「あぁ、お前も馬鹿だけどなぁ……」
「ッ!?」
「……来たか」
誰かの声が聞こえた。それはこの鎮守府の艦娘達にとって憎むべき存在。今は黒い軍服に目を赤く光らせている。
「■■■鎮守府責任者、■■少尉。いや、今は深海棲艦のボス、とでも言うのかな?」
「貴様らの情報ではそうだろうなぁ。おかげでこちらは楽しくやらせてもらってるよ」
「提督……ッ!」
飛行場姫が酷く怯えている。無理もないだろう。自らの保身の為に作戦を密告し、命を狙われているのだから。前任は見下す目で飛行場姫を蔑む。
「気安く呼ぶなゴミ。作戦バラシやがって……とキレたい所だが無しにしよう」
「エッ……?」
「ゴミが必要になる時代とは優しくなったもんだな。初めてゴミが欲しくなった――」「ゴミがゴミ求めてるとか笑えてくるなぁ」
「……」
飛行場姫と前任の会話に無理矢理侵入する提督。罵倒を加えて会話に参加した。椅子から立ち上がり、前任の元まで歩み寄る。
「お前のおかげでこちらは翻弄されっぱなしだ。さぞかし良い作戦でも考えたのだろう、お前じゃないけど」
「あぁそうだ。だから何だと言うのだ。作戦が成功しつつある事に変わりはない」
「へぇー成功する気満々でいるのかぁ、つくづくおめでたい頭だなぁ」
「その減らず口もそれが最後だぞ……何故変装してるか知らんが貴様とこのゴミは持って帰れば作戦は終了する。更には──」
前任が指を鳴らす。すると深海棲艦が窓を突き破って現れた。戦艦タ級、戦艦レ級elite、軽巡棲姫、駆逐水鬼、離島棲鬼と豪華な深海棲艦を揃え、一斉に戦闘態勢へ入る。
「ちゃんとした護衛艦隊が来てくれてる。例えお前だろうとこれは切り抜けまい」
執務室には提督と飛行場姫のみ。前任は多くの深海棲艦を連れて戦闘態勢。どうみても絶望的な状況である。その中で提督は冷静に前任へ質問をした。
「……お前の野望は何だ?」
「今更命乞いか? 良いだろう、冥土の土産に持っていくがいい。俺はこの世界を支配する事にした!! この深海棲艦を使って人類を蹂躙し、残虐の限りを尽くし、そして支配する!! お前らゴミ共を矯正させ、新たな世界を作るんだ!!」
「そ、そうか」
あまりにも壮大且つ無謀な野望に素の反応で戸惑う提督。それも気にせず前任は憎しみを込めて語り出した。
「その為には色々と準備が必要だったんだ。それなのに貴様が尽く俺の邪魔をする!! あらゆる手で俺を脅し、行動を制限させやがって!! 計画予定日から大分遅れちまったよ、てめぇの所為でなァ!!」
「無防備にチャラチャラ話すお前が悪い、自覚無しとはまさに馬鹿に相応しい人間だ。どうだー? 新しく名前を変えて、馬鹿沼 馬鹿太郎って名前にするのは」
「黙れ下等種族がッ!! 貴様は絶対に許さん!! 情報を吐き出すまで身体の中からありとあらゆる臓物を生きたまま引きちぎり、苦痛という苦痛を味わせてやるッ!!」
提督に指さし、怒りを訴える。前任は逃走前から提督に脅されていた。バラさない代わりに大人しい行動を心掛けるように計画を知られたかのように迫られ、苦痛な日々を送っていた。
これほど屈辱的な事は無い。いつか殺してやると誓っていた。
「やっぱお前、馬鹿だな」
この絶望的な状況下で提督は前任をコケにしていく。前任をほくそ笑みながら近付いた。
