うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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Part4. 磨穿鉄硯のホークスアイ
54. 目の前にある二つの山は拝むべき


「いや何やってんの提督」

 

 鎮守府襲撃から一週間が経過。昼十一時、戦線に復帰した提督は貯まりまくった書類の山を現在進行形で埋めていた。

 とはいえ一日で終わるはずもなく、息抜きにとソファで横になっていた。

 

「うるさい黙れー、俺はとても疲れてるんだー。だからこうやって癒されてるのだよ。口答えするようならぶん殴るぞコノヤロー」

 

 雲龍の膝枕に布団と化した朝潮。二人とも乗り気なのがタチが悪い。雲龍の膝枕で時たま撫でられ、朝潮が提督の上に乗り、上機嫌に寝ている。

 

「そうです! 司令官は疲れているんです! 司令官を癒すのも艦娘の務め、司令官が布団になれと命令したので全力で布団を演じています!」

「それを妹達に見られたら勘違いされてもおかしくないぞ?」

「大丈夫です! 何もやましい事は起きていません!」

「いやそういう事を言ってるんじゃなくて」

「遠征から帰ったわよーって何やってんの朝潮姉!?」

 

 遠征任務から帰還した朝潮型の艦娘達が一斉に驚く。無理もないだろう、提督の上に朝潮が気持ちよく寝転がっているのだから。普通この状況を見て勘違いされてもおかしくはない。摩耶が額に手を当て、呆れてしまう。

 

「ほら言わんこっちゃない……」

「離れて、こんなクズ司令官の言う事なんか聞いちゃダメ!!」

「いいなぁ、私もやりたーい!」

「やめなさい大潮!」

「いいえ、ここは譲れません!!」

「ここボケるとこじゃないよ朝潮姉」

「私も混ざろうかしら~」

「騒ぐな頭に響くだろうがァ!!」

 

 周りで騒ぐ朝潮型に怒鳴る提督。先程まで快適に寝ていたはずが騒音のおかげで目を覚ました。自分の休憩時間を邪魔されて怒っている。その後口喧嘩は一時間ほど続き、朝潮型はプリンツに連れてかれてしまった。

 

 空が茜色に染まる。夕方の十七時まで提督は休眠を取っていた。すやすやと静かに寝ている。

 

「本当に寝ちゃった……」

 

 雲龍が提督の頭を優しく撫でる。雲龍は医務室の地下部屋で治療を受けていた艦娘。それ故に提督の事や、周りの状況などはよく分かっていない。雲龍自身、とてもマイペースなのであまり気にしてはいなさそうだ。

 

「まぁ疲れてるのは事実だから仕方ないか。すまねぇな雲龍」

「いいえ……大丈夫よ」

「ちゃっかり朝潮も眠ってるからな。ゆっくりさせてやってくれ」

「えぇそうさせてもらうわ。でも静かにしてると……本当に女性みたい……」

「俺は男だぞー」

 

 突然声を出したのは提督だ。流石に驚いたのか雲龍はビクッと身体を少し跳ね上がらせる。

 

「起きてたのか提督」

「今まで目を瞑ってただけだ。ただの休憩だよ。しかし……凄まじい光景だな、目の前に山が二つあ──」

 

 摩耶がすかさず、提督の両目を潰す。提督にあるまじき発言を止める為にわざとやった。提督は目を潰され、手で覆って悶絶する。

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!」

「堂々とセクハラするのね……この提督は……」

「まぁそういう奴だ、提督は」

「しょ、正直者と、言ってくれ雲龍……俺は言いたい事は何がなんでも言いまくる主義でね」

 

 提督は起き上がり、寝ている朝潮をソファに乗せる。軽く背伸びして関節を鳴らした。休憩はちゃんと取れたようで摩耶も少し安心する。

 

「あら……もう良いの?」

「あぁ充分な程だ。またよろしく頼む」

「分かったわ、また呼んで頂戴」

 

 雲龍は感情一つ変えずその場を去った。提督は椅子に座り、山のような報告書類を書き潰していく。その途中で提督はある事を考えた。

 

「なぁ摩耶、あの戦闘から考えたんだが……」

「何だ?」

「どう考えても艦娘足りないよな」

「それな」

 

