「ご、ご要件はなんでしょうか元帥殿」
プリンツが持つスマホを使って、元帥と話す提督。また迷惑事を持ち掛けられると不安で気が気ではない。話を合わせて速攻切った方がいいだろう。
『ごめんごめん。いやー実は演習前日に休暇が出来ちゃってねー、どうせなら君の所を拝見したいかなーって思うんだよ』
「お言葉ですが元帥殿、貴方が来ていただくと訓練中の艦娘達が気を遣いすぎて集中出来なくなる可能性がございます。演習が終わった後では難しいでしょうか?」
『んーでもどうせなら休暇中にやった方が効率いいじゃん?』
「そうですが……」
中々苦戦している提督に摩耶達もそわそわしていた。提督の言葉で大体察せる。厄介者とまではいかないものの、海軍一のお偉い人が来るのは艦娘達も気を遣う事がある為にあまり来て欲しくはないのだ。
「はい……それは存じております、はい……はい、分かりました……では」
ようやく電話を切った提督。反応はあまりよろしくないようだ。酷く落ち込んでいる。
「見たら分かるだろう? 演習前日に元帥が来る事になった」
「はぁ……マジか……」
「なぁにが、んじゃその日に行くねーだ!! お前は気になった男子とデートの約束をして楽しみにしてる女子高生か! 断固拒否するに決まってるだろ!!」
「でも承諾したよねAdmiral」
「そこが問題だ! 今この鎮守府はマリアナ海溝並に深い闇を抱えている。元帥にそんな所見せてみろ、俺どころかお前らだってどうなるか分からねぇんだ!!」
ただでさえこの鎮守府は海軍にとってはお荷物状態。例え鎮守府を失っても傷一つ付かない海軍にいつ見捨てられてもおかしくはないのだ。
「仕方あるまい、鈴谷、加賀、金剛! 早速で悪いがお前らに頼んでいた差別艦娘リスト、あれを今週の金曜日までまとめて俺に出してこい! 今は火曜日、提出は時間、場所、状況関係無しだ!」
一ヶ月先に見送っていた差別した艦娘のリストの提出期限を急遽変更し、今週の金曜日に出す事となった。演習は来週の火曜日、元帥の訪問が来週の月曜日。それまでに全ての艦娘を把握しなければならない。
「今はもう十七時だ、訓練を終了とする。お前らには明日から強制参加してもらうぞ、勝つ為にな」
「夜戦の場合はどうするつもりなの?」
「勿論やるとも」
提督はやる気満々だ。
演習時は昼戦と夜戦の二回で争われる。第一フェーズに昼戦、第二フェーズに夜戦という仕組みで昼戦に相手艦が全て轟沈判定になれば夜戦は行わない。が、もし相手艦が生き残っていたならば夜戦を続行させる。勿論提督の許可と旗艦の判断が揃わなければ続行は不可能。双方の意見に食い違いが発生した場合は妖精の羅針盤で決められる。川内にとっては事案案件だ。
「今日はお終いだ、各自部屋に行って身体でも休めてくるといい。明日は厳しくなるからな」
「「「はい!!!」」」
摩耶達が各自の部屋に戻っていく。夕食の時間までは少し余裕がある。昼寝しても構わないだろう。
「加賀、どうした早く――」「待って」
「何?」
「会って欲しい艦娘がいるの」
加賀に頼まれ、ある場所へ連れていかれた。そこは空母寮のある部屋。中に入ると部屋の片隅で怯えている艦娘がいた。
「何だあのど〇ぶつの森の家の片隅に置いてあるトーテムポールは」
「トーテムポールでは無いわ……飛龍と蒼龍よ」
「いやだって部屋の片隅で掘った穴から出てきた動かないハニワと同じでしょ」
「ハニワでも無いわ……飛龍と蒼龍よ」
「んじゃダル〇ストーブとレト〇なでんわ」
「どう〇つの森の家具で例えるのはやめて!」
「違うわ……」
二人の会話を聞いていた飛龍が口を開いた。目は虚ろなまま、床を見続けている。
「だらしな〇ソファよ……」
「あれ揃えるの面倒だった――」「今はそういう話じゃないでしょう!!」
加賀のツッコミが入る。殴られた提督は頬に手形を残していた。殴られた事が不服なのか頬を膨らませている。
「……この子達の事は知りたくなくても知ってるんでしょ?」
「さーてそれはどうかなー……」
勝手に部屋に上がり、飛龍達に近づく提督。部屋は酷く散らかっていた。畳は掻き毟られボロボロ、箪笥は飛び出て服類が散乱、寝具はまともに寝れない状態だ。
「さて馬鹿共、俺は何日か前にこの鎮守府に配属させた提督だ。以後お見知りおきを」
「……」
「あ、加賀、先に忠告しとくが俺は容赦しないぞ。黙って聞いておけ」
「わ、分かったわ……」
