うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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26. 概念

 長門と手を組み、三日が過ぎた。今日は元帥が視察と称して遊びに来る日だ。正直、胃が重い。

 

「あー死にたい」

「気が重くなるからやめてくれ」

「えーだって来るのが元帥なんだよぉ、何言われるか怖いもん」

「何幼児退行してるんだ」

「あー嫌だー」

 

 足を伸ばし、椅子でバランスを取る提督。軍帽で顔を隠し、嫌な表情をしているのは確かだ。演習は明日、艦娘達も気が貼っている。

 

「司令官! そろそろ元帥が乗られたヘリが到着されるようです!」

「あー分かったよー今行くよー」

 

 と言いながら机の中に縮こまる提督。

 摩耶に強制的に引き摺られ、広場に連れていかれる。装備が物騒なヘリが広場内に着陸。中から秘書艦の鹿島と元帥がこの地に降りられた。

 

「やぁ久しぶりだねー白くん!」

「これは元帥殿、わざわざ遥々この鎮守府に来訪していただき光栄でございます」

「堅苦しい挨拶はあまり好きじゃないんだ、崩してくれるかな?」

「はい……失礼致しました。取り敢えず応接間にて少し世間話でも如何ですか?」

「うん、そうするー」

「では……(死ねばいいのに)」

 

 提督は元帥と鹿島を応接間へ連れていく。元帥はこの鎮守府の建物を事細かに見ているようだ。恐らく問題は無い、目が赤くなるほど掃除したのだから。

 

「白くん、こんな所で良かったのかい? まだ色んな場所があるのに」

「いえいえ私が決めた事です、後悔はしておりません」

「そっかそっか。摩耶君もプリンツ君も調子はどうかな? ちゃんと白くんの支えになっているかい?」

「はい! 大丈夫です!」

「まぁ一応手伝ってはいます……」

 

 やけに元帥と鹿島がニコニコしているのが怪しい。何故か背筋が凍る。特に提督は元帥とこの鹿島が一番嫌いな組み合わせだ。その場で叫びたいほどに。

 

「■■中将、少し肩を崩してもいいんですよ」

「いやいや偉大なる元帥の下では少しばかり難しいものがございます……申し訳ございません」

「いつもの減らず口はどこへ?」

「……はて、何の事でしょうか?」

「海軍一の減らず口と呼ばれた貴方がまさか治ってるわけないですよね? 提督?」

「……あぁ上等だ……このクソアマ!!」

「ハハハハハいつもの白くんだ!!」

「はぁ……」

 

 応接間が笑いに包まれる。

 提督が鹿島を嫌う理由は二つ。一つは自分が偉い立場と知りながら嫌味を言ってくる事。二つ目は不遜な態度をとれば即座に報告されるから。傍迷惑もいい所だ。

 

「セクハラはダメですよ」

「こっの……!!」

「提督、落ち着いて! 今は違うから!! な? な?」

 

 摩耶に取り押さえられ、怒りを落ち着かせる提督。

 今すぐにでも殴りたい所だがそれは出来ない。

 

「提督さんにもあんな場面があるのかぁ……」

「どうやらあの鹿島には為す術はないようだぜ」

 

 瑞鶴と天龍がドアの隙間から盗み見している。提督と元帥が会談しているのを見るのは初めてだ。

 ましてやあまり姿を現さない事で有名の中将兼提督とお気楽な性格で海軍の要となる元帥。この組み合わせも非常に珍しい。

 

「にしても演習に向けて頑張ってるねーここの娘達も……というよりも何故君に従ってるかは分からないけどさ」

「様々な手段を尽くし、強制的に従えさせました。何も目立つ様な事は一つもしておりません」

「流石あの娘達を育て上げただけあるね白くんは。これならばここの娘達もじきに推薦されるのかな?」

「いえそれは絶対にありません」

 

 提督が真面目な目で元帥の顔を見る。

 先程の笑顔は消え、何やら深い事情があるような重い顔だ。

 

「あらら……何故かな?」

「ここの艦娘達は戦うとは何かを理解していないからです」

「……そっか。それじゃ仕方ないね、理解出来るまで優しく教えてあげなさいな」

「はい、お任せ下さい」

 

 鹿島がメモを取っている。これまでの会話を記録しているのだろう。

 それにドアの隙間から聞いている二人にも気付いているようだ。別に会話を聞かれようが構わないが鹿島が何をするか分からない。

 

