うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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41. 逢魔ヶ刻に咲き誇る月は何処へ

「皆、大丈夫かしら……」

「大丈夫だよ、きっと大鳳さんが何とかしてくれる」

「えぇ……そうね……」

「私達じゃ夜戦工作員がいないとまともに動けないからなー……ただ見守らなきゃいけないのがとても、嫌だな」

 

 空母機動部隊のメンバー達が夜の雲空を眺める。曳光弾が空にたなびき、照明弾や探索灯が輝いている。瑞鶴はそれを見守る事しか出来なかった。

 

「第二次攻撃隊、発艦!!」

 

 瑞鳳が夜になりかけた雲空に航空機を発艦させる。唯一夜戦で航空機を発艦出来る夜戦工作員を装備している瑞鳳はこの作戦において重要な役割を担っていた。制空権維持に水上艦の殲滅、全ての行動を考えるだけで精一杯だ。

 

「全艦突撃してください!!」

「捉えたぞ駆逐棲姫! これが最後だ! 畳み掛けろ!!」

 

 大破状態の駆逐棲姫を照準に定め、ガングートと日向、扶桑が主砲を放つ。砲弾はまっすぐ駆逐棲姫の元へ──、

 

「ヤ、ヤメッ……!!」

 

 手を伸ばし、何か言い出した駆逐棲姫。断末魔だろうか、直後に大爆発。砲弾が全て直撃し、駆逐棲姫は腕や身体の一部を飛ばされたまま吹き飛ばされた。

 

「月ガ……見エ、な……イ……終わル……のか……」

 

 黒い雲が広がる夜空を眺める。月の光は全く感じず、身体を吹き飛ばされた痛みだけが残った。

 爆煙の中から艦娘達を目に収める。その瞬間、自分は何者なのかを悟った。

 

「……アァ私は……て……き……」

 

 海の中へ静かに沈む。感覚を失い、海という液体に包まれた駆逐棲姫はゆっくりと永遠の眠りについた。

 

「駆逐棲姫の撃破を確認しました!」

「次は軽巡棲鬼と雑魚共だ! 気合入れろ!!」

「分かっている!! 天龍は!?」

 

 

 

 金属音が海に響く。

 

 

 

 刀と艤装が触れる度に火花が散った。

 

 

 

 壁のような水柱、吹き荒れる猛風、余韻が残る衝撃波。

 

 

 

 広大な海で、ある艦娘とある深海棲艦が激闘を繰り広げていた。

 

 

 

「ッ!!」

 

 南方棲鬼が位置を予測して全門斉射。天龍は正面から高速走行。

 雨のような砲弾を次々に回避、そして刀を突き出した。

 砲弾が真っ二つに割れ、天龍を避ける様に海へ着弾。その風圧をスタートダッシュ代わりに再度海を走る。

 

 南方棲鬼は近接攻撃に移行、急発進する。

 高速走行する天龍の背後に回った。

 それに気付いた天龍が跳躍、南方棲鬼の殴打を回避。逆さまに飛んだ天龍は再度刀を振り下ろす。

 しかしもう一方の右手の艤装で防がれた。火花が散り、金属音が響く。

 

 直後に綺麗に着地する天龍。着地狩りを狙った南方棲鬼が砲撃する。回避は出来ず、ダメージを受けた。

 南方棲鬼も事前に発射された魚雷で損害を受ける。

 

「クソッ……!!」

「フハハハハ!!!」

 

 笑い声を上げながら至近距離で全門斉射。

 迫り来る砲弾の雨に天龍は刀で答える。

 砲弾の弾道を刀の樋でずらし、更には弾き返した。天龍の背後で水柱が一気に立つ。

 

「ウゥゥオラァァァァ!!!」

 

 南方棲鬼が咆哮をあげ高速接近。右腕を後方へ引き、殴り掛かった。

 天龍も刀で弾き返し、応戦する。

 剣と鉄拳のぶつかり合いが始まった。まるで剣戟の様にお互い隙を与えぬ猛攻が続く。一言も発さず、ただ雄叫びを上げながら目の前の敵を倒す事に集中していた。

 零距離の砲撃を躱し、刀を突き出す。鋭い刀先を回避し、再度殴り掛かる。

 二人だけの苛烈する戦闘に誰も援護する事は出来ず、他の敵に集中する事しか出来なかった。

 

「隙アリダッ!!」

 

 回避した際に一瞬隙を見せた天龍。

 南方棲鬼の右鉄拳が左脇腹に直撃。凄まじい衝撃が身体の中へ襲い掛かる。

 直後天龍は殴り飛ばされるも、受け身を取って着地。血反吐を吐いて立ち上がる。

 

