うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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55. アナログとデジタルは使いよう

 数分前、食堂で古鷹は加古の元へ向かっていた。提督と天龍のバカ騒ぎを気にしながらも、勇気を持って加古の向かい席へ座る。そこで定食を食べていた加古は不機嫌な表情で古鷹を無視した。

 

「……ねぇ加古」

「……」

「加古は今、私達の事をどう思ってる?」

 

 反応は無い。黙々と食べている。

 余程嫌いなのか見向きもしなかった。

 

「……強くなって助けるよ。加古の事も含めて、全部……!」

「……」

「馬鹿馬鹿しいと思うだろうけど、嫌われても虐められても私は貴方の姉なんだ。だから今までも、これからも加古の味方だよ」

 

 艦娘達の差別意識が洗脳ならば、その洗脳から解放される方法もあるはずだ。

 

「……気持ち悪い。近寄んな」

「そう言われても私は諦めないよ」

「今度近寄ったらぶっ飛ばすぞ」

「今度なの? 今じゃなくて?」

「ッ!! うるさい!!!」

 

 テーブルを殴り、怒鳴る加古。食堂が一気に沈黙になる。それに気付いた加古は髪を掻き毟り、その場を去った。古鷹は空気を悪くしてしまった事を謝り、加古の後を追う。

 

 食堂を出ていき、重巡寮の前で古鷹に止められた。加古はすぐに乗せられた肩の手を振りほどく。

 

「加古……!」

「……うるせぇんだよ!! 一々一々イラつく事ばっか言いやがって……何が助けるだよ、生温い言葉並べてんじゃねェ!! 一度も勝った事無い癖に出しゃばるなよ!! あたしはお前より強いんだ!! 調子に乗ってるとその頭ぶっ飛ばすからな!!」

 

 思う限りの暴言を吐き、加古は重巡寮の中に入る。古鷹と加古の部屋はそれぞれ別々。姉妹艦でありながら一度も一緒に寝た事が無く、まともに話した事が無い。姉妹らしい事すらやっていない。

 前任が生んだ優遇制度とその制度の中枢となる洗脳による差別意識を助長させる■■。これらが原因で加古や他の艦娘は変わってしまい、そして続いている。洗脳の仕組みを提督は理解しているはずだ。解放させるまで時間はそう長くない。

 

「……加古……」

 

 

 

 

 ──朝九時過ぎ。

 

「ここが新しい職場かぁ……嬉しいのやら、悲しいのやら……」

 

 鎮守府の門の前に立つ一人の艦娘。数日前に建造された彼女はこの荒くれ鎮守府の工作艦に任命されていた。呉鎮守府から送迎車で約八時間。流石に腰が痛い、その艦娘は満足するまで背伸びをした。

 

「ニュースでは荒くれ鎮守府の艦娘達が深海棲艦の大艦隊に大打撃を与えた~とか何とか言ってましたね。襲撃の跡が物語ってますねぇ~」

 

 鎮守府の改修工事は着々と進んでいた。瓦礫は隅に寄せられ、組み立てられた鉄骨の上を人が歩いて作業している。広場では艦娘達が訓練を受けていた。荒くれ鎮守府と言うのだから艦娘も荒れているのだろうと思っていたが、そう思える雰囲気は感じられない。

 

「あ、貴方が今日この鎮守府に着任する、明石さん?」

「は、はいそうです! 工作艦の明石です。よろしくお願いします!」

「私は鳥海と申します。提督から執務室までのご案内役を任されました」

 

 目の前に現れるは鳥海。高雄型四番艦の末っ子と聞く。風紀乱れぬ凛々しい姿だ。とても礼儀正しく、本当にこの鎮守府の艦娘か疑わしく思える。

 

「ではご案内しますね」

「は、はい!」

 

 優しい笑顔に見蕩れそうになるも明石は元気な返事をする。司令本部に入るとブルーシートで隠されている場所がある。中でも戦ったのだろうか、解析班が調査している。

 

「失礼します提督」

「し、失礼します!」

 

 明石は恐る恐る執務室に入る。執務室には提督と思わしき人物と鳥海の姉である摩耶が待っていた。提督は机に足を乗せ、明石を睨んでいる。

 正直とても怖い。

 

「よう明石。俺がこの鎮守府の提督だ、以後よろしく頼む」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 提督にしてはとても異質で白い肌に白い長髪。摩耶も片目が赤く、一部の皮膚が白い。深海棲艦を思わせる二人に明石は緊張で汗が流れ出る。

 

