うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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47. 闇夜に変わる二つの一転攻勢

「まさかッ──」

 

 明石が振り向いた次の瞬間、顔面に左拳が直撃、そのまま殴り飛ばされた。鼻血を出し、白目を向く明石。後ろにいたのは──、

 

「悪い。あまりにもうるせェから、腕斬ってやった」

 

 満身創痍の天龍を抱えた木曾だ。

 

「木曾っ!?」

「遅かったか……!」

「なななな何でこんな事を……!! て、木曾……お、おおお前、なん──」「うるッせェんだよ!!」

 

 騒ごうとする葛城を殴り飛ばし、気絶させる木曾。

 ちょうどこの時第三水雷戦隊と木曾が一時帰還していたらしく、この現場に急いで来たらしい。木曾は斬った明石の左手を五十鈴に渡し、蛮行を阻止した。五十鈴は思わず気味悪がってしまう。

 

「これでいいか? 長門」

「あぁ……すまない木曾」

「チッ……!」

 

 計画が失敗し、軽空母が後退る。明石と龍驤が殴られた。スイッチは五十鈴が持っている。全て失敗に終わってしまった。

 

「形勢逆転だ!!」

 

 木曾が剣を突き出し、堂々と身構える。まさに形勢逆転。周辺には長門と青葉、第三水雷戦隊が囲んでいる。

 何故今になって反抗してきたのか理解できない。自分達より劣っているゴミ同然の鉄屑の癖に生意気だ。頭がおかしくなる。変な頭痛に襲われ、髪を掻き毟った。

 

「提督、明石の犯行は阻止した」

『あー……あっぶねぇー……気付いてよかったわー』

「止めた俺に感謝するんだな」

『あぁ木曾には後で褒美をやる。倉庫の鎮火も頼むわ、すまないな』

「了解した」

 

 明石の反謀を阻止した木曾に心の底から感謝する提督。これだけ肝を冷やしたのは何年ぶりだろうか。

 

「……まぁ結果オーライか。んで話を続けようか」

「今それ言う流れじゃなくね?」

「んなわけないだろ。色々あったが話は続けるぞ」

 

 まるで他人事の様に振る舞う前任。左肩を軍刀で刺されているのにこの余裕の表情。戦争中だというのに場を弁えない男だ。

 

「……苦労してん──」「元はと言えばてめぇの所為でこうなってんだよ、分かってんのかぁぁ……!?」

「貴様のその顔を拝めてこちらは清々してるぞ」

「ほぉー減らず口が叩けると余程余裕らしい。だったら……」

 

 拳銃を前任の額に当てる。殺意丸出しで拳銃を押し付けた。

 

「その減らず口が叩けなくなるまで徹底的に吐き出させてやる。覚悟しろ」

「果たしてそう出来るかな?」

「は? 何言って──」

 

 直後提督は()()を刺され、机の方まで蹴り飛ばされる。机は粉々になり、土煙が上がった。提督を蹴り飛ばしたのは離島棲鬼。艤装を構え、前任の前に出る。

 

「ッタク貴方モ災難ネ……」

「遅いんだよお前」

「黙ッテクレルカシラ」

 

 提督はぐったりとしている。机の破片が身体に突き刺さっていた。だが提督はゆっくりと立ち上がる。

 

「痛ってー……久しぶりに効いたなこれは……」

「何故……死ンデナイ、ンダ!? 何デ……」

 

 土煙からその姿を現す提督。机の破片を取り除き、怪我を治す。軍帽の埃を振り払い、もう一度被った。

 その姿に離島棲鬼と飛行場姫は驚きの表情を隠せていない。

 

「昔から打たれ強くてごめんな」

「嘘ダ……アリエナイ……!」

「提督!!」

 

 外から飛龍と蒼龍が慌てて駆けつけてきた。執務室は二階、流石艦娘の超人的な力だ。悠々と跳躍して入り込んできた。

 

「大丈夫で――」「どこが大丈夫ですか、だゴラァ!! 危うく死にかけたんだよ、見りゃ分かんだろぉぉが!!」

「ごめんなさい! ごめんなさい!」

「はぁ……まぁいい。今はキレてる場合じゃない」

 

