うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

2 / 199
2. 胸が大きいヤツはプライドも大きい

 

 鎮守府に辿り着いて一日が過ぎる。皮肉な事に太陽の光はこの鎮守府を見逃さないらしい。あれだけ闇を抱えた艦娘達がいながら希望となる太陽の光は目障りな事だろう。提督は早起きして、各寮の掃除へ向かっていた。何を隠そう、提督は大の潔癖症である。

 

「あームズムズするわぁ」

 

 天井に出来た蜘蛛の巣を払い、埃が溜まった窓縁を拭いていく。埃を全て拭き取った時の窓縁の美しさはまさに快感が走る。綺麗すぎて心が洗われそうだ。

 

「廊下の乱れは心の乱れ! 部屋の乱れは心の乱れ! フハハハハ!!」

 

 テンションがおかしいだけに近寄れない。五月蝿く掃除する提督を覗く艦娘達は反応に困っていた。恐らく今は関わってはいけない。

 

「そこで覗いているお前らも手伝え! 心が乱れておるぞ!! 夕立、時雨ェ!!」

「ヒエッ……!」

 

 覗いていたのは夕立と時雨。常時ハイテンションな提督を確認してきたようだ。どうやら提督は気付いていたらしく突然振り向いて話し掛けてきた。

 

「あ、逃げられた。まぁいいか、掃除だフハハハハ!!!」

 

 笑いながら掃除をしていると遠くて砲撃音が聞こえた。割れた窓から覗き込む。そこには一部の艦娘達が勝手に許可無く出撃していた。

 

「あらまぁ暴れたいお年頃なのかな。頑張ってもらわなきゃね。お、あれは……」

 

 出撃しているのは天龍と摩耶。艤装を構えて海に浮かんでいる。

 

「摩耶かぁ……摩耶ァ!?」

 

 

――数十分前。

 

 

 摩耶は提督に頼まれ、資材の状況を確認していた。予想通り資材は枯渇、出撃するにしてもあと二回程だろう。何より衛生面が酷い。提督であれば即座に掃除し兼ねない程だ。

 

「よぉ摩耶」

「……天龍か、何の用だ?」

「お前がアイツやお前自身の事を知ってるだろうから聞きに来た」

 

 直接本人に聞けばいいのにと思いつつ仕事しながら答える摩耶。質問といってもごく単純な事だ。

 

「アイツ、強いのか?」

「子供か天龍」

「んだとコラ」

「冗談だ。アタシ達の前では大して強くはない……だが人間の中じゃ頂点かもな」

「……どういう事だ」

「そのままだ。いいから早く行ってくれないか? 情弱と話してる程暇じゃない」

「聞き捨てならねぇな、誰が情弱だって?」

 

 声に怒りが現れたのが分かる。悪口を言われて天龍はイラつき始めた。

 

「お前らの事だよ。もっと自身を見つめ直したらどうだ?」

「あ? アイツが殺されてもいいのか?」

「愚問だな」

 

 両者睨み合う。春の暖かい風が吹き通り過ぎていく。沈黙が走り続けた。するとお互い暗黙の了解で出撃工廠へ向かう。

 海に出れば即、砲撃。

 

「はえー摩耶が戦ってるなんてなぁ……」

 

 遠くから窓越しに覗く提督。まるで野球観戦のようにそれぞれ応援していた。無邪気な子供のように面白がっている。すると途中歩いていた長門が話し掛けてきた。

 

「む、提督か。ここで何をしている?」

「試合観戦」

「……成程試合観戦か。それよりもだ提督、あの時の砲撃は申し訳なかった」

「あ、うん全く気にしてないから。むしろめちゃくちゃ面白かったよ。もっとやってくれ」

「……天龍と提督の摩耶か。資材が足りないのに何をやってるのだか……」

 

 頭を悩ませる長門。そんな長門を見て提督は声を掛けた。

 

「心配無ぇよ、資材は何とかなる。それに――」

「ん?」

 

「――お前らが束になっても摩耶には絶対勝てない」

「っ……」

 

 

 

――鎮守府近海

 

 

 

「準備はいいか摩耶」

「そちらこそ負けた時の言い訳を思いついたか天龍」

「……言ってくれる」

 

 穏やかな海に浮かびながら構える二人。どちらも勝気で一歩も譲らない。

 

「一発で決めてやるよ!!」

 

 

―――――――――

 

 

「痛い」

 

 勝利を勝ち取ったのは摩耶。傷は負ったものの平然としている。一方で天龍は大破寸前の重傷者。艤装から煙をあげている。

 

「よく痛いですませるな天龍……あれだけ砲撃を食らっといて」

「うるせえ!! てめぇが卑怯な手を使いやがったからだろうがァ!!」

 

 卑怯な手といってもただ単に移動位置を予測して砲撃を繰り返しただけである。ついに知能まで落ちてしまったかと摩耶は落胆した。前任の提督が如何に無能なのかよく分かる。

 

「はぁ……まぁとにかくだ。アタシは内戦を好まない。さっさと入渠して身体を癒すんだ」

「チッ……」

 

 天龍は舌打ちしながらドッグへ向かう。頭を掻きむしってその場を出ていった。何とも言えない態度に呆れる摩耶。中断された仕事の続きを始めた。

 

「ほらな、勝てない」

「恐ろしい強さだな、あの摩耶は。改装を二回しているだけある」

「だーろう? 育てた俺を褒めて欲しいもんだね。あ、褒めていいよ? 褒めまくって?」

「……残念ながらこれから私は用事がある、では」

 

