うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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35. どちらも譲れないとしたら

 急いで執務室へ向かう提督。これからの危機を全て回避する為、作戦を練り上げる。それと同時に呉鎮守府にいる後輩と連絡を繋いだ。

 

「青葉、俺が代わろう」

「は、はい!」

「もしもし私が代わりました」

『どうしたんだい白くん、慌てて連絡してきて』

「現在の前任の居場所を特定しました」

『……詳しく話を聞こうか』

 

 元帥の声が明らかに本気になったのが分かる。いつも軽々しく平和ボケしたおじいさんの様な声がドスの効いたヤクザの長の声と早変わりだ。提督は何故前任の居場所が特定出来たのかその経緯を詳しく説明。深海棲艦を鹵獲した件を報告しなかった事も順次教えていく。

 

「奴は今、呉鎮守府にいる可能性がかなり高いです。今すぐ艦娘以外の従業員を全員調べる必要があります」

『成程……分かった、許可しよう。呉鎮守府に憲兵隊を送る。それから君が深海棲艦を鹵獲した件についてはこの件にて帳消ししておこう』

「ありがとうございます」

『あと君の鎮守府が襲撃される可能性もある。作戦は?』

「現在計画中です、奴が考えた作戦ではこの鎮守府を襲撃する作戦日時は明日の午前六時。ちょうど朝日が昇る頃に始まるかと思います」

『一度緊急会議を開く、ビデオ通話にしてくれ』

 

 不測の事態に元帥が各鎮守府の軍人達を緊急招集。モニター越しに緊急会議が開かれた。

 元帥は前任と深海棲艦の関係性を説明、提督は仮面を被ったまま事の説明をする。

 

『この呉鎮守府にですか!?』

「そうだ。全て嘘のように聞こえるが全て本当だ。君の呉鎮守府にいる可能性が高い。すぐさま憲兵や清掃員、整備士など徹底的に調べ尽くせ!」

『わ、分かりました! おい、今すぐリストを用意しろ……すいません、こちらは機密情報漏洩を防ぐ為、席を外させて頂きます。作戦の立案は他の皆様に任せたいと思います』

『分かった、武運を祈る』

 

 呉鎮守府の後輩が念の為に会議を離席。モニターに各鎮守府の軍人達が顔を出して、会議を続ける。

 

「■■少尉、最近横須賀鎮守府にて鹵獲した深海棲艦はいるか?」

『は、はい! 五月二十五日午後十四時頃、自ら鹵獲を頼んできた深海棲艦、港湾棲姫を鹵獲し、しました……』

「何か尋問はしたか? 何か聞かれた事はあったか?」

『はい……敵勢力の詳細と何故ここに来たのかを吐いてもらいましたが、聞かれた事と言っても私個人の事と初代深海提督の存在有無、そして自殺を懇願してきた事ぐらいです』

「港湾棲姫の処遇は? 艤装はどこにある」

『現在は艦娘の監視下の中で保留、艤装は特別倉庫にて保管してあります』

 

 実は摩耶が飛行場姫を鹵獲した時、遥か遠くの横須賀鎮守府でも港湾棲姫が鹵獲されていた。鹵獲した港湾棲姫の責任者である■■少尉が細かく説明していく。

 

「であれば港湾棲姫の身体に盗聴器、艤装に発信機が取り付けられている可能性がある。即座に調査してくれ」

『りょ、了解しました!』

『その発信機と盗聴器は一体どうやって入手したんだ』

『いや深海棲艦が作った可能性があるだろう。今はそんな事を考えている暇は無い』

『そうだぞ、んで作戦提案はどれくらい考えてるんだ?』

 

 軍人達が画面越しに話し合う。北方海域を務める者や南方海域を務める者、各地方の鎮守府を纏める司令官、舞鶴や佐世保の司令長官など曲者揃いだ。

 

「先手を打てる奇襲作戦を考えています。現在、この鎮守府で空母達が警戒網を張っておりますので姿が確認されるのも時間の問題でしょう。あちらが大規模爆撃を行うのであればこちらもその手を使うまでです」

