うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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胸糞注意警報発令


48. 朧夜に甦った惨憺(さんたん)たる走馬灯

「提督の命令だよ!! 全員戦って……勝つんだよ!!」

『『了解!!』』

 

 戦場では熾烈を極め、地獄とも言える戦闘が繰り広げられていた。

 

 大破状態の艦娘は計十一名、中破状態は計二十五名、小破状態は計二名、損害ありは三名。天龍は一時帰還。

 

 対する敵は戦艦棲鬼、空母棲姫、空母水鬼、装甲空母鬼、戦艦が十体、空母が約十二体、重巡や軽巡が三十二体、駆逐艦が四十体。あまり戦況はよろしくない。

 

「摩耶!! 畳み掛けるよ!!」

「任せろ!!」

 

 第二主力艦隊と第一水雷戦隊が同時攻撃を仕掛ける。まず第一水雷戦隊の一斉発射した魚雷で牽制、敵艦載機を摩耶と鈴谷がカバー。そして陸奥と比叡の全門斉射で空母水鬼を撃破した。

 

「クソッ……空母水鬼ガヤラレタ……!! ッハァァァァ!!!!」

 

 空母水鬼の沈みゆく姿を見て、激昴する空母棲姫。両手を重ね、絞り出すように無数の艦載機を繰り出した。総勢七十五以上はある。しかも全部がエリート級。いくら摩耶といえど防げるかどうか分からない。

 

「コレガ最後ノ攻撃ダ……食ラエ──ッ!?」

 

 空母棲姫が艦載機を発艦、しようとした。

 だがその手を止め、驚くような表情をしている。

 

「何故止めた……?」

「そんな事はどうでもいいわ、早く──」「摩耶ァァ!!!」

 

 陸奥が空母棲姫に意識を配らせたその時だった。名前を叫ぶ声が陸奥の声を遮る。すると背後から摩耶が黒い巨大な腕に殴り飛ばされた。

 

「摩耶ッ!!」

「まさかッ!!」

 

 背後に気配を感じる。

 恐る恐る背後を確認するとそこには──、

 

 

 

 

 

 ──敗れた金剛を巨大な拳で握る戦艦棲姫がいた。

 

 

 

 

 

 

「グッ……皆主砲構えて──」「黙レ」

「グハッ!!!」

 

 我に戻った陸奥が艦隊に命令を下す。だがそうする暇もなく、戦艦棲鬼は第二主力艦隊を蹂躙する。

 

「まずい第二主力艦隊が崩れた!! ガングート、早く来て!! 摩耶達が本当に危ない!!」

『分かっている!!』

 

「空母棲姫……ヤレ……」

「言ワレナクテモッ!!」

 

 空母棲姫は艦載機を一斉発艦。容赦なく崩れた艦隊を攻撃する。第三主力艦隊や第一水雷戦隊がすぐに援護へ向かった。第一護衛艦隊がボロボロの状態で向かって来ている。

 

『ごめん……止めれなかった……』

「善戦したよ皆! ありがとう! 今は早く援護を!!」

 

「元カラ、コウスレバ良カッタノダ……ダガシブトイ金剛ガイタモノダカラ、ツイ手間取ッテシマッタ……」

 

 戦闘が楽し過ぎるあまり、時間を忘れかけていた。

 

「グッ……!!」

「何度ヤッテモ同ジダ馬鹿者!!」

 

 巨大な拳の拘束を振りほどき、金剛は母体に殴り掛かる。だがもう一方の巨大な手に掴まれ、海面に叩きつけられた。

 

「何故分カラナイ!! 圧倒的ナ力ノ差ハ分カッテイルダロウ!! 馬鹿ナノカオ前ハ!!」

「馬鹿……だヨ……」

「ッ!?」

 

 金剛は即座に自分を馬鹿と認めた。即答する金剛に驚く戦艦棲鬼。金剛は小さな細い手で巨大な腕を掴み、震えた声で話す。

 

「私は……誰もが認める……救いようの無い馬鹿……でも、その馬鹿でも……」

 

 金剛は少しばかり笑みを見せた。

 

「いい所……見せたいじゃん……?」

「ッ……!! クダラナイ!! ソンナ事ヲ口走ッテルカラオ前ハ弱インダ!! 弱者ナラ弱者ラシク、部屋ノ隅デ泣イテイレバイイ!!」

 

