うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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31. 「友愛」

『鈴谷は優しいね、安心させてくれる』

『そう言って手伝ってくれる加賀さんはとても良い人だよ』

 

 誰かの声が聞こえた。とても懐かしく、そして聞き覚えのある声。

 誰だかは分からない。でもその声を聞いて鈴谷達は――、

 

 

――立ち上がる。

 

 

「負けない……!!」

 

 戦艦として一時的に生まれ変わった加賀と軽空母として生まれ変わった鈴谷。二人の存在感は全ての注目を集めた。

 

「戦闘中に改装だとッ!? 一体どうやって!!」

「驚いている暇はないわ武蔵! あの二人を優先して!!」

 

「長門!!」

「あぁ!!全艦、攻撃開始!!」

 

 長門は二人を中心に戦闘を再開、護衛しつつ砲撃を開始する。赤城達も咄嗟に戦闘を再開させた。

 

『加賀、その改装は時間制限付きだ。効率良く使え』

「了解したわ……ありがとう」

『……構わない、全力でやれ』

 

 加賀は重い艤装を展開し、全門斉射。砲撃の弾幕は赤城達を襲い掛かった。赤城が出した攻撃機によって損害を受けるも、絶え間ない砲撃で武蔵や綾波に直撃する。

 

「やはり隠し持っていましたか……そちらの加賀さんは……!!」

 

「とっておきは最後に残す派なのよ」

「行くよ……攻撃隊発艦!!」

 

 クロスボウのような物で攻撃機を発艦する鈴谷。狙うは自分を大破まで追い詰めた北上、今度は外さない。やばいと思ったのか北上も冷や汗を流し跳躍、撃ち落としつつ魚雷を発射する。

 しかしその魚雷は全て金剛によって防がれた。

 

「金剛!!」

「いいから早く!!」

 

 それに合わせて長門達も砲撃。

 同時に古鷹も主砲で砲撃、魚雷を発射する。

 鈴谷が発艦させた攻撃隊により、気を取られてしまったおかげで無駄なダメージを負う神通、綾波。新たな戦艦である加賀の存在は脅威でしかない。鈴谷達の影響により戦況は変わりつつある。もう少しで押し込めば勝てる。

 

「このままでは押されてしまいます! 赤城さん!」

「対空攻撃をやめないで! 武蔵!」

「分かっている!!」

 

「……チッ……提督には悪いけど、面倒だから近づかせてもらうわー」

『ダメだ北上、戻れ!!!』

 

 しかし北上は単騎で長門達に突撃した。接近する北上に気付いた鈴谷と加賀は近づかれる前に倒そうと全力で止めにかかる。

 

『陣形は輪形陣を維持、北上を止めろ!!』

「「了解!!」」

『陣形はそのまま維持だ。加賀は北上に集中砲撃、その他は鈴谷と加賀を全力で護れ。ここが正念場だ』

「「了解!!」」

 

 北上は単騎で海を駆け走っている。

 次々に来る砲弾の雨を回避。魚雷を投げナイフのように持ち、海に発射させる。

 軽やかな動きで迫り来る攻撃を華麗に回避していく。

 中々攻撃が当たらない。北上一人で長門達を追い詰めていく。

 砲撃も当たらない、魚雷も当たらない、一方的に蹂躙していく。北上の本領発揮だ。

 

「夜戦前に全員沈もうか!!」

 

 夜戦をやるまでの相手ではないと言葉でさえも追い詰める。それでも鈴谷達は諦めない。

 

「……負ける訳にはいかないのよ……!! この海に立つ私達には……!! 成し遂げなければいけない野望がある!!」

 

 負けたくない。

 謝りたいんだ。

 

「大した野望だねぇ」

 

 新たな姿と力で。

 更生した自分の姿で。

 

「私達は今まで醜く生き抜いた! だから皆に謝らなきゃいけない!!」

 

 勝ちたい。

 存在を示す為に。

 

「醜いねぇ」

 

 勝たなきゃいけないんだ。

 二度とあんな思いはしたくない。

 