「ではでは馬鹿共、多くの仲間を解体した気分はどうだ?」
提督の言葉を聞いて飛龍は激情。すぐさま立ち上がり、提督を押し倒す。馬乗りになり、首を絞めようとした。
「最初の言葉がそれなの……? ふふふざけないでよ私達がどんな目に遭ったか知らないくせにッ!!!」
艦娘は人間以上の力を要する。人間の首など一捻りだ。だが提督は飛龍の腕を掴み、強制的に離そうと抵抗する。
「まーたそれか! 新しく配属させた俺が知るはずが無いだろ、馬鹿を越えて大馬鹿だな!!」
「うるさい!! クズがぁぁ――うわっ!!」
提督に頭突きを食らい、馬乗りから解放される。提督は立ち上がり、服の汚れを綺麗に払う。怯んだ飛龍はこちらを睨んでいた。
「ったくどいつもこいつも攻撃的だなぁ……元解体執行艦、飛龍、蒼龍。」
解体執行艦。
工廠の奥深くに設置されている解体所。通常、解体執行時は担当された人間が三人でボタンを同時に押して執行される。しかし、異常に暴れる艦娘が多く、傷つける事があった為に優遇制度を条件に艦娘が艦娘を解体するというまさに悪魔の所業とも言える事をやっていた。その時の解体執行艦に任命されたのが飛龍と蒼龍である。
「さぞかし凄まじい光景だっただろうなぁ目の前で仲間が自らの手で解体されるんだから」
「違う……」
「どこが違うんだ、実際に何回も何回も見たんだろ? 絶望に浸る艦娘達を」
「違う……」
「いいや違わないね~」
「違う!!!」
「違わねぇぇよ!! 保身の為に仲間を見殺しにしたんだ、どこにもいねぇぇんだよ、全て現実だろうがァァァ!!!」
否定する飛龍達に暴言で追い詰める。あまりの提督の無鉄砲さに加賀は提督の腕を掴んだ。
「提督、いい加減に……!!」
「だから言っただろ、容赦しないって」
「だけど……!」
「こうでもしなきゃコイツらは顔すら向かない。分かってるなら黙って聞いておけ」
提督の言葉に押し退けられ、黙るしかない加賀。飛龍と蒼龍は
「さてお前ら、耳を塞いでいるようだが無駄だぞ、恐らく今も解体した艦娘の悲痛な声が幻聴となって聞こえてるはずだ」
忌まわしき過去が脳裏によぎる。泣き叫ぶ駆逐艦、助けてと嘆く軽巡、死にたくないと懇願する重巡。思い出したくもない過去だ。今でもその声と押さえ付けた腕の感覚が残っている。
「艦娘にとって解体は死を意味していた。艤装は剥ぎ取られ、母体は潰され別の艦娘の糧となる。全く皮肉な話だよなぁ。異常に暴れる艦娘を強制的に押さえ付けて執行場所へ連行。扉を固く閉めて、実行ボタンを二人同時に押す。やがて叫び声が聞こえなくなるとそこには――」「やめてやめてやめてやめてやめてやめてよ!!!」
飛龍の連呼で話が遮られる。提督の話についていけず拒否反応を起こした。涙を零し、喚き出す。
「私達だって生きるので精一杯だった……無理な出撃を何度も繰り返し死線を潜って、何故か一方的に差別されて、食べ物はちぎったパンの一欠片……こんな事されて普通でいられる方がおかしいでしょ!!」
「だから差別の対象から逃れる為に解体執行艦を請け負ったのか?」
「違う! あの時はある任務だって唆されて……もう気付いた時には遅かった……」
久しぶりに前任から任務を課された。だが途中で意識を失い、目を覚ませたと思えばそこは解体所。駆逐艦がもう解体された後だった。絶望した飛龍達は自殺しようとするも憲兵に引き止められる。
そして任務の一連の正体が解体執行艦という最悪な役割と気付き、優遇制度で如何に自分達が生き残れているのかを再確認させられた。解体もしない、蒼龍にも手を出さない、今まで通りの生活を約束する、そう言われた。
生き残る、それが唯一の目標だった。
「もう今じゃ私達はこの鎮守府一の嫌われ者……お前より私達の方が嫌われてるわ……」
提督以上に嫌われていると自負する二人。だから今まで姿を現さずに引きこもっていたのかもしれない。何もせず暗い部屋の中で誰とも接せずに生きていた方が楽だったのだろう。
「……なぁ飛龍、蒼龍。何故お前らが解体執行艦として任命されたか知ってるか?」
「え……?」
「大本営で言ってたぞ、元気でポジティブなアイツらがウザいから絶望に落として叩き潰す、ってな」
提督がボイスレコーダーを取り出し、年月日を探している。
