『嫌だ、やめてまだ私はッ!!』
『違います提督!そんな事、嫌だ……』
『死にたくない!嫌だ、や待って、蒼龍さん!こんなっ……!!』
『まだ戦えます、身体も使えますから……司令官! あの中は嫌、死にたくない!! 嫌だ……』
『……貴様ら全員呪ってやる、覚えてろォォォォォォ――』
「やめて!!!」
朝七時。窓から太陽の光が漏れている。飛龍は悪夢から覚め、起き上がった。身体中汗だらけである。
「……はぁ……」
未だにあの悪夢から離れない。少し意識が変わったとはいえ逃れる事はないだろう。どこかで自分に報いが来る、例えそれが来たとしても甘んじて受け入れよう、そう思っている。提督に言われたように自分達は嫌われ者らしく生きていく。だって提督がいるから。
「おはよー提督ー!」
「朝から馬鹿でかい声で挨拶するとはお前の喉はメガホンで出来ているのか飛龍」
「提督も人の事は言えないけどなー」
「バカめ、あれはお前が寝惚けてたから眠気覚ましに出しただけだ、むしろありがたく思ってほしいね~」
「はいはいありがとうございました。それで提督、この件なんだけど……」
「何だ」
「まぁ別に高速修復材が一つ無くなった所で問題は無いけどなぁ」
「念の為にあたしが調べておくよ」
「頼むわ」
三人が話してる中、ある艦娘が執務室に入ってきた。その艦娘の名は加古、ある紙を持ってきたようだ。何故か執務室の中が
「どうしたんだ~加古君~」
「……本当に秘密なんだな?」
「俺は約束は守ろう、んでその書類は?」
無言で提督の机の上に置く。それは自爆装置についての資料、トップシークレットモノだ。事細かに記されている。
「すまないね~……摩耶、解析を頼む」
「分かった」
「解析……って、嘘じゃないぞその資料は!!」
「嘘か本当かは俺が判断する事だ、わざわざ喚くんじゃない嘘だと思われるぞ」
摩耶は緑色のクリアファイルからある資料を取り出し、加古が持ってきた資料と見比べた。丁寧に一文字ずつ確認していく。
「……提督、嘘の資料だ」
「はいダウトだ加古、お前は俺らを騙そうとした。どちらが本物の資料かは分からんが騙そうした事に変わりはない」
「な、何故それを……!」
前から川内にコピーしてもらっている。とは言えないがこれで差別している艦娘の手口が分かった。わざと情報を盗ませて正解のようだ。
「お前はここに来る前から■■に嘘の資料を手渡された。盗聴でアイツも俺の策略に気付いているはずだからな。当然嘘の情報を与える、だがこちらはもう手に入ってるんだ、わざわざご苦労だったな。交渉は決裂だ」
「んなッ……話が違うぞ!」
「何が違うんだお前は嘘の資料を持ってきた、言いふらさない事や憲兵隊が来る以前にお前が自らの助け舟である俺の話を裏切ったんだ、交渉決裂に決まってるだろ、ほらさっさと出ていけ。青葉に伝えなければ」
「ま、待ってくれそんな事をしたら――」「そんな事? お前らにとってはそんな事なのかい? お前が暁と雷を営倉に送らせた事がそんな事で済むのか、それともそちら側では褒められる事なのか? そんないきなり危機感を感じられてはこちらが困る、早く出ていけ」
「……そうなんだね加古さん」
後ろから声が聞こえた。振り向くと第六駆逐隊が敵を見るような目でこちらを睨んでいる。先程の話を聞いていたようだ。
「……黙れ、使えないガキ共が悪いんだ!! 一々喚くな目障りなんだよこのガキ!!」
暁と雷を殴り飛ばし、言葉を吐き捨てる。そのまま執務室を去る加古。差別した現場を見て、提督はニヤニヤしていた。
「本性を出させてくれて何よりだよ第六駆逐隊」
「いたた……こんなものよ、いつも……」
「青葉、見てたな?」
『はい見てました! 加古さんは今部屋に向かっています!』
「記録しとけよ~」
提督の許可を貰い、加古の真実を書き記す青葉。久しぶりに趣味に没頭出来るのか張り切っている。舌を出してメモを書き殴った。
「どういう事だお前」
廊下から入ってきたのは矢矧を始めた川内、利根、阿賀野、那智、比叡、榛名、霧島、龍驤、祥鳳、葛城と戦力で考えれば豪華なメンバーだ。