 何か癇に障ったのか戦艦棲鬼は金剛を海面に叩きつける。大きな水柱が立ち、打ち上げられた海水が雨となって降り注ぐ。戦艦棲鬼は少し焦りながらも摩耶に近づき、殺そうと巨大な右拳を握り締めた。

 

 

 

 しかし──、

 

 

 

「邪魔ヲ……! フン……面白イ。ドコマデ足掻ケルカ、我慢比ベダ!!」

 

 摩耶の前に金剛が立っていた。血だらけの姿でなお、震えもせずに立ち向かっている。

 

「金……剛……!」

「待ってて……今、倒すカラ……!」

 

 振り向きもせずに金剛は両腕を構える。先程の戦闘で金剛は大破状態だ。次こそまともに攻撃を食らえば本当に沈んでしまう。摩耶は止めようと声を出すも、上手く喋れない。

 

「金剛ォォォォォォォ!!!!」

「ッ!!!」

 

 水しぶきを上げ、戦艦棲鬼の全力攻撃に耐える金剛。巨大な二つの拳を両手で殴り、足に力を入れる。

 

 

 腕の骨が折れる音がした。

 

 腕を支える肩の骨が粉々になる痛みを感じた。

 

 涙が滝のように出た。

 

 衝撃が身体を巡っている。

 

 

 

 痛い。

 

 とても痛い。

 

 泣き叫びたいくらい痛い。

 

 死にたいくらい痛い。

 

 

「潰レロォォォォォ!!!!」

 

 遂に力の差に抗えず、海面に叩き潰される。二つの巨大な拳が今すぐにでも金剛を沈めようと必死だ。その拳を金剛は自分の拳で支える。腕が血で赤く染まり、複雑に変形しかけている。

 

 

 ごめん。

 皆を助けられないや。

 勇気を持って立ち向かってみたけど、もう駄目みたい。

 

 もうどこが怪我してるとか分からない。

 

 

 比叡、榛名、霧島、提督、摩耶、長門、皆。

 

 

 ごめんね。

 不甲斐ない姉で。

 

 仲間を見捨てるような艦娘で。

 

 嫌われるような艦娘で。

 

 最弱の艦娘で。

 

 

 こんな姉なんて嫌いに決まってる。もういない方がいいに決まってる。

 馬鹿で、間抜けで、愚かで、未熟で、単純で、何も出来ない、哀れな鉄屑。

 

 自分の了承で妹達を解体して、新しい妹達がその話を聞いたら、一気に仲が悪くなって、差別して、侮蔑して、嬲ってきた。

 

 

 それが当然だ。禁忌を犯したから。

 

 

 最愛の妹達を自分の都合で殺して、新しい妹達がそれを聞けば、怒るのも当然だ。

 私は許されない事をしたんだ。

 

 報いは受けるべきだ。

 

 報いは、受けるべきなんだ。

 

 

 

 報いは──、

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ? 何で解体なんてするんデスカ提督!!」

「お前の妹達は戦艦棲鬼に対する力を持っていながら見事に惨敗した。ノコノコと帰還して来やがって……いっそ沈んでもらった方が良かったんだ」

「そんなのは間違ってマス! 即刻撤回してクダサイ!!」

「まぁまぁ話は続きがあるんだ落ち着け金剛。とりあえず紅茶を飲んで落ち着いてくれ」

 

 出された紅茶を飲まされ、落ち着き出す金剛。確かに話の続きを聞かなければいけない。解体はまだ先だ、何とか言って食い止める必要がある。

 

「んで、続きってのは何デスカ?」

「あぁ話の続きだが、解体とは言っているがもし君が今日の夜に来てくれるなら考えてやらん事もない」

「……夜枷、デスカ。私が行けば解体は見直してくれるノ?」

「あぁ考えよう。どうだ? いい条件だと思わないか?」

「……分かりマシタ。受け入れるネ」

 

 そして夜になり、前任の部屋に向かう。部屋に入ると窓際のテーブルと椅子に前任は紅茶を飲みながら待っていた。

 

「いやー金剛。よく来てくれたよ」

 

 金剛はさっさと始めようと服を脱ごうとする。しかし──、

 

「いやいや待ってくれ。すぐじゃない、夜は長いんだ。まずは妹達の話し合いの為にちょっとしたティーパーティーでもやろうじゃないか」

「……分かりマシタ」

 

