「ただいまより点呼を取る!」
「はい!」
「準備はいいか!」
「はい!」
「番号!」
「いちから──」「よーん」
「横着すんなァァ!!」
古鷹と雲龍がふざけ始め、提督がツッコミを入れる。今日は駿河鎮守府との演習当日、時間は昼十二時。岸辺沿いで古鷹達は待機していた。
「さて出発だ。プリンツ、俺がいない間はお前に任せる」
「分かりました! いってらっしゃいませ!」
仕事の処理をプリンツに任せ、提督達は駿河鎮守府へ向かう。荒くれ鎮守府から駿河鎮守府まではそう遠くない。艦娘達が通常走行すれば約二時間で到着する距離だ。提督は大和の艤装に乗り、悠々自適に過ごしている。
「大丈夫ですか? 提督」
「問題無い。清々しい気分だぁ」
「呼んだのは移動の為では無いのだろう?」
「まぁねー。実際に演習を見てもらってレベルを感じてほしいから呼んだのもある」
「一番は?」
「移動に金を掛けたくなかった」
提督のケチっぷりに困惑する古鷹達。途中道草を食った後、二時間半に駿河鎮守府へ到着した。港では直々に提督が歓迎してくれている。
「ようこそ我が駿河鎮守府へ。俺はここの責任者である■■■■少尉、まぁよろしくな」
「……よろしく」
相手を尊重しない、無作法な人間だ。流石の提督も言葉を失っている。例え演習相手が下であろうと互いを敬うマナーがある。だがこの少尉にはそれが無い。
「申請は通ってんの?」
「既に大本営も把握しているので問題はありません」
「ならやろうか」
古鷹達を演習海域に向かわせ、提督は司令室に案内された。鈴谷達の演習のようにそれぞれ司令室を借りて行われる。今回は大和と武蔵を入れて、指揮をする事にした。
「……だろうな」
提督が机の周りをうろちょろと見る。提督は机の中に入り、ある部品を取り除いた。
「っあれ? 聞こえねー」
「俺が使う手を俺が嵌る訳ないだろう。さてボコボコにしてやれ、馬鹿共」
以前提督が使用していたズルを見破ったようだ。これで相手からはこちらの音声は聞こえない。それぞれ演習開始のホイッスルを上げ、演習が始まった。
「演習開始だって!」
「……相手艦隊確認しました。戦艦四隻、重巡二隻。艦名は日向、大和、武蔵、長門、足柄、愛宕です」
『大艦巨砲主義の典型的な例だ。アウトレンジ戦法は不可能に近い。まずは空から物量で押し潰せ。対空能力があるなら制空権だけでも維持しろ。場合によっては近接戦闘をしても構わない』
「分かりましたって加古!?」
加古が一人で海を突っ走った。単騎で戦おうとしている。古鷹はその後を追い掛けた。長門達はその場で置いてけぼりにされる。
「待って加古!!」
「……仕方あるまい」
「ついていくの?」
「行くしかないだろ、置いていけない」
「今はそうしましょう」
仕方なく古鷹と加古の元を追い掛ける。一人で海を駆ける加古を止めようとした。
「待ってよ加古!! これは演習だよ!? 単騎出撃とかじゃなくて、艦隊で戦わなきゃ!!」
「うるせぇ!!」
肩に触れた瞬間、古鷹を殴る加古。憎しみありきの眼差しで古鷹を睨む。手は震え、怒り心頭だ。
「私一人が戦えばあんな奴ら一捻りだ!! お前は指くわえて見てりゃいいんだよ!!」
「加古……ッ!? 危ない!!」
砲撃に気付いた古鷹が加古を引っ張る。直撃は間逃れ、近くで水柱が上がった。よく見れば相手艦隊が目視で確認出来る。
「敵影が見えたようだ。始めるぞ!」
「制空権確保! 足柄に大損害を与えたわ!」
「偵察機は全て撃ち落としたぞ」
「チッ!!」
加古は舌打ちしながらも反撃に出る。古鷹の手を振りほどき、見境なく相手艦隊に目掛けて砲撃。長門達もそれに合わせた。
「全艦砲撃、撃てーッ!!」
砲雷撃戦が開始。目標に合わせ、弾着観測射撃を仕掛ける。かと言って相手は大和と武蔵がいる。並大抵の攻撃ではまともにダメージは与えられない。だが──、
「ッ!?」
古鷹の発射した魚雷が全て直撃した。砲撃と魚雷の同時攻撃に相手の大和も怯む。それを見て加古は驚いた表情をしていた。
──何で。
「愛宕を大破状態にさせたよ! 加古!」
──何でだよ。
──何で当たってんだよ。
──ろくに砲撃も当たらない雑魚なはずなのに。
──あの時まで鉄屑みたいな奴だったのに。
──私達より弱くて気持ち悪い奴なのに。
「よし! 魚雷的中!!」
──何でそんなに目が輝いてんだよ。
「加古も! 早く!」
──ムカつく。
──調子乗ってんじゃねーよ!!
