事態になると予想して、提督と脱出する際に決めていた脱出ルートを利用して二人の避難を行う予定だ。

 

「あとここまでしてくれた【不㓕(エオニオス)】さんにも感謝しないと……!」

「【不㓕(エオニオス)】……? 誰だそいつは」

 

 収容部屋にいた親子は【不㓕(エオニオス)】と聞いた事のない人物らしき名前を呟いて、思わず天龍は誰なのか興味本位で聞いた。

 

「深海棲艦でありながら私達を守ってくれた人です。白いワンピースに口を黒いモノで隠し──」「天龍!!」

 

 母親が【不㓕(エオニオス)】について説明している途中、収容施設の右側を担当していた金剛が天龍たちの方へ戻ってきた。

 金剛も収容部屋の中を捜したが提督の存在は掴めず、全て空き部屋だったようだ。

 金剛は天龍の背後にいる母親と女の子の姿を見て、不思議そうに天龍に訳を尋ねた。

 

「その人達は?」

「一番奥の収容部屋にいた捕まってた人達だ。俺はこの人達を脱出ルートまで案内する、金剛も脱出ルートまで援護してくれ」

「分かったネ! 早速行こう!」

 

 天龍から理由を聞いて金剛も人命救助を優先し、張り切って堂々した表情を親子に見せた。親子を守るように片腕を広げて収容施設を出ていき、廊下に誰かいるかどうか覗いて確認する。

 天龍は母親を背中に乗せ、金剛は女の子を抱えながら敵と接敵しないように慎重に階段まで駆け走る。二人の状態を会った時から言えなかった母親は申し訳ない表情で二人に尋ねた。

 

「あの……すいません……自分勝手になってしまって言いそびれたのですが……お怪我は大丈夫、なのでしょうか……?」

 

 天龍と金剛は『巨門(テラスティア)』戦艦棲姫の奇襲と戦闘によって常人であれば致命傷になり得る怪我や負傷を負っていた。天龍は砲撃と殴打を数回受けて口から少量の血と右腕の紫がかった打撲痕、金剛は頭から胸まで流れた血で赤く染まり、左腕は戦艦棲姫によって投げられた天龍の大太刀の刺し痕が赤い血液と共に著しく残っていた。

 艦娘の『耐久』によって傷はほとんど塞がっており、流血は心配ないものの傍から見れば致命傷なみの大怪我だと勘違いされてもおかしくはなかった。

 

「大丈夫だ! 艦娘(おれたち)ならこんな傷なんて大した事じゃないぜ!」

「私達がいる限り心配はいらないヨ!」

 

 天龍と金剛は親子へ不安がらないように穏やかな笑顔を見せて答えた。

 一定間隔で蛍光灯に照らされた白く滑らかな漆喰の壁と床の廊下を駆け走っていく。

 地下軍事施設の中央では『(オウゲン)』叢雲と『巨門(テラスティア)』戦艦棲姫が激しい戦闘を繰り広げ、その衝撃が施設自体を大きく揺らしていた。時々白い蛍光灯が衝撃で点滅し、溝に溜まった埃やひび割れた壁の粒がパラパラと落ちていく。

 

「あった! 階段があるぞ! そこから一気に八階の輸入港に向かおう!」

 

 天龍と金剛の着いた先は地下軍事施設に四つ敷設されている螺旋階段だった。

 直径およそ十メートルほどの穴に地下一階まで登れる階段が螺旋状に組み込まれており、階段の段下に白い蛍光灯で周辺を明るく照らしている。

 天龍と金剛は親子をそれぞれ抱えながら跳躍で段を飛ばしながら螺旋階段を登っていった。

 

「輸入港はこの廊下を右にいくとあるはずだ」

「待ってくれ、左から誰か来てる」

 

 地下十五階から地下八階まで駆け走って登り着いた天龍と金剛は深海棲艦ないないか廊下内を覗いてクリアリングする。円状にループする形で繋がっている廊下はある程度の奥まで見えるが更に奥までの道は目視では見れない。

 死角から音が遠くから聞こえた金剛は天龍に親子を下ろして一旦螺旋階段に避難させ、徐々に近付いてくる足音二つを迎撃する為に艤装を構えた。

 

「ッ!!」

「うわッ敵!!!」

 

 足音二つが耳前まで聞こえるようになった瞬間、天龍と金剛は正体不明の足音に奇襲を仕掛ける。

 足音の正体は──、

 

「え……? 古鷹と時雨……?」

「金剛さんと天龍さん……!?」

 

