うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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40. 宵の口で幽かに映る拳は

「クソッ……主力なだけ強いなッ!!」

「でもこちらがまだ有利よ!!」

 

 摩耶率いる第二主力艦隊と神通率いる第二水雷戦隊は苦戦を強いられていた。敵連合艦隊の主力三体が血眼で沈めようと猛攻を仕掛けてくる。

 だがこちらも負けるつもりなどない。摩耶は駆り出された幾数もの敵の艦載機を全て破壊していく。

 

「アッノ紛イ物ォォ……!! 一々艦載機ブッ壊シヤガッテェェ!!」

「ホントアイツ大嫌イ!!」

「タダデサエ奥ノ空母共ガウザイノニィィ!!!」

 

 空母棲姫や空母水鬼が摩耶の存在を邪魔に思い、無作為に暴れ出す。今に始まった事ではないが、空母達にとってこの摩耶は一番危険な存在。だからこそ戦艦棲鬼が向かってきたのだ。

 

「落チ着キナサイ、マダ負ケタワケデハワナ──!!」

 

 取り乱す空母達を落ち着かせようと言葉をかける戦艦棲鬼。この戦闘に置いて冷静でいられるのは戦艦棲鬼だけだった。流石初期の頃から恐怖の象徴として描かれているだけ余裕そうだ。

 

「余所見してる場合じゃないでしょう?」

「鉄屑ガ……ヨクヤッテクレタナ……殺ス!!」

「イヤ、戦艦棲鬼ガ先ニ落チ着イテ!?」

 

 空母達以上に戦艦棲鬼が怒りを露わにする。予想以上に感情的で空母水鬼が思わずツッコミを入れた。

 

「第一水雷戦隊、突撃ぃぃ!!」

 

 そこに川内率いる第一水雷戦隊が突撃。通常の戦闘とは程遠い蛇行スタイルで敵に接近し、第二主力艦隊の支援を行う。

 

「ついてこれるかなー?」

「どうかなクマー!」

「何でこんだけトリッキーなんですかね!!」

 

 川内達の特殊な動きに不知火が思わず苦言を叫んだ。久しぶりとはいえ戦闘経験は豊富だがそれ以上に川内のトリッキーな動きに翻弄されつつあった。ギリギリついていけるのがやっとである。

 とは言え川内の戦闘スタイルは敵の行動パターンと良く噛み合っていた。川内が走行しているルートは全て敵の砲撃や魚雷を完璧に回避しており、川内の指示通り魚雷を発射すれば本当に当たる。流石は夜戦バカと褒めるべきだろう。

 

「スバシッコイ!! 航空機、魚雷一斉発射!!」

 

 戦艦棲鬼の傍にいた戦艦レ級が航空機と魚雷を一斉展開。前方位百八十度内に約五十二本の魚雷が発射。空には空母ヲ級の艦載機を合わせた約三十機が発艦。

 

「えっ!? そんなのアリ!? 退避、退避!!」

「退避だクマー!」

「もう嫌だこの水雷戦隊……!」

 

 相手の無差別攻撃に川内が退避命令を促す。急いで旋回し、第二主力艦隊の元へ合流した。空の艦載機は摩耶達が全て撃ち落としてくれている。

 しかし魚雷は回避出来ず、球磨と時雨と不知火が小破してしまった。

 

「川内、陣形を再編成する。目標は戦艦棲鬼とその空母達だ。正直言ってあたしの対空戦闘じゃ艦載機全てを撃ち落とす事はあまり出来ない。だから各自、空の攻撃には気を付ける事。そして戦艦棲鬼を近付かせない、これが最優先事項だぞ。分かった?」

「了解! 皆行くよ!!」

 

 戦艦棲鬼まで距離三百メートル。

 右回りに移動して後退する。

 

「川内、照明弾を!!」

「了解!!」

 

 摩耶の指示に合わせ、川内が照明弾を放つ。照明弾は戦艦棲鬼の頭上を照らし、その姿を見せた。いつ見ても悍ましい艤装だ、あの六つの砲台と巨大な剛腕で何百、何千もの艦娘や人間を殺したのだろう。もしかしたらその番が自分達かもしれない。

 

「さて、私の対空戦闘がどこまで持つかな……」

「砲雷撃戦始めましょう!!」

 

 空母棲姫達が艦載機を艤装の口らしき場所から出現させた。白い球体の敵水上爆撃機と攻撃機が一斉展開する。

 

「オチロッ!! 紛イ物メッ!!」

「全員砲撃開始……!」

 