しかもこのメンバーは全員差別している側の艦娘である。飛龍も思わず提督の背中に隠れた。
「私達以外にも誑かして約束を破るなんてやはり人間はクズしかいないようだ」
「……」
「何が憲兵隊だ何が給料アップだ、これら全て嘘だろう嵌めようとしやがって」
「それで?」
「貴様はいるだけで不快だから消えてくれ」
「へぇーじゃあどうして俺がいると不快なのか教えてくれ」
机の前に立つ矢矧に近づく提督。一気に歩み寄り、団体の前まで喋り始めた。
「……教えなくても分かる――」「分からないんだなこれが~! 不快と思うならそれ相応の理由があるはずだ、言えば改善されるかもしれない。言ってみたまえ」
「っ……」
「お前は確か俺と話す時はあの会談しか無かったはずだ、別に俺はお前に過度に接した訳でも無いし、暴行もしていない。それなのに何故不快なのか分からないので教えてもらいたいだけなんだ」
手を差し伸べ、訳を聞こうとする。人を煽るような笑みがやけに腹立つ。
「あの時の
「そ、そうだ、過度なストレスがあってイライラするんだよ」
「では何故俺を暴行した時にストレスを発散しなかったのかな?」
「それじゃ物足りないんだよ」
聞いた途端に提督は机の資料を取り出す。そして大声ではっきりと読み上げた。
「お前は自分の部屋で過度な慰めをしている。一日五回もすればストレスなんて吹っ飛ぶはずだ、無理に暴行しなくても慰めればストレスなんて無くなるので不快という理由には繋がらない、以上」
自分の秘密を暴かれ、赤面する矢矧。
何も言い返せず、顔を下に向けていた。他の艦娘達も思わず引きつった顔をしている。
「よくもまあこんな無防備で来れたもんだな、まだ暴行された時の方がやりがいがある」
「長門をどこへやった」
「知らないなぁ道草でも食ってるんじゃないか?」
「嘘だ、あの大声でお前は場所が分かったはずだ」
「どこの?」
「どこって……長門の部屋に決まってるだろ」
「何で? そんなに心配なら探せばいいじゃないか」
「探しても無いから言ってんだろ!!」
「本当に探してたのかぁぁ!? お前らの探り方は人を見つけるようには見えなかったぞ」
提督は見ていた。矢矧達が長門ではなく何かを探しているのかを。しかもその探し方は人を探すような方法ではなく大きな物を探すような方法だった。長門の名前は一度も呼んでいない。
「どういう事よ」
「お前らが探してるのは長門じゃなくてモノだ!!」
提督の大声で遮られた。探していない、今まで長門の事を話していたはずだ。それなのに提督はそれを否定したのだ。長門ではない、では誰を探しているのか。
「何だと?」
「探してないんだよお前らは、長門? 違うねお前らが本当に探しているのは盗聴器だ」
「……っ」
「どこで仕入れたかは知らんが盗聴器具は破壊させてもらった、もう使えないようにね。それなのにお前らは何だ? 長門じゃなくて盗聴器を探してたんだ、良い心掛けじゃないかぁ。アイツなんてどうでもいい、必要なのは盗聴器だ、所詮はただの駒に過ぎない見捨てても構わないって。兵器が道具を必要としているのは見てて滑稽だよ、吐き気がする」
矢矧達の顔が少し暗くなる。どうやら図星のようだ。提督は矢矧達に指をさしながら、話し続ける。そして手持ちの拳銃を日の光に晒し、輝かせる。
「別にお前らがどうしようが俺は五千倍にして跳ね返す。今までお前らが俺を殺そうとした殺害計画書や■■の経歴書、お前らの過去の履歴書なんて既に手中だフハハハ~」
「どうやって……!」
「企業秘密だ、教えるわけないだろう。そして大本営にお前らの訴状を提出しといた。これはコピーだがじきに大規模の憲兵隊が本当に来る、司令本部を施錠した、出撃ドックも閉場させた、艤装も展開不可能、摩耶は戦闘態勢……もう逃げ場は無いぞ?」
拳銃を向けられた。為す術は無い。全て塞がれてしまった、何故か艤装も出せない。
ドアは固く閉じ込められ、窓は鉄格子で塞がれている。暴れても摩耶が止めるだろう、太刀打ちは出来ない。
全身から恐怖が溢れだす。まるで深海棲艦のように冷たく、凍える殺気が艦娘達を襲った。
「提督……私は……?」
