うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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36. 地下室は隠れるのに最適

「すいません提督!」

「何だ青葉、監視してなんかあったのか?」

「いえ、そういう訳じゃないんですが……この写真を見ていただきたくて」

 

 それは■■と鳳翔が密かに話し合ってい場面の写真。そして川内がまとめてくれた策略の内容。一度提督に見てもらいたかった青葉は急いでいた。

 

「なるほどねぇ……プリンツ、お前に預ける」

「分かりました」

「青葉、よくやったな。後は任せろ」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 長門に見せたい物があると言われ、黙ってついていく提督。提督の後ろには摩耶や加賀、プリンツ、皐月達までついてきている。何故来ているかは知らないが。

 医療室に入り、一番奥の倉庫に向かう。すると長門が身を屈め、床の重い扉を開けた。

 

「……なぁこの鎮守府は地下に籠るのが大好きなのか? この先に巨人の真実とか書かれてない?」

「ないぞ」

 

 扉を開けると地下に入れる階段があった。皐月達を医療室で警備と言わせて待機させ、中に入る。地下の中は薄暗いが自然と埃っぽくは無かった。綺麗に管理されているのかよく分からない。階段を降りると少し小さい部屋に辿り着き、目の前に扉が見えた。長門が扉をノック、そして合言葉を言う。

 すると鍵が開く音が聞こえ、扉が開いた。その中には――、

 

「これは驚いたな……」

 

 奥まで続く広い部屋、両脇にベッドがズラリと並び、一部の艦娘が寝ている。白い蛍光灯に壁は一面真っ白、目が痛くなる光景だ。とはいえ衛生環境は最高だ、これには提督もご満悦である。

 

「医師さん、連れてきました」

 

 一番奥の机に座っているのは見た事の無い白い服を来た女性。金髪が目立ち、眼鏡をかけている。二十代中間あたりだろうか、若い女性だ。

 

「……初めまして。貴方の話は聞いているわ」

「お前は誰だ」

「私は■■■■。この鎮守府の医師よ」

「お前は死亡したとこちらで報告されているはずだが?」

「死亡したと見せかけたの。ここに残る為にね」

 

 若干声に敵意を感じる。警戒されているという事だろう。となれば前任を目の敵しているはずだ。

 

「何故ここに残った?」

「この娘達の治療を続ける為よ、高速修復材が使えないから治療してる。医師として見過ごせないわ」

「その言い方じゃあ、相当前任に恨みがありそうだなぁ」

「前任だけじゃない、貴方達海軍が許せないのよ。この娘達を物として扱っていい様にして、こんなのおかしいじゃない……!」

 

 前任の悪行を嘆く医師。艦娘を人として仲良く接していたようだ。長門との仲の良さから伺える。親身になって相談に乗っていたのだろう、艦娘のメンタルケアも医師の仕事だ。

 

「だろうなぁ」

「貴方の話も酷いものばかりよ。ポンコツ兵器だとか無能だとか艦娘達を馬鹿にして、コケにしてるんでしょ。どうせ貴方も艦娘を物として見てるクズだわ」

「……偏見もいいところだな」

「どこが偏見よ。この娘達がどんなに苦しい思いで戦ってきたか分かる?」

 

 頬が引き攣る提督。

 悲しむ艦娘を人間としてみる者の常套句だ、正直言って腹が立つ。

 

「いいや分かりたくないねー、兵器共の事情なんて。いいかー? こいつらは救いようの無い馬鹿なんだ。人間以上の力を持っているのに何一つ反抗も出来なかった愚かな兵器なのだよ」

「貴方それでも上に立つ人なの!!?」

「あぁそうだけど何か?」

「貴方の様な人間がいるからこの娘達が不幸な目に会うのよ、分からないの!?」

「分かってたまるか!! 他の兵器の境遇なんて知った事じゃない!! 何で俺が兵器共の境遇を把握しなければならない! 全ては保身に走った己の自業自得だ、それを甘んじて受けないお前らがダメなんだよ。それにお前もこいつら同様だ! 悪い事だと分かっていながら何もせずにただ正気を失う兵器共を治すだけ、ただでさえ外に行き来できるのに何もしなかったお前にも原因がある!!」

 

 医師に指さし、言葉で責め立てる提督。確かに医師は自宅勤め、伝える手段はいくらでもあったはずだ。実際■■医師もメディアや知り合いの政府関係者、海軍に直接訴えた。だが誰も相手にしてくれなかった。

 

「仕方ないじゃない……誰も信じてくれなかったのよ……」

「してたんかーい。まぁそうだろうなぁ前任は色んな手を使って黙秘させてたし」

「何よ……分かっていたの? この鎮守府の悪事」

「全て把握済みだ」

 

 ボイスレコーダーや盗撮なので脅迫材料は揃いに揃っている。前任の噂は大本営でも広がっていた。姿をあまり現さないと言われていた提督でさえもその事は聞いている。

 