 鎮守府襲撃と戦闘でどれだけ戦力が不足しているかを身に染みて理解出来た。今いる艦娘で穴を埋めて艦隊を編成したが、少しばかり足りなく感じていた。本来なら潜水艦や駆逐艦などいてほしい艦娘が艦隊に編入するはずだった。だが前任の無謀な出撃や解体で欲しい艦娘はいない。提督は頭を悩ませた。

 

「とはいえ工廠は使えないし、資材はあまり無駄にしたくない。また横須賀か呉の所で頼もうかなー」

「潜水艦とか駆逐艦とか重雷装巡洋艦とか欲しい」

「だよな。今後の戦力強化の為にも色々と必要な事が増えてくる。そして……」

「今の■■達とどう戦うか、だろ?」

 

 明石の犯行に気づかなければ今頃金剛は海の底だ。一応休戦協定を結んでおり、多少の裏切りも範疇に入れていた。が、まさか明石が差別している側とは提督でも予想出来なかった。あの時前任が話していなければ明石の犯行にも気付けていない。奇跡とも言えるだろう。

 

「この件で奴らの手段が潰えたようなもんだ。こちらとしては依然有利、負けてはいないが勝ててはいない」

「また何か仕出かしてくると」

「当然だ。さて尋問といこうか」

 

 提督と摩耶は営倉に向かった。明石は長門達に捕らえられ、今は一時地下営倉に収容中。牢屋の前には木曾が見張っていた。

 

「提督か」

「見張りとは勤勉でよろしい、木曾」

「フン、明石の犯行を止めたんだ。褒美はいつくれるんだ?」

「追々考えているよ、まぁ待ちたまえ。お前には本当に感謝してるんだ……さて、よお明石。調子はどうだー?」

 

 牢屋の中には座って黙り込む明石の姿が。手錠と足枷で自由は奪われ、まともに身動きは出来ない。明石は提督を睨みつけた。

 

「作戦が失敗して悔しいか? だろうなぁ、自身が完璧だと豪語していた作戦が成功する直前で失敗して、■■らに見離されたもんなぁ」

「焦ってた癖に……」

「焦ってたなんて過去の事はどうでもいい。今はその結果が良ければ問題無いんだマッドサイエンティスト」

 

 狂科学者とあだ名を付けられた。確かに様々な物を開発したからにはそう呼ばれても納得はいく。明石は気にせず黙り込んだ。

 

「さて明石、何故お前が金剛を殺そうとしたのか、そして艦娘を操っているのはお前かそれとも■■か、色々と経緯を教えてくれないかな」

「この状況で言うと思う? 馬鹿じゃないの」

「まぁ言う方がおかしいよな。だから徹底的に吐かせる為に色々と用意した」

 

 摩耶が持っているのは艦娘専用の正直薬。黙秘する艦娘に使う尋問用に使われる薬だ。人間用と違って痛みは無く、身体の核が反応。脳に情報が伝達され、思わず話してしまうというメカニズムらしい。メカニズムはどうであれ本当の事を話せるのならどう使おうが構わない。

 

「……拷問ですよ」

「拷問器具を楽しそうに開発していたお前がそんな事を言っていいのか?」

「チッ……」

 

 初めて会った際は拷問器具を開発した事に怯えていた。だが化けの皮が剥がれた事でその事実は否定され、本当は自ら進んで開発する狂人だった。後にこの事を知っていた鈴谷や加賀が恐ろしい表情で話した事により発覚している。もっと早くに言って欲しかったが。

 

「まぁ推測するなら操ってるのはお前じゃなくて■■であり、作戦はあの□□に頼まれたんだろ? 金剛を殺す為に再度自爆装置を取り付け、戦艦棲鬼と戦っている最中に爆殺。どうだ?」

「結局知ってるんじゃないのよ」

「お、図星か? ならありがたいんだが、何せ俺が考えた創作だし」

 

 明石はイラッときたのか頬を引き攣る。まんまと罠にはまった自分を殴りたい気持ちだった。提督がここぞとばかりに不気味な笑みで煽ってくる。

 自爆装置の解除も順調だ。まだ全てとは言えないが自爆装置の種も潰えた以上は仕掛けてくる事も無いだろう。

 

