うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

28 / 199
28. 砂の城は簡単に作れない

「であれば古鷹、お前も演習に参加してもらう。拒否権は無い」

「勿論断るつもりはありません!」

「ならばさっさと訓練に参加しろ。演習は明日だ、お前専用の特別スケジュールを組んでやる。覚悟しろ古鷹」

「はい!」

 

 元気な挨拶で執務室を去る古鷹。駆け足で訓練へ向かっていった。まだ瑞鶴と天龍は居座ったままである。

 

「……で何故お前らもそこにいるんだ、早く行け」

「言ったでしょ、私達は言いたい事があるって」

「なら早く言え、本当に俺は暇じゃない」

「分かったわ」

 

 瑞鶴と天龍は畏まって机の前まで歩み寄る。

 そして何故か頭を深く下げた。

 

「提督さん、これからよろしくお願いします」

「提督……よ、よろしく頼む……」

 

 二人は感謝した上で改めて挨拶した。何故二人がいきなり挨拶をしたのか。それは元帥との会議中に聞いていた言葉だった。

 

 

『彼女達の概念を決めるのは我々人類ではない……彼女達自身だ』

 

 

 あの言葉で二人は確信した。

 提督の普段は艦娘を一方的に蔑み、暴力的な言葉で陥れる絶望的な人格破綻者。しかし隠れた本心はちゃんと自分達を大事に思ってくれている優しい人だった。今までポンコツ兵器と罵っても結局は気付かない内に守ってくれている、励まそうとしてくれている。

 

「あの言葉でやっと気付けた。提督さんは心の底では優しい人だって事」

「散々ポンコツ兵器って言っておきながらあの時提督は俺達の存在を選ばせてくれた……正直嬉しかった」

「だから何だ、気味が悪いぞポンコツ兵器共」

「これからもよろしくって事! 前任を全力で倒す為にこれからも一緒に戦ってほしい……だから!!」

「俺達も演習の編成に加えてくれ!!」

 

 机を強く叩き、堂々と言う瑞鶴と天龍。演習の編成は後一人が残っている。これから決めようかと悩んでいたが自ら申し出てくれた。

 

「……確かにあの前任を倒す為には力がいるし経験も必要だ。良いだろう、編成に加えてやる、だがしかし……あと一人だけなんだ。 叩いてかぶってジャンケンポンしろ」

「え……マジで?」

 

 ヘルメットとピコピコハンマーを出されて目を丸くする二人。演習の編成メンバー決定権を争うのに決められたルールは叩いてかぶってジャンケンポンとなった。

 

「叩いてかぶってジャンケンポン!! 勝ったわ!!」

「負けるかァ!!」

 

 ドア手前のソファとテーブルを使って瑞鶴と天龍は必死に争う。勝負というものの二人は熾烈に争っていた。ピコピコハンマーは潰れかけ、ヘルメットは少しずつ凹んでいる。

 

「何後出ししてんだ!!」

「後出しじゃないしーちょっと出すの早かっただけだしー」

「瑞鶴か……」

 

 勝敗は決まり、瑞鶴がメンバーとして加わる事になった。半分ずる勝ちだが。

 

「私の敵じゃないって事を見せてやあげるんだから!」

「畜生~!」

 

 瑞鶴は戦う気満々だ。今にでも腕を振るおうと躍起になっている。他の艦娘や天龍には申し訳ないがこれで決定だ。

 

「はぁ……まぁいいよ譲ってやる。それに今日は提督がどんな人か分かったしな、提督は」

「そう私達は人間だからね!」

 

 突然人間と言い出して提督は驚いた。早速自分達の概念を決めてきたのだ。生意気な奴だ。

 

「そうか……やっぱお前ら馬鹿だな~!!!」

 

 提督は椅子から立ち上がり、机を叩いて全力で煽る。

 

