うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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53. 「純粋」

 あの鎮守府襲撃から四日が経った。提督は医務室にて治療が施され、歩けるまでには回復している。とはいえ完全に回復した訳ではなく、まだ顔の腫れや撃たれた銃弾の痕は癒えていない。毒に関しては何故か身体には残っておらず、背中に刺された傷からも確認はされなかった。

 

 横須賀鎮守府や東京では実際に深海棲艦の大規模爆撃が行われ、提督の助言と事前に備えた迎撃態勢のおかげにより、被害は最小限に抑えられた。その後に敵艦隊強襲もあり、横浜や東京の安寧は横須賀鎮守府の艦娘達によって守られている。

 

 鎮守府襲撃の件は日本全国に知れ渡り、深海棲艦の上陸阻止や最強の深海棲艦を瀕死に追い込んだ事が評価された。新聞の見出しには『荒くれ鎮守府、日本を守る!』。前任の事は何も書いておらず、未だに隠蔽しているようだ。何とも語彙力の無い馬鹿馬鹿しい一面である。

 

 この事を受け、大本営は提督や艦娘達を高く評価。その報酬として提督の治療費免除、鎮守府の改築工事の全額負担、各艦娘の給料上昇、資材の贈呈、勲章の贈呈など目白押しだ。近々鬼の大佐が下見に来るという。こちらとしてはありがた迷惑な話だが。

 

 艦娘達の心境にも大きい変化が見受けられた。差別する側と差別された側で徹底抗戦。史上類を見ない睨み合いがそこかしこで勃発している。いつか内戦が起きてもおかしくないだろう。また計画の実行者である明石は地下営倉に収容。差別された側の艦娘が一人ずつ見張りをしている。鎮守府襲撃以降は■■達に動きはない。

 

 赤城は戦闘終了後に多くの艦娘に見守られながら天国へ旅立った。最後まで彼女は穏やかな笑みを浮かべ、光となって幽かに消えていったという。後に葬儀が開かれ、彼女の冥福を祈った。

 

 飛行場姫についてはこの鎮守府で管理する事となった。謎多きあの人の情報模索の為、元帥が特別に許可を与えている。また以前の様に営倉で過ごす事は無くなり、艦娘達が提督を救ってくれたお礼として今はちゃんとした部屋が割り当てられ、大人しく食堂で働いている。時々建設業者から驚かれてる事もしばしば。後で色々情報を聞き出さなければならない。

 

「んで金剛、何の用かな」

 

 医務室のベッドでコーヒーを飲む提督。隣に座っているのは金剛だ。怪我は高速修復材にて全て完治しており、改装可能な艦娘として提督が持ってきた改装設計図により生まれ変わった。

 金剛改二丙、三回目の改装により更に強化された艦娘だ。

 

「……お礼が言いたくテ」

「何のお礼か、ハッキリと言いたまえ」

「提督はムードブレイカーだネェ。もう少し余韻とかないノ?」

「悪いが金剛、俺は暇じゃないんだ」

 

 窓から暖かい風が吹いていく。太陽の光が漏れ、医務室を明るく照らした。その光は金剛の頭飾を輝かせる。顔は少しばかり笑っていた。提督はお見舞いで出されたショートケーキを丁寧に食べている。

 

「気味が悪いな」

「ふへへ……ごめんネ。それでもこの時間がとても居心地が良いノ」

「……お礼を言いに来たんじゃないのか?」

「それはもうちょっと後かナ」

 

 とは言ったものの、本当は緊張で上手く言えなかった。

一言だけ感謝を言うだけなのに何故か緊張してしまう。自分を励ましても手が震えて止まらない。心の鼓動音が良く聞こえる。暖かいはずの気温がとても暑く感じた。

 

「……緊張してんのか分からないが、言いたい事があるなら今のうちだぞー」

「っ……」

「まぁ……俺がお前になんて言ったかなんてのはどうでもいいが、良い方面に受け止めてくれたならこちらとしても都合が良い」

 

 提督は自分に立ち上がる勇気をくれた。まるで自分の事のように考え、何かの為に戦っているんだと訴えてくれた。自信を失った自分に、生きる勇気すらなかった自分に、初めて戦う意志を教えてくれた。

 最初はとても怖くて、近寄り難くて、関わりたくないと思っていた。横暴で、理不尽で、すぐに言葉で捩じ伏せて、自分達を兵器呼ばわり。挙句の果てには相手の過去を貪り、脅しに使って、強制的に黙らせる最低最悪の人間。