それは提督が大本営にて階級が大佐の時の話。当時呉鎮守府の提督達による戦果報告書を提出しに大本営へ訪問した時の事。偶然前任とすれ違った際に聞こえた会話の内容だった。提督は以前から脅迫の材料にする為に何回も盗聴や録画などしている。ボイスレコーダーもその一部。提督が用意したボイスレコーダーから聞こえた。
「えーっと、いつだっけ……あぁこの時だ、ほい」
『充分仕事してもらった、仲間殺してるのに平気でやってるから馬鹿なんだよな、蒼龍だって何回もヤられてるのに飛龍は気付きもしない。今度美味い飯でも食わせてやろうよ、その後に解体して絶望させてやる』
「……とまで言っていた。つまりお前らは最初から前任に弄ばれてたんだよ、そして飽きたら解体される所だった」
「ッ……」
加賀もあまりの非道さに声が出なかった。前任は飛龍達を暇を潰す為の道具でしかなかっのだ。心の底から湧き上がる憎悪に歯を食いしばった。
「更にはこの解体所、かなり古い物でな。少なくともお前らが解体してた頃には設備されているはずだったと推測する」
「どういう……?」
「大本営に勤務する人権派の少将が新たな解体方法を開発してな? 何でも装備だけ外し、身体の中にある核を取り除けば人間として生まれ変わる事が分かったんだ。何て時代遅れの大馬鹿共なんだろう、これだから高齢者は老人ホームで他の老害共と一緒にダンスでもしながらくたばってればいいものを。それを海軍は一斉に支持して義務つけられているはずなんだが……ここは隠蔽してたみたいだな」
ボロボロの畳を毟る飛龍。手が震え、言葉に表せない怒りが溢れ出した。自分を殺してまで仲間を解体したのに、代わりに自分の身体を散々汚した癖に、蒼龍には手を出さないって約束したのに。この仕打ちはあまりにも酷い。
「……どこまで私達を嬲れば気が済むのよ!!」
畳を何度も何度も殴り、口を震わせる。怒りと悲しみが混ざり、飛龍はその場で悶えた。
復讐したい、自分達が苦しんだ分まで苦痛を味あわせたい。そう思った。
「復讐したいって思った?」
「……!?」
「その顔は何で分かったのって顔だな。そうだろ?」
二人は無言で頷く。であれば話は早い。
提督は飛龍と蒼龍を部屋から無理矢理連れ出し、執務室へ向かった。そして机の引き出しから紫色のファイルを取り出す。文面は勿論前任の事である。
「もしここで俺と手を組めば、復讐する為に最大限助力しよう。どうだ?」
「……でも私達皆に嫌われてる」
「なぁにが嫌われてるだ! 俺なんて着任した同時に砲撃食らってんだぞ?」
「そうね、そうだったわ」
あの場にいなかった加賀でもその事は把握していたらしい。結局一緒にいた摩耶のおかげで作戦は失敗に終わったが。
「飛龍、蒼龍。嫌われ者なら嫌われ者らしく堂々としていればいい。開き直ったと思われるかもしれないが、所詮人のイメージなんてその人のやり方次第でコロコロ変わるもんなのさ。加賀みたいにな」
「私で例えるのはやめて」
「だから飛龍、蒼龍、俺達は嫌われ者だ。嫌われ者同士仲良くしていこーぜ……よく生き延びたな、ご苦労さまだ」
提督は優しく飛龍と蒼龍の頭をそっと撫でた。嫌われ者同士、その言葉で少しだけ心に余裕が出来た。自分達に仲間がいる。それだけで安心出来た。自然と涙が零れる、拭いても拭いても止まらない。
「お前らがやられた事は俺も痛い程分かる。正直、同情する程な」
提督だってこんな苦しみは幾度も経験している。今は言えないが、凄惨な過去だ。飛龍と蒼龍の過去に自分と照らし合わせると考えるものがある。
「その分、強くなれ! 強くあれ!! 強くなったお前らの未来はきっと輝いてるぞ!!」
「はい……!」
二人とも提督の手を握る。それは前任の復讐の為、と言っても本当は提督についていきたい。それだけだった。
勿論復讐をする事は変わらない、前任がとても憎くて仕方ない程に。だが飛龍と蒼龍にとって初めて仲間のような存在が見つかったのは何より嬉しかったのだ。
「私達、頑張ります! もう……挫けません!!」
「おーおーそれはチョロくて頼もしい。では夕食の時間だ、そろそろ行こうか」
「はい!」
加賀は飛龍と蒼龍の姿を見て安心した。久しぶりに笑顔を見たような気がする。つくづく冷たい事を言ってしまう自分が恥ずかしく感じた。提督に頼った方がこの鎮守府は本当に良くなるかもしれない。
「必ず……!」
そして――自分も飛龍達に存在を証明しなければならない。この先どんな事が起こるか予測は出来ないが、せめて許されるまで足掻き続けたい。