うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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64. 自由になるほど縛られる事もある

 

――数時間前。

 

「ここが噂の鎮守府かぁ~ボロボロだねぇ~」

「何でも前に鎮守府が襲撃されたようですよ」

「新しい鎮守府なの!」

「こら、まだ正装になっちゃだめよ」

「司令官はどんな人でち?」

「さぁ……行ってみないと分かんないわねぇ」

 

 鎮守府の門前で着任した艦娘達が騒いでいた。迎え役の鳥海に迎えられ、提督がいる執務室に連れていかれる。執務室の中に入ると提督が机に座ったまま待ち構えていた。

 

「来たな艦娘共。ようこそ、この荒くれ鎮守府へ。俺はこのクソみたいな鎮守府を仕切る提督だ、以後よろしく」

 

 隣には秘書艦と思われる青葉がいる。青葉は提督に指示され、ある書類を渡された。その書類はこの鎮守府の闇について。一々教えるのが面倒になったのか書類にて読ませるようだ。

 

「書類の通りだ、各自注意するように。だが一つだけ忠告しとくぞー、俺に楯突こうものなら全力で叩き潰すからそのつもりで」

「えぇ……」

「って事で鳥海、部屋に案内させてやれ。今日一日は自由にしてて構わない」

「分かりました、では行きましょう」

 

 鳥海は北上達を連れていき、執務室を出ていく。各寮の連絡通路を辿りながら順に部屋の場所とこれからの事について教えた。北上は提督を見て素朴な疑問をする。

 

「あの提督っていつもあんな感じ?」

「いえそうではありませんよ。確かに印象は悪い方ではありますが何気に優しい方でもあります。心配する必要は無いと思いますよ」

「ふーん……」

 

 窓から外の風景を眺め、北上は興味無さそうに返事をする。鳥海のこの様子だと悪い人では無いのだろう。だが悪い印象しかない上に信じるにはまだ早い気がする。そう考える中、先程部屋へ案内した潜水艦達が走って傍を過ぎた。

 

「探索なの~!」

「鎮守府を探索でち~!」

「あ、こら伊19、伊58! 待ちなさい!」

「騒がしいなぁ……」

 

 潜水艦達は楽しそうに鎮守府を探索している。これから新しい生活に胸が弾んでいるのだろう。文字通りに。

 

「ま、私は戦えれば何でもいいんだけどね。ねー大井っち」

「そうですね。私としては少し苛立ちましたが」

「そう思っても仕方ありませんね。あの提督がどうであれ、どんな感情を持とうがここでは自由です。嫌悪に思い、警戒する事も必要だと私は思います」

 

 大井は感情に素直な艦娘だ。顔から体の動きまで感情豊か、分かりやすい一面もある。大井は複雑な気持ちのようだ。

 

「鳥海は提督の事どう思ってるの?」

「そうですね……不器用な優しさを持つ反面教師、と言ったところでしょうか」

「なにそれ、まぁでも思うのは自由か。私は少し好感持てるね~」

「何言ってるんですか北上さん!」

 

 自由に戦えれば何でもいいと考えている北上。大井が否定に入るも、怒りはない。話している内に球磨型の部屋についたらしい。

 

「では貴方達の部屋はこちらです。後はご自由に」

「ありがとね~」

 

 部屋には姉の球磨と球磨、妹の木曾がいない。そういえば提督に挨拶する前、艦娘達が訓練していたのを見た事がある。

 

「大井っち、球磨姉達が訓練やってるようだし、少し見ていかない?」

「そうですね。探索途中に見て行きましょう」

 

 

 そして時間は進み、昼十三時。

 

 

 古鷹と加古が模擬訓練で戦い、摩耶とプリンツに止めに入られた。プリンツからこっぴどく怒られた古鷹と加古は恐る恐る執務室に入り、提督に説教をされている。

 

「……まぁ随分と暴れたもんだなぁ」

「ご、ごめんなさい……」

「……」

 

 提督が机に足を乗せ、摩耶とプリンツからもらった報告書を机に投げる。提督は深く溜息を吐いて、雑に処分について説明した。

 

「摩耶とプリンツから大体の情報は預かってる。お前らは一回頭を冷やした方がいいようだ……一週間の出撃、遠征、演習、訓練の謹慎。入渠施設の使用禁止な」

「入渠も……駄目、なんでしょうか……?」

「当然だ。何故勝手に本物の弾薬を使用した奴の修復をしなければならない。全ては己の自業自得だ。自分で勝手に負った傷ぐらい、自分で治せ! 他の力は頼るな!!」

 

 資材は減っている上に身内同士の傷つけ合い。模擬弾薬であれば問題は無いが、本物の弾薬となれば話は別だ。死に繋がる可能性があると分かっていながら使用した事が主な謹慎処分の理由になる。

 

「分かり……ました……」

「……チッ」

 

 古鷹と加古はゆっくりと執務室を出ていく。その姿を見届けた提督は古鷹と加古の資料を机の引き出しから取り出し、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべた。

 

「……と言ってどうなるかな」

 