「この姿を笑う奴がいるかもしれない! それでも私達は前を向く、後ろには引かない!! ずっと!! この先もッッ!!」

 

 

 

全力で、力ある限り。

 

 

 

「……だったら……その姿を証明してみてよ!!!」

 

 二人の勇姿に敬意を払い、北上が挑戦を受けた。雰囲気がガラリと変わり、細い目が開く。

 初めて見せた瞳で鈴谷達を再確認した。

 両腕を少し広げ、風を纏う。

 水しぶきが上がる。本気を出すつもりだ。

 

 そして鈴谷と加賀も背中を合わせる。

 同じく風を纏い、艤装を構えた。真剣な眼で北上を睨んだ。

 

『まさか……』

『流石に止めないとまずい!! 赤城早くしろ!! このままではあの鈴谷達がどうなるか分からない!!』

 

 提督が危険を察知し、中尉が慌てて命令する。こうなれば北上が止まらない事を二人は知っているからだ。殲滅するまで戦うのをやめない北上。止められるのは、摩耶一人のみ。

 

 先制攻撃は加賀。今持ちうる全ての弾薬を使い果たす。全門斉射された砲弾の雨が北上に一直線へ向かっていった。

 北上は急発進、急加速。海上を低空飛行し、砲弾の雨を回避。加速したまま真っ直ぐ鈴谷達に接近する。

 

「(良いねぇ……!! ありったけを!! 全力でかかってきなッ!!!)」

 

 次に鈴谷が艦載機を繰り出した。蝙蝠の集団の様に無数にある。

 

 今までこんな事が出来るなんて夢にも思わなかった。醜い自分達が己自身の野望の為に戦っている。些細な事なのかもしれない。ちっぽけな勇気かもしれない。

 それでも勝ちたい。

 本心が震えていた。

 血湧き肉躍る、と。

 最後まで戦い続けてやる、と。

 

「提督……」

『ん?』

 

 北上が魚雷を一斉に発射。左手を前に出し、右腕を引く。

 艦載機を一斉発艦。北上に爆弾を落としていく。

 

「……ありがとね」

 

 もう阻止は不可能か、そう思えた。

 

 

 

 

『演習終了!!』

 

 元帥の声が響いた。その声に合わせて長門達や赤城達は攻撃をやめる。そして北上も殴る寸前でストップ。腕を構えたまま身体が止まり、一斉に水柱が上がる。

 

『演習は終了ね!! もう君達は充分に戦った、成長もした、もういいだろう!! 白くん、■■くん、分かったね?』

『……分かりました』

『……分かりました。では元帥殿、勝敗をお願いします』

 

 

 

『勝敗は……■■くんの艦隊、戦術的勝利!!』

 

 

 

「チッ……終わりか……っ?」

「……まだ終わってない……私はまだ……」

 

 演習終了の合図と勝敗の有無を聞いて鈴谷は崩れ落ちた。どうしても戦わなければならなかった、どうしても勝たなければならなかった。だが演習は終わってしまった、夜戦もせずに。絶望に打ちひしがれる鈴谷と加賀に北上は言葉足らずの応援を送る。

 

「あー……その、鈴谷と加賀だっけか。強かったよ、正直面倒くさかった」

「でも私は……負けた……」

 

 面倒な事が嫌いな北上。

 深く溜息を吐いて、言葉を吐き捨てその場を去った。

 

「……そう思うのはまだ早いかもよ、んじゃ私はこれで」

 

 座り込む鈴谷に寄り添う長門達。加賀もまた信じきれない顔をしていた。正規空母に戻り、艤装の負担で倒れ込む。瑞鶴と共に肩腕でお互い支え合った。顔は下を向いたまま、何も話さない。

 皆放心状態だった。結果は誰もが分かる。勝ってみせると思っていたからだろうか、提督の期待にも応えられず、長門達にとって敗北の字を受け入れる事は簡単に出来なかった。

 

「ありがとうございました……また機会があればお願いします」

「白くん頑張ってね」

「はい、ありがとうございます」

 