『ちょっと待った』

「どうしました■■少佐」

『前任が元いた鎮守府を破壊してくる理由は分かるわ。だが何故東京と横須賀を狙いにいれたのよ?』

 

 珍しい女性の提督が疑問を口にする。確かに鎮守府を破壊したいだけなら何故東京や横須賀を巻き込む様な真似をするのだろうか。

 それを考えた本部にいる■■大将が閃く。

 

『それさえも囮……』

『……っ!!』

「……そうです」

『どちらが被害の規模が大きいかは明白だ、もし囮だと分からなければ誰しも戦力をこちらに移すからな。だから奴はそれを逆手に取ろうとした、わざとここを範疇に入れる事で大幅の戦力を移動させ、数少ない戦力を残した君が受け持つ鎮守府を速やかに破壊する……』

「ご名答です、■■大将」

『なぁに君が気付いてくれたおかげだよ。かと言って、こちらに攻撃が来ないとは限らない。逆という可能性もある、それ相応の防衛戦が必要になるだろう。君の鎮守府はそれ以上にだ』

 

 大将は元帥と同じく大規模作戦においての功労者。体格は凄まじく、身長も高い。優れた戦闘指揮と賢い頭脳の持ち主だ。

 

「恐らく私の予想では、姫や鬼クラスは総勢十二名。その他の深海棲艦は二百匹の可能性があります」

『白君の摩耶による『予感』か、とても役に立つ力だ……さて、そろそろ決めよう』

 

 会議は順調に進むも、行先は不安だ。久しぶりの大規模な作戦になりつつある。深海棲艦の親玉である前任の愚行をどう制止させるか、慎重に事を進めなければならない。

 

「こちらとしては戦力は不足しています。出来るだけ多くの戦力が必要です」

『であれば呉鎮守府と駿河鎮守府は全面、白くんの鎮守府の援軍に行かせよう。我々は横須賀鎮守府を中心に警戒網を貼る。もし敵艦隊が確認された場合は構わず戦闘だ』

『了解しました』

『了解です』

『南方海域の君達は防衛線を維持してくれて構わない。持ち場には君達が必要だからね』

『了解しました』

『では解散だ。皆、武運を祈るよ』

 

 元帥が作戦指揮の元、会議が終わる。モニターでの会議を終えた提督は足を机に乗せ、帽子を顔に被せた。

 

「……」

「これ程大規模とは思いたくなかったなー」

「まさか大本営まで絡んでくるとは夢にも思わなかったからな……勝てる見込みは?」

「あるにはある。だがそれはあくまでアイツら次第の話だ」

 

 優秀な指揮官がいてもひ弱な兵士であれば作戦を成功させるのはとても難しい事だ。その逆もまた然り。

 

「作戦は既に考えている。かつてないほどの奇襲戦であり、防衛戦、消耗戦だ。資材は余るほど残っている、相手を一方的に殲滅するまで蹂躙するぞ!!」

 

 急いで艦隊の編成と艦娘達の戦闘能力を確かめる提督。プリンツと摩耶がまとめたデータを元に思考を張り巡らせる。今回に至っては演習ではない、戦争だ。下手な気持ちで戦闘に挑んではいけない。

 

「プリンツ、各ポンコツ兵器共の成長具合を具体的に手短に言ってくれ」

「凄い無茶振りだねAdmiral……まぁでも皆さんの命中精度は上がっていますし、鈴谷さんなんか他の空母と張り合ってもおかしくないほど戦闘能力は上昇しています」

「翔鶴、榛名辺りはどうだ摩耶」

「元から強かったおかげか成長した艦娘達よりも強くなってきている。主力艦隊にいれても問題ないだろう」

「把握した。空母機動部隊が必要だ、飛龍と蒼龍はどうだ加賀」

「即時戦闘可能よ、充分に戦えるわ」

「ならばよろしい、空母機動部隊の旗艦は加賀に任せる。編成のメンバーもお前に一任しよう」

「分かったわ」

「提督! ■■町の住民の避難が完了しました!」

 

