「やってくれるなぁ北上、流石俺が育てただけある」
北上と摩耶は海軍最強と謳われた艦娘だ。
提督と二人が共にいた鎮守府では演習は必勝、狙いは百発百中、敵を完膚なきまでに全滅させる存在。唯一深海棲艦が最も危険視していたと言われている。対空は摩耶が制し、雷撃は北上が蹂躙する。全艦娘に匹敵するその力は味方である海軍さえも恐れた。
本人の希望により、北上は新しい提督と共に危険な南方の鎮守府へ、摩耶は提督の元に配属。その力を大いに発揮した。
そしてこの演習でも――、
「鈴谷が大破かぁ……当たったみたいだねー、どうする赤城ー?」
「このまま普通通りにやるわ、行きましょう」
互いに距離を確認、射程距離まで接近する。空では戦闘機や攻撃機が航空戦を繰り広げていた。加賀と瑞鶴、赤城と山城は空に意識を向けている。依然制空権は加賀達が有利だ。
ようやく肉眼で確認出来た、互いに射程距離は充分にある。相手は殆ど格上、勝てる見込みは殆ど無い。それでも長門達は勝ちたい気持ちで溢れていた。
「鈴谷……!」
「加賀さん、頑張って……」
広場では多くの艦娘達が観戦していた。選ばれた艦娘を見守る者や蔑む者、応援する者と大勢だ。そこには最上や天龍、飛龍と蒼龍と差別された側の艦娘達。そして皐月や瑞鳳、ガングートも眺めていた。
「負けたら承知しねぇぞ……瑞鶴!」
「天龍、ジャンケンで負けたんだってな」
「選ばれなかった木曾には言われたくねぇな」
「なぁに次こそ選ばれてやるさ」
「同じく同意見だ」
「……頑張ってくれ、お前ら……!」
――――――――――――――――――――――
「……頑張ってるなぁ、加賀さん」
「身体を休めて、あか――」「信じてますよ、大丈夫です。加賀さんならやれます」
「……」
砲弾が青い海を飛び交い、海柱が上がる。容赦ない砲撃の弾幕に怯みつつあった。
だがそんな悠長な事は言っていられない。
相手を見定め、移動地点を予測、砲撃。
必ずしも当たらない訳では無かった。訓練の成果は発揮出来ている。とはいえダメージはまだ低い。
「主砲、放て!!」
「第二次攻撃隊、発進」
「弾着観測射撃、始めるよ!!」
「っ!! 伏せて長門!!」
加賀の掛け声に反応する長門。だが目の前には幾数もの砲弾が。北上と赤城を狙い過ぎた余り、武蔵に集中出来ていなかった。もし喰らえば轟沈判定は間逃れない。
万事休すか、そう思えた。だが――、
「金剛!!」
長門の目の前に金剛が咄嗟に現れた。金剛は砲弾に向かって砲撃、砲弾同士を直撃させ相殺する。しかし中破判定を食らってしまった。
現在
旗艦長門、被弾ゼロ
加賀、被弾あり
瑞鶴、小破判定
金剛、中破判定
鈴谷、大破判定
古鷹、小破判定
旗艦赤城、被弾あり
武蔵、被弾ゼロ
山城、小破判定
北上、被弾ゼロ
神通、被弾あり
綾波、小破判定
「やはり高速戦艦……移動が素早いな。おかげでこちらの山城は貴様に翻弄され小破判定だ……だが!! これに耐え切れるかな?」
武蔵が身構える。砲弾を三式弾に切り替えた。一方で金剛も新しく装備した模擬用三式弾に切り替える。
『……本物か、アレは』
「ほう面白い!! そちらの金剛も持っているのだな!! だったらどちらが先に倒されるか我慢比べと行こうか!!!」
「艦隊、緊急回避!!」
「こちらも動きましょう!! 武蔵さん!!」
『やはり三式弾の使い方はどちらも特殊なようだ、白さん』
『……だろうな』
旗艦である長門と赤城が命令を出した。三式弾は元々敵艦載機を破壊する為や飛行場を破壊する為の物。本来は艦隊に向けるものでは無い。
だがそんな事など本人はとうに知っている。それでも武蔵と金剛は艦隊に直撃すれば持続的にダメージを与える事を知っている。両艦隊ともそれは避けたいはずだ。
「「勝つのは……」」
「私だ!」
「私ネ!!」
互いに一斉砲撃。撃たれた三式弾は一気に展開、焼夷弾子がばら撒かれる。敵機諸共追撃し、やがて艦隊に辿り着く。
不幸な事に武蔵の三式弾の方向は長門達に真っ直ぐ直撃。金剛の三式弾は僅かに狙いを逸れた。
『旗艦長門小破、金剛大破、加賀小破、瑞鶴中破、鈴谷大破、古鷹中破!!』
「よく耐えた……がそこで諦めるつもりは?」
『無い!!!』
「よーしならば行くんだ。綾波に気をつけろ、お前らも分かってるとは思うが正確に着弾させている。加賀に任せてみろ、古鷹は加賀を守りつつ距離を取って攻撃。長門はまだ損害が少ない、攻撃は最大の防御だ。少しずつじわじわと相手の艤装を攻めてみろ。瑞鶴は出来るだけ艦載機の矢を加賀に渡しながら周辺を警戒、中破だったら出来る事はそれくらいだ」
長門ではなく古鷹が答える。古鷹以外のメンバーも同じ気持ちだ。