 南方の中尉は艦隊を引き連れ、ヘリで帰投。元帥も送迎用のヘリで帰っていった。残ったのは何故か皐月と瑞鳳とガングートのみ。

 

「何故お前らは帰らない」

「元帥から三日間ぐらいならここに居てもいいって許可貰ったから、居残る事にしたの」

「あのクソジジイめ」

「これで司令官とまた一緒にいれるよ!」

「お前らが居て迷惑でしかなかったのを覚えてるかー?」

「ありがたく思う事だな」

「残念な気持ちでしかないねー」

 

 どうやら元帥の気まぐれで皐月と瑞鳳とガングートは三日間程滞在するらしい。こちらとしては凄い迷惑だ。派手な行動はよしてもらいたい。

 

「さて……」

 

 プリンツに皐月達の案内を任せ、摩耶と二人で執務室に向かう。執務室に入れば見れば分かるほどの喪失感が漂っていた。

 長門達が顔を俯いたまま、机の手前で立っている。提督はそれを確認し、椅子に座って長門達の顔を覗いた。

 

「見事にやられたな」

 

 提督が摩耶が作った演習の報告書を読み上げる。

 

「……旗艦長門大破、金剛轟沈判定、加賀大破、瑞鶴轟沈判定、鈴谷被弾ゼロ、古鷹大破。色々あってこのザマだ」

 

 報告書を机に投げ出し、足を組む提督。期待に応えられなかったのが苦しいのか目すら合わせない。

 

「……もう、反論の余地も無い」

「だろうなぁ、だが行動自体は悪くなかった。もう少し強くなればアイツらの一人ぐらい大破に持ち込めただろう」

 

 爪の間のゴミを取り除き、どこかへ弾き飛ばす提督。長門達の不穏な空気など気にせず、気楽に喋りだした。

 

「アイツら相手に善戦したんだ誇りに思え。他の奴らだったらワンパンKOだったんだ、ましてや最強の艦娘と呼ばれた北上相手によく戦えたもんだ」

 

 最強の艦娘、北上。

 本物の天山、彗星。

 本物の三式弾。

 イレギュラーを(ことごと)く受けた長門達は善戦していた。本来であれば他の艦隊など塵と化していただろう。少なからずも小破まで追い込む事は出来た、訓練の成果はちゃんと出ていた。

 

「……何か不服そうだなぁ鈴谷」

 

 納得のいかない敗北に悔しがる鈴谷。今思ってでも反省点が山のように浮き上がる。ようやく新しい姿で戦況が変わりそうだったのに、今度こそ見返してやると思ったのに。こんな結果はあまりにも悲し過ぎる。

 

「勝てなかった……」

「そうだなぁ、メッタメタのボッコボコだ」

「勝てなきゃ何も出来ない……のに……」

「そりゃあ残念だ」

「最上達にも謝れない……!」

 

 目に溜めた涙を手で覆い、腰を下ろす鈴谷と加賀。あの惨めな姿を見て皆はどう思ったのだろうか。恐らくざまぁみろと思ってるはず、いやそう思ってくれた方が良いのかもしれない。

 どうせ自分達は誰一人倒せずに負けてしまった無能な鉄屑だから。

 

「……言っておくが……勝ってるぞこの演習」

「……え」

「アイツらは元々負けるつもりで戦っていた。あからさまにルール違反していたからな、恐らくお前らを確かめてたんだろう」

 

 武蔵が本物の三式弾を使用していた辺りから既に勝敗は決していた。相手がルールに違反すれば自分達の勝利となるこの演習。恐らく南方の中尉は負ける事を前提で演習に挑んだのだろう。この鎮守府の艦娘達が立ち直れるように。恐らく元帥が後ろで糸を引いていたに違いない。それを思わせる行動が密かに確認出来たからだ。

 そして今、元帥はこの演習をわざと戦術的勝利と判断し、密かに処理させている。ただでさえ演習申請もせずに秘密裏に行われたこの演習、バレれば大目玉を食らうのは元帥なのだ。元帥自身も色々な事を含め、丸く収めて欲しかったのだろう。

