うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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今話は艦娘同士の話をメインにしました。


62. ドアの戸締まりには注意しよう

「演習はどうでしたか? Admiral」

「完膚無きまでの大勝利だ。古鷹、後で報告書を作っておけ」

「分かりました」

 

 鎮守府に帰還すると、プリンツが出迎えてくれた。夕方十八時、訓練は既に終わり、建設工事も終了している。帰還した艦娘達は出撃ハッチを通り、通常の姿に戻った。加古は既に寮に戻っている。

 

「……各自この後は自由にして構わない。喋りなり、寝るなり、風呂入るなり、食べるなりしててくれ。じゃ」

 

 

 

 

 

――食堂内厨房

 

 食堂の厨房では鳳翔と間宮、そして飛行場姫が料理を作っていた。

 

「飛行場姫さん……猫の手ですよ」

「ネ、猫ノ手……?」

「こうです。そしてそのまま合わせて……」

 

 鳳翔が飛行場姫に包丁の扱い方を優しく教えていた。慣れない作業に飛行場姫は戸惑う。

 

「成程……何回モ申シ訳ナイ」

「大丈夫ですよ。慣れないのは仕方ないです。少しずつですよ」

 

 飛行場姫を気遣い、分け隔てなく鳳翔は接する。何故か敵の艦娘達から優しくされる事に飛行場姫は違和感を感じていた。

 何故ここにいるのか、場違いじゃないだろうか。色々と悩んでいた。

 

「私ナンカガコンナ所ニ居テ良イノダロウカ……」

「……確かに不安に思うところはありますよね。実際私も少し、緊張しちゃってます」

 

 例え鳳翔と言えど強大な敵とされた飛行場姫と接するのは緊張するらしい。艦娘からすれば血肉を争い、沈めるまで戦い続ける敵だ。コミュニケーションが取れるとはいえ、直接話すのはお互い怖い。

 

「とはいえ貴方には提督を助けてもらった借りがあります。無碍にする事は出来ません」

「……」

 

 飛行場姫は提督を殺そうとした前任を突き飛ばした事があった。その事は無線で全艦娘に知られていたらしい。敵とはいえ助けてくれた事には感謝したい艦娘達は飛行場姫を敵視する事はないようだ。

 しかし助けた飛行場姫本人は複雑な気持ちを抱えていた。

 

「お互い慣れるのは大変かと思います。頑張りましょう。あ、それは……」

「エ?」

 

 味噌汁に塩ではなく砂糖を入れてしまった。見分けがつかない故によくあるミスだ。鳳翔が念の為に味見をしてみる。

 

「塩と砂糖を間違えちゃいましたね……でも少しだけですし、味はそれほど変わってないと思います」

「ゴメンナサイ……」

「大丈夫ですよ」

 

 その後黙々と鳳翔の手伝いをする。飛行場姫にとって『料理』という言葉は初めて聞いた。何でも人間に必要不可欠な行為で他の動物の血肉や草、生えた実などを加工して食べるらしい。水を飲むならまだしも、食べるという行為は初めてだった。

 

「何故艦娘が料理してるのか気になりますか?」

「マ、マァ……」

「そうですね……元々私達はこんな料理、食べれなかったんですよ」

 

 前任が提督の時は艦娘は食べ物を口にしていなかった。

 当時艦娘は専用の固形食が用意され、それで腹を満たしていた。固形食は主に艦娘のエネルギー効率を更に良くする為に作られた物。艦娘が固形食を食べる事は世の中では当たり前とされていた。

 

「私達は味のない固形食ばかりで、人間達は美味しいものを食べている。そんな日々がずっと続いていました」

 

 艦娘もそれが当たり前だと思っていた。

 誰しも疑問には思わなかった。

 だがその事を理解していた提督は艦娘に嫌味や嫌がらせとしてわざと美味そうな料理を見せつけていた。その影響で艦娘達に謎の不安感を持たせてしまう。

 ある日、艦娘を研究していた海軍はある事を発見した。

 

「私達は食べ物を食べなくても生きていく事が出来るんです。艦娘の身体の中にあるエネルギーは核の中で生成され、循環する。固形食はあくまでエネルギー効率を良くする為のもの。食べ物以外の物を食べても何も実害は生まない。それを知った前任は私達に食べ物とは似つかない固形食は勿論の事、面白半分で鉄屑や生ゴミ、そこら辺の石や草を食べさせてきたんです」