 

 そんな人間――だった。

 

 今は少しだけ印象が違う。確かに性格は破綻してて、どうしようもない人。でも心の奥では私達の事をちゃんと見てくれている。そんな気がする。

 

 大した確証は得られていない。でも少なくとも私の中ではそう思いたい。この提督が信じられる人かどうか。そう思うのは自由で自分の勝手だ。

 

 今思えば摩耶やプリンツが提督の後をついていく理由が分かる気がする。

 

「金剛、この先感謝を言える事なんて早々無いと思うぞ? 前に言ったようにお前自身なにがあったのかは知らないしどうでもいい。お前の心境変化なんて興味も無い。過去や未来がどうであれ、今を生きなきゃ無理だろこの世界じゃ」

「今を……生きるノ?」

「金剛、お前は過去に生き囚われすぎだ。確かに酷いものかもしれないが、それはあくまで過去なんだよ。過去は過去、今は今で生きるしかこの先やっていけないんだ。それをぺちゃくちゃと言ってくる奴がいるならぶっ飛ばせ。関わってもない他人が人の過去にあーだこーだ言うのはおかしいんだよ」

 

 私の過去は決して許されるモノでは無い。

 

 全てが残酷な日々だった。暴行は何回も受けたし、涙は何回も枯れた。今更この過去を消し去りたいとは思わない。記憶から消したいと思った事は何回もある。しかし、今は頭の片隅に残しておきたかった。これから立ち向かう為に。

 

「まぁ今までお前が比叡達に酷い事をしてたんなら話は別だけどな。とにかくだ、そんな事は前任の所為にして気にするな。お前はお前らしく生きて、俺が死ぬまでこき使われるべきなんだよ」

「っ……! だよネ。そうだよ……ネ」

 

 出ないはずの涙がまた出てしまった。何度も拭っても瞼から流れ出る。

 何故だろう、心が少しだけ軽くなった。いつからだろうか。笑いながら涙が出たのは。涙はダイヤモンドのように輝き、光が屈折する。

 

「提督……!」

 

 金剛は思い切って提督の手を握る。そしてとびきりの笑顔で言った。

 

「Thank you!」

「……フン、You're welcomeだっ!」

「痛っ!」

 

 金剛の額に頭突きする提督。キシシシと変な声で笑った。金剛も微笑み返した。

 

 

 

 いつまでもこういった関係が続けばいいな。

 

 

 

 私はそう思っている。

 

 

 

 好きになれるような人では無いけれど、今は確かに貴方をやっと信じられる。

 

 

 

 いつかダイヤモンドの様に輝けたなら、貴方に相応しい艦娘でありたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この感情をどう表せばいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、簡単だったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──心の底から嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、それだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ金剛」

「何?」

「会ってみるか? お前が逃がしたかつての榛名に」

「……え?」

 

 かつての榛名が生きている。理解するのに時間が掛かった。金剛はすっとぼけした顔で提督を見つめる。

 何故自分が逃がしたかつての榛名を知っているのか。理由は知らないが恐らく偶然なのだろう。

 

「えっ、て会ってみるかどうかの話をしてるんだが、どうなんだー?」

 

 ニヤニヤと聞いてくる提督は指を回して、金剛を煽っていく。そこに不快感は無かった。金剛は一度俯き、右手を広げる。そして右手を握り、提督を見た。

 

「……もう少し後カナ。会いに行きたい時にするヨ」

 

 かつての榛名に会っていいのか自分の中では分からない。まだ罪の意識がある以上は会ってはいけない気がする。今は自分のやるべき事があるのだ。どうしてもやらなくてはならない事が。それが終わるまでは会えない。もしその時が来るのなら、恐らく自分は元の自分に戻っているのだろう。

 

 それまでは自分を縛る。

 

「……そか。やりたい事として受け止めておくと……俺はいつでも待ってるぞ」

「うん……いつか待っててネ」

 

 意味を含んだ様な言い方で金剛は医務室を去る。提督はまたベッドに寝込み、天井を眺めた。すると医務室の奥影から摩耶と一人の艦娘が現れる。医務室の奥で待機していたようだ。

 

「これでいいのか提督」

「金剛がそう決めたんだ、俺が言う事は何も無い」

「折角本人を連れてきたのにな」

 

