うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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5. 防波堤で釣れるマグロはSSR

「いやぁ酷いよ? 摩耶君?」

「うるさい、黙って仕事しやがれ」

 

 執務室では提督と摩耶が書類を作成している。提督は頭全体が包帯に覆われ、摩耶に見張られていた。明け渡してくれた執務室の掃除は既に終わっている。

 朝九時二十五分。一ヶ月間何もしない状態の下、提督はある事を考えていた。

 

「しかし提督のやり方は少し横暴じゃねーか?」

「こうでもしなきゃアイツらは動かない」

 

 提督は艦娘達にチャンスを与えている。提督に言えば出来る範囲で何でも出来る、と。それはある種の力を目覚めさせる為である。

 

「アイツらに無いのは自主性と行動力だ。自身で間違っていると分かっていながら何も行動を起こさなかったアイツらに原因がある」

「人質でも取られたんじゃないのか?」

「その話は何回もしてるんだけどなー分かってくれないんだよなー」

 

 椅子に寄り掛かり、天井を見る提督。足を伸ばして休憩を取る事にしたようだ。関節音を鳴らし、身体の疲れを少し軽減させる。するとドアからノックする音が聞こえた。誰かが来たみたいだ。

 

「かかったな……入っていいよー」

 

 ドアを開けて出てきたのは金剛だ。いつもは元気な姿を見せる艦娘と聞いている。が、その元気な姿には到底見えない。とても静かだ。

 

「あらあらあの時の金剛さんじゃないか。 何の用だい?」

 

 心の中でほくそ笑む提督。提督の狙いが当たれば大金星だ。金剛は何をしたいのか、自らの口で聞かせて欲しい。

 

「……最初に答えてほしい事がありマス」

「なんだ?」

「テートクは信じられる人デスカ?」

 

 それを聞いた提督は呆れて溜息を吐いた。

 

「あのな、そういうのは俺が決めるんじゃなくてお前らが決める事だぞ?」

「え……?」

「いやいや、え、じゃなくて。どうして俺の信用を俺が決めなきゃならないんだ? それは金剛自身にしか分からない事だろ?」

「でも……」

「でもじゃない。いいか金剛、昔お前らの身に何があったのかは一切聞かないし聞いてやらないし聞きたくもない。だが俺を信じたければさっさと用件を言うんだ。それに信用ってのは時間を掛けて生まれるモンだよ? お分かりこまり?」

 

 早口で言ったおかげで息が続かず、息切れする提督。近くにあったペットボトルの水を飲む。まるでマラソンを走った後の選手の様に息を吐いた。

 

「ってな訳で金剛、俺の言葉の意味が分かって来てるなら……どうぞ?」

 

 金剛に手を差し伸べる。不気味な笑みを浮かべながら、提督はまた水を飲んだ。言葉の意味、自分達は何がしたいのか。自らの判断でこれから起こる事の全てが決まる。

 

「……もう……あの言葉を……言わないでください……」

「ほーん……」

 

 耳の穴をほじくりながら金剛の願いを聞く。耳垢が取れた途端にどっかに放り捨てた。

 あの言葉、『罰』だろうか。罰と言えば多くの艦娘は酷く怯えていた。どんな暴行を受けたかは知らない。だがそんな怯える仲間を見て、金剛はその姿を見たくないのだ。それを考えた提督は金剛に歩み寄る。

 

「もう怯える仲間を見るのが嫌か?」

「はい……」

「なんなら自分だけ言われてもいいとか思ってない?」

「はい……だからお願いしマス」

 

 更に願いを聞いてもらう為に土下座までする金剛。自身のプライドを捨ててまで提督にせがるようだ。

 

「……難しいかなー」

「え? いやだって何でも叶えるってあの時……!!」

「確かに言ったよ? けど出来る範囲での話だ。だって俺を殺そうとする連中がいるんだもん。自己防衛は必要だよね?」

「だ、だったら私が守るから……お願いしマス……」

 

 身体は震えていた。

 大本営から聞いた話では金剛は提督や仲間を愛する事が多い艦娘だと聞いている。後輩や部下達の中でも金剛達を愛でている者が多い。以前後輩の鎮守府を訪れた時、金剛が他の艦娘達と仲良くティータイムをしてた場面を見た事がある。恐らくとても仲間思いの艦娘なのだろう。

 土下座する金剛を見て、提督は頭を撫でた。そして奇妙な笑い声を上げて、金剛の髪をわしゃわしゃにする。

 

「ヒャヒャヒャヒャ、分かった分かった! いいだろう、お前の願い聞き入れた!」

「ほ、本当デスカ!?」

「あぁ本当だ。俺は有能だからな!! その代わりどんな時でもお前には守ってもらうぞ? いいな?」

「は、はい! 分かりまシタ!」

「はいじゃあ立ち上がって、ほらスタンドアップ、スタンドアップ!」

 