「あ、飛龍の事考えてなかった……取り敢えず摩耶の後ろにいた方がいい。そして俺も……摩耶に任せる」
「お前もかよ!!」
摩耶がツッコミを入れながら、艤装を展開させる。戦闘態勢に入り、マスクから白い息を吐いた。
この流れは本当に戦うつもりだ、こちらは何故か艤装が出せない。何故だ、何故展開できない。提督は自分達に何をしたのか、全く分からない。
「……というわけで、今のは嘘!!」
嘘。
提督の言葉は全て嘘だという。ここに来た哀れな艦娘達に思い知らせる為、わざと脅したのだ。嘘という言葉に少なからず安堵した者もいた。
「安心したようで何よりだ、これで分かっただろう簡単に歯向かえば倍返しされる事ぐらい、下手な行動はよした方がいいぞぉ~」
指をグルグル回し、遠回しに忠告する提督。
ぴょんぴょんと差別する艦娘達の周りをステップを踏む。
「まぁ俺が思ってるほど差別してる側は行動力があると分かったと同時に全員クズだと分かって良かった良かった~当たり前だけどね~」
「貴様は……私達をどうするつもりだ……」
「お前らの冴えない腐った脳みそで考えたまえ、俺から言う事は無ーい!! さぁ用が済んだら出ていきたまえ、ドアはもう開いてるよー」
提督に促され、艦娘達は黙って執務室を去っていく。殴り込みに行こうとしたのだろう、だが提督に倍返しされ、負けてしまった。彼女らにとって悔しい事はこれ以上無いだろう。
「怖かったです……」
「嫌われ者は人気で大変だよね~」
飛龍が腰を下ろし、冷たい床に座る。あの圧倒的な緊張感で疲れたのだろう。提督の気迫は凄まじかった。相手にしたくないほどに。
「暴行とか言ってたけど大丈夫なのか?」
「殺されなきゃ問題無しだよ摩耶君。なに不安がらなくてもいい、俺の事は誰よりも摩耶が知ってるはずだろう?」
「フッ……確かにそうだな。妙に打たれ強い所とか性格が捻くれてて減らず口な所とか!!」
「七十五点だ! 優しい所とか有能な所とか顔が美しい所とか策略家な所とか色々あるだろ!!」
「どこがだ!!」
提督を叩きのめす。頬には真っ赤な手形が残っている。摩耶に殴られたのは何日かぶりだ。
「さてそろそろ朝食だ、行くぞ!」
「……なぁ提督、そろそろマスクを外してもいいか?」
「あぁ構わんよ」
何故摩耶だけマスクをしていたのか気になった飛龍は提督に聞いてみた。
「あー実はだな、執務室一体に薬を捲いといたんだわ」
「薬?」
「そそ。一時的に艤装が展開出来なくなる吸引型の散布薬を、ね。即で艦娘の身体に影響し、艤装を出させないようにする。本来は憲兵とかが悪い事をした艦娘に尋問をする為に開発されたんだが色々あって今は禁止されている。まぁバレなきゃいい話だ。だから摩耶には事前にマスクをしてもらった」
名前はそのまま、艤装展開不可散布薬。
と言っても、効果自体はかなり薄く出来ており、人間に対しては無害とされている。艤装が展開出来ないにしても個人差があり、薄く改良されても数秒や数時間など極端な事が多い。更にはこの薬を悪用する者が現れる事から現在は薬の開発、製造、使用は固く禁じられている。
「なるほど……だからさっきは艤装が出せなかったのかぁ……」
しかい追い返したとして問題は山積みだ。自爆装置を知っている事が■■にもバレている以上、早急に動かなければならない。何故奴が動かないのかが少し疑問だ。既に計画は始まって余裕でいるのか、とりあえずは自爆装置の解除が最優先になる。朝食を食べた後に始めよう。
食堂に向かう三人。日差しは窓から漏れ、廊下を照らしている。それと同時に提督の長い白髪もたなびいて輝いた。
「……提督、その長くて白い髪……毎日整えてるの?」
「そうだが何か?」
「ううん、いやとても綺麗だなーって思っただけ、まるで翔鶴さんや響ちゃんみたいな女の子っぽく見えるなー」
「この美しい白髪を分かってもらえるとは私は感激だよ飛龍、もっと褒めてくれたまえ、あと俺は男だ!」
「男でも美しいって言葉はあると思うよ、それに提督は優しいし」
「優しい、ねぇ……」
「一回女装した事あるけどな」
「言ったな摩耶ぶっ飛ばしてやる!!!」