うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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胸糞注意警報発令
下書きが順調に進んだので四話分を投稿します


7. 朝から声が大きいヤツは嫌われる

「あぁそうだな……お、分かってくれるか! オーケー明日行くわ! うん明日ー、うんいいよー、じゃーねー」

 

 誰かと電話していたらしい提督。何か約束事を作ったようだ。夜二十三時。消灯時間は既に経過、提督は執務室で一人、仕事をしていた。

 

「どうぞー」

 

 ドアをノックする音が聞こえた提督は入室の許可を出す。入ってきたのは朝潮だ。部屋着にも着替えず、正装のままである。

 朝潮は恐る恐る提督に近づいた。

 

「どうした朝潮、もう消灯の時間は過ぎてるはずだぞ? 子供はおやすみの時間だ。って言うか俺も眠い」

「そ、そうですが……司令官は叶えたい事を出来る範囲で答えてやるって……言ってました……よね?」

「あぁ言ったな。それで?」

「であれば、その……妹達を呼ぶ事とか出来ますか?」

 

 朝潮は過去に四人の姉妹を失っている。主に前任の提督による解体と捨て艦戦法での轟沈。優秀だった朝潮は抜擢される事は無かったが、それでも姉妹艦を目の前で失っている。

 

「お前は何もしたくないって言わなかったか?」

「は、はい! た、確かに答えましたが……あの時は……」

 

 上手く説明が出来ない。確かに朝潮は何もしたくないと言った。姉妹を守れなかった自分を酷く追い込んだのだろう。

 

「……仮にその姉妹艦を着任させたとして、お前の本当の妹達とは限らないぞ?」

「そ、それは重々承知しています!」

「そうか、じゃあ姉妹艦を呼んでお前はどうするつもりだ?」

「戦います!」

「何の為に?」

「強くなる為に!」

「何故妹達を呼んで強くなれると思ったぁ? 自分が強くなる為の道具にするのかぁ?」

「違います! 私達朝潮型が本当は強い駆逐艦である事を他の皆さんに証明させる為です!!」

「またその妹達を失うかもしれないのに?」

「今度は私が絶対守ります……例え司令官の手で脅かされようとも!」

「それが間違った選択だとしても?」

「間違っていません! わたしが選んだ選択です!」

 

 質疑応答を繰り返す。

 恐らく提督は朝潮の度胸を試している。朝潮の中では既に決心していた。今度は下を見ない、前だけ見て進む。朝潮は顔を上げた。

 

「……よし、いいだろう! やってやる! キシシシシシ」

「ほ、本当ですか!?」

「俺を誰だと思ってやがる! 有能な俺だぞ!! あ、時間は遅くなるけどね」

 

 今まで緊張していた朝潮。緊張から解き放たれ、腰を抜かしてしまった。自ら起こした行動でやりたい事が決まったのだ。

 とても嬉しかった。それを見た提督は朝潮の方まで歩み寄り、頭をくしゃくしゃに散らかす。

 

「別に緊張しなくていいんだよ忠犬娘! まぁ有能な俺だから仕方ないか!!」

「う、えっ……ちょ、ちょっと、司令官!?」

「キシシシシシシシ……今度は上手くやれると良いな」

「っ! はい……」

 

 何故だろうか、涙が出てしまった。まるでこの言葉を待っていたような、そんな気がする。たった一つの言葉なのに何故か心の底から優しく感じた。肩の力も自然と抜け、抵抗するはずの腕も気力を無くしている。頭を撫でられた事など初めてだ。

 

「おいおい何泣いてんだ忠犬娘? まだ泣く時間は何光年も先だぞ? ってもう泣いてるけどなー!」

「すっ、すいませんっ……! つ、つい涙がっ!」

「泣きたい時に泣きゃあいいんだ! さっきの言葉と矛盾してるけどなー!! キシシシシシ」

「……そうですね!」

 

 涙をこぼして笑顔を見せる朝潮。提督も笑顔で返す。朝潮が泣き止むまで傍に居続けた。

 

「さて俺も眠いし、さっさと寝るぞ朝潮!!」

「は、はい!」

 

 執務室の明かりを消し、提督は朝潮を連れてその場を後にした。朝潮を送り、自部屋に戻る提督。

 まだ片付けが済んだ訳ではなく、足の踏み場もない程だった。

 

「あー疲れたー……誰? お前?」

「榛名です! 夜のご奉仕に――」「はいさっさと出ていけー」

 

 榛名の身体を持ち上げ、部屋に追い出そうとする提督。勿論榛名は抵抗し、部屋の奥に逃げ込む。

 

「お前は猫か!!」

「いえ艦娘です!!」

「んな事は分かってんだよさっさと出ていけ!!」

「断ります!!」

「じゃあ俺が出ていくゥ!!!」

 

 ドアを突き飛ばし、自部屋から出ていく提督。突然の家出宣言に榛名は呆気に取られていた。

 

 

 

 

 朝八時。起床時間である。

 提督は摩耶の部屋で一足先に早く目を覚まし、執務室でまた仕事をしていた。多くの艦娘達が起床し、世間話をしている声がする。

 

