うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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57. スムージーの飲み過ぎには注意しましょう

「……」

 

 朝七時半。

 提督は昨日の■■医師の言葉を考えていた。それは前任は元々この鎮守府の提督では無い説。■■医師が言っていた、もう一人の誰かがいたという言葉に対して色々考察していた。

 もし本当にもう一人の誰か、つまり提督がいたとするならば海軍のリストに乗っているはずだ。だが記録ではこの鎮守府の提督は前任という事になっている。しかも謎な事に何故か誰もそれに関する事を言っていない。仮に上手く騙せたにしても完璧過ぎる。

 

「提督!」

「何だ島風」

「いいからこっち来て!」

 

 廊下を歩いている最中、島風が物凄い速度で近付いてきた。急ブレーキで風が吹く。突然手を掴まれ、ある場所に連れていかれた。

 

「来たわねクズ」

「あら~司令官じゃない」

「早く来なさいよ、これだからクズは」

「初手から暴言を吐くとは些かお前らの頭も腐ったトマトのようだぁ、一度ミキサーで限界まで粉砕されて主婦お手製のスムージーになるといい。少しは窮屈な頭も栄養が染み渡って周りを見渡せる事だろう。んで島風、何故この部屋に連れ出した」

「実は摩耶に頼まれて……」

 

 ある場所とは朝潮型の部屋。二段ベッドが複数置いてあり、手前には全員が寛げる広いスペースだ。早速暴言を吐かれるも部屋には入れてくれるらしい。

 

「マスコミが提督の写真を撮ろうと躍起になってるらしくて、提督を匿う為にこの部屋にいてもらって、って摩耶に頼まれたの」

「貴方、神出鬼没で顔すら公表しないレア者なんだってね。朝潮姉に頼まれたから仕方なくいさせてあげるけど何かしたらすぐに追い出すから」

「俺もマナーのなっていない暴言吐くガキとは死んでも一緒に居たくないんだが、摩耶や朝潮がどうしてもと言うんだ。仕方なくここにいてやろう。島風、摩耶に変装セット持ってくるように言ってくれ」

「アァ!? 何て言ったこのクズ!!」

 

 提督はあまり表には出たくない。致し方なく朝潮型の部屋に閉じこもる事にした。マスコミが過ぎ去るまで、待機しているもどこか落ち着きがない提督。提督がいるのが気まずいのか、霞達の会話が無い。

 思い切って霰が近付き、話しかけてみた。

 

「……」

「どうしたの……落ち着いていなさそう……だけど……」

 

 提督は壁に寄り掛かり、腕を組んでいた。そして指を動かしながら一線をずっと見ている。

 

「考え事だ。お前らには関係無い」

「どうせロクでもない事考えてるわ」

「……まぁそうかもな」

 

 満潮の言葉を提督は否定しなかった。思わず満潮も少し揺らぐ。張り合いが無いのか、テーブルに腕を掛け、溜息を吐いた。

 勿論考え事は前任と存在しない提督の事だ。疑問点が多過ぎて、あまり整理が覚束無い。ある意味この鎮守府は提督が思っている以上に厄介なのかもしれない。

 

「……司令官は何で髪が白いの?」

「ん? あぁ地毛なんだわ。というよりもその質問は何で艦娘の髪の色はそれぞれ違うの、と質問しているようなものだ。以後気を付けろー」

「分かった……んじゃ司令官は神出鬼没なの?」

 

 霰が躊躇いなく提督の脚に寄り掛かる。抱きつくように離れない。振り払おうとするも周りに厳しい目で見られる提督。騒がれても面倒だ、仕方なく提督は許す事にした。

 

「俺は前は後方勤務でな、裏の仕事が殆どだった。理由としては表には出たくないのと面倒臭いから」

「有名人気取りなんて随分と偉いのね」

「あぁその通り俺は偉いんだ、何度でも言いたまえ。よく考えてみろ、知らない奴に突然許可なく写真取られて全国に知れ渡るんだぞ? 嫌じゃないか? それと同じだ」

 

 妙に納得がいく答えだ。霞や満潮自身もそう考えてる為、納得しかない。

 

「提督!」

「おぉ持ってきたか摩耶」

「いや持ってきては無いんだ。けど……」

「お邪魔するよ」

 

 老いた女性の声が聞こえた。提督や霞達が扉の方向を見る。そこには軍服をマントのように来た老婆がいた。思わず提督が嫌な顔をする。

 

「ゲッ」

「この人は……?」

「私ゃ南方のとこの軍人でね……ここだと初めましてだねこりゃ」

「南方海域の鎮守府を纏める司令長官、■■大佐だ」

 

 南方海域の鎮守府を纏める最高責任者、■■大佐。かつては鬼の大佐と呼ばれ、厳しくも艦娘や憲兵に慕われている。以前演習の相手だった南方中尉の上司だ。摩耶曰く、門を突き破ろうとしたマスコミを止めてくれたらしい。

