「提督から作戦開始の合図が出ました!」
「分かったわ。第一次攻撃隊、発艦!!」
二つの空母機動部隊から一斉に艦載機が発艦。その数、約七十二機。まるで鳥の行進のように列に並び、敵連合艦隊へ飛行する。茜色に染まる空を背景に黒い鳥が雲の中へ消えていく。艦載機の中には妖精さんが操縦しており、艦娘と直接映像が共有出来るシステムだ。
「イッチョアバレテヤルノネー!!」
「ヒサシブリノコウクウセン,ナノネ!」
「ウデガナルノネー!!」
妖精達が久しぶりの戦闘に浮き足立っている。約一ヶ月ぶりの敵との戦闘。妖精は皆、戦闘意志が余りに余っていた。やがて白い雲の壁を越え、海を見下ろすとそこには──、
「テキレンゴウカンタイ,ハッケンナノネー!!」
「こちら飛龍。提督、敵連合艦隊を確認しました。映像をそちらにお送りします」
『分かった』
飛龍達の航空機が敵連合艦隊を発見。机に置いてあるデュアルモニターの内の一つに映像が映し出された。
「駆逐艦が約五十四体、軽巡と雷巡が約四十三体、重巡が約二十七体、その内重巡ネ級。空母が十九体、戦艦が十七体、その内戦艦タ級、戦艦レ級。姫や鬼クラスは駆逐棲姫、防空棲姫、軽巡棲鬼が二匹、重巡棲姫、空母棲姫、空母水鬼、南方棲鬼、戦艦水鬼、そして戦艦棲鬼……か。泣きたくなる敵編成だな、まるで舩坂弘の特攻を分からせてくれるような場面だよ。つか何で南の奴がこっち来てんの?」
『それ鹵獲した飛行場姫にも言える事?』
『どうしますか提督、このまま作戦に移りますか?』
「そうだな。よし、狙いをなるべく雑魚の空母と戦艦に定めるんだ。あと防空棲姫や空母棲姫にも集中攻撃、奴ら対空に長けている、制空権確保の為にも奴らには決定的なダメージを与える必要があるからな」
『了解しました!』
「ネゴトイッテナイデ,サッサトセントウジュンビ,ナノネ!!」
「イクゾォォ!!」
敵連合艦隊の真下に辿り着いた妖精達。いきなり急降下し始め、攻撃を開始した。
「……!」
「敵航空機ヲ確認、数は約七十……!」
「敵直上……急降下ッ!!」
「防空棲姫ッ!!」
「分カッテルヨ!!」
提督の言う通り、妖精達は空母や戦艦に突撃。急降下爆撃で敵空母を蹴散らしていく。咄嗟の奇襲爆撃に遅れをとった防空棲姫と空母水鬼は損害を受けてしまった。
「グッ……コチラノ作戦時間ヲ早メタノガバレテイタヨウダ……! ナラバコチラモ!!」
おびただしい数の艦載機が繰り出される。通常の黒い艦載機と球体型の艦載機が駆り出され、宙に浮かぶ。
「全テヲ沈メテアゲルワッ!!」
敵艦載機が発艦。その数、約百二十機。それを確認した妖精と加賀達は作戦段階の航空戦を開始した。以前制空権は維持出来ている。
『防空棲姫と空母水鬼の損害を確認! また敵駆逐艦や敵軽巡、敵空母の撃滅を確認しました!』
「分かった。第一、第二、第三主力艦隊は単横陣に陣形を編成、前進せよ。偵察機を発艦し、敵影確認時に弾着観測射撃だ」
『了解!!』
「第一水雷戦隊は第一主力艦隊の支援を、他の水雷戦隊も数字と同じ艦隊の支援砲撃だ。その後の戦闘は各自旗艦の指揮に任せる。何かあればすぐに俺に伝えろ、分かったな?」
『了解だよ!!』
『了解しました』
「とりあえず奇襲攻撃は成功……っと」
「いよいよ始まったね司令官……加賀さんはまだ帰還出来なさそうだ」