 ジャンプする提督に促されるまま、金剛は立ち上がる。願いを聞いてくれたのか金剛は少し元気を取り戻していた。

 

「さて金剛、お前の勇気とその行動力、実に見事だった。これからも続けてくれよ? 頼むぜ?」

「ありがとう……ございマス……」

「んじゃ行ってよし。あとは何もないから」

 

 金剛は執務室を出ていく。提督は机に座り、机の引き出しからある書類を取り出した。摩耶に叩かれながら。

 

「痛い痛い痛い痛い! いいだろ別に俺の机なんだから!!」

「行儀悪いつってんだよ!! ちゃんと椅子に座れ!!」

「痛い痛い痛い痛い! 分かりました! 分かりましたからァ!!」

 

 ちゃんと机に座る提督。

 

 それを摩耶は殴り飛ばす。

 

「――じゃあ、金剛か」

「そうだな、予想の姿とはかけ離れていた。前任の罰による影響か何かだろ」

「ご名答でございます摩耶様、流石摩耶様、凄いですね摩耶ァァァァ――」「うるせェ!!」

 

 頭にいくつものたんこぶを作り、提督は金剛のプロフィールを読み上げていた。半泣きしながら、頭を摩耶に掴まれ作業している。

 

「えーっと過去に目の前で姉妹艦を解体された経験あり……うわぁ……」

「惨い事を……」

「全くだ……美女が勿体ない」

「そこじゃねぇだろ!!」

 

 また頭を叩かれ、ツッコミをくらう提督。このプロフィールは摩耶が事前に調べて出てきた資料だ。ある程度の情報は確認出来ている。

 

「って事は今の姉妹艦達は別の姉妹艦って事か……複雑だろうな。あたしなら壊れかねない」

「……そっか」

 

 するとドアをノックする音が聞こえた。また誰か来たようだ。

 提督は許可を出して執務室の中に入れさせる。出てきたのは散々な目に会っているだろうの天龍と木曾だ。以前の様に殺気は感じられない。

 

「おーおー天龍さんと木曾さんかー。身体の調子は如何かな?」

「まぁまぁだ。それよりお前に聞きたい事がある」

「なんだ?」

「前任に復讐出来ないか?」

 

 ニヤリと微笑む提督。

 この艦娘達なら誰でも思うであろう復讐。金剛の願いは所詮序の口程度。提督自体願っているのは艦娘の奥に眠る戦闘本能を掻き出す事。何かの為、誰かの為、国の為と戦ってきた艦娘達。

 しかしここの鎮守府ではその戦闘本能は眠っている。提督は艦娘が自身で戦う理由を見つけ出し、戦闘本能を目覚めさせるのが狙いだ。それにより復讐という選択は何より嬉しい事だった。

 

「……やっぱ無理か。天龍、行くぞ――」「出来る」

「ッ!?」

「今すぐとはいかないが近い内に出来ない事も無い」

「……ほ、本当なのか!?」

「あぁ出来るぞ。お前らが望んでいた事なんだろ?」

「あ、あぁそうだ! 散々暴れた分ぶん殴らなきゃ気がすまねぇ!!」

 

 まさにこの瞬間だ。

 戦闘本能を締め出す蓋が開けかかっている。もっと言わせなければならない。もっと煽るしかない。

 

「お前らはどうする? 殴るか? 蹴るか? 骨を折るか? 四肢を切断するか? 火炙りにするか? 何もかもお前らの自由だぞ?」

「あぁそうだ! 殺すだけじゃ苦痛にはならねぇ。長い時間を掛けて痛ぶってやる!!」

「同意見だ天龍。おいお前、本当に出来るんだろうな?」

 

 それで良し。

 天龍と木曾の戦闘本能は開花寸前だ。開花すれば爆発は間逃れないだろう。後はその戦闘本能を提督がどうコントロールしていくかによる。

 

「さっきから言ってるだろ? 出来るって。だが――」

 

 その前任の提督が今何をしているか、ここの艦娘達は知らない。いや殆どの鎮守府の提督や艦娘も知りえないだろう。何故ならこの情報は大本営の中でも元帥や大将、そして提督と摩耶しか知らない超極秘情報だからだ。摩耶に心配されるも関係ない。

 提督は鞄から紫色のファイルを取り出し、天龍と木曾にある写真を見せた。

 

「……んだよこれッ!!」

「……畜生……ふざけてやがる!!」

 

 天龍と木曾が怒り狂う。そうなってもおかしくないだろう。見せた写真が前任の提督が敵である深海棲艦の提督として活動している所だ。

 

