うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


191. 勝つ為ならば手段は厭わない

 地下軍事施設の地下三階から潜入して提督を捜索していた長門と木曾は焦燥に駆られながら廊下をひたすら走っていた。ドアを見つけては部屋の中を隅から隅まで探しては廊下へ出て次の部屋へ向かう。

 天龍と金剛が『巨門(テラスティア)』戦艦棲姫との接敵と戦闘から約三十分が経過し、現在も代わりに時間稼ぎに対応してくれた『(オウゲン)』叢雲が戦闘を続けていた。

 この状況になるのは予想されていたものの想定していた時間よりも早く起きており、叢雲が七壊星との戦闘の際は半日ほどの長期戦になる事を避けたいと言っていた為に長門と木曾は急いで捜索を進めていた。

 

「早く探さなければ……! 長期戦になれば叢雲の損害は勿論、奴らの援軍が来る事は間違いない……!」

「あぁそうだな……!! この階は粗方調べ尽くした、次の階へ行くぞ!」

 

 長門と木曾は下の階へ続く螺旋階段まで曲線上の廊下を駆け走る。

 最下層から広がる凄まじい衝撃で転倒しそうになるも何とか持ち返しながら走り続けた。

 

「っ……? 誰だ!」

 

 螺旋階段の標識が見えた途端、()()()()が見えた長門は滑走しながら艤装を展開する。

 木曾も左腰の鞘からサーベルを取り出して戦闘態勢に入った。

 

「深海棲艦!? 木曾!!」

「あぁ!! 行くぞ!!」

 

 深海棲艦特有の白く透き通った肌や長髪に焔のように燃え滾る紅い眼を持つその姿は姫クラスの深海棲艦。最下層で戦闘中の『(オウゲン)』叢雲と『巨門(テラスティア)』戦艦棲姫を眺めるように観戦していた。

 駆け走る長門と木曾に気付いていない様子で二人は奇襲を仕掛けようと深海棲艦に襲い掛かった。

 

「待ちなさい」

「っ!?」

 

 襲い掛かる長門と木曾に対して深海棲艦は二人の方を振り向かないまま奇襲を止めろと静かな声を上げる。一瞬凄まじいプレッシャーが身体全体に痺れ渡った長門と木曾は身体を硬直させて呼び声通りに奇襲を止めた。

 

「何か急いでいる様子だけど、とりあえず艤装をこちらに向けるのはやめてくれないかしら」

「っ……お前は……誰だ……?!」

「私? この特徴的な姿見て分からない?」

 

 名前を聞かれた深海棲艦は不思議そうに長門と木曾の方へようやく振り向き、他の深海棲艦には見られないある艦娘の姿に似た姿を披露した。

 そして突然現れた紅黒い稲光と共に紅黒い光を身に纏わせ、長門と木曾を睨むが如く鋭い目を光らせる。

 

「私は深海棲艦、特殊最上位危険個体および特殊危険個体集団、通称七壞星が一人……」

「まさか……!!」

「【天権(メグレズ)】深海鶴棲姫、よ」

 

 長門と木曾が接敵したのは計画中で一番接敵してはいけない存在、深海棲艦の中でもトップクラスの戦闘能力を有する七壞星だった。

 かつては"憎悪の権化"と呼ばれ凄まじい力と共に名を馳せた深海棲艦、【天権(メグレズ)】深海鶴棲姫。

 七壞星の一角として恐れられた深海鶴棲姫に放たれるプレッシャーは脳から発せられる危険信号を身体の奥底まで響き渡らせるほどだった。

 

「何故お前が……ここに……」

 

 木曾が焦りを抑えきれない表情をしながら深海鶴棲姫に問い掛ける。

 何故地下軍事施設の地下三階という中途半端な階層で行き通りが激しい螺旋階段の目の前にいるのか理解できなかった。

 見れば分かる深海鶴棲姫の圧倒的な実力と自身達の力の天と地の差。

 戦闘に巻き込もうとすれば数秒持たずに倒されるのは目に見えていた。勝てる未来など有り得はしない、砲撃の傷跡や剣先の攻撃など届きやしない。

 深海棲艦の中でも格上という存在を長門と木曾は相見えた。

 