「このまま都合が良くない方にしてもらいたいところだ……戦艦棲鬼が何かしてくる不安の可能性がこの戦闘において重要になってくる。慢心は禁物だ、呉鎮守府の支援艦隊もそろそろ到着する予定だからな」
「提督、連れてきたぞ」
長門が執務室に飛行場姫を連れてきた。手錠で自由を奪い、提督の傍へ座らせる。飛行場姫は軽く提督に怯えていた。
「よう飛行場姫、随分と泣いていたようだなぁ」
「何デ……ココニ……?」
「お前を護衛すると約束した以上、守らなければならなくてね。俺と残った艦娘の近くにいれば殺される事はないだろう。近くにいたまえ」
「ワ、分カッタワ……」
黒髪にミ〇キーの仮面を被っている提督。不気味過ぎて近寄り難い。とはいえ何故か護ってくれるのは少しだけ安心した。
「あ、そうだお前ら。これを渡すの忘れた」
「……提督、これは?」
提督は口に指を当て、秘密事だと訴える。渡されたメモ用紙にはある奇襲作戦の内容だった。皆同じ内容らしいが暁は頭にはてなマークを浮かべている。
「ん……なにこれ?」
「全主砲、斉射! 撃て──ッッ!!!」
日が沈み、海が茜色に染まる。アウトレンジで敵影を確認した長門の掛け声と同時に主力艦隊の艦娘達の主砲が一斉射撃。砲撃音が重なり、重い音を響かせながら砲弾が敵連合艦隊に直撃する。
だがその攻撃に気付いた戦艦棲鬼が周りの護衛駆逐艦を掴んで投擲。砲弾を直撃させ、回避した。そして各艦隊旗艦に伝達、作戦行動を促す。それぞれ姫クラスについていく駆逐艦や軽巡、空母達。左右に別れ始め、何かを狙い始めた。
「こちら第一主力艦隊旗艦、霧島。提督! どうやら私達の作戦もバレていたようです。敵連合艦隊がそれぞれ左右に別れ始めました!」
『やっぱバレてたか……第一主力艦隊はそのまま前進。第二、第三も作戦通り左右に展開しろ』
『待って提督!!』
『川内か、何だ』
『少しおかしいよ! 左右に別れているのはいいけど明らかに敵主力が右全体に流れ込んでる!!』
既に右側へ回り込んだ第二主力艦隊の方へ敵主力艦隊が集結していると言う。確認出来たのは空母棲姫と空母水鬼、戦艦棲鬼の姫や鬼クラス。その他の深海棲艦が三十八体。
『って事はあたし達第二主力艦隊だな。多分私を見つけたんだろうと思う。提督、第一水雷戦隊を支援に欲しい』
『分かった。川内、聞いていたな? 今すぐ第二水雷戦隊と合流だ。第一護衛艦隊は第一主力艦隊と合流、そのまま砲雷撃戦に移行、敵艦隊を殲滅しろ』
『了解!』
「了解しました!」
提督の指示を受け、川内率いる第一水雷戦隊が摩耶達の元へ向かう。それを確認した旗艦霧島はそのまま敵艦隊に接近。目の前には戦艦水鬼と重巡棲姫、防空棲姫に空母が七体。戦艦五体、軽巡が八体、駆逐艦が十五体。とても立ち向かえる相手とは思えない。だが数々の修羅場を乗り越え、優秀と謳われ続けた第一主力艦隊にとっては戦いがいのある戦力だ。
「さぁ皆さん、砲撃戦を開始するわよ!」
場面は変わり、第三主力艦隊と第三水雷戦隊はある深海棲艦と相手と砲雷撃戦を行っていた。
「敵潜水艦を確認! 提督!」
『何だ五十鈴』
「敵潜水艦を確認したわ! こちらにいるのは潜水棲姫と駆逐棲姫、軽巡棲鬼と──」「何よあの戦艦ッ……! ありえない機動力よ、こちらの攻撃が全く当たらないわ!」
「フハハハハ!! 当テテミナァ!!」
