うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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60. 胸を気にし過ぎるのはあまり良くない

「秋月型駆逐艦、秋月、照月、涼月、初月、着任しました!」

「磯風、浦風、谷風、浜風もいます!」

「ぞろぞろ来たな、駆逐艦共」

 

 提督が呉鎮守府で建造させた駆逐艦御一行が着任した。申請した通りの望みの艦娘が来てくれたようだ。後輩には後で褒美をあげよう。

 

「ようこそ我が荒くれ鎮守府へ。俺はこの鎮守府の提督だ、以後よろしく頼む」

 

 提督は大和の艤装に座りながら挨拶をした。違和感ある光景に駆逐艦御一行は困惑している。随分と態度がデカい提督だ。

 

「お前らはもう聞いているだろうがこの鎮守府は以前深海棲艦の襲撃を受けている。だがこの有能な俺とここの艦娘共によって追い返した」

 

 着任する前にその話を聞かされた事がある。荒くれ鎮守府が深海棲艦の襲撃を阻止し、追い返したと。荒くれと聞いて浜風は不安に思い、手を挙げた。

 

「何だ浜風」

「この鎮守府は以前まで環境が最悪だったと聞いていました。今はどうなんでしょうか?」

「あーそうだなー……まぁその通りだ。お前らは期待に胸膨らませてこの鎮守府に来た事だろう。実際胸デカいやッア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」

 

 息を吸う様にセクハラする提督を殴る摩耶。先程まで大和の艤装に乗り、大和の肩に寄り掛かっていた。舌を噛んだ提督は痛みに悶絶する。

 

「舌噛んだクソがッ!! はぁ……話を戻すぞ。先程言ったようにこの鎮守府での生活を楽しみにしてた奴もいるだろう。これは大和や武蔵に言ってなかったな」

 

 この鎮守府にとっての最大ともいえる課題。試練、又は目標とも言えるだろう。

 

「この鎮守府は深い闇に包まれている」

「深い……闇……」

「厨二病か?」

「アァ!? んだと磯風!!」

 

 怪しがる磯風に提督は怒鳴る。感情豊かな提督に良い印象は持てていない。自分達の中で不思議というイメージが膨れ上がっている。ようやく落ち着いた提督は話を戻した。

 

「違う違う、この鎮守府は前任によって……あーもう面倒臭ぇな。摩耶、頼むわ」

「へいへい」

 

 面倒くさがった提督は説明を摩耶に任せた。机の資料を取り出し、分かりやすい所から説明していく。

 

「私はコイツの秘書艦を務めてる摩耶だ、よろしくな。早速だけどこの鎮守府は浜風の言う通り、元々環境は最悪だったんだ」

「私達を人として見ない的な事でしょうか?」

 

 頭の良い浜風が質問する。理解しているだけこちらも話しやすい。摩耶はこの鎮守府について細かく説明した。

 

「ざーっとこんなもんだな。前任によってこの鎮守府の艦娘達は酷く心に傷を負ってる。実際に仲間同士で蔑み合うなんてしょっちゅうなんだ」

「信じられないな……」

「だろ? 谷風。原因は前任による優遇制度、艦娘が艦娘を差別する、差別意識が出来てるんだ。だからこの鎮守府で生きていくならある事を守って欲しい」

 

 新しく着任した艦娘が貶められないように。これは摩耶が自身で考えた注意策だ。これからこの鎮守府を戻す為に。

 

「差別している艦娘達に無闇に歯向かわない事。そして差別された艦娘の味方になって欲しい事。この二つを出来るだけ守って欲しい」

「複雑、なんですね……」

「悪いけど秋月達が思っている日常はまだ来ない。ただでさえ提督がここまで持ち上げて来たんだ、まだ始まったばかりなんだよ」

 

 提督から聞いた話では、まだ始まったばかりらしい。最終目標に向けて、様々な事をしてきたがまだ課題がいくつか残っている。未だに最終目標までの道は明確に出来ていない。

 

「だからといって闇に立ち向かう意志も忘れちゃいけない。もし秋月達が望む日常に戻したいなら提督の為に手伝って欲しい。この鎮守府をより良い場所にする為に……戦ってほしい……!」

 

 摩耶自身が頼む誠心誠意の願い。ここの艦娘達の苦しみをよく理解しているからこその願いだ。この鎮守府再建の為に摩耶は頭を下げた。

 

「分かりました。皆仲良くなければ戦う上でも支障が出ますからね。私は手伝いますよ、提督」

 

 他の艦娘もその意見に賛同のようだ。提督としてはこちら側に来てくれるなら何も文句は言わない。同調しようがしまいが結果が良ければそんな事など考えるつもりは無い。

 

「……なら構わん。大和と武蔵は?」

「勿論手伝いますよ♪」

「大和と同意見だ」

「上々だ。何か質問あるかー?」

 

 提督が手を挙げ、質問があるかと問い掛ける。その中で磯風がふと疑問に思った事を口にした。

 

「はい磯風」

「失礼な事を聞くようですまないんだが、何故司令と摩耶はあの敵に似ているんだ?」

 

 新しく着任した駆逐艦御一行が感じていた違和感はまさにこれだ。大和や武蔵も思っていたが気を使って問わないようにしていた。確かに提督と摩耶は深海棲艦に似ている。磯風はどうしてもその訳を知りたかった。

 

「それ聞いちゃう?」

「質問として、だ」

「うーん、そうだなー……」

 

 提督が上を向き、考え始める。腕を組みながらどうしようか悩んだ。大体こういう時の策は考えてある。

 

