うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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69. 「愛情」

 深海棲艦の密告者として捕らえられた榛名はその後憲兵隊と特殊艦娘部隊によって確保。本拠地である大本営まで連行される事になった。身体検査後に尋問が繰り返される事だろう。前任との繋がりや深海棲艦の情報など有しているはずだ。

 

 意外にも彼女は表情を一つも変えず、ましてや抵抗もせずに憲兵隊に従順だった。提督が着任した頃は不気味な笑顔だったが鎮守府襲撃以降は何故か大人しくなっている。恐らく鎮守府襲撃時に前任と何かあったのだろう。

 

 またその場で倒された深海棲艦も何人か鹵獲し、彼女同様に大本営の収容施設へ連行された。鹵獲された深海棲艦は約六人。軽巡ツ級、雷巡チ級、戦艦タ級、空母ヲ級、重巡リ級、軽巡棲鬼。いずれも尋問予定だ。

 

 攫われたと思われていた■■医師は営倉にて拘束されており、駆逐艦達に無事に救助された。だが前明石が深海棲艦に暴行を受けたのか、酷い外傷を受けていた為に今は拘束器具で自由を奪い、艦娘の監視下の元で■■医師の治療を受けている。

 

 また舞鶴の榛名は元の舞鶴鎮守府へ帰還。それと同時に彼女の事について調べに行くらしい。

 

 彼女に裏切られた■■達は依然、何ら変わりない生活を送っている。裏切り者には厳しいという意味の分からないルールなのか彼女の話題は一切耳にしていない。

 

 金剛や比叡、霧島は彼女の反抗をあまり受け止められずにいる。特に金剛に至っては話が聞きたいと遠征許可申請書を出す程に。霧島は状況についていけず、部屋に閉じこもっている。金剛の急成長に比叡の意識の移り変わり、そして彼女の裏切り的犯行。金剛型戦艦の末っ子として頭の理解が追いついていないようだ。無理もないと言える。

 

 古鷹と加古は未だに差別意識は消えていないものの、加古本人は罪の意識を感じている。今は部屋に閉じこもり、意識を抑える練習をしているという。古鷹やその他の艦娘を見ると自然と差別意識が出てきてしまう為、彼女の件以降ら誰とも接していない。

 

「あー疲れたー……!!」

「お疲れ様だ、提督」

 

 今日の仕事を終え、背伸びをする提督。今回は密告者の件、古鷹と加古の件で書類は山のようだったが何とか一日を使って終わらせたようだ。関節を回し、パキパキと音を鳴らす。

 

「また事件解決か?」

「だと良いんだけどな。まだ不安の種は残っている、油断は禁物だ」

「まさか榛名が前任と繋がっていたとはな……あながち■■大将の意見も間違いじゃないみたいだ」

「失礼します」

 

 執務室に舞鶴の榛名が来てくれた。ここの彼女かと少し思っただけに提督と摩耶はビクッと身体を動かす。

 

「舞鶴の榛名か、少しだけビビった」

「あたしもだ」

「……まぁそれは仕方ないです。あの件に協力してくださったのでそのお礼に参りました」

 

 舞鶴の榛名の手には様々な地元の名産物が。恐らく協力した憲兵隊のお礼だろう。正直言っていらない。

 

「いやお礼なんていらないから。金ならまだしも一回しか食わずに倉庫に放置するようなその土地の名産物とかだったら俺は──」「勿論お金も弾ませてもらいます」

「よーし!! ありがたくもらおうー!!」

 

 提督はお金が貰えると聞いて椅子から立ち上がる。溜息を吐き、やれやれと摩耶が呟いた。

 

「では改めまして……この度、深海棲艦密告者捕獲の件に協力してくださりありがとうございます」

「そりゃ良かったぁ」

「また個人の事を含め、私を異動させていただいた事、金剛お姉様の事、貴方には数え切れない感謝の恩がございます」

 

 舞鶴への異動、金剛を救ってくれた事、彼女の捕獲。感謝してもし切れない程、提督には感謝しかない。舞鶴の榛名にとって提督は命の恩人のような存在だ。しかし提督はそんな事など感じ取ってすらいない。

 

「何だこの空気を壊しちゃいけない感じは」

「黙って聞いてろ」

 

 再度椅子に座り、あからさまに落ち込む提督。摩耶に抑えられ、バタバタとしている。

 

「本当に……ありがとうございます……! 全て貴方のおかげです……!」

「……そうかい。それじゃあ……お金の件についてなんだけど、俺としては最低でも五千万、いや六千万近く欲しいな。だから今月六月末日までに振り込んでおいてくれ。また物とかはここの艦娘達に食べさせる。俺はいらん」

 

 涙を流しながらの感謝を差し置き、提督はお金の案件を提示した。指で欲しい金額を述べ、自分のメモ帳に欲しい報酬の内容を書いていく。メモ帳の紙を破り、舞鶴の榛名に渡した。

 

「はい! 分かりました! 即日にやらせていただきます!」

「話が分かるようで頼もしい限りだよ。では早速高級マンションの予約購入としよう!! 後は液晶テレビやゲーム機など買って万々歳だ!! いやー楽しみで仕方ないね~!! あ、鎮守府内にプールを作ろう!! 休む時に優雅な暮らしが出来る!! 今すぐ大本営と建設業者に連絡だ!! そうしよう、そうしよう!!!」

「あ、もう一つ伝えたい事が──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「古鷹、ちょっと来て」

「う、うん……」

 

 部屋から出てきた加古に誘われる。自然と声は柔らかった。以前のように棘があるような言い方ではない。加古に言われるがまま、古鷹はその後を追っていった。

 