 一人の艦娘とはまさにかつての榛名。あの鎮守府襲撃の件を受け、この場へ赴いたのだ。

 

「どうだ榛名。姉の成長ぶりは?」

「……ありがとうございます、■■中将。本当に……ありがとう、ございます……!」

 

 榛名は逃走後、途方に暮れていた。逃げ出したのはいいものの土地勘は悪く、初めて来た場所ばかりで迷ってしまう。しかし地元の人達が協力してくれたおかげで大本営まで到着。前任の横暴を訴えたが全て却下、逃走したと憲兵隊に拘束された。何も出来ずにまたあの鎮守府に戻るのは榛名にとって死を意味する。全てに絶望していたその時、ある男と艦娘が牢屋の前に立った。

 

 

『お、ちょうどいい奴いんじゃん』

 

 

 般若の面を被り、長い黒髪の男が指さした。

 

 彼曰く、舞鶴鎮守府に新しく着任する司令官の初期秘書艦が足りないから自分を採用する、と言ってきた。補足にその男の秘書艦であろう摩耶が説明してくれた。それを聞いて榛名は激昴する。

 

 

『私はあの鎮守府の愚行を訴える為に来たんです! こんな所で黙っているわけにはいかないんですよ!!?』

『だから初期秘書艦になれば外出れるだろ? 大丈夫だ、手続きは済んでるし、コンタクトも取ってる』

『それでも……私は……!』

『んなもんアイツの権力で揉み消されるに決まってんだろ。第一、何も証拠も持たずにアイツは悪い奴だーって訴えた所で早々信じる馬鹿はいないし、例え信じる奴がいたとしても口封じされるのがオチだ』

『そ、そんな……』

 

 

 確かに訴えても軍人達は全く相手にしてくれなかった。聞く耳も持たない、ただ相槌を打つだけ何もしない。あまりにも不遇な対応に榛名は暴れるも憲兵隊に抑えられ、営倉に閉じ込められている。男の言う事は全て当たっている。

 

『という訳で榛名、お前は舞鶴鎮守府の新米司令官の秘書艦を命ずる。アイツは甘ったるい艦娘を人としてみる愚か者だ。地獄を見てきたお前ならより良いものに変えれるはずだぞ? 何かあったら新たな司令官と俺に言え。出来る限り助力しよう。それにあの地獄に戻るよりかは新たな場所で行動した方が懸命だとは思わないか?』

 

 その男は唆すように誘い出す。確かにあの鎮守府に戻るくらいなら別の鎮守府で働き、自分が出来る事をすればいい。後ろにはこの男と新しい司令官がいる。メリットがいいのはどちらかは明白だ。

 

 

『本当に助けてくれるんですか?』

『折角今からお前を助けようとしてるのにそれを俺に聞くか?』

『……確かに、そうですね。お願いします……!』

『ようこそ、新たな……世界へ』

 

 

 後にこの男が中将、この鎮守府の提督だとは知る由もない。

 

「姉はもう少し余裕が出来たらお前に会いたいそうだ。どうする? 舞鶴の方で出張という形でここにいるか?」

「そうさせていただきます……どうしても、あの私達は許せませんので」

「まぁお前の勝手だ、自由にしたまえ。だがお前の存在はこの鎮守府だとタブーだ、派手な行動はやめてもらいたい」

 

 榛名は摩耶同様、提督の事を信用しているようだ。こちらとしては扱いやすくてありがたい限りだが。

 とはいえこの鎮守府に榛名が二人いるのは後々面倒な事になる。出来るだけ隠密に過ごしてもらいたいところだ。

 

「ステルスで行動しろ、との事ですね? 分かりました、全力でやらせていただきます」

「いや変装という手もある。自由にしたまえ……さて、この先どんな地獄があるのか、楽しみだ……」

 

 医務室の窓から広場を覗く。そして提督は企むように微笑んだ。

 

「第四幕の始まりだ……地獄へようこそ──

 

 

 

 

 

 

 

 ──馬鹿共」

 

 

 

 

 

 

「因みにあの時榛名を選んだ理由は?」

「早く仕事を終わらせてサボりたかったから」

 




Part.3 不撓不屈のダイヤモンドはこれにて終了。Part.3をまとめると「キミシダイ列車」ですかね。かなり長かったかなと思います。

因みに金剛覚醒時の戦闘シーンはFINAL MISSION~QUANTUM BURSTって感じのノリで書いてました。
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