「……まぁ気長に待つとしよう。お前に構ってられるほど俺は暇じゃないんでね」

「これからどうするつもりよ」

「そうだなー……」

 

 提督が顎に指を当て、上を向く。そして思いついたのか明石に言い放つ。

 

 

 

「一波乱、起こそうかな」

 

 

 

 その表情はまるで全てを見下す悪魔のような笑みを浮かべていた。木曾と明石はその笑みを見てゾッとする。目は全く笑っておらず、虚ろでニヤニヤとしていた。

 

「あ、木曾。もう見張らなくていいぞー、自由にしておけ」

「は!? いいのか!? 誰かが逃げ出す手伝いでもするぞ?」

「んな事分かってるっつーの。だから自由にしておけと俺は言ったんだ。言葉の意味が分かりましたかー?」

「わ、分かった……」

 

 少し腑に落ちないが、提督がいいと言うなら木曾も引き下がった。恐らく提督は誘き出している、助けに来てくれる艦娘を。つまり明石は罠の中にあるエサなのだ。摩耶はそう察して、木曾を引っ張った。

 

「提督……」

「何だ木曾」

「一波乱起こすってのは本当、なのか?」

「……あぁ本当だ」

 

 前に提督は計画を実行中と言っていた。その計画の中に一波乱を起こすという目的でもあるのだろうか。提督が何を考えているのかよく分からない。ただ敵に回したら必ず勝てないと心の中で察した。

 

 これが所謂提督の、本性なのだろうか。

 

「摩耶、今は何時だ」

「十八時三十分近く」

「ならそろそろ飯だ、食堂へ行こう。木曾も来るだろ?」

「当たり前だ」

 

 夜十八時。晩飯の鐘が鳴り、艦娘達が食堂に集まる。中は前とは違っていつも騒がしく、そして日常のような光景が広がっていた。提督に挨拶する者まで現れ、活気は徐々に戻りつつある。

 

「司令官! おはようございます!」

「あ、そういえば朝潮を執務室に置いて行ってたな」

「私は気にしておりません! またいつでもお呼びください!」

「朝潮姉! こっちよ!」

 

 明石に尋問する前、執務室に朝潮を置いてしまっていた提督と摩耶。思わず手をポンと叩き、思い出した。意味の分からない忠誠心で許されたが妹達には嫌悪の眼差しで見られている。そんな中、鈴谷が最上達を連れて提督を誘ってきた。

 

「提督、一緒に食べよー?」

「断る。それに先約があるんだ、また今度な」

「ちぇ~~分かったよ、次ね?」

「気が向いたらなー」

 

 提督と摩耶はいつも通り二階のテーブル席で食べている。木曾も向かい席に座り、一緒に食べた。二階から見下ろした賑わいを見て、木曾はボーッとする。

 

「賑やかになってきたな……ここも……」

「感傷に浸る暇があるならお前のおかずを今すぐ奪うぞー」

「って結局奪ってんじゃないか!! 返せ、俺の唐揚げ!!」

「誰が返すか、既に俺の胃の中だ!」

「だったら腸斬り裂いてでも取り返す!!」

「あああサーベルは卑怯だぞ!! 勝手に艤装を展開するなァ!!」

 

 木曾が怒り任せに艤装を展開。大きなサーベルで提督に斬りかかった。白刃取りでサーベルを抑え、対抗する。

 

「うるさい!!!」

 

 食堂に甲高い声が響き渡る。一階で古鷹と加古が口喧嘩をしていたようだ。怒る加古はテーブルを殴り、イライラを募らせながら食堂を出ていく。食堂の空気は静かに重くなってしまった。

 

「あ、ごめんね……空気悪くしちゃって……アハハ……」

 

 古鷹が空気を悪くした事を謝り、加古の後を追いかける。食堂はまた賑わいを取り戻すも話題が古鷹と加古の話で持ち切りになった。二階から眺めていた提督はニヤニヤとしている。

 

「本当に騒がしかったな、傍迷惑もいい所だ」

「返せ俺の唐揚げ!!!」

「まだお前根に持ってんのか! いい加減にしろ!!」

 

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