「……こうやってさ、二人で行くなんて無かったよね」

「そうだね……」

 

 前のように訓練海域ではなく、鎮守府の敷地を抜けた先の浜辺。岩がゴツゴツと並び、波の音が静かに聞こえている。水平線に夕日が沈み、海を茜色に染めていた。

 

「悪いけどあたしはまだ完璧に古鷹達と仲良くなれる訳じゃない。未だに手は震えるんだ」

 

 古鷹に会っても尚、差別意識は出てしまう。訳の分からない感情で無性に苛立ち、古鷹を殴りそうになるほどだ。今は抑えられてるとはいえ、いつ暴れ出すか分からない。

 

「……大丈夫だよ、加古。ちょっとずつでいいからさ」

「あぁ……そうする……」

 

 加古は複雑な気持ちを抱えながらも、一生懸命に答える。砂浜を歩きながら加古は震えた声で話し掛けた。

 

「……多分さ、あたしは古鷹に助けを求めてたんだと思う」

「助け……?」

「うん。助けてほしかったんだと無意識で言ってたんだと思ってる。不確かなままだけどね……」

「そっか……嬉しい……」

 

 古鷹に初めて本気で殴られた時に気付いた。どこかで自分は助けを求めていたんだと。そんな事など言ったつもりのないはずが、無意識に訴えていた。恐らく自分の中にいるもう一人の自分が賭けた抵抗なのだろう。そのおかげか今まで考えもしなかった罪の意識が芽生えてきていた。如何に自分は愚かだったのか。しかしそれを悪くない事だと正当化する自分もいる。

 

「本当は謝りたいけどまだ謝れない。全て終わったら本当の事を伝えようと思う。だからあのクソ提督に言っといて、出来る限りは協力するって」

「うん、分かった。説得しておくよ」

 

 加古は古鷹の方へ身体を向け、正直に話す。あの勝負で互いに分かり合えた、何が大事なのかも分かった。

 しかし加古は完全に目覚めた訳ではなく、今まで自分がしてきた事が何なのかを再確認しただけである。まだ■■達の洗脳から解き放たれていない。それ故にいつでも敵になってしまう事もあるだろう。加古はこの事が全て終わったら謝るつもりでいる。

 古鷹は勿論、貶めてしまった雷や暁の事も。その他の皆にも謝りたい。

 

「ねぇ加古」

「何?」

「抱き締めてもいい?」

 

 古鷹が優しい声で問い掛ける。通常の加古なら激情し、抱擁を拒むはずだろう。

 しかし今の加古は──、

 

「……うん、いいよ」

 

 古鷹の抱擁をすんなりと受け入れてくれた。古鷹は身体が震える加古を包み込むように抱き締める。お互い肩に顔を近づかせた。

 

「私は信じてる。加古が優しい艦娘である事をね。今まで色んな事があったけど私は全て許してるよ」

「っ……!」

 

 何故だろうか、いきなり涙が出てしまった。泣くような気持ちではないのに何故か無意識に涙が出てしまう。いや、きっと泣くべきなのだろう。

 

「加古が一人でどんな思いを背負ってたのか私にはよく分かる。今の加古にとっては怒っちゃうような事だけど、私も色々辛かったからさ」

「……ごめん……!」

「何泣いてるの加古。私は許してるって言ったでしょ? 加古は一人で何もかも背負う癖があるからね、仕方ない所だけど……大丈夫、いつか必ず全てが晴れるよ。ゴールまで長い道のりだけど、そしたらさ……」

 

 古鷹は一度抱き締めるのをやめ、泣き出す加古の顔を見る。そして古鷹は笑顔で話した。

 

「またこうやって話そう?」

 

 どうしようもない事かもしれない。

 ただ当てずっぽうに言っただけかもしれない。

 未だに洗脳を解放させる手段は無く、永遠に続くような道に思えても。

 不確かなままでもどこかで確信はしている。

 

 

 また仲良く過ごせる日々が来る事を。

 

 

 理由も無い、確証も無い、ましてやそうなるとも限らない。

 いつか悲劇になるような事があるかもしれない。

 今はまだ敵同士、差別している側と差別された側での不毛な争いだ。

 

 

 それでも私は信じていたい。

 

 

 殴り合って少しだけ目覚めるような物騒なやり方ではあるけれど、その少しだけの力が私達の道を一歩だけ照らしてくれた。

 

 

 その一歩こそが大事だと思っている。

 

 

 私はその一歩を誇りに思いたい。

 

 

「また別れる事にはなっちゃうけどさ。その時までお互い頑張ろうね、加古」

「う……っうん……!」

「私達は姉妹なんだから。お互いいれば必ず頑張れるよ……きっと」

 

 お互いに額を合わせ、共に笑う。二人の間に挟まれた赤い夕日が輝いた。

 

 まだ二人の仲は完全に治った訳では無い。

 初めの一歩を歩みだしたに過ぎないのだ。

 

 だがそれでいい。

 その一歩こそが二人の希望でもある。

 

 今は未完成でも構わない。

 いずれは仲良く話せるだろうあの日々とその絆を──、

 

「苦労……する、かもね……!」

「そうだね……だから……」

 

 

 

 

 

 

 

「……頑張らなきゃ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──取り戻す為に二人は戦い続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!? ウォータースライダー言うの忘れてた!!」

「んな事どうでもいいだろ!!!」

 




Part.4 磨穿鉄硯のホークスアイはこれにて終了。Part.4をまとめると「シグナル」ですかね。

因みに榛名を追い掛ける際の古鷹と加古の戦闘シーンは「バクチダンサー」ってノリで書いてました。
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