 窓の近くに用意されたテーブルと紅茶セット。妹達の話し合いと聞いて、一応話を聞く事にした。紅茶セットは自分の物を使う事を提案、前任は快く受け入れてくれた。

 

 話の内容は驚くべき事にどうすれば妹達が強くなれるか、といったものだった。金剛は一生懸命に答えた。最愛の妹達を生き永らえさせる為に様々な提案をした。だが途中で──、

 

「うっ……」

「! どうした金剛?」

「いや眠気が……」

 

 やはり紅茶に何か仕掛けていた。急激に眠気が襲ってきた。何故だ、紅茶は入れ替えたはずだ。自分の物に睡眠薬など入れるはずがない。

 何故──、

 

 

 

 その場で金剛は倒れてしまった。目が覚めるまでの記憶は無い。だがハッキリとされた感覚がある。下に何か液体が落ちていくのが分かった。そして目を覚ました金剛は──、

 

「金剛、目覚めはどうかい?」

「いえ……まぁ色々と……」

「そうか。じゃあ話し合いの件だが……妹達は解体でいいよな?」

 

 朝を迎え、起き上がる金剛。いつの間にか全裸でタオルをかけられていた。軍服を来た提督が金剛を呼ぶ。解体でいいか、と質問した。普通なら話が違うと否定するだろう。

 

 だが金剛は──、

 

 

 

 

 

「はい! お願いしマス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──狂ってしまった。

 

 

「何故ですかお姉様!! 私達を助けると……約束したじゃないですッやめて!」

「目を覚ましてくださいお姉様! お姉様は操られてます!!」

「そんな、金剛お姉様……違いますよね……? 比叡達を見捨てたり……しないですよね……?」

 

 縄で拘束された比叡達は解体所へ、飛龍や蒼龍に連れていかれる。提督と金剛、憲兵達に囲まれながら見送られた。そこに比叡が金剛に縋り付く。だが金剛は悪魔の言葉を言い放った。

 

「悪いけど使えない鉄屑は解体行きなノ。バイバイ」

 

 別れの挨拶を軽々とする金剛。手を振り、その顔は笑っていた。それと同時に涙を流していた。

 

「そんな……!」

「っ……やらせてたまるもんですかッ!!」

 

 絶望する比叡、霧島。最早抵抗する力を無くし、解体執行部屋の中に入れられていく。

 

 だが榛名は違った。

 

 狂った金剛を前に榛名は事前に持っていた刃物で縄を解く。拘束しようとする飛龍と蒼龍を殴り飛ばし、すぐさま外へ向かった。出来れば比叡や霧島も助けたい。だが今はそれが出来ない。抑えようとする憲兵達を薙ぎ払い、外へ逃げ出す。慌てて提督は金剛と憲兵を捕獲に向かわせた。

 

「こんなのは……間違ってます……!」

 

 金剛や憲兵から逃れる為、鎮守府外の森へ姿を隠す。ガサガサと憲兵が探しているのが聞こえた。もうじき見つかってしまう。逃げた方が懸命だ。

 

「恐らくお姉様は提督に操られている……その操り方さえ知れば……!」

「何してるノ?」

「ヒッ……お姉様っ!?」

 

 金剛に首を掴まれ、捕まってしまう。艤装展開の金剛に立ち向かう術は無い。もう終わりだ、そう思えた。

 

「何故……」

 

 榛名の頬に一雫の水が落ちる。その水は次第に量を増し、榛名の頬を濡らした。何故か金剛は泣いていた。

 

「何故……死なせたくないって、思うノ?」

「金剛お姉様……!」

「嫌だ……皆を死なせたくない……! やめて私は、違う!」

 

 暴れ狂う金剛。

 両手で頭を抱え、叫んだ。自分を殴り、頭を掻きむしる。

 

「榛名ッ!!」

「は、はい……!」

「お願いダカラ……私に殺させないデ……」

 

 金剛は涙ながらに訴えた。このまま妹達を殺してしまう自分を晒したくないと榛名に逃げる事を薦める。息は上がり、腕が榛名を捕まえようと必死だ。いつ襲いに来るかも分からない。

 

「……いつか……助けに来ます……!!」

 

 榛名は蹲る金剛を置いていき、一人森の中へ消えていった。

 

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