「何で……何で助けに来てくれなかったのよ……! 把握してるなら何とかしなさいよ、中将なんでしょ!!?」

「ただでさえ本拠地での勤務がクソみたいに忙しいのに他の鎮守府の事情なんて耳に入れるわけないだろ、余程の馬鹿だなお前は!!」

「貴方って人はァ……!」

「はいそこまで、■■医師」

「提督も一回ストップ」

 

 これ以上口論になっても何も始まらないので長門と摩耶が間に入る。二人を落ち着かせ、話を続けた。

 

「長門さん、何で連れてきたの?」

「一度この状況を把握してもらいたくて来てもらった」

「もっと早くにして欲しかったなー」

「っ……とにかくだ。ここにいるのは前任の迫害から逃れる為に保護された艦娘達だ。医師達がこの地下施設を秘密裏に改造して今まで守ってきた」

「まるで実写映画宇宙戦艦ヤマトの地下都市シーンだな」

「私達が分かりにくい例えはやめて」

 

 ここで寝ているのは赤城、雲龍、飛鷹、扶桑、陸奥、日向、羽黒、阿武隈、神通、不知火、白露。かつて轟沈、又は事故死扱いされた艦娘達だ。皆、前任の苛烈な迫害を受け、医師に匿われたらしい。艦娘は高速修復材を使えば大体の重傷は完治するが、当時は勝手に使う事は許されておらず、医師の治療によって生き長らえていた。

 だが提督が着任し、資材が調達された時は黙って高速修復材を盗み、寝込む艦娘達を治療。これで高速修復材の紛失の謎が解明された。更に自爆装置の書類に何故いない艦娘が明記されていたのかよく分かる。

 

「んじゃ早速だ。摩耶、プリンツ、やれ」

「分かった」

「分かりました!」

「ちょっと貴方達何を――」「やらせてあげてくれ」

 

 提督は摩耶とプリンツに指示を出す。それは奴らが脅す為に仕掛けられた自爆装置。身体のどこかに配置されている為、入念に探していく。

 

「ありましたよAdmiral。計七つです」

「よし、海に捨てろ。念の為に無線機は壊しておけ」

「分かりました」

「何よ……それ……」

「自爆装置だ。前任はこれを仕掛けてポンコツ兵器共を脅していた。勤めていたお前なら把握済みだと思うんだがー?」

「し、知らないわよ……そんなの……」

「貴方が……新しい提督、ですか……」

 

 突然提督を呼ぶ声が聞こえた。声の方向には頭以外を包帯で保護され、腕を失っている赤城だ。ベッドで寝ており、白い天井をずっと見続けている。

 

「その声は赤城か。そうだ、俺がこの鎮守府に配属させた提督だ。以後よろしく」

 

 提督が手を伸ばそうとする。しかし右腕を失い、左腕をあまり動かせない赤城にとっては嫌味でしかない。

 

「また私達を……脅しますか……?」

「場合によってはなー。だが脅す程お前らには材料が無い、脅しても無意味だ」

「そう……ですか。提督」

「何だ」

「私達の過去話を聞いていただけませんか?」

「却下。時間の無駄だ」

「私が着任した時――」「あ、勝手に始めるのね」

 

 赤城。

 彼女はかつて有名な一航戦であり、加賀と肩を並べる実力派の艦娘。着任当時から出撃した赤城単体での殲滅力はどの空母より引けを取らせず、加賀と組めば生き残れる敵艦隊はいないと言われていた。勿論前任にも気に入られ、第一艦隊のエースとしてその力を力の限り発揮する。

 だが彼女には唯一の欠点があった。

 

「前の提督は私達を洗脳していきました。洗脳された艦娘は他の艦娘を侮蔑し、差別して蔑んだのです。私はそれが許せませんでした」

 

 当然優秀な赤城も前任の洗脳にかかっている、はずだった。だが赤城だけはその洗脳にかからず、差別された艦娘達の唯一の希望として前任に反抗を企でていた。

 理由は分からない。元々そういう類いに強いのだろう、それでも自分が特別だとは思わない。仲間の為、友の為に赤城はわざと洗脳されたフリをして戦ってきた。

 

 だがその事に気付いた前任は赤城の存在を邪魔に思い、差別している艦娘達を使ってわざと轟沈させるという作戦を計画。その事に気付いた当時の■■医師は赤城にそれを伝え、ここに来るまで沈む運命を回避していた。

 あまりにも上手くいかない事に前任は怒り出し、とうとう赤城を殺そうと差別している艦娘達に軍刀を渡して暗殺を試みる。流石の赤城も軍刀を持つ艦娘に動揺を隠せず、右腕の切断と重度の外傷を受けながらも窓から逃亡。見つけた医師によって匿われ、今まで治療を受けていた。

 

「もう弓を持つ事すら……出来ません。でも私は戦わなければ、ならない……」

 

 あまり動かせない左腕が無意識に動き、白い天井に手を伸ばす。仲間を守る為、上に立つ者として戦わなければならない。だが意志はあっても身体は動かせない、もう戦えない。それでも赤城は手を伸ばし続ける。

 

「艦娘達の為にも……私が戦わなければ……」

「赤城さん……!」

 

 加賀が伸ばした手を握り、赤城に寄り添う。涙を流す加賀に赤城は手を頬に当てる。

 