「いいかー! アレはあの平和ボケジジイを納得させる為の虚言だ、優しい言葉を一つや二つ、真面目に真剣なフリして訴えればまるで出来上がった砂の城を海の波に破壊されるが如く受け止めてしまう馬鹿なのだよ。お前らもその砂の城と同じなのだ、まんまと騙されおって馬鹿共め~!!」

「でも自由なんでしょ? 自分の存在を決めるのは自分の勝手、提督さんは兵器って呼ぶだろうけど私達は人間だから!」

 

 ここぞとばかりに調子づく瑞鶴。言葉の意味が理解できていない馬鹿なのか、それとも単純な馬鹿なのか、よく分からない。

 提督は頬を引き攣り、椅子に座った。

 

「……自分勝手過ぎて寒気がしてきたよ摩耶。早くコイツらを外に出してくれ、そして暖かいコーヒーを頼む」

「コーヒーは良いけど勝手に追い出す事は出来ないかなー」

「提督、本当は悔しかったりするだろ?」

「何故お前ら如きに悔しがらなければならない、馬鹿を通り越して大馬鹿に成り下がったか! 一度南極大陸の周りを五周ほど航海するといい、少しは頭を冷やせてマシになるだろう、馬鹿! ポンコツ! イキリ眼帯! ヒステリーツインテ!!」

「そんな愛情表現しなくてもちゃんと分かってからさ!」

「ハートが強過ぎる!! 本当の事を言ってるんだ、一回明石に脳みその奥まで診てもらえ!!」

「提督……」

「ひょっとしたら私達、気に入られてるのかも!」

気に入ってなぁぁぁぁぁぁぁい!!!!

 

 

 

 

――十五時、演習まで後二十二時間。

 

「以上が演習での編成メンバーだ。選ばれなかった者は随時に頑張ってくれ」

 

 演習の編成メンバーは鈴谷、加賀、金剛、長門、瑞鶴、古鷹。皆それぞれの目的を持って選ばれた艦娘達だ。

 差別した奴らに見返す為、更生した自分を証明する為、■■をぶん殴る為、そして前任を倒す為。これでこそ艦娘は初めて戦う意味を持ち、価値が与えられる。

 

「選ばれなかったからって訓練に参加しなくていいと思ったら大間違いだポンコツ兵器共。力を身につけて別に訓練に参加するのは自由だ。だがこれからも参加する者は気付いた時にはお前を置いていって強くなっているぞ。以上だ、解散」

 

 集まった艦娘達がバラけていく。訓練を続ける者、休憩する者、寮に帰る者と性格が別れている。演習は明日午後十五時、古鷹の為に特別なスケジュールを組んでいた提督。すると誰かに呼ばれた。

 

「提督」

「何だ長門」

「演習の編成なんだが……旗艦は私に任せてくれないだろうか」

 

 自ら旗艦になりたいと申し出た長門。これには提督も少し驚いていた。確かに長門は実戦経験が豊富で、艦娘達をまとめるリーダーシップさもある。

 

「今度こそは必ず艦隊をまとめてみせる」

「……はーん、任せようじゃないかだったら全力でやれ、慢心は死だと思う事だな」

「面白い、了解した」

「……よし古鷹!!」

 

 提督は古鷹を呼び止め、スケジュール表を見せる。そのスケジュール表に古鷹は目を飛び出させた。何も特別に徹夜明けまで訓練をする訳ではなく、いつもの訓練とそう変わらない内容だ。

 

「あ、内容は厳しめだぞ☆」

「は、はぁ……」

「俺は少なくとも十八時までには仕事を終えたい人でね。あー、お前らの言い方じゃヒトハチマルマルか。訓練は必ずヒトナナマルマルに終わらせる。もしお前が物足りないっていうなら自主練しても構わない、だがしかし!! 身体を壊す様な事をするなら編成から外す、分かったな?」

「わ、分かりました!」

「ってな訳でプリンツ、全力で(しご)いてやれ」

「了解しました!」

 

 隣にいたプリンツが敬礼し、古鷹を強制的に連れ込む。摩耶は通常通り近接格闘術を教えさせている。

 そして提督は一人、工廠へ向かった。

 