 

「マスコミは全部■■大佐が追っ払ってくれた。提督、もう大丈夫だぞ」

「いや俺が大丈夫じゃない!!」

 

 大佐の登場に提督が嘆く。それを聞いて■■大佐は提督を睨みつける。

 

「久しぶりだね、■■中将。上手くやれているかい?」

「ま、まぁ……」

「え……司令官が縮こまってる……?」

 

 あの司令官が反抗する事なく畏まっている。普通ならば暴言の一つや二つ、言うはずが震えたまま座っていた。畳の上に正座で俯いている。

 

「摩耶ちゃんに迷惑掛けてないだろうね? 鎮守府が襲撃されたって言うから驚いたよ。この惨めでノロマでグズで馬鹿で阿呆で口が達者なお調子者の臆病者がちゃんとやっていけるか心配なのさ」

「黙れやクソババア……!」

「何だい、義親に向かってその言い方は!! 本当の事だ、反論する口なんて無いだろう!! 元はと言えばアンタが臆病者だからマスコミが大勢駆けつけて来たんじゃないのかい!! 私が来なかったらアンタは今頃日本に顔を晒してたんだよ!!」

 

 ■■大佐が提督の胸倉を掴み、暴言を吐く。提督も少なからず反抗に出た。その様子を見ていつもの司令官だと少し安心する。

 

「うっせーなクソババア!! 元はと言えばお前の育て方が悪かったんだよ!! 何が軍人の育て方だ、半端な育て方でまともに育つと思うか!? これだから老害は対応に困る、老害は老害らしく老人ホームで一日中横たわってればいいんだよ!!」

「私の育て方に順応しなかったアンタが悪いんだ!! もう一回うちに来て厳しく育ててやる、来な!!」

「絶対行ってやるもんか!! お前に育てられるくらいなら死んだ方がマシだ!!」

「二人とも」

「一旦ストップ」

 

 摩耶と■■大佐の秘書艦である浜風が二人の口喧嘩の仲裁に入った。二人とも息が上がりながらも落ち着きを取り戻す。提督は壁に寄り掛かり、頭を掻いた。

 

「つか何の用で来たんだクソババア」

「アンタの見舞いとこの鎮守府の下見だよ。ほれ、お土産だ」

 

 お土産にココナッツミルクを投げ渡される。しかし提督はそれを叩き、満潮の顔面に直撃。満潮が白目を向いて倒れ込んだ。霞達が傍に寄り添う。

 提督と■■大佐は一度朝潮型の部屋を出て、執務室へ向かった。

 

「はぁ……今はそれどころじゃないんだ。早く帰ってくれ」

「何かあったのかい?」

「んまぁ少しな……なぁクソババア」

「さっきからその悪口やめな!!」

「痛い痛い!! 取り敢えず応接間で話したい……お願い出来ますか?」

「……いいよ。案内しな」

 

 執務室内にある応接間で互いに座り込む。いつになく提督が緊張していた。

 

「急に畏まってどうしたんだい? 私の偉さに怖気ついたか?」

「んな訳ねぇだろ……この鎮守府が建てられたのはいつなのか分かりますか?」

「そうだねぇ……確かこの鎮守府は八年前に緊急として建てられたんだった気がするよ」

 

 深海棲艦と艦娘の出現から約十二年。日本は至る所に鎮守府を設置し、深海棲艦と戦ってきた。提督が正式に軍人として務めるようになったのは四年前。和歌山県にあるこの鎮守府は約八年前に建てられたものらしい。

 

「そうですか……ではこの鎮守府の最初の提督は■■少尉で間違い無いのですか?」

「……違うね。だけど百%、そうとは言い切れない」

「やはり……何故、でしょうか」

「アンタが着任する前の事さ。確かにこの鎮守府には前任が来る前にもう一人、軍人がいた」

 

 やはりもう一人の提督は存在していた。

 なら話は早い。このまま原因を突き止めれば──、

 

「だが突然姿を()()()

「……は?」

「まぁ疑問に思うだろうけど私が言える情報はこれくらいだ。後はアンタが探しな」

「知ってるなら話してください! 何故勿体ぶるような事を……!」

 

 大佐が立ち上がり、応接間を去ろうとする。

 提督が慌てるように大佐に問いただした。中将という身分でありながら義親に対するマナーはちゃんとあるようだ。

 

「……この先の真実を知りたければ生半可な気持ちで挑んじゃいけないよ。相当な覚悟が無ければ歩く事すら出来やしない」

「誰もが関わりたくない、話したくないって事ですか」

「まぁそうなるね。この事に関わった連中やマスコミは何故か謎の失踪を遂げている。私はそれぐらいしか知らないし、安定した暮らしさえありゃ気にしないけどさ、この事に関してはごめんだよ」

 