 戦艦棲鬼の合図で地獄の砲雷撃戦が始まった。水柱が森の樹木のように立ち、着水の衝撃が身体に直に伝わる。互いの砲弾が交差し、曳光弾が列をなして黒い雲へ吸い込まれていく。発射された魚雷が黒い海に隠れ、互いの恐怖を募らせた。硝煙の匂いが鼻にこびりつき、砲撃音や爆音が耳の鼓膜を揺らす。

 

「激し過ぎる!! 当たれッ!!」

「グッ……何のこれしきッ!!」

 

 戦艦棲鬼の砲撃が直撃、陸奥が小破してしまう。だからといって倒れる陸奥ではない。相手もかなりの損害を受けている。空母水鬼に関してはあともう少しだ。陸奥は砲口を一斉に揃え、狙いを定めて反撃。敵駆逐艦や空母ヲ級を撃沈させ、空母棲姫に損害を与えた。

 

「ッ……相手ガ倒レルマデ撃チ続ケロッ!!」

「艦載機ナンテ、イクラデモアルンダカラネ!!」

「沈メッ!!」

 

 

『無茶はするな陸奥。いつも通りにやればいい』

「分かってるわッ、大丈夫よ!」

『摩耶、そろそろだ』

「了解! 金剛! 三式弾に切り替えて!! 比叡は徹甲弾に!!」

『金剛は摩耶の補助だ、余った三式弾は水上で使っても構わない。比叡、戦艦棲鬼の艤装の腕だ、そこを狙え』

「わ、分かったネ!」

「りょ、了解しました!!」

 

 提督と摩耶の指示で金剛達は通常弾から特殊弾に変更。金剛は雲空に向けて三式弾を放ち、比叡は徹甲弾で戦艦棲鬼の巨大な剛腕を照準に定めて砲撃。照明弾の灯りが消えてかけている。

 

「マタ私ニ……シカモ徹甲弾ヲ……!」

 

 主砲と合わせた徹甲弾が戦艦棲鬼の艤装に着弾。直撃したせいか戦艦棲鬼は少し怯んだ。やはりや徹甲弾には効果があるらしい。

 

「報告、戦艦棲鬼に少しの損害を確認!」

「何テ愚カナ……」

『少しか……比叡、そのまま徹甲弾で狙うんだ。数で押してみろ』

「分かりました!」

 

「鉄屑ガッッ!!!」

 

 戦艦棲鬼がとうとう動き出した。

 高速で摩耶達に最接近。

 あっという間の速さで戦艦棲鬼は──、

 

「金剛!!」

 

 摩耶と比叡を庇い、金剛が巨大な剛腕の攻撃を受け止めた。

 あまりの衝撃に金剛は水しぶきを上げながら後退。

 足を踏ん張って勢いを止める。

 直後に金剛の周りで巨大な水柱が立つ。

 殴打の衝撃の恐ろしさが目に取れて分かった。

 

「ヤハリ庇ッタカ……」

「グハッ……!」

「コンゴウ……」

 

 戦艦棲鬼の恐るべき力の一つとして艤装と一体化している事が挙げられる。通常戦艦棲姫や戦艦水鬼などといった姫や鬼クラスの深海棲艦は艤装と母体が別の意志を持っている事が殆どだった。

 

 だがこの戦艦棲鬼だけは違っていた。彼女は艤装と自分の身体を結合し、感覚を共有することで艤装の力を最大まで引き出していた。恐怖の象徴の理由として艤装の巨大な剛腕が取り上げられるが、彼女はそれを意のままに操る事が出来、尚且つ砲撃も可能。走行の際も艤装を操っているので想像以上の速度で走る事が出来る。

 

 まさに特殊な深海棲艦なのだ。

 

『近づかれたか。川内』

「分かってるよ!! 球磨、旗艦お願い!!」

「分かったクマ!!」

『球磨、恐れても構わない、無理に突撃はするな。慎重に動いて且つ、敵の動きを見るんだ。摩耶はそのまま対空に目を向けろ。お前が助けに向かったら比叡達にダメージが及ぶ』

「了解クマ!」

「了解した!」

 

 金剛との距離は約二百メートル。あの近接攻撃だけで二百メートル以上離れている。通常の人間であれば死んでいてもおかしくない、艦娘でさえも。

 

「金剛……!!」

 

 暗い夜の中へ金剛を救助する第一水雷戦隊。全速力で金剛の元へ向かった。

 

「コノママ殴レバ、オ前ハ沈ムカ?」

「……」

「……何故庇ッタ?」

「大切な……仲間と妹……だから……!!」

 

 艤装の剛腕を片腕で受け止め、海面に膝を着く金剛。凄まじい衝撃で意識が飛びそうだ。受け止めた右腕全体が悲鳴をあげている。意識を保つのがやっとな金剛に戦艦棲鬼は突然語りだした。