「おはよう……提督……」

「おはようさん……随分と飲んだみたいだな。くっそ笑える」

 

 歓迎会で飲み過ぎた摩耶は二日酔いに悩まされていた。頭を抱えて、頭痛を訴えてくる。更には下痢まで起こした、今後飲むのは控えた方が良さそうだ。

 

「なんとでも言え……はぁ……」

「……おはよおおおおおお!!!」「うるせェ!!」

 

 突然の大声に驚いた摩耶は提督を殴り飛ばす。提督のいき過ぎたちょっかいは日常であり、付き添う摩耶も理解している。なので摩耶は全力で提督を殴っているのだ。

 

「朝から一々バカでかい大声出してくんじゃねぇよ!! 響くだろうがァ!!」

「いやでも摩耶さん、俺はね? まだ寝惚けてるのかと思って気遣いでやろうと……」

「だから大声出す事はねぇだろ!!」

「と思って全力でちょっかいしてやったぜ、ざまぁみろ」

「殺す!!」

「あああああお前が殺したら本末転倒だろォ!!」

 

 自分が味わってる頭痛の分だけ提督の頭に数回殴った摩耶。目覚めは最悪だ。惚れた自分が馬鹿馬鹿しく思える。だが作戦指揮やカウンセリング、仕事の速さなどは完璧だ。

 性格以外は。

 

「摩耶、午後から呉鎮守府の方へ訪問する。その頭痛は治しておけよ?」

「お前もその頭を治しとけ」

「えーこの類まれなる俺の性格にケチつけ――ごめんなさい……」

 

 今凄く恐ろしい目で睨まれた気がした。

 

「分かればよろしい。午後か、分かっ――悪い提督、あたしはついていけない」

「……予感か。念の為に空母寮に伝えておけ」

 

 摩耶が生まれながら持つ『予感』は大体八割の確率で深海棲艦が空襲する可能性が高い。何度かこの目で見た覚えがある。『予感』で奇襲に備える事も出来た。しかし今度の『予感』は不吉なものらしい。

 

「胸騒ぎがする……割とガチなパターンかもな」

「姫か鬼クラスか……気をつけろぉお前は余裕だと思うがここの艦娘達は別だ」

「あぁ分かってるさ」

「んーしかしどうしようか、予感は当たってほしく無いところだが……」

 

 午後には後輩と会談の予定がある。しかもあまり逃したくない会談だ。外すわけにはいかない。どうにか出来ないだろうか。

 

「心配しないで行ってきな提督、その時はあたし達に任せろ」

「んーまぁお前に任せれば大丈夫か」

 

 摩耶も連絡用にスマートフォンを手渡している。といっても本人は完全に私用目的で使っているが。

 とりあえず今はある事を調査しなければならない。

 

「ん? その資料……営倉か?」

「あぁ前任がフルで使ってたところだ。一回探したんだがどこにも無くてな、今日も調査しようと思ってる」

 

 

 

 営倉。

 簡単に言えば刑務所でいう懲罰房である。罪を犯した人間、艦娘を拘束するといった目的がある。時たまに鹵獲した深海棲艦を捕らえる為にも使われるようだ。普通営倉は地下に建てられているはずだがそれらしき場所は確認出来なかった。

 そして――、

 

「明石が前任に無理矢理開発された拷問器具、何処に隠してるのか把握出来ていないんだわ。バレない為に壊したのか、よく分からねぇ」

「あたしも手伝おう、手掛かりが掴めるかもしれない」

「あぁ頼む。だがここの艦娘達には内密な」

 

 そんな事など分かっている。罰と聞くだけで身体を震えさせる艦娘達は営倉の場所など早く忘れたいはずだ。余計にトラウマを掘り出せば精神崩壊しかねない。

 何気に無意識で提督はここの艦娘達に気遣っているのだ。

 

「よし探すか、摩耶は工廠と倉庫を頼む。俺はこの司令本部を探索する。ちびるなよ?」

「するかボケ。でも分かった、何かあれば連絡する」

 

 提督と摩耶は二手に別れて営倉を探す事にした。なるべく可能性の高い司令本部と工廠、倉庫を視点に隅々まで調べていく。

 

「あれ司令官、どうされました?」

「ん、朝潮か。いやまぁ探し物だよ」

「探し物、ですか? 朝潮もお手伝いさせていただきます!」

「いやいや大丈夫。そんな大した事じゃねーから、部屋で昼寝でもしてな忠犬娘」

「そういう訳にもいきません! 願いのお返しとして私もお手伝いをさせていただきます!」

 

 まぁ理屈はまかり通ってはいる。しかし提督としてもあまりこの事は内密にしておきたいところ。

 もしバレたら艦娘達が泣き出して面倒臭いからだ。上手く騙せないだろうか。というよりも一人で探したい。

 

「あー、んじゃお前は駆逐艦寮を頼むわ」

「はい! 分かりました! ところで司令官、何をお探しですか?」

「んーまぁ本かなー、確か寮内か司令本部に落とした気がするんだよなー」

「ではこの朝潮、全力で探させていただきます!」

「おう頼むぞー」

 