 大佐が真剣な眼差しで提督を見る。例え義理の息子だろうと心配はしているようだ。提督は事の状況を上手く察する。もしかすればこの事は本当に大本営ごとひっくり返し兼ねない事になる、と。

 

「大本営……あれは闇より深い暗黒の世界だ……気をつけな」

「分かり……ました……」

「んじゃ私は天龍ちゃんと少し話した後に帰るとするよ。摩耶ちゃん、案内出来るかい?」

「は、はい。こちらです」

 

 

 

「貴方も臆病者ですね……」

「……頑張りな」

 

 すれ違いざまに罵る提督。大佐はただ一言、励ましの言葉でその場を去った。摩耶は天龍の場所まで案内する為、執務室を抜ける。提督は一人、執務室で考えた。

 

「天龍ちゃん、元気かい?」

「あ、あの時の婆さんか……?」

 

 見覚えのある声と顔。間違いない、あの時自分を助けてくれた恩人だ。天龍は嬉しい顔で大佐の手を握る。

 

「ありがとう……アンタのおかげで、俺は強くなれた……!」

「聞いた時はビックリしたよ。南方棲鬼を単独撃破したんだって? 凄いじゃないか!」

「あぁ……!」

 

 久しぶりに出会えて天龍も嬉しそうだ。とても手が暖かく感じられる。

 

「……良かったね、とてもよく頑張ったよ! あ、ちゃんと準備は怠ってないだろうね?」

「勿論! 提督にビシバシ鍛え上げられてるぜ!」

「なら良い。言っただろ? 強くしてくれる指導者がいるって」

「あぁ全部アンタのおかげなんだよ、本当に……!」

 

 天龍は手を握ったまま、涙を零した。大佐の言葉を思い出せなかったら今の自分はいないだろう。南方棲鬼も倒せなかっただろう。目の前の恐怖に立ち向かえなかっただろう。大佐には感謝してもしきれないほど恩がある。

 

「あの馬鹿はこれからも調子乗って色んな事してくるだろうけど、頑張りなさいな」

「あぁ頑張ってやるぜ!」

 

 

 

 やがて大佐が帰り、摩耶は執務室へ戻る。中に入って提督がいるかどうか呼び掛けた。提督はまだ応接間で座っていた。

 

「提督ーってまだここにいたのか」

「まぁな。少し資料をまとめてたところだ」

 

 応接間のテーブルには白紙にズラっと文字や図が書かれていた。全部で計十二枚、裏表共に事細かに考察が述べられている。

 

「クソババアの言葉で確信した事が一つある」

「何か分かったのか提督」

「あぁ……恐らく大本営はこの事件を隠蔽したんだ」

 

 提督がスマホの画面を見せる。そこにはグーグルで検索され、出たキーワード。キーワードの名前は■■■鎮守府憲兵殺害事件。六年前にこの鎮守府で憲兵が殺害された事件である。

 

「■■■鎮守府憲兵殺害事件……四年前に何者かに憲兵が一人殺されたって事件か……嫌な事件だな……」

「お前が()()()()()()よりは百倍マシだけどな」

「うっ……で、でも憲兵なんだろ?」

「違う。これは表向きに作られた偽の事件の可能性がある。俺の推測ではあるが……殺されたのは憲兵じゃない。この鎮守府のもう一人の提督だ」

 

 提督が自身で書き留めた資料を並べる。描かれた図を元に提督は推測を読み上げた。

 

「この際もう一人の提督は言うのが長いし面倒臭いから‪α‬と呼ぼう。‪α‬は元々この鎮守府の提督だった、だが突然誰かの手によって殺害。面倒な事に殺人犯は艦娘だった。それを大本営は国民の信頼に関わるとして表沙汰には憲兵の殺害事件と呼称。艦娘は処分決定のはずだったがある男によって止められた。それは当時提督候補生だった前任。前任はその艦娘に何かしらの保護を約束したのだろう、その身を庇った前任は瞬く間に提督として着任した」

 

 考えうるシナリオとしてはこの程度だろう。前任がもし提督じゃないと言うのならこの推測は罷り通っている。

 

「そして地獄が生まれ、その艦娘がこの鎮守府に今もいる、と……」

「恐らくな。だがこれはあくまでも俺の推測だ、必ずしもこれだとは限りにくい」

 

 提督が資料を掴み、テーブルに投げつける。あの鬼の大佐が関わりたくない理由が今になって分かった。再び頭を悩ませ、溜息を吐く。

 

「推測が正しければ道理でクソババアも関わりたくない訳だ。こんな事件なんて知れば嫌でも大本営の汚職ぶりを目にする羽目になる」

「汚すぎる……あまりにも、屈辱的だ……!」

「従える艦娘達にとっては最悪だろうなぁ。本当ならば俺も心底ゲスすぎて吐き気がする。だがこれは推測だ、そう真に受けるな」

 

 

 

 

 

 

「これは激しくなりそうだ……」

 

 

 

 

 

 

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