「前任の提督はあの時夜逃げした後、深海棲艦とつるんでいたらしい。大量の資金と資材を奪い、今じゃ立派な俺達の敵だ」

「んなッ……!!」

「お前らは今俺を殺そうと必死だが、それをするほど時間は暇か?」

「……ッ!」

「さぁどうする? 有能な俺と手を組み、提督と認めて無能なアイツをぶっ飛ばすか、それとも今すぐ有能な俺を殺すか。決めるのはお前らだ」

 

 提督の作戦指揮が無ければ艦娘達は容易に動けない。それは天龍と木曾、他の艦娘達も嫌な程理解している。

 だが今は有能な提督と自称する人が居て、前任に復讐出来るチャンスがある。二人の脳では即座にその答えが出た。

 

「お前と手を組んで、アイツをぶっ飛ばす!! それしか無ぇだろ!」

「同じく、俺も天龍と同意見だ。散々俺達を辱めたこの恨み、この剣の錆にして晴らしてくれよう」

「交渉成立だ。仲良くやってこうじゃねーか」

 

 手を差し伸べ、握手を求める提督。不思議と二人は抵抗は無く、自然に手を握ってくれた。ようやく一歩前進と言ったところだ。

 

「んじゃ、て、提督。今まで殺そうとして……す、すまなかった……」

「……お、俺も摩耶に謝らなきゃならねぇ、すまん」

「……? あ、アッハッハッハッハッ!! 大丈夫だ、俺らは全く気にしてねぇ!! なんせ俺は有能で寛大だからな!!」

 

 素直に謝り始めた二人に提督は大笑いした。摩耶も少しだけ微笑んでいる。もう少し反抗してくれた方が此方としては面白かったのだが。やはりこの二人はチョロい。

 それはさておき、極秘情報を伝えたので口封じしなければならない。

 

「あ、悪いんだけどこの情報、超極秘情報で本当はバラしちゃいけないんだよね!」

「えっそれやばくないか?」

「うん、だから周りに教えるなよ? 教えたらアレな」

 

 アレと聞いて二人は察してしまった。罰と言わないでと金剛に言われたが罰と言わなきゃいい話である。つまり別の言葉に置き換えれば何度でも使えるのだ。

 それに気付いた摩耶はまた溜息を吐く。

 

「しかし何で教えないんだ? 教えれば俺らみたいに手を組めるのに……」

「教えてあげてもいいんだけどぅー、自分から言ってくれなきゃー、教えられないんだよねぇー」

 

 急に女子高生風に喋り出す提督。少しイラつくが大体の言葉の意味は掴めた。

 自身の言葉で何がしたいのかを伝え、復讐という言葉を言わなければ一切教えない仕組みだ。提督は自身の行動力を試している。あの時何も出来なかった、だが今は出来るチャンスがある。

 他の艦娘達にも知らせたいところだ。

 

「あ、今のも他言無用で! 自分から行動しなきゃ意味ないからね」

「あぁ分かった。だが行動しろと急かす様な事はしてもいいのだろう?」

「あぁ全力でやってくれて構わない……さて一日で気付いてくれた訳だし、出撃する日を決めようかな」

「え!? 出撃出来んのか!?」

 

 出来ると断言する提督。もし天龍と木曾が行動しなければ一ヵ月過ぎた後でも出撃するつもりは無かったらしい。

 まさにファインプレーと言えるだろう。

 

「ってな訳でこれからよろしくゥ!!」

 

 天龍と木曾は楽しそうにその場を出ていった。久しぶりにこの瞬間を味わえた提督はあの二人が居なくなった途端に騒ぎ始めた。

 

「よっしゃああああああああ!! 燃えてきたァァァァァァァ!!」

「うるさいな!!」

「この状況で騒がない方がおかしかろう。あの言葉を聞いて一時間で狙いが来てくれたんだ、防波堤でマグロをやけくそで釣ってみようとしたら一時間後に釣れた様なモノなのだよ」

 

 摩耶に優しく叩かれ、落ち着きを取り戻した提督。自身の行動を改め、反省した。

 

「提督、本当に見せて良かったのか?」

「あぁ構わない。もし広めようものならば上から消されるからな。そんな青葉を見た事ある」

「まさか前任が敵の親玉とはねぇ……出来すぎた話だな」

「フッフッフー、オールオッケーだ。散々大本営でも暴れてくれたんだ、この貸しは高くつくからな、二代目……」

 

 海の水平線を眺める提督。恐らくこの海の先に奴はいるのだろう。この一歩を前に提督は物語を考える。

 

「さて……第一章の開幕だ……」

 

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