 重巡寮の廊下で二人は距離を離し、黙々と歩く。謹慎処分を食らい、古鷹は少し責任感を感じていた。勝負を仕掛けたのは自分だ。本物の弾薬を使おうとしたのも自分の所為でもある。

 

「加古……その……」

「……」

 

 古鷹は距離を詰め、加古に近付く。ここで何かしら言うのかと少し緊張したが、加古は何も言わず歩いていた。顔は見向きもせず、ただずっと前を向いている。

 

「ごめんね……」

「……」

 

 それぞれ部屋に着く二人。ドアを開け、部屋に入ろうとする。その時、加古が小さい声で呼び掛けた。

 

「……今夜マルヒトマルマル、第二訓練海域に来い。一人でだ」

「えっ……?」

 

 マルヒトマルマルに訓練海域に来い。初めて加古から誘われた気がする。何かしら理由があるのだろうか、少し不安だ。しかも一人で来いと言う。一体、何をするつもりなのだろうか。

 

「……一人で?」

 

 やがて夕飯の鐘が鳴り、食堂に艦娘達が集う。新しく着任した艦娘も多く、食堂は一層と賑やかだ。一階のテーブル席で一人、食べていた古鷹は誰かに呼び掛けられる。

 

「やぁ、謹慎貰った重巡さん」

「ひ、響?」

「響だよ。皆と一緒で大丈夫かい? ちょうどいい席が無くて」

「う、うん。大丈夫だよ」

 

 第六駆逐隊がお盆を持って、待っている。席がほぼ満席だったのか、古鷹と共に食べる事にしたようだ。暁や雷が楽しそうに話をしている。何気なく楽しそうに喋り、笑顔で語り合う会話。古鷹にとっては、それがどこか羨ましく思えた。

 

「何か悩んでるのかい」

「ん? あ、いや何でもないよ。大丈夫」

 

 何とも言えない表情に気付いた響が声を掛ける。今の古鷹の顔は少し哀しい表情をしていた。楽しそうに話す自分達を羨ましく思い、それが出来ないという現実を悔しそうに受け入れている表情。涙が出そうなその表情に響は話をした。

 

「……大丈夫だと思うよ」

「ん?」

「同じ姉妹なら何とかなると思う」

「恥ずかしいね……あんな場面、見せちゃって」

「恥ずかしくないよ」

 

 堂々と明言する響。

 箸を持つ手を止め、響なりの必死な顔で訴える。

 

「……え?」

「恥ずかしくない。姉妹が喧嘩してるなんて当たり前の事じゃないか」

「でも喧嘩のレベルが違うような……」

「それでもさ。私達だって時には喧嘩する。お互い譲れない物があるこその争いだよ、古鷹達もきっと譲れない物があるからだと私は思う」

 

 どちらかが譲ればいいものを、お互いはそれを許さない。どうしても貫き通したい、譲りたくない物があるからこそ争いは始まる。些細な喧嘩や会議、戦争でも。

 

「私が簡単に言える事じゃないし、一緒にしないでって思うだろうけど、姉妹同士ならきっと……キッカケがあるはずだよ」

「キッカケ……」

「だからその場面を私達は見たって何も笑ったりはしない、憐れんだりしない。ちっとも恥ずかしくない事だよ」

「寧ろ私達は頑張ってほしいわ!」

「古鷹さんなら何とかなるのです!」

「そうよ! 自分に無理しない程度で信じて、それから頑張るのが一番! それがレディへの一歩なんだから!」

 

 第六駆逐隊の優しい励ましに涙が出る古鷹。皆それぞれやるべき事があるからこそ嘲笑はしない。例え本人が恥ずかしいと思っても、周りは大事な事だと受け止めてくれている。それが古鷹にとっては嬉しかった。

 

「……うん、ありがとね。皆」

「「「「どういたしまして!」」」」

 

 夕飯の時間が過ぎ、執務室の明かりが消えた。古鷹は静かに出撃ハッチに向かい、艤装を展開する。加古は既に海で待っていた。加古は古鷹を確認し、首をクイッと動かす。二人は黙って第二訓練海域に向かった。第二訓練海域は鎮守府から北東に七キロメートルにある。深海棲艦が駆逐され、安全とされている海域だ。

 

「……何でここに連れて来たの」

 

 何故出撃した状態でここに連れてきたのか。何かの罠なのか、それとも話があるのか。古鷹は緊張しながらも、冷静に問い掛ける。加古は古鷹の方へ振り向き、睨みながら答えた。

 

「……あの時まで……何も出来なかった奴が、何の取り柄も無かった鉄屑が……」

 

 

 

 ──ムカつく。

 

 

 

「アイツに唆されたのか知らないが、訓練に参加して……救うとかふざけた事言って調子に乗り出して……!」

 

 

 

 ──腹立つ。

 

 

 

「あの鎮守府襲撃からずっと考えてた。今まで見下してた奴が何でいつまてもあたしに突っかかってくるのか……」

 

 

 

 ──イライラする。

 

 

 

「ようやく理解出来た、お前はあたしと戦って勝ちたいんだよ。お前の言う通りだ……あたし達は一回も勝負していない。だから──」

 

 

 

 

 

「──今、ここで決着をつける」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──悲しい。

 

 

 

 

 

 

 

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