うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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65. 本音と本音のぶつかり合い

 

「──今、ここで決着をつける」

 

 

 

 直後、加古は古鷹に急接近。大きく右拳を振るった。

 古鷹は右の大振りを跳躍で回避する。水柱が立ち、騒音が響き渡った。

 

「待ってよ……!」

「何が待ってだ!! お前が望んだ勝負だろうがァ!!」

 

 空中で無防備の古鷹の服を掴み、岸辺の崖まで投げ飛ばす。

 崖に叩きつけられた古鷹は暴れる加古を止めようと必死で物言いをする。だが──、

 

「いくらなんでも突発的過ぎ──」「知るかッ!!」

「待ってってばァ!!」

 

 崖に寄り掛かる古鷹目掛けて殴って砲撃。古鷹は回避しつつ、無意識で反撃態勢に入る。

 

「何で戦わねぇんだよ!! お前が望んだ勝負だろ!!」

 

 加古が崖に埋まった腕を抜き、怒りを訴える。眼から僅かに青白い稲妻が出ている。これは本気の加古だ。

 

「でも私達謹慎中だよ!? 別に今じゃなくてもいいじゃんか!!」

「本気でやったらアイツらに止められんだろうがァ!!」

 

 躊躇いもなく古鷹に攻撃を仕掛ける。何故か戦わない古鷹を加古は睨み続けた。加古は古鷹の脚を掴み、海面に叩きつける。

 そして右腕を引き──、

 

「ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 □□が窓から月を眺めている。雲一つない夜空と月。月の光が部屋を薄く照らす。その光に映らないよう、□□は影で立っていた。

 

「寝ましたか……」

 

 艦娘達がすやすやと寝ている。この時間帯は誰も起きないだろう。そう思う中、窓の光がある人影によって邪魔された。その人影を見ずに□□は司令を与える。

 

「来ましたね。では──」「えぇ来ましたよ」

「……?」

 

 聞き覚えのある声だ。仲間のような片言口調ではない。おかしいと□□は振り返った。

 そこにいたのは何とも珍しい──、

 

「貴方は……」

「榛名です。とぼけないでください」

 

 舞鶴鎮守府の榛名が窓の縁で待ち構えていた。月の光で装飾が輝き、正装が風でたなびく。□□を恨むような表情で睨んだ。

 

「ようやく突き止めました。貴方が犯人ですね……別の私、いや榛名……!!」

 

 □□の正体。それは金剛型戦艦の三番艦、榛名。

 彼女は表情を変えずに舞鶴の榛名を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつしか、戦う事が怖いと感じるようになった事がある。

 

 

 

 

 死にゆく仲間を何度もその目に納め、思い出す度に背筋が凍った。

 

 

 

 

 臆病者。周りからは隠してそう呼ばれている。

 

 

 

 

 別に否定はしない。それが事実だから。

 

 

 

 

 でもどこかで私が惨めなのは理解していた。

 

 

 

 

 誰も助けられない。

 誰も救えない。

 私は非力だ。力不足だ。そんな風に思っていた。

 

 

 

 

 だけどあの提督が全てを吹き飛ばしてくれた。

 

 

 

 

 それは些細な事かもしれない。単に悲劇のヒロインを演じた私が助けてもらいたかっただけかもしれない。

 

 

 

 

 それでも私にとっては唯一の救いだった。

 

 

 

 

 死に抗えるのは力だけ。今でもこの言葉は私の中で響いている。

 

 

 

 

 全てを諦め、■■達に操られる憐れでゴミみたいな私にあの提督は手を差し伸べてくれた。

 

 

 

 

 そこからだろうか、私は強くなる事を決意した。

 

 

 

 

 私の目標の為、強くなりたいと願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう今でも──、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「避けんなァ!!」

「無理言わないで!!」

 

 加古の猛攻を回避し続ける古鷹。荒々しくも正確無比な砲撃や近接戦闘に苦戦していた。回避していくのが精一杯である。

 

「いつまでも見下すあたしを見返したいんだろ!! だったら隠れてないでさっさとやれよ!! 何なんだよ、本当に!!」

 

 腕を振るい、怒り心頭に訴える加古。激しく怒鳴りつけ、悲しく掠れた声。加古の表情を見て古鷹は気づく。

 

「……違う、私は加古に戦って勝ちたいんじゃない。私は加古を救いたいだけなんだ……!」

「その救うって言葉が腹立つんだよ……! 何の計画も方法も考えていない癖に、どうやってあたしを救うのか全く予想出来ていない癖に、言葉だけで約束して、何もしてないだろ!! 寧ろイラつく事ばかりだ!! 何が救うだよ!! あたしをイラつかせるのが救う事なのか!? なァ!!」

 

 確かに加古の言う通り、救う算段はついていない。洗脳の原因が■■達が開発した改造された戦闘意欲増進剤である以上、提督に頼る他は無かった。だからと言って何もしない訳では無い。古鷹は今自分が最大限でやれる事を探し、それを見つけた。強くなって加古を助け、■■を殴る。その目標の為に出来る事だけをした。

 

「違うよ加古!! 私は■■に操られてる貴方を救いたいんだ!!!」

「あたしは操られてなんかいない!!!」

「だったら何でそんなに泣いてるんだよ!!!」

「ッ!?」

 