 

「馬鹿馬鹿シイ……戦争ニ私情ヲ挟ムナド愚カナ者ガスル事ダ……」

「だったら……お前は何だって言うノ?」

「戦争トハ殺シ合イダ! 互イニ武器ヲ持ッテ、相手ガ死ヌマデ戦イ続ケル! ゴク一般的ナ事ジャナイカ!!」

「……」

「私ハ一生懸命戦ッテル人間ヤ艦娘ト死ヌマデ戦ウノガ大好キナンダ……戦ウ事コソガ我々ノ本能!!」

「だから私達の妹を叩き潰したのもお前のその趣味の為ナノ……?」

「ソウダ。ソウ言エバソンナノイタナァ……トテモ良カッタゾ? アノ絶望的ナ状況デ戦ウアイツラハ最高ダッタ!!」

 

 お前の所為で妹達がボロボロにされた。

 趣味だと聞いて、許される訳が無い。

 

「もう良い……喋るな」

「何ヲダァ?」

「……決めた……お前をぶっ殺す!!!」

 

 艤装の剛腕を右拳で弾き飛ばす。

 そして母体の前まで接近。

 再度右手を握った。

 

「何ッ!?」

「オッラァァァァァ!!!!」

「クソ生意気ナァァァ!!!」

 

 剛腕が金剛を鷲掴みにする。

 金剛の身体を頭上に放り投げ、戦艦棲鬼は大跳躍。

 両手を握って投げられた金剛を下の海面に叩きつけた。

 巨大な水柱が立ち、二人の姿を隠す。

 

「金剛!!」

「……私ニ勝テルト思ッタラ大間違イダ! 私ハ最強ノ深海棲艦、戦艦棲鬼ダゾ!! 勝テルワケガナイ! 倒セルワケガナイ!!」

「くっ……ガ、く……ガ……ッ!」

 

 吐血する金剛。先程の殴打とは比べ物にならない程の衝撃で立ち上がれない。まだ身体の中を衝撃が循環している。意識はもう途切れ途切れだ。

 

「生意気ナ小娘メ……モウ分カッタ。ソコマデ戦イタイナラ、アイツラト同ジク、オ前モソノ戦意ヲ見セテクレ!!」

 

 倒れ込む金剛に再度振りかぶる戦艦棲鬼。しかし駆けつけた川内の魚雷で邪魔をされ、惹き付けられた後に金剛を回収された。

 

「金剛! 大丈夫か!?」

「なん……とか……」

「損害は……大破ぐらいか。提督!」

『金剛の様子は?』

「およそ大破状態、意識は辛うじて保ってるけど戦えるかどうか……!」

「戦わせて……」

 

 金剛がか弱い声で戦闘続行を願う。しかし川内から見て戦えるような身体では無かった。両腕に力がない、大量に血を吐き、目は虚ろ。明らかに大破状態だ。それでも金剛は戦闘続行を願っている。

 

「お願い……提督……」

『……分かった。川内、金剛を置いて摩耶達の元へ合流しろ。戦艦棲鬼が躍起になって向かってきてるはずだ……金剛』

 

 川内が背後を確認すると血眼で戦艦棲鬼が追いかけてきていた。このままでは直に追いつかれ、追撃を食らう事になる。

 

『今戦艦棲鬼はお前の事を躊躇なく叩き潰そうとしに来てる。このまま艦隊に戻れば、味方を巻き込む事になるんだ。これは出来るだけ避けたい。苦しい決断だが……増援が出来るだけ持ち堪えろ。摩耶達が空母共を殲滅するまで持ち堪えるんだ、いいな?』

「……ヘッ……任せてよネ……!」

『俺だって出来るだけこんな事はさせたくない。だがお前が蒔いてしまった種だ、最後まで……耐え続けろ』

「分かったヨ……!」

 

 川内の腕を振りほどく。一人、戦艦棲鬼の前で立ち上がり、合流する川内を見届けた。

 

「金剛!!」

『川内、今は摩耶達と合流だ! 振り返るな!!』

「ッ……ごめん!!」

『第一護衛艦隊は戦況を把握次第、金剛の援護に入れ。その際熊野は第二主力艦隊に合流、金剛と交代だ』

『了解しました!』

 

 川内を逃がした金剛が目の前に立っている。金剛は満身創痍、後何回か攻撃すれば沈むだろう。この状況で戦闘に挑むとは愚かな艦娘だ。

 

「何? 覚悟ヲ決メタノカシラ?」

「……決めたヨ……お前と戦う覚悟を!!」

「イイジャナイカァ!!」

 

 両者一斉に高速走行。

 右腕を後方へ引き、一気に接近。そして──、

 

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