「加賀さん……見てましたよ、加賀さんの勇姿……とっても格好良かったです……」

「ごめんなさい……私の所為でこんな事に……」

「大丈夫です……もう最初から許してますよ。元気出してください加賀さん」

「本当に……ごめん、なさい……」

 

 赤城は最初から許していた。洗脳され差別していた事も、自分の右腕を切り落としたのも。最初は疑問でしかなかった、何故互いに思っている仲なのにそこまで敵視し、そして泣いているのか。しばらくしてその原因が前任の洗脳と気付いた時、赤城は涙を流した。皆操られている、だからやりたくない事だと思ってても身体が勝手に動いてしまう。原因に気付いた赤城は操られていた加賀を許す事にした。

 加賀は悪くない、全ては前任が悪いんだと。これ以上加賀に責任を負わせない為、心が潰れないように。

 

 徐々に体温が低くなる身体に頬を寄せる加賀。分かっていた事だ、自分の所為で大切な人を失う事ぐらい。当然憎んでるはずだと思った。

 でも赤城は許していた。あの演習を見ていたからかもしれない、もしくは他の理由かもしれない。赤城の心の底から湧き上がる優しさに加賀は救われたのか、いやそれは分からない。

 

「新しい提督の方、もう私に残された時間は少ないです……だから、ここで約束して、いただけませんか?」

 

 残念ながら赤城の状態はあまり芳しくはなく、高速修復材を使っても治らず身体が崩壊しつつある状態。医師によると身体の中にある核が既に崩れかけ、生命維持状態が難しい、人間でいうなら脳死に近い。

 核を治す方法は現在開発されたどの方法も確率が雀の涙であり、仮に治せたとしても副作用が重すぎて逆に身体に影響を及ぼす事が殆ど。助かる見込みはゼロに等しい。

 

「何をだ?」

「この娘達を絶対に見捨てない、と今ここで宣言し……約束してください……」

 

 赤城が強く訴える声で提督に言う。この提督が艦娘達にとってどういう存在になるのかはこの先分からない。でも長門や加賀が共にいるという事はきっと悪くない人なのだろうと思う。であればその思いに賭けるだけだ。

 

「……良いだろう。このポンコツ兵器共は絶対に見捨てないと宣言する。最後の最後まで俺がこき使ってやるからありがたく思え、赤城」

 

 その言葉を聞いて安心したのか赤城は少しだけ微笑みを見せる。

 

「……もし何かやらかしたら……殴ってあげます」

「お前にその手があったらの話だがな、とはいえ二度とお前に殴られるのは流石に勘弁して欲しいのでその面については安心したまえ」

「その嫌な面も、これで終わりだと……清々しますね」

「あの時お前が旗艦を務めていたら俺はしくじっていたところだ、良かったな」

 

 まるで面識があるかのように話す二人。提督がしくじるという事は赤城は提督にとって認められた存在かもしれない。

 

「他の艦娘の様態は? ■■医師」

「……今のところ赤城さん以外は一命を取り留めているわ。他の艦娘は……」

「行けます」

 

 口を開いたのは不知火だ。起き上がって提督に話しかける。

 

「私達は戦えますよ、兵器ですから」

「自分の事を分かっててなによりだ。他は?」

 

 

 

「……ならば良し。全員正装に着替え次第、食堂に集まれ。俺からは以上だ」

「え!? 皆大丈夫なの!?」

「どうした■■医師、何かこいつらにドクターストップでもあるのか?」

「多ありよ! 確かに治療は済んでいるし、完治はしてるけど……病み上がりよ!? 出撃するにしたって一ヶ月間もろくに戦っていないのに!?」

「こいつらが戦いたいと自らの意志で示したんだ。だったら俺はこいつらを先導し、指揮する義務がある」

 

 皆ベッドから立ち上がり、提督を見る。艦娘達の目には戦うという誉れの意志が魂となって燃えていた。どうやら戦闘意欲は充分らしい。

 

「陸奥、大丈夫なのか?」

「えぇ大丈夫よ長門。私はもう治ったわ」

「ちょうどリハビリが欲しかった所だ問題無い。航空戦艦の意地ってのをお前に見せなければならないからな」

「そんな……」

 

 提督の事を信じるつもりは無いが、この鎮守府が破壊されるのはこちらが困る。自分達を助けてくれた赤城や医師を守る為、

 

「赤城さん、■■さん……今まで私達を匿っていただきありがとうございました。この恩は一生忘れません」

「貴方達に救われたように私達も貴方達を助けたい。この提督の話が本当ならばこの鎮守府に攻めてくる深海棲艦を私達が倒さなければなりません。だから待っててください、また一緒に外でお話ししましょう」

 

 寝ていた艦娘達は提督達の後を追い、地上へ戻っていく。その背中を医師は見届ける事しか出来なかった。

 

「ハァ……どう言ったって無駄、か。赤城さん」

「大丈夫ですよ、彼女達なら必ず……やってくれます……」

「……そう……かも、ね……」

「心配しなくても大丈夫……――」

「どうしましたか……赤城さん!?」

 

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