 

「それにお前らの考えも少しは理解してくれたようだぞー」

 

 執務室のドアから最上や熊野、飛龍や蒼龍、その他の差別された艦娘達がゾロゾロと入ってきた。

 

「鈴谷……その……」

「……」

「……本当はとても怖かった。目を覚ましたと聞いても信じられなかった。また何かやってくるんじゃないかと思ってた」

「私も同じでしたわ……姉である鈴谷に散々な目に合わせられて突然謝ってきたと思えば操られてたなんて言い訳、信じられるはずがありませんもの」

「……だよね」

 

 提督の言う通りだ、自分達は全く許されていない。鉄屑が何をしようがもう無駄なんだ。

 

「でも……もう良いんだ、あの時の演習で聞いただけで分かったよ……本当は許せなかったけど、今なら言える……」

「許してもいいかな……って……」

「最上姉……熊野……」

 

「加賀さんのあの姿、とても格好良かったよ!! 凛々しい姿をした戦艦の加賀さん!!」

「加賀さんならまた倒せるよ!!」

「飛龍……蒼龍……」

「……はぁ……もう……この辺にしておきましょうか」

 

 悲しみの涙が嬉し涙と変わる。滝のように流れ出す涙。拭いても拭いても止まらない。

 

「鈴谷」

「なに……?」

「あの事は許します、また仲良くしよ?」

「加賀さん。貴方の事は許しますし、水に流しましょう。また私達の手を取ってくれますか?」

 

 他の艦娘達も賛成していた。何も同調したから賛成した訳では無い。この二人が本当に謝りたいという気持ちを目の前で教えてくれたからこそ初めて許すという感情が芽生えた。決して態度や言葉でも無い、自分が起こした行動で自分を証明したのだ。

 

「ぅあ……ぁ……」

 

 鈴谷と加賀は溜まっていた感情が爆発。

 その場で泣き崩れ、艦娘達にしがみついた。その姿を見て皆励ましている。答えてくれなきゃ困ると笑いながら話していた。鈴谷と加賀は泣きながら何回もはい、と答えた。話せる限り、時間のある限り、答えた。

 

 誰かが思う。

 その光景はどこか、いつもの日常に見えた気がした。

 

 

 

 

 

「……さて、他の四名だが……」

「っ!」

「お前ら全然まだまだ訓練が足りないようだ! 本当に俺らが教えた事を実践したのかぁ? どうせロクに成長もしないポンコツ兵器共だ、一度イギリス海峡に行ってロイヤルネイビーに扱かれてくといい! 以上だ馬鹿共ォォ!!!」

 

 長門達にありったけの罵詈雑言を浴びせる。一人ずつ指をさしながら、嘲笑った。それに対し、瑞鶴が反抗する。

 

「提督さんの指示が悪かったんじゃなーい?」

「人に責任転嫁とは落ちる所まで落ちたようだな、頭の中が楽しそうで何よりだよ!!」

「一々提督さんは煽らなきゃいけない身体なのかな、今までの雰囲気がぶち壊しなんだけど!!?」

「黙れ、ここは俺が仕事をする場所だ俺に主導権がある!!!」

 

 提督と瑞鶴が取っ組み合いになる。お互い手の平を合わせ、口喧嘩が勃発した。両者負けじ睨み合いながら力を入れる。

 

「何をやっても無駄だ! 俺に勝つなんぞ上空五千メートルからピンポン玉をマンホールの穴の中に入れる事と等しい!!」

「入れてご覧にいれましょう、上空五千メートルからピンポン玉をマンホールの穴の中に!!!」

「やれるものならやってみたまえ、このどぐされヒステリックアングリーバードォォォ!!!!!」




Part.2 万里一空のガーネットはこれにて閉幕。Part.2をざっとまとめるなら「会心の一撃」ですかね。
You Say Runって感じのノリで戦闘シーンは書いてました。やっぱ戦闘シーンは難しいです。
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