 長門も提督を置いて何処かへ行ってしまった。その顔は少し悩んでいる表情だ。提督はウザがられた時の反応が面白くてわざと言っている。だから長門の表情はまた面白いものだった。

 

「あぁ面白い。さて、風呂の掃除でもするか」

 

 提督が駆け足で着いたのは艦娘専用の入渠施設。

 といっても簡単に言えば銭湯だ。艦娘達はこの場所で指定された時間を使い、汚れや傷を癒していく。高速修復材もあるがこれは貴重な物なのであまり使用は許可されない。

 

「酷えなオイ! 入れるレベルじゃねーぞこんなの!!」

 

 声を大にして嘆く提督。風呂は誰も清掃していないみたいだ。酷く廃れている。清掃員がいないので仕方ない事ではあるが、これは酷い。

 

「ったく……何て事しやがるんだあのクソ野郎は!! 俺の仕事量も考えろ! あと水! うめぇ!!」

 

 自身で持ち出した水筒の水を飲み干す提督。そしてバケツの水でモップを浸し、汚れた床を拭いていく。入れるレベルではないが風呂桶はまだ綺麗な状態であるのが幸いだ。

 

「いやー汚れを拭き取った後の床はピカピカで身体中から電気出ちゃいそう。よっしゃ洗ったるわ!」

「おいどういう事だよコレは!」

 

 入口から人の声が聞こえた。聞き覚えのある声に提督は呆れながら振り向く。

 予想通り天龍が自身の身体を癒しに入渠しに来たようだ。それなりに怪我はしている。

 

「何で俺らだけの場所にてめぇがいんだクソ野郎! セクハラしに来たのか!!」

「何でてめぇのふざけた体目当てにここまで来なきゃならないんだ。自惚れも胸だけにしてほしいねー」

「ッ……てめぇ……!! 言わせておけばァァ!」

「勝手に出撃しといてウチの摩耶にボロ負けした天龍さんがお怒りの模様だぁ、さぁこれは命令違反だなー、どーしよーかなー」

 

 提督はあくまでここの鎮守府の責任者。艦娘達はそれに対し、命令は絶対尊守される。

 事前に提督は出撃してはいけない事を伝えている。それを破った天龍は知りながら摩耶に喧嘩を売っていた。何故か命令違反と聞くと天龍は身体を小刻みに震わせ、酷く怯えている。

 

「……頼む、鞭打ちだけは……」

「ん? まぁとにかくだ――」

 

 提督は怯える天龍に言葉を投げ掛ける。

 

「――自分で勝手に負った傷ぐらい自分で治せよ」

「は、はい……」

 

 あるトラウマを思い出したのか天龍は深く座り込んでしまった。濡れた床が冷たく感じる。それを見て提督は罰を述べた。

 

「ってな訳で罰として天龍さんもーここの清掃を手伝ってもらいマース!! 異論はありまセーン!!」

「……へ?」

 

 誰かの口調を真似て喋る提督。その罰は提督と一緒に風呂を清掃する事。あまりにも奇抜な罰に天龍は思わず変な声をあげた。

 

「あ? 清掃やるんだよ、ほら早く立つんだよ! スタンドアップ、スタンドアップ!!」

「……」

 

 一時放心状態の天龍。言葉を理解するのに時間を要した。しかし言葉を崩しつつその意味を理解する。

 

「スタンドアップ、スタンドアップ!!」

「うるせえ!!」

「あ痛いッ!!」

 

 天龍に殴られ、尻餅をつく提督。スタンドアップ連呼にイラついた天龍は即座に立ち上がった。

 そしてモップを持ち出し、提督を呼び掛ける。

 

「やってやるよ、やりゃあいいんだろ!?」

「……え、何を?」

「お前がやれって言ったんだろうがァ!!」

 

 ツッコミが終わった後、黙って清掃する天龍。何を考えているか分からない提督の事を考えつつ、シャワーで洗い流す。常時ハイテンション、棘のある発言、時々感じる怖気。自身の中で提督の存在は謎に包まれた。

 

「ぶっは、何これ超笑えるんだけど!!」

 

 その提督という人が今床に溜まった汚れで遊んでいる。いや、遊びながら掃除しているの方が正しいだろうか。風呂場は笑い声が絶えない。

 一人だけで。

 

「よっしゃ、軽くこんなもんだろ」

「……終わりか?」

「終わりだよ。ほら入って身体を癒しな」

 

 風呂桶に湯を沸かす提督。汚れでジメジメしていた風呂場は一気に綺麗で清潔な風呂場へ変貌した。

 提督は満足した途端にその場を出て行こうとする。

 

「お、おい……罰は……」

「あ? さっきので終わり。ほら念願の入渠だぞ、入れよ」

「……懐柔させたって無駄だぞ」

「え? 何? 懐柔させてほしいのォ?」

 

 天龍の言葉にやけに食いつく提督。耳を被せて恰も聞こえないような素振りで聞き始めた。

 

「ち、違ッ…」

「えーでもぉ、そう言ったって事はぁどこかでそう思ったって事だよねぇぇ!!」

「う、うるせぇんだよ黙れ!!」

「悪いけど俺はお前達を懐柔させる程甘くはない。その胸みたいな無駄に大きくて色気すら無くて碌な使い道も無いプライドを駆逐艦並にボコボコに叩きのめして小さくしてから現実を見つめ直すように調教してやる! ではバイビー!」

 

 提督は吐き捨てる様に手を振りながら行ってしまった。その言葉が冗談に聞こえなかった天龍。

 あの時の目は前任の提督の目にそっくりだった。

 

「何なんだよ……アイツは……」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。