「……クソッ……」

「随分ト息ガ上ガッテイル様ダナ、天龍」

「……うるせぇ」

 

 微かに刀を持つ手が震える。武者震いだろうか、それともこの戦闘に興奮しているのか。

 

 

 いや、違う。

 

 

 憎むべき深海棲艦をこの刀で倒せるチャンスがある事に喜んでいるのだ。あの不気味な笑顔が憎たらしくて堪らない。純粋に心の底から殺意を湧き上がらせてくれる。

 

「シカシオ前ガ、コンナニ強クナッテルトハ驚イタナァ……」

「てめぇに……計られてるのが癪でしかねぇよ……」

「アノ時コレグライ強カッタラ、アンナ事ニハナラズニ済ンダダロウニ……」

「黙れクズ野郎が……とっとと俺に殺されろ……!」

「ンー、ソレハ無理♪」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 場面が変わる。

 正面から戦闘をしていた第一主力艦隊は若干余裕の表情を見せていた。

 

『霧島、状況報告を』

「はい! 今のところ順調に殲滅は進んでいます。しかし新たに増援が確認されました」

『詳しく教えろ、こちらも把握しなければならない』

「了解です……敵増援部隊、装甲空母鬼、駆逐古鬼、空母ヲ級elite、戦艦タ級elite、雷巡チ級が五体、重巡ネ級が二体……ですね」

『いけそうか?』

「……見くびらないで頂けますか? あの鉄屑達とは違います」

『ならばいい。第一主力艦隊は今の敵艦隊殲滅後に増援部隊の相手を頼む。だが増援部隊と同時に護衛部隊も来るはずだ、空からの攻撃に注意しろ』

「了解しました」

 

 出来れば指示には一切従いたくないが休戦協定は結ばれている。我儘は言っていられない。自分達の家が壊されるのは最も嫌な事だ。

 

「流石にアイツに構ってる暇は無いですからね……仕方ない事に、しておきましょう!!!」

 

 不意打ちの砲撃を回避し、倒れ込む重巡ネ級の頭を殴る霧島。ストレス発散の様に全力で戦闘を開始させた。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「……戦況はあまりよろしくないな」

 

 一方で鎮守府の司令本部、執務室で艦隊を指示していた提督。芳しくない戦況に頭を悩ませた。

 

「飛行場姫、敵の情報とか分かったりする?」

「……分カルワケナイデショ」

「だろうな」

 

 とても静かな夜だ。遠くで爆音や砲撃音が聞こえるがさほど気にならない。窓は全てカーテンで閉じられ外の状況は分からない。蝋燭の灯りで執務室を明るくしていた。

 

「……ネェ」

「何だ?」

「何故貴方ハ……ソンナニ冷静ナノカシラ……?」

 

 飛行場姫は見ていた。提督が常に冷静な対応をしていた事を。特に金剛が危険な目にあった時も即座に指示を促していた。

 

「指揮する人間が慌てるのは馬鹿のやる事だ。指揮する者は常に戦況を把握しなけれならない、故に冷静でなければ艦隊に指示すら与える事は出来ない」

 

 スマホで時間を確認する提督。持論なのか続々と語り出した。

 

「他の平和ボケした哀れで気色悪い怠けた連中と違って俺は常に冷静なのだよ。一々変化する事の状況に驚いてどうする、そんな奴らは軍人失格だ。軍を辞めて電波も繋がらないド田舎で稲作でもしてるといい、と思ってる」

「……ソレデ?」

「妖精を見る事が出来る者が提督になれてしまう世の中だ。艦娘は大体惚れ惚れする程の美少女ばかりだからな、まるで夢の様な職に思われてるがそれは違う。これは戦争だ、戦えない人間の代わりに戦ってくれている艦娘の命と護らなければならない国民の命を操っている。それを知らずにノコノコと提督になり、勝手に馴れ合って日常だとほざいたり、平気で肉体関係を作る様なヘラヘラしてる奴が一番大嫌いだ。これを聞いてお前は何と戦っているか馬鹿らしくなってきただろう?」

 

 簡単になる事は出来るが簡単に務められる仕事では無い。軍人になったからには国民を護るという使命が与えられる。だが残念な事にそう思う者は限りなく少ない。権力に目が暗み、自分の思うがままに行動する輩が殆どだ。提督はそういう平和ボケした連中が大嫌いなのだ。

 

「……エェソウネ。本当ニ……馬鹿ミタイ……」

 

 

 

 

 