 気付けば加古は涙を流していた。無意識だったのか頬に伝う液体を確かめている。加古自身は自分の身に何が起こっているのか理解出来なかった。

 

「おかしいよ……! 言動と言葉が矛盾してる……そんなに泣いていて、何でそんな事が言えるの……? 本当は加古だって辛いんだよね……?」

「……黙れェ……ェ!!」

 

 指に濡れた涙を握り、加古はまた殴り掛かる。

 古鷹は殴打を回避した。

 

「戦え!!」

 

 回避した古鷹に合わせ、砲撃。

 古鷹も砲撃し、砲弾同士を衝突させる。

 

「戦えよ!!」

 

 爆煙を掻き分け、加古が回し蹴りをする。

 蹴りを防御した古鷹は蹴った脚を受け流した。

 

「戦えよ……! 何でだよ……! あの時の演習でお前が強くなってるのを認めちまったあたしがいる……! 昨日の勝負であたしと同等の力があったのがより一層腹立つ……! 何も出来やしなかった奴が途端で強くなって、あたしを倒そうとしてる……!」

 

 頭を抱え、悲しい声で語る加古。下を向き、海面に映る自分の顔は涙を流し、歪んでいた。今までの古鷹の急成長を感じて、どこかに危機感を感じたのだろう。

 

「ふざけんなよ……!! だったらあたしをさっさと殺せばいいだろうがァ!!!」

「何で……そんな事……」

「お前を見る度にいつも起きる……頭痛が止まらないし、何故か悲しい気持ちばっか出てきやがる……! あんな奴らなんかどうでもいいと思ってるはずなのに不意に身体が動いちまう……! 訳の分からない事ばかりで吐きそうになる……もうどうすればいいのか分かんないんだよ!!!」

 

 加古は彷徨っていた。元の自分ともう一人の自分の狭間で。加古にとって強い者は正義、弱い者は悪、或いはクズだと思い込んでいた。自分は強い、選ばれた者だ、最強だ。もう誰にも盾突く者はいない。弱い奴なんかのたうちまってればいい。

 強い奴が弱い奴をどうするかなんて自由だ。それが当たり前だと思っていた。

 

 だがあの提督が来た事によって、それは崩れ去った。自分の上には更に強い奴がいる事をその身を持って知ってしまったからだ。どんな事をしてもバレて対策されてしまう、悪口を言えば百倍で返されてしまう、戦おうとすれば返り討ちにあう。挙句の果てには弱かった奴らをものの見事に強くさせてしまった。

 

 古鷹もその一人だ。あの時まで弱かった奴が今は深海棲艦と勇敢に戦い、演習ではその能力を存分に発揮し、成長していた。

 

 それを機に加古の中で何かが膨れ上がった。やめてくれと頭の中で誰かが叫び続ける。気にせずにいても、ふとした瞬間に頭の中で響き始める。古鷹を見れば何故か悲しい気持ちになってしまう。自然と手が震える、足がかくつく。

 

 時々夢にもう一人の自分が出てくる事がある。

 会う度に彼女は迷わずこう言い続けた。

 

 

 

 

 

 

 ──もう……やめてくれ、と。

 

 

 

 

 

 

「加古……」

 

 この戦闘に恐らく、意味は無い。昨日の勝負で摩耶達に引き止められ、互いに不完全燃焼。故にそのモヤモヤした気持ちを払う為の憂さ晴らしなのかもしれない。所詮は価値観の違った敵同士だ。相容れる存在では無くなってしまった。

 

 古鷹と加古。差別された側と差別している側で引き裂かれた姉妹の絆はもう戻らない。失ったモノは二度とこの世には戻らない。それが自然の摂理だ。

 

 だがまた新たに創る事は出来る。

 

 古鷹は悩んでいた。

 

 加古自身も悩んでいた。

 

 それぞれの想いがあるからこその悩み。

 

 今、加古は■■達の洗脳という呪縛に縛られ、そして抜け出そうと必死に足掻いている。

 加古が無意識に助けてと訴えている以上、古鷹は戦わずにはいられなかった。

 

「何とか言え──」

 

 加古が古鷹に突進する。

 しかし古鷹の蹴りによって止められてしまう。

 

「……そこまで言うなら、加古に勝ってやる。ここから全身全霊で加古を倒すよ……! 覚悟して……加古!!」

 

 加古は敵視するように睨みつける。古鷹も戦闘態勢になり、本気で戦うようだ。

 

 昨日の勝負で決着をつけるだけが、いつの間にか互いの本音を聞くような大事な戦闘になるとはどちらも思っていなかった。

 

 差別する者と差別された者。姉妹であったはずが今は他人同士。だからこそ心置きなく戦えるのかもしれない。もしそうだとしてもそう否定する事は出来なかった。

 

 もし洗脳という呪縛がこんな戦闘混じりの姉妹喧嘩で解き放たれるなら喜んで実践したい。

 

 現に加古は今、心が揺らいでいる。

 戦えば何かしら変わるかもしれない。

 かといって本当に目が醒めるという確証は無く、現実は非情だ。

 

 でも、もしその可能性が0.1%でもあるのならば信じてみたい。

 

 

 

 

 

 

 それぞれの覚悟と魂を。

 

 

 

 

 

 

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