 八階を捜索していた同じ仲間の古鷹と時雨だった。

 二人も天龍と金剛が突然現れた事に驚いて右腕に取り付けられた艤装の砲口を向けていた。

 

「びっくりした……突然現れるから敵かと思ったよ……ところで、その怪我は大丈夫なの!?」

「悪いな、こっちも色々と厳重に警戒しないといけないもんだからよ。それにこんなのは大した事じゃない、すぐに直ったぞ」

「それは良かったです……ん? その人達はどうされたんですか、って……あぁなるほどそういう事ですか」

 

 仲間である古鷹と時雨から砲口を降ろし、天龍は胸を撫で下ろして安堵の息を吐いた。

 螺旋階段に避難していた親子も仲間だったのを覗き見て、女の子を守るようにゆっくりと金剛の背後に寄り歩く。

 それに気付いた古鷹が一瞬誰なのか問い掛けるも状況を考えて察した。

 

「提督の捜索や救助も優先したいがこの人達の救助も必要だ。俺達はこの人達の救助を優先したい、救助が終わり次第に捜索と援護に参加しようと思ってる」

「分かりました。私達も輸入港まで援護します、確かこの先でしたよね?」

 

 天龍の意見を聞いて理解した古鷹と時雨も囚われていた親子の救助に協力する事になった。提督の捜索と救助が最優先される作戦中とはいえ、天龍と同じく脅威に晒されている人達を見過ごす事などできない。

 古鷹は八階の輸入港までのルートを確認して天龍達と話し合った。

 

「確かそうだネ。時雨達が通ってきた道を通るよりもそっちの方が最短で行けるはず。こんな時連絡遅つければいいんだけど、未だに電波妨害? みたいなのが続いてるらしいヨ」

「仕方ないと思うよ。とりあえず今はこの人達の救助を優先しよう!」

 

 途中で合流した古鷹と時雨を連れて天龍と金剛は親子をそれぞれ抱えながら八階の輸入港へ走って向かう。

 未だ謎の電波妨害は続いていて、無線機を操作しても他の仲間からの応答は全くなかった。地下軍事施設の最下層中心にある「ヘカントケイルの間」では今もなお『(オウゲン)』叢雲と『巨門(テラスティア)』戦艦棲姫が激闘を繰り広げている。

 その衝撃が八階でも軽い地震のように鋭く伝わってきていた。

 

「確か輸入港の前には塔のコントロールルームがあったはず! そこを抜ければ最短で行けるよ! でも正直そこに深海棲艦がいないとは思えない、一旦私が部屋の中を覗くから待ってて!」

「分かった、深海棲艦がいるならこの人達を一旦避難させる。時雨はこの人達の近くに、俺達は念の為に戦闘態勢に入ろう」

 

 塔のコントロールルームの扉が見えた辺りで古鷹が部屋内に深海棲艦がいる可能性を伝え、部屋内の安全を確保するため一人で偵察を担った。

 コントロールルームはとても広い場所になっているようで、最下層から天空へ聳え立つ塔を囲む穴の壁へ一部分が突き出ているほどだった。天龍と金剛は親子の護衛をする為に艤装を展開して戦闘態勢に入る。

 

「いきますよ……」

 

 古鷹の掛け声を聞いて天龍と金剛は口を閉じて首を縦に振る。

 それを見て古鷹が扉のドアをゆっくりと開いて、その間にできた細い隙間から覗く。

 見る限りでは部屋内に気配は全く存在せず、集中して研ぎ澄ましても人影や物音は無かった。コントロールルーム故に想像以上にとても広い場所なのが確認できた古鷹はゆっくりと足を踏み入れて侵入する。

 

「……誰も……いないですね」

 

 コントロールルーム内は鎮守府の講堂にあったテレビで見たアニメや映画などでよく見たオペレータールームのようだった。塔を眺められる窓ガラスの壁に塔の操作をする為の操作設備がずらりと並び、壁に取り付けられた大きなモニターが幾つもある。

 何か塔に関して実験を行っていたのだろうか、操作設備は訳の分からない言葉や単語がまとめられていた。

 

「よし、いない……いいよ! 入ってきて!」

 

 コントロールルーム内を見渡して何一つ気配も感じなかった古鷹は天龍達を呼ぼうと声を掛ける。

 

 その時──、

 

「っ!!? 誰だ!!!」

 

 巨大な窓ガラスの壁から突如現れたシルエットが視界の端で見えた瞬間、古鷹は咄嗟に艤装を構えて吠える。

 古鷹の声を聞いて天龍と金剛は扉を蹴破って古鷹の元へ駆け走った。

 