「さて白くん、早速本題一つ目なんだけども……」

「はい、営倉の奥深くにある拷問器具についてですね。詳細は報告書にて説明されているかと思います」

「あぁ詳しすぎて気分が悪かったよ。ここの娘達は苦労したんだね……可哀想に……」

 

「やっぱり元帥さん優しい……」

「どこかの誰かさんとは大違いだな」

 

 ボソボソと聞こえた声にイラつき、資料を握り潰しかける。

 摩耶は一旦応接間を出入りし、プリンツは提督に平常心を保たせ、説明を続けさせた。

 

「……一部の艦娘達からもその拷問器具によって負われた消えない傷痕が見られます」

「あぁしかもこの拷問器具によって殆どの艦娘達がトラウマと化しているのだろう? 」

「はい、更にはですが……仲間同士で差別をしている事が分かりました。前任が定めた優遇制度という決まりに艦娘達は洗脳され、差別意識が出来てしまいました……なので……」

 

 またドアの隙間から覗く二人に気付いた提督は怒りが収まらない。それに配慮した元帥は覗く二人の入室を許可し、中に入らせた。念の為に二人はドアの門番をさせ、警備を強化する。

 

「翔鶴型航空母艦の二番艦、瑞鶴です!」

「天龍型一番艦の天龍だ、よろ――」「敬語を使え馬鹿!!」

 

 タメ口で話す天龍にお灸を据える。頭を叩いて、敬語を使うよう教え込んだ。元帥はその場面を微笑ましく眺めている。

 

「話を戻しましょう……先程話した様に一部の艦娘達に差別意識が出ています。正直な所、治療は困難を極めており、状態が悪ければ我々人類に反逆する可能性も否定出来ません。場合によっては大本営の協力も仰ぐ必要になる可能性も高いです」

「なるほど……事態はあまりよろしくない、と……おっと瑞鶴君と天龍君も差別されている側か……頑張ったね二人とも」

「「あ、ありがとうございます!」」

 

「やっぱいい人だよ」

「どこかの誰とは大違いだな」

 

「黙ってろ……!!」

 

 二人のコソコソ話に注意する提督。元帥はまた微笑ましい光景を愉快に見ているようだ。提督と艦娘の話し合いは和やかで好きな元帥。こうした絡みは笑って許してくれる、優しい人物でもある。

 

「アッハッハッハッハッハ!! 分かった、その時はその時だ。全力でそちらの援護に当てよう。予算も少し考えておく」

「……ありがとうございます」

「んじゃ二つ目……」

 

 元帥が鹿島が出したファイルを開こうとした時、瑞鶴と天龍を何故か見た。取り出す前に手を止め、提督に問い掛ける。

 

「ここからは最重要秘密事項だ、悪いけどそこの二人は一時退席してもらいたい」

「……失礼ながら元帥殿、この件に関しては二人は知っております」

「何故かな?」

 

 元帥の殺気が応接間を包む。迫力ある殺気に瑞鶴と天龍の二人は完全に怖気ついてしまった。隣にいる鹿島や摩耶、プリンツでさえも汗を掻き始める。

 しかし提督だけは怯まず、瑞鶴と天龍を指さし口を開いた。

 

「コイツらの為です」

「これは最重要秘密事項だ、何があっても例外は無いと話したはずだが?」

「はい、勿論知っております。それでもコイツらには知る権利があります」

「艦娘は人間じゃない、兵器だ。知る権利など無い」

 

 艦娘は兵器だと一切考えを曲げない元帥は敵視する様な眼で提督を睨む。あれだけ提督に広めるなと口を酸っぱく言われた訳が身に染みて理解出来た。

 それでも提督は怯まず、話を続ける。

 

「いいえあります。元帥殿、確かにこの件は世界に広まれば日本海軍は信用を失い、恥さらし軍隊として名を轟かせる事でしょう。ですが私が着任した時まで(しいた)げられ、(はずかし)められ、(おとし)められ、(なぶ)られたここの艦娘達はそれに値する程の事をその身を持って体験し、生き抜いていました」

「それでも例外は無いと言ったはずだ」

「日本海軍の信頼とここの艦娘達の悲劇を比べる事など烏滸(おこ)がましいのは重々承知しています。何も艦娘達に人権が与えられるとは思っておりません。唯一深海棲艦に対抗出来る兵器は艦娘のみ、たまたま人間の形に似せただけに過ぎない。しかし姿は変われど、この日本を救ってくださり、二度も戦って頂いているのは紛れもないこの艦娘達です。私はその艦娘達の誇り高き強い魂を……再び灯す手伝いがしたい」