「……言っておくけど戦わないわよ、アンタ達とは。艤装展開できないし、なるべくならアンタ達も艤装を仕舞って欲しいんだけど」

「それは無理な相談だな。貴様を前に武装を解除するのがおかしな話だ」

 

 艤装を展開しない深海鶴棲姫は長門と木曾を横目に見ながら面倒そうに自身に戦闘意思は無いと簡潔に伝える。出来れば戦闘はしたくないと武装解除を長門と木曾に求めるが、七壞星を前にそんな自殺行為などできないと拒否した。

 

「まぁ確かに、それもそうね。ならそのままでいいわ。どうせアンタ達とは会わなければならない訳だし、戦いたいなら私が話した後にして頂戴」

 

 深海鶴棲姫は生気のない表情を一切崩さず、一度ため息を吐いて身体に纏っていた紅黒い光を消滅させる。深海鶴棲姫の周辺に艤装らしきモノが確認できないのを見ると話をする為だけに自ら武装解除をしているようだった。

 何故自分たちに会う事が必要になってくるのか、長門は拭えない不安を抱えながらも疑心暗鬼になって答える。

 

「どういう事だ……!」

「……いま私達を指揮してる()()……元はアンタ達の提督だったんでしょ?」

「っ!?」

 

 深海鶴棲姫の言う()()とはつまり、人類や艦娘を裏切って深海棲艦側に寝返った■■少尉の事だろう。言動を考えると現在も深海棲艦の提督として艦隊の指揮を執っているようだ。

 七壞星からその男の名前が耳に入ると思わなかった木曾は戸惑いを隠せず驚きの声を上げる。

 

「何故……それを知っているんだ?」

「アレが自ら話していたから確かめたかっただけ。話を戻すけど本題はそこじゃない」

 

 ■■少尉について事前確認を取りたかった深海鶴棲姫は長門の問いに対して二人の方へ振り向いて簡潔に答える。

 確認が取れた所で深海鶴棲姫は■■少尉についての本題を長門と木曾に話した。

 

「そのアレは今、この階の下にある八階のコントロールルームにいる。何をされたか粗方知ってるから言うけど憎いんでしょ? そこにいるからさっさと向かって捕まえちゃいなよ」

 

 深海鶴棲姫は地下八階のコントロールルームにいる■■少尉を確保してほしいと長門と木曾へ提案した。二人と深海鶴棲姫のいる地下三階の場所から真下を見ると壁から突き出ているコントロールルームの一部が確認できた。仮にも味方の総指揮官である■■少尉を快く差し出す意図が理解(わか)らない長門は更に深海鶴棲姫へ問い掛ける。

 

「何故貴様がそんな事をするんだ……? 味方じゃないのか?」

「味方じゃない、一時的な利用価値のあったゴミよ。価値が無いからアンタ達に捨て返すって言ってるの」

 

 大きくため息を吐きながら深海鶴棲姫は■■少尉が深海棲艦の提督である事を強く否定する。

 ほとんどの深海棲艦は■■少尉の存在を端から提督として認めておらず、人間以下のゴミとして見下していた深海鶴棲姫は利用価値が無くなったからと人類側へ返そうと考えていた。

 まるで物のような扱いを聞く限りだと深海棲艦側でも派手に暴れていたのだろうか、長門と木曾は反応に困る表情を隠せずにいた。

 

「アレに酷い事されて憎んでるアンタ達なら快く受け入れてくれると思ったんだけど、どうなの?」

「……分かった、その事については私達が引き受ける」

 

 深海鶴棲姫の気を引かないように警戒しながら長門が緊張した表情で■■少尉についての依頼を引き受ける。色々理由が聞けたとは言え、深海鶴棲姫の思惑が分からない以上は下手に喋り出せば何が起こるか予測できない。自分たちが地下軍事施設に潜入した目的が提督の救出である故に【天権(メグレズ)】深海鶴棲姫には悟られるわけにはいかなかった。