加古が闇雲に砲撃する。だが全く当たらない。
「外れちゃったか……避けて!!」
──お前より私は強いんだ。
──お前みたいなゴミとは違うんだ。
──ふざけるな。
──ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。
「ふざけるなァ!!!」
「加古!?」
加古が突然急発進。
艦隊を抜け出し、相手艦隊に突撃した。
警戒していた相手艦隊の日向達は一斉砲撃。加古は素手で砲弾を全て弾き飛ばした。その手は目から電撃を放ってるかのように帯びている。
「えっ!?」
『はぁ!?』
『……マジかよ』
無茶苦茶な攻撃に艦娘達が驚く。駿河鎮守府の少尉は目を飛び出させていた。提督でさえも加古の攻撃に可笑しくて笑ってしまう。これが差別した側の艦娘の本来の戦闘能力。化け物と呼ばれても何らおかしくはない。
「加古に続け!!」
『……強制的に近接戦闘に入ったか加古。まぁいい、別に禁止されている事じゃない』
加古に続き、長門達も攻撃を再開させる。
加古の凄まじい猛攻に相手艦隊は怯んでいた。慌てて少尉も命令する。
だが加古には全く当たらない。それどころか翻弄されていた。
加古に集中すれば、長門達の攻撃が来る。かえって長門達に集中すれば加古の猛攻が止まらなくなる。
──私は強いんだ。お前らより強いんだ。
──お前らなんて敵じゃない。全員ぶっ飛ばしてやる。
加古は咆哮を上げ、相手艦隊に近接戦闘を仕掛けた。
相手艦隊の旗艦だった日向は加古の姿を見て、こう証言したという。
それはまるで、蒼白い稲妻が憤怒と嫉妬で暴れ狂い、悲惨に震えているようだった、と。
『演習は終了!! 俺らの勝利だ!!』
演習が終了した。相手艦隊は全員轟沈状態。対する提督の艦隊は加古が損害あり、その他無傷という大勝利を収めた。加古は倒れ込む相手艦隊の中心で立ち尽くしている。顔は俯き、白い息を吐いていた。
──……。
──悲しい。
「演習ありがとうございました。では私達はこれで」
「ちょっと待て!!」
演習が終わり、提督は挨拶だけして帰ろうとする。しかし少尉が物議を醸しだした。原因は大体把握出来ている。加古の目立った戦闘の事だろう。
「あんなの反則じゃないのか!! 艦娘共が近接戦闘なんて敵ならまだしも演習は駄目だろ!!」
「おや、貴方は私に演習を申し込んだ際に言いましたよね?」
少尉は面倒臭がって演習の申請を提督に任せている。だが少尉が任せたのは日時であり、ルールは任せていない。
「それは日時を……」
「えぇ確かに日時はこちらで決めさせてもらいました。ですがその他のルールについては何か決まり事でもありましたか?」
演習時のルールは通常、申請した側が決める。予め決められた最低限のルールからそこに様々な内容を足していく仕様だ。そして決められた演習内容は書類かデータにて渡される。少尉はその申請書を作らなかった為にわざわざ提督が申請し、ルールを改定させた。渡されたはずの演習内容の中にはちゃんと近接戦闘可能と書かれている。
「何も決まっていませんでしたよね? 演習申請時にはルールの規定も申し込む側が決めるはずです。ですが貴方は私に勝手に決めろと仰った。だから私は最低限のルールの元、申請時にこちらで決めさせてもらいました」
「でもそんなルールは書いてなかったぞ!!」