「これは久しぶりだな、古鷹、天龍、金剛」

「っ!? お前は……!!」

 

 シルエットの真相を見てその場にいた親子全員の艦娘が驚きの声をあげる。

 その憎たらしい顔は誰もが忘れない。

 

「半年ぐらいか……また会ってしまったな」

「■■……少尉……!!」

 

 潮岬町鎮守府をとてつもない地獄にさせて逃亡し、深海棲艦側に寝返った古鷹達にとって腸が煮えくり返るほどの怒りを湧き出させる憎むべき存在、■■少尉。

 かつて古鷹達の提督として艦隊を指揮していたが、ABC計画と自身の野望の為に古鷹達を私利私欲で酷使し、その時まで築き上げてきた関係や仲間などの全てを喪失させた悪魔。

 その悪魔が古鷹達の前に堂々とした態度で現れた。

 

「何故てめぇがここに……!!」

「何故俺がここにいるんだって? 答えてやろう、俺は今日というこの素晴らしき日の為にこの場所に居なければならないんだ。実際お前たちでも内心では分かっていたはずだろう、俺が地下軍事施設内にいるかもしれない、と」

 

 天龍は大太刀の柄を強く握りしめて勢いよく前に突き出し、怒りのこもった怒号を■■少尉に浴びせる。

 ■■少尉は天龍達の方へ振り向く事はなく、最下層で戦っている『(オウゲン)』叢雲と『巨門(テラスティア)』戦艦棲姫の戦闘を観戦しながら答えていた。

 

「っ……っ……! 天龍! 金剛! 今は救助を最優先にしよう!! 早く輸入港へ!!」

「っ……!! 早くこっちへ来てくれ!!」

 

 驚愕と憤慨の渦に巻き込まれながらも時雨は感情を割り切って天龍達に親子の保護を最優先するように叫ぶ。天龍や金剛も顔を横に何度も振って自我を取り戻し、輸入港へ続く廊下の扉へ急いで向かった。

 

「おっと、逃がしていたのか」

 

 自身を見て振り切ろうとする天龍達を横目に■■少尉は右腕を動かしてある方向へ掌を広げる。

 

「ッ──」

「うわっっ!!!」

 

 輸入港へ続く廊下が突然爆発する。

 襲い掛かる爆風と衝撃から親子を庇うように時雨や古鷹は身体を前に出して守る。

 コントロールルーム内が土煙に包まれる中、天龍と金剛は腕を振り払って視界を広げて周りを確認した。

 

「入り口が……!!」

「まさかこいつ……!?」

 

 輸入港へ続く廊下へ繋がる扉が上の天井の瓦礫ごと押し潰され塞がれていた。

 何か嫌な予感がした天龍は■■少尉の方へ振り向くと、■■少尉の右手甲に艦娘の艤装と酷似した砲塔が備え付けられていた。

 コントロールルーム内が中央の聳え立つ塔の紅い光によって照らされている所為か、顔は見えても■■少尉の全体像が薄いシルエットになっていて分からなかった。

 

「あぁその通りだよ」

「こいつ人を捨てて深海棲艦になりやがった……!! クソ野郎が!!!」

 

 ■■少尉の眼が青く光を灯し、驚きの声をあげる天龍達を嘲笑う。■■少尉は感覚を確かめるかのように左手で右腕を掴み、右手を握っては広げて砲撃という感覚を噛み締める。

 そしてもう一度確かめようとコンクリートで造られた窓縁を片手で握り壊した。

 

「初めて使ったが感覚は意外と簡単だな。やはり素晴らしいものだ、深海棲艦と艦娘の力というのは」

「厄介な力を……!」

「何が厄介な力だ、これがお前たちの力そのものだぞ。超人的な身体能力と海上を航行できる艤装を肩や手に持つ対海上特化型の陸上歩行可能な戦闘兵器。もっと利用すれば何でも捻じ伏せられる夢のようなモノじゃないか」

 

 ■■少尉は天龍達の方へ臍を向かせて視界に写すも興味が無いのかすぐに右手の平を見て喋り出した。

 よく凝らして見てみると黒い短髪が若干白く伸びており、肌も深海棲艦のように肌白くなっている。誰かの姿に少し似ていた■■少尉を見て天龍達は■■少尉の性格を考えて焦燥感を隠せずにはいられなかった。

 

「その力で……何を仕掛けるつもりですか」

「支配だよ。まだ不十分ではあるがこの力だけでも圧倒的な力で一方的に舐め腐った奴らを嬲って操れるこの優越感……最高に楽しくなると思わないか?」

 