 もし深海鶴棲姫が提督に対して何か目的があるとするならば、提督の救出を目的とする自分たちの事を知れば容赦はしないだろう。

 なるべく気を引かせず悟られないまま去ってもらうように長門は慎重に警戒する。

 

「そ。じゃあ後はよろしく」

 

 長門の言葉を聞いた深海鶴棲姫は素っ気ない返事を返して背後の螺旋階段へ身体を向ける。

 長門と木曾は何も起こらないようにと緊迫した表情で息さえ止めて深海鶴棲姫の姿を見逃さない。とめどない緊迫した状況に深海鶴棲姫の艤装の足音が周りの騒音を掻き消すほど感強く聞こえた。

 額から頬へ伝って床へ落ちていく汗の音でさえも注意し、身体を石のように固まらせて身動きを取らないように細心の注意を払う。

 

「あ、そうだ。もう一つあった」

「……何だ」

 

 何か思い出したかのように深海鶴棲姫は歩みを止めて前方の螺旋階段を見ながら長門と木曾へ声を掛ける。

 天井に吊るされた緑色に光る非常階段のマークに視線を移して問い掛けた。

 

「アンタ達は何でここに潜入してきたの?」

 

 その一瞬、二人と深海鶴棲姫がいる空間で出来るはずのない静寂が訪れた。

 まるで時が止まったかのように身体や思考が凍りついて全く動かなかった。

 二人にとって言われたくなかった言葉を最後に聞き出されて動揺する暇すら無かった。

 凄まじいプレッシャーに全身の穴という穴から物凄い量の汗が下へ下へと滴っていく。

 もし深海鶴棲姫が深海棲艦の総指揮官だった提督に対して何を思っているのであれば、提督を奪い返す二人は敵である事に間違いない。そうなれば深海鶴棲姫との戦闘は避けられないだろう。

 勿論提督を救出する為に潜入したなどと簡単に言えるはずもなく、二人は深海鶴棲姫の問い掛けに何も答えることが出来なかった。

 

「……まぁいいよ、もう用は済んだし……っ? あぁ()()()()()()、ならそうだな……こうするか」

 

 沈黙を貫く二人を見なくとも何かを察した深海鶴棲姫は面倒そうに答えなくていいと遠回しに伝える。

 しかし直後に何かを感知したのか三本の黒い塔の方へ顔を見上げた。

 その後顎に手を当てて考え出した深海鶴棲姫はようやく二人と目を合わせて螺旋階段ではなく長門と木曾の方へ歩き始めた。

 

「君達に有益な情報を教えてあげようか。最下層では見ての通り『(オウゲン)』叢雲と戦闘バカが戦ってて、アンタ達の仲間が人質を連れて地下八階の廊下を走って輸入港へ向かってる。そしてコントロールルームにはアンタ達の仲間がアレと遭遇中。地上では捨て駒とアンタ達の仲間が戦闘していて、摩耶と誰かは地下十二階の隠し扉の先にある研究施設で恐らく見つけてるでしょうね」

 

 依然として生気のない表情を保ち続ける深海鶴棲姫はゆっくりと長門と木曾の方へ歩み寄っていく。現在の摩耶や古鷹などの仲間の居場所と状況を明確に且つ簡潔に伝えていた。

 今この地下軍事施設には電波妨害が広がっている所為で仲間の居場所は全く掴めない。

 それを深海鶴棲姫は初めから知っていたかのように、そして長門達は全て深海鶴棲姫の掌の上で踊らされているんだと嘲笑って伝えているように見えた。

 突然の行動に長門と木曾は臨戦態勢に入って迫り来る深海鶴棲姫から有利な距離を取ろうと少しずつ後退していく。

 

「そしてアンタ達二人はアレの場所へ向かって直接アレと色々話す事になり、そこで奴の奇襲が来る。その前にはアンタ達の仲間が捨て駒に勝利、最下層では既に戦闘バカは大破状態で『(オウゲン)』叢雲が中破状態になっていて、数分後に奴の奇襲を仕掛けられたアンタ達とその仲間が最下層に落下、叢雲が奴と戦闘する事になる……概ねの筋書きはこうでしょう」