 青葉が執務室のドアを勢いよく開き、報告する。どうやら町の住民達による避難が終わったらしい。

 

「逃げ足だけは無駄に早いからな我々国民は。さーて手加減する理由は無くなったわけだ、全力で戦えるぞお前ら」

「Admiral、呉鎮守府から伝達です! その人物らしき映像を入手したとの事、現在解析中のようです! 更に呉鎮守府の第二倉庫の管理室で意識不明の男性が発見されました! いずれも重体で、名前は……■■■■中尉……これって!!」

「その報告は本当かプリンツ」

 

 呉鎮守府からの伝達を疑う提督。プリンツが持つ報告書を無理矢理奪い、自分で読んでいく。この中尉は提督の後輩だ、まさかとは思えない。

 

「……別にプリンツを疑ってる訳じゃないが、疑問しかないんでね」

「でもAdmiral……写真が……」

 

 プリンツが持つノートパソコンに写された写真。そこには刃物で刺された後輩が写っていた。それを見て提督は机を叩き、歯軋りする。

 

「手口が雑なだけに面倒な事をしてくれたなぁアノ無能野郎……」

「もしかしたら……あの会議の内容も聞いている可能性がある……かなりまずいぞ提督」

「……分かっている、だから偽造工作の可能性も高い。調べてくれプリンツ」

 

 落ち着きを取り戻した提督は再度まとめられた艦娘の戦闘能力を見定める。何十名いる艦娘達をそれぞれの能力が発揮出来る艦隊に再編成させなければならない。

 

「あの場で作戦内容を言わなくて良かった、話をずらして正解だったようだ」

「だが奴らの作戦時間はバレているのは聞かれているぞ提督。今回の作戦は?」

 

「挟み撃ち。まず飛行場姫の艤装に取り付けられた発信機を確認する筈だ。それを破壊し、警戒させて敵偵察機を誘き出し、鎮守府を索敵させる。だが鎮守府は生命反応が確認されない、そして不思議がる敵空母群は敵主力艦隊に躊躇無く攻撃を開始させるはずだ。そこで両側から敵勢力を挟むようにお前らが奇襲、重雷装巡洋艦や空母機動部隊の攻撃隊で敵空母群を錯乱、殲滅する。そして次にこちらの第一、第二、第三主力艦隊が前方、右方、左方から攻撃だ。そして呉鎮守府の援軍艦隊が到着、敵艦隊の後方を塞いでジ・エンドって作戦だ」

 

「その……上手くいくんですか?」

「いけるのかじゃない! 上手くいかせるんだよ、俺の指揮とお前らの単純馬鹿な戦闘能力さえあれば申し分無い。失敗は考えるな、成功する事だけを考えろ」

 

 応接間を使って()()()危険な作戦内容を教える提督。隣のホワイトボードにはこの鎮守府全体の地図と大量の矢印、前任の写真や深海棲艦のデータなど事細かに貼られている。艦娘達に囲まれながら提督は今のやるべき事を一つずつこなしていった。

 

「飛行場姫はどうする」

「知らん」

「知らんって護衛するつもりじゃなかったんですか!?」

「んじゃ青葉、お前は前任や深海棲艦共が本気で飛行場姫を殺しにくるとでも思ってんのか?」

「でもあれだけの情報を吐いていたらまず殺しに来てもおかしくないですよ!」

「不正解、飛行場姫とは鍵と言った。前任はその鍵の謎を解く為に飛行場姫が必要になる、当然攫うしかないわけだ。だから簡単には殺せない。作戦中に必ずどこかに現れるはずだ」

「であれば提督――」

 

 加賀が手を挙げ、意見を述べる。

 