大破した鈴谷を護った金剛は大破判定に。瑞鶴も中破判定、飛行甲板がボロボロだ。古鷹も少々疲れが見えている。
だがこの六人はそんな事で諦めるバカでは無い。勝つ為に彼女らは戦っているのだ。
「瑞鶴が……!」
「あの三式弾の使い方は初めて見た……あれだけのダメージとは……」
「チッ……」
「もう無理なはずだよ……何で終わらないの……?」
遠くて観戦していた最上達。こちら側の劣勢に焦りを感じていた。実力は天と地の差、南方の艦隊の方が格上に決まっている。
それでも彼女達は諦めない。
「多分……長門さん達は何か目的があるんだよ」
「目的……?」
「分からないけど……きっとそうなんだと思う、そういう顔をしてる」
「だからよく見るといいゴミしかいない鉄屑共、銃殺刑にされたくなければ彼女達の勇姿を見届けるんだ」
「加賀さん達の勇姿……!」
――――――――――――――――――――――
『旗艦赤城小破、武蔵被弾あり、山城小破、北上被弾ゼロ、神通小破、綾波小破です』
「単縦陣に切り替え追い詰めろ、相手はかなりの深手だ……左から一気に畳み掛けろ」
『了解です』
中尉の指示通りに赤城達は一気に攻め込んだ。それに気付いた提督は指示をする。
「奴らは一気に畳み掛けるつもりだ、恐らく正面からではなく右回りからT字戦有利に持ち込むはず。単横陣を維持、正面からの砲撃で迎え撃つ」
『了解!!』
「……さてどう動くか……鈴谷、加賀」
通常艦娘は側面からの攻撃に弱い。
何故なら艦娘の艤装の砲門はほぼ正面に向いているからだ。であれはそこで単横陣に切り替えれば正面から全砲門を相手側に向けられる。それは相手も同じ事。
「大丈夫か鈴谷! 金剛!」
「うん……大丈夫、まだ戦える……」
「大丈夫……まだ行けるネ……!」
「ごめんなさい加賀さん……私……」
「大丈夫よ、私に任せなさい……長門、提督の言う通りに相手艦隊が右回りから攻めてきたわ!」
「分かった、急ごう! 話している時間は無い! 主砲、撃て!!」
右回りから。つまりは相手は単縦陣か単横陣の可能性がある。そして未だに大破すら追い込めていない上に満身創痍な自分達を徹底的に畳み掛けるつもりだ。
依然こちら側は航空優勢、弾着観測射撃も可能。
「また撃破されたッ! あの武蔵……予想以上に厄介よ……ってまさか!!」
赤城が弓を構える。放つ矢の名は天山と彗星。加賀達の艦載機を撃破したのは武蔵達では無い、赤城の攻撃機と爆撃機だ。こちらに真っ直ぐ向かってくる。
『成程……お互い勝つ為ならどんな手段でも使うってか……似た者同士はキツいな』
「対空戦闘準備!!」
加賀の声に長門が全員に呼び掛けた。赤城が繰り出した艦載機を撃ち落とそうとする。精一杯の対空攻撃で何機か撃破するも発射された魚雷が直撃する。
「しかも通常戦闘に使われる本物だ、演習用じゃない。これがジジイにバレれば大本営で議会モノだぁ、だがジジイもそれを分かって許している。何故かは分からんが……」
「ルール違反もいいとこだな」
「何を言う摩耶、俺だってルール違反の一つや二つやっている、だがそれは例外だ。恐らくジジイと中尉は敢えてわざと本物を使っているのだよ……アイツらを確かめる為に」
「確かめる、ねぇ……」
提督が元帥や中尉を睨む。本物の三式弾、本物の天山や彗星。本来であれば演習はとっくに終わっているはずだ。勿論こちらの勝利となる。
だが元帥は演習終了の合図を出さず、悠々と観戦していた。実際長門達を確かめてるのかも怪しい。自身が演習を観戦したいという欲の為に知らないフリをしているのか、はたまたボロボロの艦娘達を眺めるのが好きなド変態か。何を考えているのか分からない。だから提督は元帥の事が嫌いだ。
「敵艦隊確認、砲雷撃戦始め!!」
「主砲狙って……撃てッ!! ぐわッ……!!」
「私が肩代わりに……グッ!」
「瑞鶴!!」
――――――――――――――――――――――
「瑞鶴、大破判定。このまま雷撃戦に移るよー」
「トドメは任せます」
赤城達の一方的な砲雷撃戦により、更にダメージを負う長門達。長門と古鷹は中破判定、金剛と鈴谷と瑞鶴は大破判定、加賀は小破判定。
砲弾と魚雷がこちらに向かってくる。
それに構っている暇も無い。
砲弾が頬を掠め、脚に直撃する。
飛行甲板もほぼ使用不可能、相手は容赦無く襲い掛かる。北上の魚雷が鈴谷と加賀に向かっていった。判断が遅れたのか鈴谷と加賀は――、
「鈴谷ぁぁぁ!!!」
「加賀さん!!!」
――私達は馬鹿な艦娘だ。
――仲間を蔑み陥れ、何も出来なかった哀れなクズ。
――目が覚めても己の不甲斐なさに心が押し潰されそうだった。
――私達は今まで何をしていたの? 友達を仲間を家族を、私は全て見下していたの?