 

 深海鶴棲姫は人差し指を自身の頭に向けて長門と木曾を見下しながら、今後この戦況がどうなっていくのかについて予測していく。未来予知の能力でも持っているのだろうか伝えられた詳しい情報に長門と木曾は疑心暗鬼になって苛立ちを覚えた。

 接敵した時から目を合わせなかったのにも関わらず、突然何かに勘づいて目を合わせて喋り出してきたとなれば何か仕掛けてくるのは必然。

 深海鶴棲姫とまでの距離は凡そ十メートル、艤装が無い状態でどういった手段に出てくるのか分からない以上、先手を打つのは危険だと考えた。

 と思って長門は乾いた眼を潤そうと瞬きをした瞬間──、

 

「何を言って──ッ!!」

 

 突如二人の間に現れた深海鶴棲姫は長門の首を殴るように掴んだ。

 

 瞬きをした瞬間だった。

 

 瞬きをしたあの刹那的時間で深海鶴棲姫は音すら立てずに走って二人の目の前まで接近していたのだ。

 

 全く分からなかった。

 走る予備動作すら見えなかった。

 気付けば二人の間にいた。

 

 究極に極めた速さとかいう次元の話ではなかった。

 

「長門ッッ!! っクソッッ!!!」

 

 ハッと我に返った木曾は長門を掴んだ左腕に向けて両手で強く握り締めたサーベルを強く振り下ろす。

 しかし──、

 

「ッ……!?」

 

 木曾のサーベルは深海鶴棲姫の左腕を斬り落とせず衝突していた。

 直後に耳をつんざく高い金属音が廊下内に響き渡る。

 深海鶴棲姫の左腕は傷一つ付いておらず周囲に火花が飛び散った。

 

「とてつもなく弱い。その程度の力でここに来たのか、随分と自惚(うぬぼ)れてるな」

 

 自身の左腕に対して切り傷一つ付けれなかった木曾を見下げ果てるように見下した。

 その瞬間に深海鶴棲姫は木曾の両腕を掴んで持ち上げ、木曾の腹へ左脚の膝蹴りを食らわせる。

 凄まじい衝撃で口から大量の血を吐く木曾の顔面を鷲掴みにし、元いた螺旋階段の方へ戻りだした。

 

「悪いけど私は私の為に成さなければならない事がある。計画の為に早速会ってもらうよ」

 

 両手に長門と木曾を掴んで引き摺らせたまま深海鶴棲姫は心のこもらない声で語っていく。何とか深海鶴棲姫の拘束から逃れようと二人は顔や首を掴む手に対して抵抗するも掴まれた両手の力は凄まじく、いくら殴ろうが引き剥がそうがビクともしなかった。

 

「やめろ……!! 手をッ……離せッ……!!」

「クソッ!! なんて力だッ……!!」

「この真下に地下八階のコントロールルームがある。このまま飛び降りて屋上を突き破って会ってほしい」

 

 元の場所に戻った深海鶴棲姫は窓から真下に見える巨大な穴の壁に突き出たコントロールルームを確認する。そして二人を投げ飛ばして窓ガラスを砕けさせ、深海鶴棲姫は落ちていく二人を見て呟いた。

 

「じゃあ……よろしく」

 

 

 

 ──地下軍事施設最下層『ヘカントケイルの間』

 

(オウゲン)』叢雲と『巨門(テラスティア)』戦艦棲姫との戦闘は既に十五分が経過していた。

 金剛と天龍は提督の捜索へ向かわせ、叢雲は戦艦棲姫と一騎打ちによる時間稼ぎ。

 戦闘の影響で最下層の真っ平らな床は凹凸だらけの戦場と化していて、鉄骨等が剥き出しになったコンクリートの瓦礫が大小に亘って至る所に散乱していた。

 依然として最下層から天空にまで聳え立つ三本の黒い塔は無傷で、制御装置がある塔の土台でさえも傷一つ付いていなかった。三本の黒い塔の中心にある紅い光線はより一層と輝き始め、戦場と化した最下層を紅く照らしていく。

 

「フゥンンンッッッ!!」

「ッッ!!」

 