「ベラベラベラベラどうでもいい事口走って……偉くなったつもりか木偶の坊。俺がこの時の為までに何もしてこなかったとでも思ってるのか? 愚か過ぎて爆笑しそうだよ■■小尉。相変わらずの無能ぶりは賞賛に値するねぇ」
「何が言いたいんだ、減らず口もそこまでだと言ったはずだッ!」
「お前に俺の話を遮る権限は無ーい!! いいかー? お前が最高級ステーキ定食を雑に残した様にこの鎮守府の後片付けをわざわざ受けてやっているんだ。お前の所為でロクに戦いもしないポンコツ兵器共を育て上げ、残ったおかずを平らげるように残飯処理をしてあげてるのだよ! 感謝したまえ!!」
提督は後ろで構える深海棲艦達の表情を確認する。その表情を見て提督は更に話を続けた。
「その連れてきた深海棲艦の表情じゃあお前を良く思ってなさそうだなぁ。人間にも艦娘にも深海棲艦にも慕われていないとは何とも醜い存在だ!! 笑い過ぎて涙が出る!! 一度お笑い芸人になったらどうだ? 全世界で社会的に笑われて皆ハッピーだ!! 良かったなァァァ!!!」
「グギギギギッ……殺せェ!!!」
深海棲艦達が一斉に襲い掛かろうとした。しかし提督は指を弾き、余裕な顔をしている。
その時、床や天井からある艦娘が現れた。
「何ッ!?」
長門、加賀、青葉、響、朝潮が艤装を展開した状態で奇襲したのだ。
突然の攻撃に対応出来るはずがなく、近接格闘術で深海棲艦達を仰け反らせた。提督の前に立つは前任に復讐する為に残った強き艦娘達。前任に会えて嬉しいようだ。
「誰が俺一人でコイツを護ると言ったんだぁ? 哀れすぎてかける言葉すらないよ■■小尉」
「な、何故ッ……!!」
「無能な事にお前はこの執務室の異変にすら気づかなかった。何故護衛が一人もいないんだってな」
確かに先程まで雰囲気が変わっていた。しかし殆どの艦娘達は出撃しているはずだ。この執務室には忌まわしい中将と飛行場姫しかいない。憲兵もいない、警備は手薄なはずだと思い込んでいた。
だが中将は自分達が深海棲艦を連れて来る事を見込んでわざと侵入させた。人をイラつかせるのが得意なようだ。
「これからだぞ……本番は……!」
「いや今のが本番だと思うけどー」
「いい気になりやがって……だがその気もそこまでだ!!」
戦艦レ級がある艦娘に砲口を向け、現れた。
恐らく誰かを捕まえて人質にしたのだろう。砲口を向けられているのは暁だ。出撃した状態で捕らえられたのだろう。
「司令官……」
「暁……お前……」
「ひぐっ……ごめん、なさい……」
首を激しく掴まれ、自由を奪われている。自分の失態に涙を流した。戦艦レ級は暁の頭を殴り、何回も騙される。しかし暁は怯えるだけ泣き喚いた。
「暁!!」
「ハァ……面倒な事してくれたなぁ……」
「どうだ! これで何も手は出せまい!」
「そうだなー……」
悩む様に考えながら、提督は拳銃を取り出す。
そして――、
「
暁に発砲した。
「提督何を!?」
「暁ッ!!」
撃たれた暁はビクともしない。血が出ているのが分かった。
思わず長門は提督の胸ぐらを掴み、怒り出した。何故こんな事をしたのか、何故暁を殺したのか、力任せに提督を殴る。
「何故こんな事をした! 言え!!」
「あーうるさいなぁ……別に邪魔だから殺しただけだろ、尊い犠牲だぁ」
「んな訳ないだろう!! 今までの言葉は全て嘘だと言うのか!!?」
「嘘だったらお前はどうすんだー?」