 

 前任は艦娘は物と考えている常識外れの男だ。拒む艦娘に食べ物とは思えない物を食べさせ、その姿を嘲笑った。

 例え艦娘といえど味覚はある。どの物が食べてはいけないくらいは分かっているはずだ。だが前任はそんな事など一切気にせずに弄ぶ。ゴミ箱と呼ばれ、実際にゴミを食べる事を強要された艦娘もいた。

 

「しかしある日突然鬼の大佐と呼ばれた軍人が来訪し、雑な福利厚生などが指摘され、料理を作る為に私と間宮さんが選ばれました。()()()私達の料理の腕はとても良かったらしく、幾つもの教科書を見ながら丁寧に作り上げ、鬼の大佐や前任に褒められた事もあります」

 

 作られた料理は前任にも程よく気に入られ、毎日の料理は鳳翔と間宮に任された。料理人と共に作り上げたものは憲兵にも気に入られるほどに。

 だが艦娘にはその料理を与えさせてはくれなかった。与えれば解体させるなどといった脅迫で許可は降りず、前任が夜逃げするその日まで鳳翔や間宮を含めた艦娘達が料理を口にする事は一度も無かった。

 

 前任が夜逃げした後、関係者は全員解雇か異動。人が過ぎ去ったこの鎮守府で鳳翔達は途方に暮れていた。これから何をすればいいのか分からない。命令主を失った艦娘達は心に深い傷を負ったまま、部屋に閉じこもるようになっていった。

 

 艦娘は食べなくても生きていける。それを初めて実感した。お腹が空いても艤装を展開すれば食べたような満腹感が膨れ上がる。そこでトドメを刺すかのように自分達は人間でない事を知ってしまった。

 絶望に打ちひしがれる中、鳳翔と間宮はある事を考える。

 

「私達は食べれないのではなく食べていないだけ。どうせ誰もいないのなら作ってしまおうと。誰にも縛られず、自由に食べてしまおう、と私達は考えたんです。そこで私は間宮さんと協力して、艦娘達に隔てなく料理を食べさせてきました。有り余った食材を節約しながら使い何とか食べさせてきました」

 

 初めて食べた料理はとても美味しかった。涙が出る程、幸せを感じられた。艦娘達は少しだけ活気を取り戻してきた。差別された側はそれが唯一の楽しみとなるように。

 そして提督が着任し、今に至る。提督が鳳翔や間宮に対して何も言わなかったのはこの事だろうか。それは分からない。

 

「……私達モ同ジク食ベナクテモ生キテイケル生キ物ダ。ダカラソノ気持チハ分カラナクモナイ……デモ……」

「でも?」

「……コンナ嬉シクナルヨウナ事ガアルナンテ……知ラナカッタ……」

 

 飛行場姫も一回、鳳翔の料理を食べてみた。あの時は鳳翔に泣きつきたくなるほど美味しかった。今まで口にした事のない絶頂が身体全体に染み渡り、不思議な感情を湧き上がらせてくれる。

 

「……そうですか……あの時の私達も──

 

 

 

 

 

 

 ──同じ気持ちでした……」

 

 

 

 

 

 

 飛鷹と隼鷹が荒れた部屋で片付けをしていた。ここは元々飛鷹と隼鷹の部屋。しかし飛鷹が消えてから、隼鷹は狂ったように暴れ回った。小物は散乱、畳はザラザラに毟られている。初めて入った時は更に酷く、寝れるかどうかすら分からないほどゴミ屋敷と化していた。

 

「隼鷹、大丈夫だった?」

「え、何が?」

「こんな部屋の生活してて怖くない?」

「あー……」

 

 飛鷹は差別する側に虐められ、部屋を荒らされたと勘違いしていた。一人で頼る人もなく悲しい思いをさせてしまった事を重荷に感じたのだろう。隼鷹は言葉が詰まったように話す。

 

「あれは私が暴れた跡……」

「……は?」

「いやー何か壊してないとやってらんなくてさー! お酒も禁止されてるし、こうやってストレス発散しないと……あれ?」

 