――……そう、見下していた。私達は優秀だと思い込んで弱者を踏み
――だけどそれは全て幻想に過ぎなかった。私達が目を覚ました時は地獄でしかなかった。特定の艦娘だけ私に怯え、姉妹である最上や熊野、仲間の飛龍達でさえも怯えていた。
――私達は全てを察した。そうか私はこの鎮守府ではあの悪魔共の仲間なんだと。二度とあの仲の良い関係は戻らないんだ、と。
――それでも私達は謝りたかった。自分のした行いに対して何度も何度も土下座して謝った。一回、大丈夫だと言われた事もある。その時は少し嬉しかった。でも提督が言うように私達は『許す』の一言すら聞いていない。
――だから今まで心の隙間が開いていたままなのかもしれない。嬉しくても悲しかったのかもしれない。被害者の本当の気持ちすら理解していなかった馬鹿だ。提督にポンコツ兵器と呼ばれても何もおかしくない。
――愚かな事に私達は償う為に差別を無くそうと前に進もうとした。だけどその巨大な組織力と圧倒的な力を前にそんな事は出来なかった。
――何が償いよ、何が関係を戻したいよ。理想ばかり追い求めて現実を見ようともしない。目が覚めても結局は何も出来ないポンコツだ。提督の言っていた事は全て当たってる。
――だけど提督はそのポンコツ兵器である私達を支えてくれた、手伝ってくれた。今度こそ反抗出来る、戦える。だから――、
『お前らは何も出来ないポンコツ兵器だ』
「……何も……出来ない訳じゃない……!」
倒れた鈴谷と加賀が最後の力を振り絞り、立ち上がった。
血反吐を吐いてでも身体が悲鳴をあげてでも戦おうとする意志が彼女達を立ち上がらせたのだ。
「私達には私達なりの……!」
艤装を掴み、弓を握る。その痛ましい姿と勇気ある行動に皆注目していた。
「償いがあるんだから……!」
魚雷を受けてもなお立ち上がる鈴谷と加賀。轟沈判定に近い加賀、轟沈判定の鈴谷は立つことすらままならないはずだ。
提督のおかげで奴らに刃向かえる力がある。反抗出来る力がある、野望を叶える力がある。
「例え逆境に阻まれようとも……!」
「例え足を一本失ったとしても……!」
「例え誰かに馬鹿にされても!!」
「例え誰かに差別されようとも!!」
徐々に鈴谷と加賀の身体が淡く光り出す。
「私達は!!」
諦めていない。
「皆や熊野達に!!」
「赤城さんや飛龍達に!!」
命ある限り。
「謝らなきゃいけない!!!」
今度は本当の自分を曝け出して。
「だから……!!」
どうしても勝ちたいんだ。
「負ける訳には……!!」
目が覚めた自分を見て欲しいから。だから負ける訳には――、
「「いかないんだァァァァァァ!!!」」
叫んだ途端に鈴谷と加賀が光に包まれる。
加賀の正装が一変し、飛行甲板が砲台へ変貌した。
砲撃や魚雷によってボロボロの服装は修復され、壊れかけた艤装は更に新しい装備に生まれ変わる。
艤装が変形し、幾つもの砲塔が出現。戦艦の様な艤装に生まれ変わった。
改装設計図が光となって消えていき、鈴谷と加賀の中へ取り込まれる。
「何あれ!! 鈴谷が光ってる!!」
「加賀さんも! なのです!!」
「まさかっ!!」
観戦していた艦娘達も驚いていた。突然の変化に目を輝かせている。一方で悔しがる者もいた。
「凄いよあの加賀さん!!」
「ガングートさん……あれは……」
「あぁ……改装だ」
ガングートが最上達を見る。鈴谷と加賀の本心を聞いた彼女達は何を思っただろうか。
「鈴谷……」
「加賀さん……」
「白さんまさかそこまで……っ!!」
「ほう……そう来たか白くん」
「……当たり前だ、まぁ少し焦ったけどな」
光に包まれた鈴谷と加賀が光を放って再び現れた。改装設計図を使った事で新たな艦娘として生まれ変わったのだ。
「改鈴谷型航空母艦、鈴谷……」
「加賀型戦艦、加賀……」
「「出撃」」