巨門(テラスティア)』戦艦棲姫は巨大な黒い右拳で勢いよく殴り掛かる。

(オウゲン)』叢雲は右手を強く握った金色の鎗で右の横薙ぎを食らわせる。

 互いの攻撃が衝突し、鍔迫り合いとなって擦れる度に火花が散った。

 

 支えていた足に力が急激に入り、削れた床がひび割れて抉れていく。

 互いに負けてたまるかと更に力を解放して睨み合った。

 

 戦艦棲姫は砲身の一部損壊と右頭部の流血、叢雲は左頬のかすり傷による流血。

 それぞれ【耐久】で既に修復済みではあるものの流れた血が凝固しかけていた。

 爆煙の煤で肌は荒れ、身体中から汗が流れ出る。瞬きする暇すらないと瞳孔は開き、全身に力を入れて歯を食いしばった。

 

「時間稼ギシヨウガ無駄ダゾ……! 計画阻止モ、オ前ラノ目的モダ!!」

「ならアンタを倒せば少しは目的に近付けるって訳ね……!! 簡単な作業よ!! ッッ!!!!

 

 余裕の笑みを浮かべた叢雲は胸から右腕、右腕から右拳へと身体の奥底に眠る莫大なエネルギーを流し込む。

 その瞬間に身体に纏っていた黄金の光が背後でジェット噴射のように放出され、右拳に溜まった莫大なエネルギーを金色の鎗へ集中させた。

 叢雲は咆哮を上げて両腕に強く力を入れて金色の鎗を振るう。

 戦艦棲姫は巨大な黒い拳で反発するも、金色の鎗に押し返されて殴り飛ばされた。

 

「ナニッ……!?」

 

 巨大な黒い右拳が大きく殴り飛ばされ、身体の右半身がガラ空きになる。

 透かさず叢雲は両手で鎗を振り回し、次の攻撃に転じて跳躍した。

 戦艦棲姫は残った左拳で跳躍した叢雲へ殴打。

 叢雲は鎗で防御するも簡単に殴り飛ばされた。

 

 叢雲は瓦礫に塗れた戦場で受け身を取って体勢を整える。

 一度後方へ跳躍して身体を回転させ、素早く動けるように着地。

 そこから横へ走り出して展開し、戦艦棲姫の周囲を走り駆けた。

 

 途中に見えた大きな瓦礫の塊を複数回、戦艦棲姫に目掛けて蹴飛ばす。

 戦艦棲姫は巨大な黒い拳の甲で撃ち放たれた瓦礫の塊を受け流して弾く。

 

 最後の放たれた瓦礫の塊から突進した叢雲が現れた。

 瓦礫の塊の死角を利用して一気に戦艦棲姫の目の前まで急接近。

 

「ッ!!? 小癪ナッ──」

 

 戦艦棲姫は驚きの声を上げながらも自身の左拳で叢雲に殴り掛かる。

 が、それよりも先に叢雲は金色の鎗で戦艦棲姫の顎を殴り飛ばす。

 

 凄まじい衝撃で怯む戦艦棲姫。

 その一瞬の隙を叢雲は見逃さない。

 

 戦艦棲姫の顔に目掛けて金色の鎗で左右に二回叩き殴る。

 叢雲は跳躍して更に頭頂部を強く殴り、もう一度顎へ金色の鎗で殴打。

 激しい猛攻の最後に戦艦棲姫の身体が浮く。

 叢雲はガラ空きになった戦艦棲姫の腹へ金色の鎗で突き飛ばした。

 

 突き飛ばされた戦艦棲姫は素早く空中で体制を整え両足で着地。

 少々苛立った表情しながらも視界へ叢雲の姿を写す。

 しかし叢雲の姿が見えない。

 戦艦棲姫は左右を見渡して探す。

 

(ソラ)カッッ!!」

 

(オウゲン)』叢雲は大跳躍で『巨門(テラスティア)』戦艦棲姫の頭上を取っていた。

 金色の鎗へエネルギーを集中させ、背後に輝かしい黄金の十字光を放つ。

 叢雲は我慢するかのように歯を食いしばる。

 