ありえない速度で海面を走行する南方棲鬼。何回も接近しようと隙を見れば突撃してくる。よく見れば足に特殊な艤装をしているのが分かった。不気味な笑みを浮かべ、こちらを睨んでいる。
「ただでさえ他のやつの精一杯なのに!!」
「狼狽えるな! まだ倒せないと決まった訳では無い! 瑞鳳、日向!」
「分かってるわ! だけど他の敵空母が邪魔してくるのよ!!」
「駆逐棲姫に雷撃で損害をかなり与えたぞ、ガングート!」
「了解した! まず周りから攻め込むぞ! 五十鈴、私達が南方棲鬼を惹きつける。その間に邪魔な潜水艦や敵を薙ぎ倒せ!」
「分かったわ!」
ガングートの指示で動き始めようとしたその時だった。仲間の天龍が立ち止まったまま、ただ前を見ていた。名前を呼んでも返事がない。
「!? どうしたの天龍!!」
「……提督、南方棲鬼と一対一で戦わせてくれ」
「んなっ!?」
天龍が南方棲鬼との一対一を希望した。ありえない行動に驚くガングート。五十鈴や朝潮達も驚いていた。あの南方棲鬼に一人で戦うなど無謀過ぎると皆が止めに入る。
『……何でだ天龍』
「奴は……俺が殺さなきゃいけねぇんだ……!! 頼む!!」
天龍が真面目な声で提督に訴える。声は若干震えていた。怯えているのか復讐心に燃えているのか、全く意志を変えようとしない。
『……へへっ、まぁ言うと思ったよ天龍。いいぞ、殺す気で戦え』
「すまねぇな……恩に着る」
天龍の事情を知っている提督は許可を出した。提督との通信を切り、一人で南方棲鬼の元へ向かう。だが五十鈴が止めに入った。
「何でよ天龍! 確かに私達とって南方棲鬼は敵討ちしなければならないけど一人じゃ太刀打ち出来ない!! それは天龍が一番分かって──」「分かってる」
五十鈴の言葉を遮る天龍。手は僅かに震えていた。
「んな事ぐらい馬鹿な俺でも分かる。それでも奴は俺が殺さなきゃいけないんだ、この……刀で!!」
助けられなかった駆逐艦達の為、そして身代わりになった龍田の為。悔やみに悔やんだ天龍がどうしても倒さなけれならない相手。無茶な事ぐらい自分でも嫌な程分かってる。このまま奴に会わなければいいとまで思っていた。
だが提督の言葉を聞いて、赤城の遺言を聞いて、如何に自分が情けなかったのかを思い知った。生き残った自分に何が出来るのか、戦う事だ。
戦って、戦って、戦って、戦う。そしていつか奴を殺し、助けられなかった皆に謝る。天龍が考えたもう一つの目標だ。
「……南方棲鬼!!!」
「フハハハハ!! ンッ?」
「俺とサシで勝負しろ!! 今! ここで!!」
天龍が誰よりも前に立ち、刀を突き出す。南方棲鬼の名前を呼び、一対一を申し込んだ。南方棲鬼も見覚えのある艦娘に笑みを浮かべ、一回攻撃を中止させた。
「上等ダ!! 来イ!!」
「悪い、五十鈴……あとは任せた」
「ッ……天龍、あなた!!」
こんな台詞を聞く時は大体戻ってこない。その言葉を言った艦娘が沈んだ事など何回も見ている五十鈴。止めに入ろうとした、でも止めることは出来なかった。それでも──、
「ちょっと待ちなさい!!」
「……何だ?」
「……死んだら承知しないわよ!!」
五十鈴の言葉に天龍は笑顔で答えた。
「……任せとけ!」
天龍は背中を見せ、単騎で突撃。
高速接近し、南方棲鬼の間合いまで近づいた。
「南方棲鬼ィィィ!!!」
「フハハハハ!!!」
次回も早く投稿出来る気がします。