「お前は工作艦としてここに着任してもらった。なぁに緊張する事は無い。いつも通りにやれば充分だ」

「あ、ありがとうございます!」

「……鳥海、明石に工廠を案内させろ。そして現在の状況を事細かに説明するんだ」

「分かりました」

 

 簡単に挨拶を済ませ、鳥海と明石は工廠へ向かう。提督と摩耶の事がどうしても気になる明石は思い切って聞いてみた。

 

「すいません……」

「はい、何でしょうか?」

「失礼な事を言うようで申し訳ないんですけど……提督と摩耶さんって、何かに似てるとか言われたり……しません?」

 

 あの姿を見て誰もが不審に思うのは当たり前だ。明石自身も少し不安がっている。それを見て鳥海は少し微笑みながら返答した。

 

「そんな畏まらなくても大丈夫ですよ。確かに提督と姉は少し深海棲艦に似ていますがちゃんとした私達の味方です。心配する事はありませんよ」

「そ、そうですか……」

 

 笑顔で答える鳥海に明石は少しばかり安心を得る。摩耶の妹が言うのだから問題は無いのだろう。提督も無愛想だったが悪い印象は無い。やがて工廠へ辿り着くと妖精達が出迎えてくれた。

 

「ヨウコソナノネー!!」

「ヨロシクナノネー!!」

 

「よろしくお願いします! それにしても凄い設備ですね……呉と同じくらいの最新の物がある……!」

「提督が戦力強化の為に工廠を新しくしたんですよ。開発なら今すぐにでも出来ちゃうくらい」

 

 確かこの鎮守府に着く前に提督の情報を少しだけ教えてもらった。階級は中将で普段から姿を現す事があまり無いと言われる希少な存在らしい。姿を現さないと聞いていた明石はその理由が分かるような気がした。更に中将となれば多少の権力も持ち合わせているはずだ。最新の設備も説明がつく。

 

「凄いですね……ん、何これ?」

 

 中に入り、これからの生活にワクワクしていた明石。工具類を拝見している時に名前が掘ってあった。名前は明石、そして見知らぬ人の名前。提督の名前だろうか、綺麗に掘ってある。

 

「私が来る前に別の私が居たんですか?」

 

 先程まで笑顔だった鳥海の表情が一変する。鳥海は深刻そうにこの鎮守府の実態を細かく説明した。艦娘達の差別意識や犯罪とも思える他の自分の行為、提督が計画している事など全て隠さず話し続ける。

 

「え……洗脳? さ、差別意識?」

「信じられないかもしれませんが全て本当です。明石さん、この鎮守府は今深い闇に覆われています」

「深い……闇……?」

「はい。ですのでくれぐれも甘い誘惑には乗らない事をオススメします……部屋は工廠の中にあるので確認していただけたらと思います。もし何かあれば提督に言ってください。では私はこれで失礼しますね!」

 

 鳥海はまた笑顔に戻り、工廠を出ていく。一人残された明石はボーッとしていた。あまりにも複雑し過ぎて理解するのに時間がかかっている。少しを頭を掻き、苦笑いをした。

 

「あー……やっぱりブラックに近いのかな~」

 

「ブラックダゾ!! ナノネ!!」

「チガウノネ!!」

「ンジャホワイトナノネ!!」

「ソレモチガウノネ!!」

 

「うーん……どっち?」

 

「「ワカラナイノネ!!」」

 

「ですよねー……でもワクワクしちゃうんだよなぁ~正義の味方みたいで」

 

 本当に鳥海の言っていた事が真実ならば、提督の為になれると思うとやる気が湧いてきた。自分は頼られている、それだけで原動力になった。

 

「……試しに三式弾開発してみよ!!」

 

 

 

「明石の状態はどうだ鳥海」

「信じてはくれています。ですがまだ完全に信じてる訳では無さそうです」

「そうか、まぁ実際に見てもらった方が早いからな。追々監視していくとしよう」

 

 監視室にいる青葉によって艦娘達の不審な行動は筒抜けだ。とはいえプライバシーがある以上は青葉も配慮している。今回は明石を監視する任務を与えられる。自由な時に監視していいと提督に言われた。

 

「明石の補充完了、と。後は戦力強化だな。北上、大井、潜水艦共の着任はいつ頃になる?」

「早くて六日後との事だ」

「六日か、まぁ構わない。大和や武蔵、駆逐艦共は四日後着任予定だ。大幅な戦力強化だぞ、心が踊っちゃうねぇ~」

 

 指で帽子をグルグルと回し、提督はニヤニヤとする。書類を早く書き留めろと摩耶に注意され、頬を膨らませながらペンを握った。

 