「――あぁ、お前も馬鹿だけどな」

「……ッ!?」

「……来たか」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 衝撃で海水が空に舞う。風圧で硝煙が掻き消され、何かを殴打する重い音が聞こえた。水柱が幾つも立ち、赤い液体が海水に混じる。

 

「イツマデ耐エル? モウ限界ハトックニ来テルハズダゾ?」

 

 戦艦棲鬼の前に立つは満身創痍の金剛。防御した両腕は震えて既に感覚が途切れ途切れ、正装はボロボロに引き裂かれている。頭の怪我で流れた血が目に入り、片目は見えていない。骨も何本か折っている。動く度に身体中に響く激痛のおかげで自分が生きている事を再確認できた。

 

「生憎……私はしぶっ、とくてネ……周りからもそう、言われるんだヨ……」

「……気ニ入ラナイナァ、ソノ目。カツテノアイツヲ思イ出ス」

「思い出に……浸ってる、場合? ピークでも過ぎタ?」

「何ガピークガ過ギタ、ダ。マダマダ私ハ強クナルッ……ナンダ?」

「よっし、魚雷が当たった!」

 

 古鷹率いる第一護衛艦隊が援護に来てくれた。魚雷で先制攻撃を食らってしまう。金剛ばかり構っていてはいけないと咄嗟に思い出した戦艦棲鬼は金剛を置いて去ろうとした。

 

「少シ羽目ヲ外シ過ギタカ……今ハ辞メヨウ。オ前ヲ相手シテイル程暇デハナイ」

「……逃がすかッ!!」

 

 金剛がすかさず反撃に出るも、また身体を掴まれる。

 そして海面に叩きつけられ、零距離の砲撃を食らった。金剛は白目を開き、意識を失う。

 

「ソコデユックリト沈ムトイイ」

 

 戦艦棲鬼に見放され、海に浮かぶ金剛。このまま沈むかに思えた。

 が、意識を取り戻し、ボロボロの身体で立ち上がる金剛。必死に痛みを堪え、立ち去る戦艦棲鬼を見る。

 

「殺スッッ!!」

 

 金剛は急発進。海上を低空飛行し、一気に戦艦棲鬼に接近する。

 殺気に気付いた戦艦棲鬼が振り向く。

 金剛の右脚が戦艦棲鬼の母体の左頬に直撃。

 戦艦棲鬼の母体の左腕が金剛の右頬に直撃。

 クロスカウンターが炸裂する。

 衝撃波が広がり、海を斬るように水しぶきをあげた。

 

「グッ……!!」

「オ前ッ……!!」

 

 戦艦棲鬼の母体まで接近し、初めて殴った金剛。

 お互い殴られても怯まず、次の攻撃に移る。

 両拳を使っての連続殴打。相手が倒れるまで殴り続ける。艤装の剛腕が間合いで使えない以上、母体で戦う他は無い。戦艦棲鬼も自らの身体を使って金剛を殴り続けた。

 

 両者一歩たりとも引かない。ただただ殴るだけ。第一護衛艦隊も近付けるはずはなく、見守る事しか出来ない。

 

 金剛が隙を見定め、左頬を強く殴る。

 怯んで攻撃をやめた戦艦棲鬼。

 すかさず金剛は右脚で戦艦棲鬼を蹴り落とす。

 戦艦棲鬼が強く海面に叩きつけられた。

 

「古鷹ッ!!」

「任せて!」

 

 金剛の指示に合わせ第一護衛艦隊が動きを合わせる。古鷹達は主砲と魚雷で同時に攻撃した。

 

「初めての戦闘がコレなんて本っ当に最悪っ!!」

「あのクズに言いつけてやる!!」

「……ん」

 

 あの鎮守府に着任して以来、訓練ばかりで練度を上げてきた満潮、霞、霰にとっては地獄だろう。初めての戦闘が姫や鬼クラスといった化け物ばかりの戦争なのだから。

 

「小癪ナ真似ヲ……! フザケルナッ!!」

 

 魚雷を食らい続ける戦艦棲鬼。何故か正確に当ててくる魚雷や砲撃にイラついていた。

 両腕両脚を使ってうつ伏せのまま跳躍。

 身体の正面を金剛に向け、全門斉射。零距離で砲撃を食らった金剛は後方へ吹き飛ばされる。

 姿勢を変えて、海面に着地。すぐさま古鷹達に標的を変更し、主砲で砲撃。

 

「皆! 踏ん張って!!」

「沈メ雑魚共ガッ!!」

 

 古鷹達に集中している間に接近する金剛。咆哮を上げながら戦艦棲鬼に突進した。

 

「ウオォォァァァァ!!!!」

「コノッ……! クタバリ損ナイガァァ!!!」

 

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