 朝潮が探し物の内容を聞いた途端、変な音が聞こえた。まるで電車の線路レバーを変えるようなしっかりとした重い音。

 それは提督が階段の手摺を弄り回した事による変化だった。

 

「へ?」

「そ、それは、司令官……」

「はいシャラアアアアアアップ朝潮ォ!!」

 

 朝潮が腰を抜かす。それは艦娘にとって絶対的な絶望を意味する。今まで地下に繋がる手掛かりは確認出来なかった。しかし今の音により、ようやくその手掛かりを掴む事が出来たのだ。

 

「まさか地下に繋がる階段が隠されたとはな……いいか落ち着いてよーく聞け、朝潮」

「は、はぃ……」

「今俺らはある重大な任務を請け負っている。それはこの鎮守府の営倉の存在だ。お前らがアレによって散々な目にあってるのはよく分かる。この事は誰だろうと忘れたいはずだ」

「はい……」

「だからこれは無かった事にしてくれ。お前は俺と探し物をしていただけ、大丈夫だ別に怪しまれやしない」

 

 これ以上トラウマを思い出させるのも面倒だ。隠蔽とは言わないが精神崩壊を防ぐ為、隠しておかなければならない。

 

「わ、分かりました……」

「分かればよろしい。この有能な俺に任せときな!」

 

 朝潮は複雑な心境の下、司令本部を後にした。それを見届けた提督は摩耶に連絡をする。すると偶然にも摩耶は調べ終わった途中で戻るところだったらしい。これはまた都合が良い状況だ。

 

「さて、隠された営倉へ向かおうか……」

 

 コツ、コツ、と革靴の音が響く。

 地下に続く階段はコンクリートで固められており、壁は堅く冷たい。階段を降りると目の前には大きな鉄の扉が現れた。

 

「まぁ厳重に管理されてるようで……鍵も掛かってんな。オリャア!!」

 

 鉄の扉を蹴る提督。しかし少し凹んだ程度で開けるには至っていない。提督は反動で足が一気に痺れ、悶えている。そこで摩耶は溜息を吐きながら仕方無く鉄の扉を無理矢理蹴り飛ばした。

 

「おー流石は摩耶さんだ」

「立ち直り早いなオイ」

「YO! YO! 摩耶さんそれってYO! 褒めて言――」

「行くぞ」

「ふぁい……」

 

 照明器具は無く、とても暗い。そしてなんとも言えぬ腐臭が漂う。衛生環境は最悪、気温湿気共に高い。今すぐにでも抜け出したいところだ。構図は左右に牢屋が奥まで続き、一本道が続くのみ。鉄の扉の手前にそれぞれの部屋の鍵が掛けてある。

 もし提督の予測が正しければこの場所に拷問器具が置いてある可能性が高い。

 

「酷い腐臭だ……それに血生臭い……」

「摩耶、念の為にマスクしろ。衛生環境は最悪だ」

 

 提督にマスクを渡される。急いでマスクをするも腐臭は抑えられない。一体この場所で何が起きたのか、全く想像がつかなかった。むしろ想像したくもない。知らない方が幸せだとはまさにこの事だ。

 

「使ってる牢屋と使ってない牢屋があるな……」

「……あぁ」

 

 一部の牢屋には深海棲艦の遺体と思わしき物があった。顔や身体は原型を留めておらず、腐って内部が見えている。

 恐らく周辺に漂う腐臭はこれが原因だろう。

 

「気持ちは分かるが抑え込め摩耶。今はキレてる場合じゃない」

「分かってる……分かってるよ……」

 

 奥まで進んでいくとまた鉄の扉が見えた。無数の南京錠で施錠され、簡単には開けられない。仕方無く提督は拳銃を使い、南京錠を壊していく。鎖は外れたものの扉本体にも施錠されていた。

 

「摩耶、頼む」

「あたしは見ないからな、これ以上見たら……おかしくなる」

「分かってる、俺だけが入るから摩耶は見張りを頼むよ」

 

 堅く閉じられた扉をまた蹴り飛ばす。懐中電灯で辺りを照らすと、提督はその惨状を目の当たりにする。

 

「やっぱりだ……ここに隠してやがったか、あの野郎め」

 

 奥に閉ざされた部屋の中は様々な拷問器具が所狭しと設置されていた。

 鉄の処女、苦悩の梨、ファラリスの雄牛、異端者のフォーク、ユダのゆりかご、がみがみ女のバイオリン、など非人道的な物ばかりだった。

 しかもどれも使用済みである。

 

「これがアレの正体だ、奴はこれらを使って艦娘や深海棲艦を陥れ、陵辱の類でもやったんだろうポンコツ共があまり反抗してこないのも頷ける。流石は敵の親玉になれただけあるな」

 

 今でも渇き切った血の跡が残っている。殆どの拷問器具には工夫が施され、死なない程度に作られていた。開発した本人である明石が怯えていた原因だろう。まさか自分が開発した物が艦娘や人間を苦しませる物だとはどれだけ夢でありたかった事か。

 

「苦しかっただろうに……摩耶がキレるのも当然と言えば当然だな」

「おい提督!!」

 

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