 飛龍と蒼龍は目の前の前任と深海棲艦に気付き、弓を構える。飛龍達は練習用の矢を使っているようだ。充分殺傷能力はある。

 

「飛龍と蒼龍か……」

「もうお前は敵だ、容赦しない」

「えーっと……あらら仮面も少し歪んだな、あれカツラは……あったあった」

「白い長髪とは……まるで深海棲艦じゃないか」

「これが俺の趣味なんだ、何とでも言いたまえ。さて……」

 

 提督は飛龍達の前に出る。目の前には離島棲鬼と前任、そして飛行場姫。膠着状態だ、どちらかが先に手を出せばまた戦闘が始まる。前任は抜いてもらった軍刀を持ち、提督に突き出す。

 

「その軍刀を持ってどうする気かな?」

「邪魔なお前を殺す。それだけだ」

「物騒だなぁ~何故自分が馬鹿だと気付かない。俺を殺した所で第二、第三の俺がやっ──」

 

 突然倒れ込む提督。

 まるで糸が切れた人形のように床に伏せた。

 

「提督!!」

 

 蒼龍か提督を支え、声を掛ける。

 

「毒が回ったようだな貴様……」

「何を……した……」

「それは自分の背中を触れば分かる」

 

 提督の背中にはじわじわと血で赤く染まっていた。提督が前に出た時は何も無かったはずだ、何故今になって血が流れているのか。

 視力が霞む、鼻血や吐血が止まらない。仮面が血で染まり、手足も麻痺してきた。

 

「私ガ蹴ル前ニ刺シタノヨ」

「そうだ。それは即効性且つじわじわと貴様の中を破壊していく毒薬だ。通常の人間であれば数秒と持たない……だが何故か貴様だけは生きている。正直焦ったよ、毒に対する耐性でもあるのか分からんが効いてくれてよかった」

 

 毒に耐えきれずまた血を吐く。床に血の水溜まりが出来た。提督は床に膝を付け、喉を抑える。呼吸困難で息は乏しく、身体全体から震えが止まらない。

 

「提督! しっかりして!!」

「やれ」

「了解」

 

 提督を心配する飛龍達を前に離島棲鬼が襲い掛かる。咄嗟の攻撃で飛龍達は外へ殴り飛ばされた。執務室には提督と飛行場姫、前任しかいない。

 

「フハハハハ!! これから貴様を殺せると思うと心が躍るぞ!! 散々踏み躙られたんだ、最期まで痛めつけ、苦しませてから殺してやるよッ!!」

 

 前任は馬乗りになり、軍刀を提督の左胸に突き刺す。そして提督の顔を何回も殴打した。時々聞こえる断末魔など気にせず、笑いながら殴りつける。

 

「そんな……提督!!」

 

 今すぐにでも助けたい。

 だが離島棲鬼が邪魔をしてくる。

 このままでは本当に提督が殺されてしまう。長門達からの連絡が来ない。通信も繋がらない。

 

「フハハハハ!! どうだ、死ね! 死ね! 死ねェ!! 一度は殴ってみたかったんだ、その生意気な顔をなァ! まだガキのてめぇが軍人なんかになってんじゃねーよ!! 何か言えよ、仮面外してやるから、堂々と晒せこのクソ生意気なガキがァ!!」

 

 殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴り続ける。提督の事など気にしない、死んでいるかどうかも気にしない。満足するまで殴り続けた。足で何回も蹴り、そしてゴミのように踏み付ける。今まで恨みを込めて全力で暴力を振るった。

 

「ッ……!」

 

 その状況を飛行場姫はただ見ていた。凄惨な光景に驚いて怯えていた訳では無い、ある事を見て驚いていた。

 

「……ヤメロ……」

 

 手をグッと握り、身体を震わせる。

 

 助けたい。

 でもダメだ、手を出せば殺される。

 だけど手を出さなければ殺されてしまう。

 自分にそんな力は無い。

 無理だ、身体が動かない。

 

 でも──、

 

 

 

 

 

 

 

『飛行場姫は優しいね。いつも僕の傍で励ましてくれる』

 

『……監視よ。自惚れないで』

 

『そっかそっか監視か……それでもありがたいよ。僕には寄り添う仲間がいないからね』

 

『……寂しいの?』

 

『うん、寂しい』

 