 怒られるか覚悟していた隼鷹。

 しかしそれとは真反対に抱き締められた。思いがけない行動に隼鷹も涙が出てしまう。

 

「ごめんね……一人にしちゃって……」

「な、何泣いてんのさ! あたしゃ大丈夫だよ!」

「何泣いてるの?」

「っ!?」

 

 誰かの声が聞こえた。声の方向はドア、振り向くと雲龍が不思議そうに眺めていた。ドアはちゃんと閉めたはずだ。それなのに何故雲龍がそこにいるのか分からない。

 

「あれ、ドア開いてた?」

「開いたら何か泣いてた」

「「……」」

 

 雲龍は話がしたい為に飛鷹達の部屋を向かっていた。

 だが中に入れば二人は何故か抱き締めあっている。恥ずかしい場面を見られ、二人は一旦離れた。

 

「ま、まぁ、と、取り敢えず部屋は後で何とかしよ!? ね、隼鷹!」

「そ、そうだそうだ……っ?」

 

 この状況をやり過ごそうと慌てて言葉を合わせた飛鷹と隼鷹。服を整え、髪を触る。すると雲龍から笑い声が聞こえた。

 

「……ふへへ」

 

「──待ちなさい!!」

「人の部屋と感動シーン見て何笑ってんだゴラァ!!」

 

 全力で逃げる雲龍を飛鷹と隼鷹は全力で追い掛ける。空母寮から戦艦寮、戦艦寮から重巡寮、重巡寮から軽巡寮、軽巡寮から駆逐艦寮と連絡通路を使って逃げていく。雲龍は無言で一階へ降りていった。飛鷹と隼鷹も負けじと追いかける。

 

「雲龍さんのマイペースぶりが発揮されてるね……」

「しかも逃げ足早いっぽい……」

「そろそろ夜だから静かにしてほしいけどね」

 

 様子を見に来た白露、夕立、時雨がドアから覗いている。とても騒がしく、賑やかだ。そろそろ晩御飯の為、部屋を出る。

 

「どうだい白露、もう生活には慣れた?」

「一番に慣れたよ! もう大丈夫!」

「なら良かったっぽい!」

 

 白露は■■医師に匿われ、治療の日々を受けていた。それ故に提督の事はよく知らない。思い切って時雨に聞いてみた。

 

「あの提督はどんな人なの?」

「そうだね……一言で言うなら、人格破綻者……かな」

「何それ」

「いやまぁ結構性格が捻くれててさ、隙あらば罵ってくるし、私達の事ポンコツ兵器だとか駄犬とかあだ名つけてくるし、子供っぽいし、大人気ない人なんだけど……」

 

 聞いたら聞いただけ印象が悪い。前任とはまた違ったタチ悪さがある。それでいて大丈夫なのかと心配するほどだ。だが時雨の言い方からして恨みは無い。

 

「少しだけ、今は違う……のかな」

「……ならいい人、かもね」

 

 やがて食堂に辿り着き、配膳場所まで並ぶ。周りを見渡すと提督の姿が無い。

 

「あれ提督は?」

「司令官は一人で執務室に篭ってます! 誰も入るなと張り紙がありました!」

「そうなんだ……」

 

 あの提督が珍しいと思いつつ、定食を運ぶ。提督の秘書艦である摩耶も二階で鳥海と食べていた。信頼されている摩耶さえ退けるとなると余程重要な事なのか。

 

「今日は二階で食べてみない?」

「いいね、行こう」

 

 二階に上り、摩耶の近くへ座る時雨達。二階には天龍や瑞鶴がいる。緊張しながらも時雨は摩耶に声をかけた。

 

「摩耶さん」

「ん? どうした?」

「その……提督は一人で何してるの?」

「あー……まぁ瞑想みたいなもんだよ。提督はたまにあんな時間が必要なのさ」

「瞑想?」

「そそ。時々一人になりたい時ってあるだろ? それと同じでああやって集中してんのさ」

 

 瞑想をしている。あの提督のイメージとはかけ離れた行為だ。神でも信じてるのだろうか。

 

「大丈夫だって、怪しい事はしてねーよ」

「そ、そう。ありがとう」

「どういたしまして」

 

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