 ■■少尉は深海棲艦と艦娘の力を利用して誰かを一方的に操りたいという単純な理由で世界の支配を目論んでいた。

 自分の思い通りに事が進むように徹底的に支配して操り、操られた者達を見て優越感を得る。

 たったそれだけの事のために今日この日まで計画を進めていた。

 

 天龍達は心の底から呆れ果て蔑如した。

 優越感を得たいがために平気な顔をして周りの人達や艦娘を破滅に追い込むまで利用し続け、ひたすら自分の事しか考えないその性格が気に障るほど不快だった。

 今すぐそのふざけた顔を思い切り殴ってやりたい、今すぐ痛い目に合わせなければ気が済まない。感情に左右されて理性を失ってはいけないと身体の奥底から湧き出る憎悪と憤怒を抑えるが如く手を強く握り締めた。

 

「愚問ですね……そんなくだらない目的で人類や私達を裏切ったのですか」

「それこそ愚問だな。面白いからに決まってるだろ、それ以上の理由なんてあるものか。なぁそうだろ……? ()()()()

 

 様々な感情に揺らされ声を震わせながらも続けて問う古鷹に対し、■■少尉はくだらないと一蹴して単純な理由を言い返す。明らかに天龍達を見下しているその目は潮岬町鎮守府を地獄へと変貌させた時代の頃と全く変わっていなかった。

 決して離れられない忌まわしき残酷で救いのない過去。

 その過去を忘れさせやしないと心の底に眠っていた恐怖と怯えが無意識に身体全体へ伝わっていった。

 

「……天龍、金剛」

「何だ……?」

「さっき通った道を戻れば遠回りにはなるけど輸入港に辿り着く。予定通りなら不知火と瑞鶴か既に確保してると思うから……先に行ってて、私達がコイツを抑える」

 

 傍にいた時雨が親子を守りながら天龍の肩に手を乗せて■■少尉に聞こえないよう音を殺して静かに伝える。これ以上啀み合っても時間の無駄だと考えた時雨は親子を天龍と金剛に任せ、自分達が■■少尉の時間を稼ぐ作戦を思いついた。

 

「っ……分かった、後で俺達も行く……死ぬなよ」

「うん、ありがとう……」

 

 落ち着きを若干取り戻した天龍は軽く深呼吸をして時雨の作戦を許諾した。近くで聞いていた金剛や古鷹も天龍と同じく作戦に乗る意志を固め、■■少尉をもう一度見改める。

 時雨は天龍の手を叩く合図で■■少尉へ見えないように手の甲を強く叩き、それを察知した金剛と天龍は親子二人を抱えてコントロールルームから脱走を試みる。

 しかし──、

 

「なに人の許可無く連れて行ってるんだ、行かせる訳ない──ッ?」「早く行ってッッ!!!」

「後は任せましたよ!!!」

 

 ■■少尉がもう一度右手の平を天龍と金剛に向け、砲撃を仕掛けたその瞬間。

 時雨と古鷹が防御体勢のまま前に出て親子を抱えた二人を庇う。

 ■■少尉の砲撃が時雨と古鷹に直撃し、爆炎と爆風がコントロールルーム内を包み込む。

 視界を防いだ爆煙を利用して天龍と金剛は元来た廊下へ疾走し、急いで輸入港へ向かった。

 

「痛っっった……!」

「威力は深海棲艦そのものだね……!」

 

 時雨と古鷹は積もった瓦礫を押し退けて制服についた石埃を払いながら立ち上がる。

 先程の砲撃の影響で天井のパネルや床のタイル等が剥がれ落ち、精密機器やモニターがひび割れて破壊されていた。この地下軍事施設の倒壊のリスクを考え無しに砲撃する無鉄砲さは面倒な部分だ。

 

「逃がしたか……まぁ、そろそろ終わってるだろうし、問題ないだろう……それで、お前らはここに残ってどうする」

 

 ■■少尉に話し掛けられるも答えない時雨と古鷹は瞳孔を開かせ、敵視するかの如く鋭い目つきで睨みつける。■■少尉の砲撃を庇って受けた事により、時雨の額から血が汗と共に重力に従って頬を伝いながら落ちていくのが見えた。

 ■■少尉の砲撃は重巡クラスの砲撃と似ていて、散々砲撃を受けてきた二人にとってこのダメージは慣れたようなもの。どれだけ砲撃を受けて怪我して血が流れようがいずれは【耐久】で治癒される。■■少尉の問い掛けに土埃に塗れた二人は口角を上げて答えた。

 

「勿論……!」

「お前をぶっ飛ばしてやるのさ!!」

 

 

 




よいお年を。
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