「おーい明石ーいるかー?」

「は、はい! 見ての通りここにいます!」

「見ても分からないから言葉で説明してくれ」

 

 工廠は相変わらず暗闇で油臭い。これで本当に開発が出来るのか不安になるレベルだ。

 

「一番奥の机の下でーす!」

 

 明石が手を振り、どこにいるかを教える。その場所へ向かう提督は明石の手を引っ張り、机の下から引きずり出した。明石は開発をしていたのか煤だらけである。

 

「何開発してたんだぁ、せめて物騒なモノじゃないと良いんだが」

「い、いえいえそ、そんな物ではありません! 丁度加賀さんに頼まれていた流星ちゃんが出来上がる所なんですよ!」

「へぇーにしては流星というよりも俺にはその奥にある()()()()()()()が気になって仕方ないんだがねぇ~」

「そ、そんな訳ないじゃないですか、流星ちゃんですよほら!」

 

 明石の言った通り、艦載機流星とその妖精が出てきた。どうやら間違いではないらしい。色々言いたい所だが提督は話を続けた。

 

「……まぁいい。それよりもだ明石、この改装設計図だが明日やってもらいたい事がある。詳しくはメモに書いてある」

「分かりました……しかし提督、この改装設計図ってどこで入手したんですか?」

「ん? 俺の保管庫」

 

 保管庫と答えられ、工廠を出ていく提督。改装設計図は通常、入手が困難な代物。提督はまるで依頼書の様に手軽に持ってきたのだ。中将といえどそこまで権力があるのだろうか。

 

 やがて夜になり、そろそろ就寝を迎える。その頃提督は南方の提督と元帥とで打ち合わせをしていた。

 

「演習開始時刻は午後十五時丁度、使用弾薬は演習用模擬弾薬、演習用艦載機。それ以外の弾薬、艦載機は禁止し、使用した場合は使用した方の負けとする。演習海域はこの■■鎮守府近海、それぞれ第一艦隊を戦わせる事とする。間違いはありますか?」

『いえ、こちらは大丈夫です』

『大丈夫だよー』

「ありがとうございます。では演習開始直前なんですが、今回は鎮守府近海というよりも目視で簡単に確認出来る程の距離です。事故防止の為にも私達は司令本部にて指揮を執り行います。そして艦娘達には司令本部の入室の一切を禁じ、広場にて観戦する形とさせていただきます。勿論貴方がたの艦娘を連れていただいても構いません」

 

 演習に備え、スケジュールを確認する。ビデオ通話で話し合いは円滑に進んでいった。

 

『目視で簡単に確認出来るという事は近いですね……こちらでも注意をしときます』

「ありがとう、■■中尉」

『私も司令本部という形かな?』

「はい、元帥殿は海軍をまとめるリーダーです。貴方の身に何かが起こる事は許されない、別室にてモニター越しに観戦していただけたらと思います」

 

 仮にも海軍のトップが演習の巻き込み事故で死亡したとなればビッグニュースだ。そうなればややこしい状況になるのは一目瞭然。基本、演習の観戦はあまり推奨されない。それ故に元帥は艦娘達の演習を指で数える程しか見ておらず、提督の演習を聞いては休暇を使ってでも観戦しようとしているのだ。

 

『分かった。承諾しよう』

「以上ですが何か質問はございますか?」

『ありません』

『無いよー』

「ではこれにて打ち合わせを終了とさせていただきます。皆さんのご健闘をお祈りします、地獄の果てというのを見せてやるから待っていろ■■中尉!!」

「喧嘩を売るな!!」

 

 やっと打ち合わせが終了し、束の間の休憩をする提督。

 夜二十一時。月の光が海を照らし、訓練に励む艦娘をシルエットで見えた。彼女達は今、何を考えているだろうか。

 

「さてこの演習が吉と出るか凶と出るか……見ものだ」

「気付いてくれるのか?」

「さぁねそれはアイツら自身だ。まぁ……期待する価値はある」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。