『……馬鹿みたい。これだから他の奴らや人間は嫌いなのよ』

 

『そう言って仲間の事を心配したり、傷ついた仲間を助けに向かったり、沈んだ仲間の為に涙を流したり、戦う為に稽古をやらせたりしてる』

 

『……何故そこまで私の事を知ってるの?』

 

『ん? だって君は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──誰でも助けたいと思う、優しい子じゃないか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──助けなきゃ、いけない気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……ヤメロッ!!」

 

 飛行場姫は思い立って、暴力を振るう前任を押し飛ばす。前任は壁に打ち付けられ、仰け反った。すぐに飛行場姫は軍刀を抜き、身体を持ち上げ抱きしめる。

 

「オ願イ……オ願イダカラ……」

 

 涙を流し、提督の安否を確認する。息はしていた、まだ心臓の音は聞こえる。だがいつ死ぬか分からない状態だ。飛行場姫は心から願う。

 

「モウ……誰も死なないで……」

 

 

 

 

 

 

 その願いは誰の為なのか。それは飛行場姫にしか分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ぬかよボケ……!」

 

 声に反応し、苦し紛れに答える提督。肺に溜まった血を吐き、咳込む。飛行場姫に支えられ、提督は立ち上がった。身体中の血管から青い筋が浮き出ている。

 

「ソンナ……モウ立タナイデ! 立ッチャ駄目!!」

 

 血反吐を吐いても尚、提督は立ち続ける。白い軍服が血に塗れ、顔は紅く腫れている。

 

「クソッ! 邪魔しやがってェェ!!」

 

 傍に落ちていた拳銃を拾い、提督に銃口を向ける。何発か発砲し、左肩と右太腿に当たる。

 提督は手に持つ拳銃を蹴り飛ばし、前任の胸倉を掴む。

 そして執務室のドアまで放り投げた。テーブルに叩きつけられ、ドアを破壊する。土煙を上げ、埃が宙に舞う。

 

「……グッ……ハァハァ……よく聞けお前ら……!」

 

 提督は壊れた執務机に戻り、無事だったマイクを口に寄せる。今戦っている艦娘達に必死な声で呼び掛けた。

 

「戻るな……今は戦え……!」

『でも提督がッ!!』

「……ヒヒッ……兵器が、人を……心配してんじゃねーよ……」

 

 今までの会話を全ての艦娘達に聞かせていた。マイクをオンにした状態で艦娘達へ伝えていたのだ。提督の異常事態に鎮守府へ戻る者さえいた。長門達も戻ろうとしたが、深海棲艦が行く手を阻まれている。

 

「前に……言ったよなぁ……俺はっゴホッゴホッ……俺は……戦えと、言っただろ……?」

『でも!!』

「馬鹿な事を……したら死ぬ、事と思えとも……言った、はずだ……」

『……っ!!』

「これよりお前ら……いや君達に、最終命令を下す……! 全員……暴れろ……! 容赦はするな!! 相手が一方的に、ひれ伏すまで!! 戦え!!」

 

 自身の安全よりも戦況の事を優先した。

 弱く震えた声で艦娘達を鼓舞する。

 

「よくも……やって、くれたなぁ……クソ野郎……」

「シッカリシテ……」

「ハッ……こんなもん、アイツらのリンチと比べれば……ちょろい、もんだ」

 

 壁に寄り掛かり、左胸を抑える提督。微かに笑いながら、床に座った。壁には赤い液体がこびりついている。飛行場姫が肩に触れ、提督の事を心配した。

 

「クソが……全員戻れ!!」

 

 放り投げられた前任はすぐさまに立ち上がり、深海棲艦達を招集させる。今ここで飛行場姫をねじ伏せ、自分を殺せばいい物を。やはり馬鹿で無能な男だ。

 

「提督!!」

「おい大丈夫か!? 早く手当を!!」

「司令官!!」

 

 長門達が二階の執務室に飛び込み、提督の元へ向かう。当たり前のように跳躍で飛んできた。加賀が■■医師を抱え、提督の様態を診ようとした。

 

 が──、

 

「待ってください!!」

「いいから……退け……」

 

 医師の応急処置を拒み、再度立ち上がる。

 

 そしてニヤリと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……第三幕の大勝負と……行こうじゃないか」

 

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