 流星の如く戦艦棲姫へ落下し、金色の鎗を振り下ろした。

 戦艦棲姫は艤装の巨大な黒い拳で咄嗟に防御するも金色の鎗の一閃が炸裂。

 鋼鉄よりも硬い巨大な黒い右腕が斬り落とされた。

 一閃の余波で戦艦棲姫の身体にも右肩から脇腹が斬り裂かれる。

 

 周囲の床が瓦礫と共に衝撃で捲れて宙を舞う。

 戦艦棲姫の艤装が喚く轟音を放つ。

 斬り落とされた巨大な黒い右腕から紅い液体が噴射され滴り落ちる。

 

 怯み声を上げるも戦艦棲姫は残った左拳で叢雲に殴り掛かる。

 叢雲は後方へ跳躍して回避し、戦艦棲姫と距離を取った。

 

「貴様ッ……!! ヨクモ……!!」

「あら……! 痛そうね……! もしかして痛覚も繋がってるのかしら……?」

 

 不意にも無事である母体の右腕を左手で掴んで片膝を着き、息を荒くさせ焦りの表情を隠せない戦艦棲姫。

 対して叢雲も一連の戦闘で息遣いが少し荒くなっていたが、戦艦棲姫の状況を見て落ち着いている様子だ。叢雲は腰を低くしながら鎗を地面に突き刺し杖代わりにして、先程の戦闘と過去の戦闘を比べて思い出した。

 

「前とは別物とも思える程の結構なエネルギー効率ね、他の娘達でも苦労しそうなくらい強くなってる……!」

「戦闘ヲ始メタ際ニ測ッテイタカ……! ダガ貴様モ相当エネルギーヲ消費シテイルハズダ……!!」

 

 今ここにいる『巨門(テラスティア)』戦艦棲姫は過去に接敵した『巨門(テラスティア)』戦艦棲鬼よりも遥かに戦闘能力が成長しており、『(オウゲン)』叢雲でさえも苦労してしまうほどに強くなっていた。

 今までの戦闘で両者共に体力を消耗しているのはお互い分かり切っている。

 他の仲間が提督を見つけるまでの時間を稼ぐとは言え、何時間も戦闘を続けていればいずれボロが出るだろう。

 いつ相手が襲ってくるか分からない束の間の休憩時間を利用して互いに考えて呟いた。

 

「そろそろ摩耶が見つけてるところでしょ……! いま奴の片腕を落とせたのはチャンス、討伐するなら今しかない!!」

「余裕ノ表情ヲシテハイルガ、艤装ノソレヲ見レバ奴ハ確実ニ一定以上ノダメージハ受ケテイル……!! 最モ警戒スベキ奴ヲ倒スナラ今ダ……!!!」

 

 叢雲は地面に突き刺した鎗を抜き、巧みに掌を使って回転させる。地面に勢いよく石突を衝突させ、仁王立ちで荒れた息を少しずつ整えた。

 戦艦棲姫も深く息を吸っては吐いて呼吸を整えさせ、地面に着いた片膝を動かして立ち上がる。不意に右腕を掴んでいた左手を離して胸を張るように両足を両肩ほどに幅を広げて立った。

 叢雲と戦艦棲姫は絶対に倒すという意思の鋭い目線を衝突させて火花を散らす。

 

「……ハッ……! どうやら考えてる事はどちらも同じようね……!!」

 

 その鋭い目線を感じ取った叢雲はつくづく気が合うと笑みを浮かべ、左掌を前に突き出し金色の鎗を右手に持って背後に構える。

 戦艦棲姫も笑みを浮かべて右手と左足を前に出し、右足と艤装の巨大な黒い左腕を後方へ殴り構える姿勢を取った。

 

「どちらが先に倒れるか……! 勝負よッッ!!!」

 

 叢雲と戦艦棲姫は声の合図で砲撃しながら急発進急加速。

 凄まじい走行速度で放たれた砲弾と共に走り駆ける。

 金色の鎗と巨大な黒い左拳を衝突させて衝撃波が周囲に広がった。

 

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