「色んな所から集まって来るのですね……」

「こっちじゃまともに建造出来ないんだ。他に頼るしかないだろう」

「何故建造は不可能なんでしょうか?」

「襲撃後に業者から報告されたんだが……工廠にある建造施設は細工がされているんだ。前の明石が製作した洗脳を促す戦闘意欲促進剤を建造途中に身体へ挿入、差別意識を持った艦娘が出来上がる仕組みだよ。恐らく前任が考えたのだろう、何も知らずに建造すればこちらが不利だったという訳だ」

 

 出来ればその仕組みを破壊したい所だがそうもいかなかった。建造途中に挿入される為に予め部品を取り除いた場合、建造が失敗になる可能性がある。更にはその部品自体に細工がされており、妖精達でも今は無理だと言われた。

 

「でもこんなに呼んで大丈夫なんですか? ■■達がまた何か仕掛けてきますよ」

「まぁ何かしらやってくるだろうなぁ。洗脳させる手段だった前明石が一時使用不可能とはいえ黙ってる奴らじゃない」

「対策のしようがない、という事でしょうか」

「そうだ。俺は艦娘や人間を完全に操れる訳じゃない。事前に誘惑してくるぞと注意しても百%、これからは大丈夫だとは限らないんだ。生物は欲を原動力にその生を歩む、上に立つ生物が下にいる生物を完璧に操る事は出来ない。必ずボロが出るんだ」

 

 艦娘もその中に含まれる。兵器でありながら人の心を持つ艦娘という存在も生物に近い。例え提督だろうと完璧に思い通りには出来ないのだ。

 

「全ては私達次第だと……少し不安です……」

「なぁに不安になる事じゃない。対策出来ないのなら対策させればいい。奴らの思い通りにいかないように罠を仕掛けて厄介事を起こし、対策させる」

「大元を叩くのはダメなんですか?」

「一番はそれだ。洗脳の原因が改造された戦闘意欲促進剤と分かれば、解放させる方法はある。だが現在じゃ薬の製造や使用は固く禁じられているんだ。使用する場合はバレなきゃ問題ないんだが製造は材料調達、妖精の技術とかで特に目立ちやすい。バレたら流石に俺もまずいんだ」

 

 薬に関する規則や法律はとても厳しく、例え元帥だろうと罰は間逃れない。使用、製造、所持しただけでも重い罰が下される。薬は今、大本営によって厳しく取り締まれており、安易に所持する事は出来ない。

 

「八方塞がりだな」

「とは限らんぞ摩耶。俺の保管庫には色々な薬がある。こちらに持ち込めば簡単だ」

「問題はどうやってバレずに持ち込むかって言いたいんだろ?」

「流石だ摩耶。そう、本題はそこだ。如何に薬を誰にもバレずにこの鎮守府まで持ち込むかが重要になる。面倒だが考えなければならない」

 

 提督の保管庫には将来大切になるような資料や個人の脅迫材料、海軍の汚職歴書、初代深海提督の資料などトップシークレット並の物が保管されている。その中には取り締まった薬も保管されており、提督はあらゆる効果を消す薬を持ち込みたいと考えていた。

 

「つか何で書類がアナログなんだよ!! パソコンのWordで作成すればこんなの一々書かなくて済むはずなのに!!」

「後半分だから提督。私も手伝ってるんだから弱音吐くな」

「わ、私も手伝いましょうか?」

「いやいや、鳥海はい──」「是非頼む」

 

 提督は真剣な眼差しで鳥海の手を握る。いつになく真剣で息が上がっていた。若干引き気味の鳥海は摩耶の隣に座り、書類の手伝いをする。

 

「後でノーパソ買っとこ」

「また金の無駄遣いになるぜ、提督」

「何が無駄遣いだ、ちゃんと有効的に使ってるじゃないか」

「へぇ~提督が購入して以降一度も使っていない自家用ヘリやいつか使うとか言って二回ほどしか使っていないデスクトップパソコン、ロクに掃除もしていない高級別荘とかは有効的に使ってるのかな~?」

「さて鳥海、これがお前の書──」「なァに話を逸らそうとしてんだよ……!!」

 

 キレ気味に摩耶は提督の頭を鷲掴みにする。頭を握り潰そうと力が入っていく。提督は摩耶の手を抑え、悶絶する。

 

「挙句の果てにはあたしの金まで使ってたよなぁ……!!」

「うるさい! あの時はお前の自業自得だ、むしろありがたく思ってほしいもんだね!!」

「ぶっ殺す!!」

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙お前艤装展開は卑怯だぞォォォ!!!」

 

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