「それは貴方の確認不足です。私は確かに貴方へ演習の書類を送りました。貴方は書いていなかったのではなく面倒くさがって確認をしなかったんです。仕事を怠慢するとは同じ軍人と情けない限りだぁ、反吐が出る」
「あ」
摩耶が思わず声を出す。どうやら提督のスイッチが入ってしまったようだ。口喧嘩となると提督は絶対に止まらない。相手がねじ伏せられるまで喋り尽くす。
「何だと……!」
「それ以前に貴方は提督に向いてるのでしょうか? 大艦巨砲主義もいい所ですが各艦娘が新しい装備に慣れていない。という事はつまり、変化した環境に対応しきれていないんです。一度訓練でもして確かめては? とはいえ仕事を怠慢するような馬鹿で愚かで間抜けな人なんでしょう。こんな面倒臭い事などやるはずがない。もう一度ママの子宮からやり直すといい、その生意気な口も、態度も全てだ!!」
「俺を誰だと思ってるんだ! ■■大将の息子だぞ!! 俺が言えばお前なんてどうなるか──」「俺は中将だ!! お前の大将なんて敵じゃない!! そうやって権力に頼ってるからこんな事言われんだ!! 分かるか~? お前みたいなクソガキを相手にしてるほどこちらは暇じゃないんだよ! もう少し周りを見渡す事も出来ないのかぁー? 小学校で道徳を学んできたのかも怪しいな!! どうせお前の事だ、随分とチヤホヤされて生きてきたんだろ!! 少しはその腐った頭をお得意のお医者さんにでも診てもらえ!! 最も、腐ってる時点でお前の価値なんてダニみたいにクソ以下なのが丸分かりだけどな!! このクソお坊ちゃま!!!」
最後にありったけの悪口を言って提督と摩耶達は去る。提督は余程イラついていたのか小走りだ。大和に乗って即座に駿河鎮守府を出ていった。
「何か少し……スッキリした、な……」
「あの野郎……!!」
軍帽を地面に投げつけ、怒りをあらわにする少尉。傍にいた秘書艦の吹雪は少しだけ満足していた。
「あー疲れたー……」
「スッキリしたか? 提督」
「二パーセント程。演習に大勝利したんだ、奴の悔しがる顔が目に浮かぶね」
「(それはどちらの方だろうか……)」
誰もがそう思い、長門や雲龍が加古の反応を見る。加古は黙ったまま前を見ていた。何とも言えない空気になるも、大和が思い切って質問する。
「提督はお風呂入ってるんですか?」
「何故そんな事を聞くんだ大和」
「いや少しばかり臭うな~なんて思いまして」
大和に言われ、提督は臭いを確かめる。腕や胸、足などを嗅いでいくと確かに少しばかり臭う。荒くれ鎮守府に着任してから風呂は全く入ってない事を思い出した。
「あーそうかー……ココ最近忙しくてまともに風呂入ってないなー……」
「でしたら私と一緒に入りませんか? 親睦も兼ねて」
「!?」
摩耶が無意識に驚く。声には出なかったものの顔を動かした。大和の早めのスキンシップに武蔵が止める。
「大和、それはいくらなんでも……」
「あら、良いじゃないの。別にやましい気持ちは無いし、ただ単純に提督の事が知りたいだけよ?」
「まぁ確かにそれはそれでありがたいんだがなー……これからやらなきゃいけない事があるし、うーん……かと言って大和の悩殺ボディを見逃すのも惜しい……」
「煩悩と義務の狭間で揺れるな」
仕事と欲が同時に重なり、重大な事のように悩み出す提督。頭を抱え、腕を組み、必死に考える。
「うーん……悪いが今は出来ないな。次にしてくれ、大和」
「分かりました。いつでもお待ちしております」
「お、そろそろ我が鎮守府に到着か」