「全てやる事終わらせたら教えてやるよ」

「やる事となると……この鎮守府の闇の祓いか……」

「そう。ついでに他の艦娘に教えてやれ、全ての闇を祓ったら……俺や摩耶がここにいる理由を教えてやるってな」

 

 提督がここにいる理由、提督の過去、摩耶の過去、本当の真実を全て話すという。若干無茶振りに近い条件ではあるが達成出来ない訳では無い。

 

「まぁ興味あろうが無かろうがお前らの自由だ、好きにやりたまえ。だが……俺に楯突こうものなら全力で叩き潰すから、そこんとこよろしくー」

 

 敵になれば容赦なく叩き潰すと忠告する。摩耶以外の艦娘はそれが冗談に言っているようには聞こえなかった。摩耶は何度もその場面を見てる為、平然としている。

 

「さて話は終わり。それぞれ部屋にご案内だ。摩耶、鳥海、案内してやってくれ」

「分かった」

「分かりました」

 

 執務室がまた静かになった。新しく着任した艦娘達を見届け、提督は机に座る。先程から手から違和感を感じていた。あまり思うように動かなくなってきている。

 

「……手が疼くな……」

 

 

 

 部屋を案内され、一息ついた磯風達は鎮守府を探索していた。早く鎮守府の生活に慣れる為、それぞれの場所を把握していく。鎮守府襲撃の一件後、建設業者が着々と食堂や倉庫を建て替えている。浜風は提督の言っていた事が少し気に掛かっていた。

 

「仲間同士で蔑み合うって本当なのでしょうか……」

「でもそんな雰囲気は無かったな」

「直接見た方がええ言うとったで」

「でもそんな場面……あ」

 

 軽巡寮の廊下を通りかかっている途中、谷風がその場面を偶然見つけてしまった。姿がバレないように壁に身を隠す。四人でトーテムポールのように顔を重ね、場面を覗く。

 

「何か用か? 矢矧」

「別に通りかかっただけだ。話し掛けるな」

「釣れないな、今まで殺気を溢れ出してたというのに」

 

 木曾と矢矧が互いの顔すら見ずに話している。それぞれの気迫が殺気立ち、膠着状態が続く。谷風が少しばかり怯えた。

 

「貴様らに関わってる暇は無い」

「だろうな。今はそれどころじゃないもんな、普段から見下していた鉄屑に煽られてイライラしてるようだ」

「……は?」

「図星か?」

 

 ようやく目を合わせ、関節を鳴らす木曾と矢矧。腕を回したり、指を動かしたりと準備万端のようだ。白い息を吐き、血管を浮かばせる。

 

「いい度胸してるな、褒めてやる」

「上から目線で調子乗ってるのも今のうちだぞ」

 

「あーこれは確かに酷い……」

「矢矧と木曾が戦闘準備状態……」

「お、摩耶が来たぞ」

「止める気なんじゃろうか?」

 

 膠着状態が続く木曾と矢矧の間に摩耶がその中に入る。そしてそれぞれ頭を掴んで、額を衝突させた。木曾と矢矧は意識を失い、互いに倒れ込む。

 

「いがみ合ってないでさっさと訓練戻れ!!」

 

 摩耶が怒号を放ち、木曾と矢矧を抱えてどこかへ行ってしまった。何とも言えない場面に磯風達は言葉を失う。

 

「……」

「何か……母親みたいだな……」

「まぁ……気にせず行きましょう」

 

 一方、秋月達は部屋で身体を休めていた。部屋は四人部屋でとても広く、二段ベッドが二つ置いてある。提督が言っていた事とは裏腹に少しも不安は感じない。

 

「秋月姉、どこ行くの?」

「少し鎮守府を探検しようかなと思ってるの。皆行く?」

「そうですね。把握しなければならない事もありますし」

「僕も行こう」

 

 姉の秋月に着いてくるように照月達もその後を追う。駆逐艦寮は殺伐としており、人の気配は全く感じない。外に出た秋月達は広場へ向かった。

 

「古鷹と加古だ」

「何か話し合ってるぞ」

「姉妹だから仲良い……」

 

 仲睦まじそうに見えた古鷹と加古。だが加古が古鷹を殴り、その場を去った。仲間同士の仲が悪いという場面を偶然見てしまう。想像以上の出来事に照月は驚いた。

 

「あれ!?」

「殴ってしまいましたね……」

「……提督の言う通りらしい」

 

 

 

「あーまた殴られちゃったな……ん?」

 

 偶然見てしまった秋月達に気づいた古鷹。古鷹は立ち上がり、土埃を払う。秋月達に近づき、笑顔で謝った。

 

「あーごめんね。見苦しい所見せちゃったね……」

「本当に仲が悪いのだな」

「そうだね。多分提督から聞いてるだろうけど私達はあまり仲が良くないんだ……あ、私は古鷹。これからよろしくね!」

 

 古鷹は手を伸ばし、それぞれ握手する。妹に殴られたとはいえ笑顔なのが少し不気味だ。それだけ慣れてしまったのだろうか。

 

「悪い事を言うようでごめんなんだけど古鷹は差別された側の艦娘で間違いはないー……んだよね?」

「そうなっちゃうかな……あ、ごめんね。プリンツさんに呼ばれちゃった。また後で話そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思ったんだが瑞鶴……」

「何? 提督さん」

「最近の駆逐艦の胸デカくね?」

「嫌味なの? ぶち転がすよ?」

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