前任や深海棲艦でさえも有り得ない行動に戸惑っていた。捕まえた人質を躊躇いもなく射殺したのだ。訳が分からない、何がしたいのか理解できない。
「何て野郎だよ……殺しやがった……!」
「ダメだ響!! 殺されるぞ!!」
「そんなことなんてどうでもいい!! 暁が――えッ!?」
響は目の前の光景に目を疑った。よく見れば暁が――
――立っている。
「何驚いてッブファ!!」
前任が突然吹き飛ばされた。何故だ、場の状況が二転三転し過ぎて頭の理解が追いつかない。
誰が前任を蹴り飛ばした。誰がこんな状況にさせた。
前任が提督を見る。
提督は無様な姿を嘲笑っていた。そして何故か撃たれたはずの暁が隣で元気に立っている。
「嫌なアイツを蹴り飛ばしてやったわ司令官! 成功よ!」
「おーおーよくやった暁、後でご褒美だ」
「えっへん!」
元気な暁の立ち姿に長門達も呆然としていた。響は暁を抱き締める。
「提督、これは……!?」
「説明は後、まぁ言えるのは敵を欺くのはまず味方からって事かな。って訳で全員戦闘開始、好きにぶん殴れ」
「りょ、了解!!」
メモ用紙には戦闘開始という合図で攻撃しろ、と書かれていた。正しくこれが本当の戦闘開始なのだろう。急に我に返った長門達は一斉に深海棲艦達に襲い掛かった。
「グッ……面倒クサッガァ!!!」
それぞれ深海棲艦を狙い外へ追い出す。執務室に残ったのは提督と飛行場姫、そして前任。大所帯と化していた執務室も静かになっていた。倒れる前任に提督は拳銃を巧みに指で振り回し、歩み寄る。
「さて……スッキリした訳だが、前任の。少しお話しようか?」
「……クソが……ッ!!」
──鎮守府近海
「天龍!!」
誰かが呼んでいる。耳が遠くて誰の声か分からない。
「おい! 応答しろ天龍!」
駄目だ。通信機が壊れてる。何も良く聞こえない。
「死ネェェェ!!!」
だがコイツの声は鮮明に聞こえる。前任と同じく復讐したい深海棲艦、南方棲鬼。奴が今、自分の目の前で襲い掛かろうとしている。
「チッ……!!」
南方棲鬼の鉄拳を刀で防ぐ天龍。しかし力が上手く入らず、海面に膝をつく。勝負は圧倒的に南方棲鬼が勝っていた。
天龍は頭から血を流し、両腕が激しく痙攣、両脚は立っているのがやっとの状態。意識は朦朧としていて、片耳は鼓膜が破れて良く聞こえていない。
それに対し南方棲鬼は顔にいくつかの切り傷、艤装の一部炎上、片腕に深い斬り傷がある状態。
「死なねぇよ……俺はッ!!」
刀で防御した鉄拳を下の海面に受け流す。
水柱が立ち、姿が確認出来ない。
しかし天龍が刀を全力で振る。
水の壁を斬るように南方棲鬼の腹を浅く斬った。
「グッ……!!」
思わぬ攻撃に一歩後退する南方棲鬼。腹を抱え、流れ出る血を確認した。傷は浅いものの血は止まらない。昔の
少し苛立ちを見せた南方棲鬼は所構わず天龍に殴り掛かった。
だが──、
「ナニッ!?」
「こちら戦艦ガングート、第三主力艦隊を一時離脱。南方棲鬼との戦闘に移る。旗艦は瑞鳳に任せた」
ガングートが助太刀する。南方棲鬼を横から全力で殴り飛ばした。すかさず五十鈴達が天龍を保護する。誰から見ても天龍の状態は酷かった。
「天龍!! 目を覚まして天龍!!」
意識が無い。まさかと思った五十鈴がガングートに貰った物を天龍に施した。
「天龍!!!」
──あぁ、俺は……
目を開くとそこにあるのは、
あの鎮守府だった。
この次の話は、初めて詳しい艦娘の過去が……!
多分です。