「わざと飛行場姫を目の前に出してみるのは?」

「具体的に理由と作戦経緯を言え」

「飛行場姫を殺さない、攫いに来ると言うのならわざと鎮守府の港前で姿を晒すのよ。そうすれば仲間は警戒しながらも近寄るはず、勿論前任も現れる」

「不安がるだけだと思うぞ、むしろ罠にしか見えない」

「でも誰かが殺すと脅せばどうかしら?」

 

 飛行場姫は今、誰もが喉から手が出る程必要としている存在だ。もし前任が飛行場姫を欲しているならば敵艦隊もその情報を知っている可能性がある。鎮守府を破壊し、飛行場姫を取り返せ、と。容易に踏み込めないはずだ。

 

「成程。わざと脅す事で俺らと敵艦隊の間に膠着状態を作り、そのまま奇襲作戦に移る、と」

「だが加賀よ。飛行場姫が暴れる可能性もある上に情報が行き渡ってるとあまり思えない。実用的ではないぞ」

「そうだな……って長門、お前はいつから執務室に入ってきた」

 

 作戦会議中に長門が乱入。

 話に夢中になっていた提督は気づかなかったようだ。

 

「偽装工作の下りからだな」

「この事はあまり広めたくないんだ、参加したからには最後まで付き合ってもらうぞ」

「私もそのつもりだ」

「生意気で頭が冴えている分、とても腹立つが今は許そう。んで長門は何か考えがあるのか?」

 

「私としては先手必勝だな。空母達が確認したと同時に出撃、戦闘を開始する。先ず航空戦による奇襲である程度敵の陣形を崩し、一時的に制空権を先に確保。弾着観測射撃で姫や鬼などの体力を減らす。そして第一、第二、第三主力艦隊が三方向から攻め込み、砲雷撃戦を始める。そして提督が言っていたように呉鎮守府の援護艦隊が到着し、一気に殲滅させる。不用意にこの地に近付かせるのは危険だからな。それに提督は誰かに作戦を提案させる為にわざと言ったのだろう?」

「さーてそれはどうかなー……」

 

 あの村のように先手で空襲を受けるのはこちらとしても不利だ。いつ襲われてもおかしくないこの状況下で鎮守府に接近させるのはあまりにも危険性が高い。そう考えた長門は自らの頭で考え、作戦を提案した。わざわざ危険な作戦内容を伝えといて正解のようだ。

 

「そんなにあの村の事が気になるのか長門」

「当然だ、この鎮守府の艦娘でありながらこの周辺地域を守れなかったのは軍の恥でしかないからな。最も、アイツはあの不祥事を権力を使って揉み消していた様だが」

 

 長門から若干殺気が伝わって来た。守る事の出来た地域を前任の無能な指揮によって全て崩れた事に憤りを感じているのだろう。実際あの老夫婦の様にこの鎮守府は既に地域の人達の信頼を失っている。信頼の回復は見込めない。

 

「話を戻すぞ。お前らの事だ、仕方ない。飛行場姫の護衛は守りたい奴に守らせる。順次俺に言え」

「でもそんな艦娘なんていないわ」

「あぁいないだろうなぁだが言っとくぞー、飛行場姫の護衛を任された場合、前任に会う確率は一気に高まる」

 

 提督の言葉を聞いた加賀や長門、青葉がピクっと身体を動かした。加賀達は前任に復讐したくて提督と手を組んでいる。誰よりもその気持ちは溢れているはずだ。提督はそこを狙ったのだろう。

 

「だがお前らはあくまで主力に選ばれる艦娘だ。復讐させる手伝いをしてあげたいがこの鎮守府も守らなければならない。正直悩み難い所だろう、よく考えてくれたまえ……自らの欲である前任の復讐を望むか、これから希望を掴むこの鎮守府の未来を望むか……選ぶのはお前らの自由だ」

 

 前任の復讐を望む加賀達にとってはこの上ない機会だろう。だがそれと同時にこの鎮守府も守らなければならない。

 この二つの選択を選ぶのはとても難しい事だ。

 

「さて、一時全員食堂に集合させろ。大まかな作戦内容を伝える……どうした長門」

「……すまない提督、その前に提督に見せたいものがある」

 

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