「……提督……!」

「……確かにこの鎮守府は廃棄寸前の粗大ゴミでしかありません。ロクに戦果もあげず、ただ自堕落に時を過ごす鉄屑です。職の無いニートの様に部屋に閉じこもり、バッテリーを失ったロボットの様に静止し続け、挙句の果てには害する者を排除しようと本能のままに動き出す……そんな兵器です」

 

 提督は立ち上がり、天龍達の背後に回る。そして頭をポンと優しく叩き、持論を語った。

 

「ですがそんな兵器でも誰かが手を貸せばたちまち生命が宿る様に動き出す。兵器は人がいなければ、ただの物となり遺物となって草木に覆われ砂底に沈む。我々人間が必要なのです、我々も艦娘を必要としているように」

「……」

「貴方は先程その兵器に哀憐(あいれん)の情を抱いていましたね。もし本当に兵器だと思いであれば艦娘達の事を可哀そうだと思う必要なんてありませんし、貴方の傍にいる鹿島という兵器を連れ、ソファに座らせてメモを取らせる必要も無い。少し行動と言動が矛盾していませんか?」

 

 余程悪い癖なのか元帥が溜息を吐く。何度か同じ経験をしているのだろう、ソファに寄り掛かる。

 提督は応接間のソファに戻り、摩耶やプリンツの頭を優しく撫でた。そして真面目な眼と力強い声でハッキリと述べる。

 

「彼女達は兵器だ、人間だ。不毛な争いはここでは止めましょう……彼女達の概念を決めるのは我々人類ではない、彼女達自身が決める事だ。少なくとも私は、そう思います」

「……!」

「ですので、この娘達の希望の火を……どうか消さないでください。誠に勝手ながら私の我儘ではありますが……お願いします」

 

 提督は深く頭を下げる。白く長い髪が静かに揺れた。

 提督の言葉に瑞鶴と天龍は顔を下に向けた。

 何もショックを受けた訳では無い、自然と涙が頬を伝っていたのだ。今までポンコツ兵器と馬鹿にしておきながら提督は自分達の存在を選ばせてくれた。いや選べる事を教えてくれた気がする。自分達が人間か兵器か、それを考え肯定するのは自由なんだ、と。

 

「……はぁ、仕方ないね……許可するよ」

「……ありがとうございます」

 

 再度深々と頭を下げる提督。自身の我儘を聞いてくれた元帥に感謝の意を示した。摩耶とプリンツも同じく頭を下げる。

 

「確かに前任に虐められて、復讐する機会があるとなれば私だって復讐する。ここの艦娘達もそう思うなら、知っといた方がいいのかもね……あ、でもこれ本当に最重要秘密事項だからね!? 秘密にしといてよ!?」

「その点については大丈夫です。青葉初め、この事を知っている艦娘達は全てこの事を受け止め、話さないよう最大限努力していますよ」

「本当なんだよね!? 大丈夫だよね!? ね!?」

 

「は、はい! 絶対に誰にも話していません!!」

「お、俺も話していな、いません!!」

 

 涙目に訴える元帥に思わず敬礼し、畏まる瑞鶴と天龍。前から提督に何度もしつこく言われている為、ちゃんと言いつけは守っている。しかもこの鎮守府は森の中に囲まれている、余程の事がない限りは広まる事は絶対に無いだろう。

 

「例外はこれだけだよ? 分かった白くん?」

「はい、ありがとうございます」

「であれば知っている前提で話を進めるよ。現在深海棲艦の動きが活発化しているのは把握してるね?」

「はい、こちらでもその報告が確認されています。あまり時間は残されていないようです」

「あぁそうみたいだね。そして……」

 

 テーブルに置かれた写真には最強の深海棲艦と呼ばれた戦艦棲鬼、その深海棲艦の中枢を担う中枢棲姫、そしてそれを操る前任の姿が。どうやって撮ったのか分からないが遠くからの姿が確認されている。

 

「戦艦棲鬼と中枢棲姫か……」

「見事に組み合わせたくない奴らが写っている。こちらも黙って見過ごす訳にはいかない、近々大規模な作戦を考えている」

「確かにまずいかもしれないですね……作戦の立案を急ぎましょう」

「うん、そうだね。って事で話は終わり、遊びに来たから色々案内してー?」

「分かりました。では外へ行きましょう、プリンツは資料をまとめた後に訓練に戻ってくれ。瑞鶴と天龍もだ」

「分かりました!」

 

「わ、分かったわよ……」

「わ、分かったよ……」

 

 提督と摩耶は元帥達を連れていき、応接間を出ていった。

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