「あー最悪だー……」
「まぁまぁそんな事言わずに。スキンシップだと思ってください、提督」
気分が最悪だと愚痴をこぼす提督を大和が微笑みながら励ましていた。提督は風呂の端に顎を乗せ、大和に肩を揉んでもらいながら座っている。
「こんな嫌なスキンシップは久しぶりだぁ、あの時の事を思い出す」
「え? 以前は別の鎮守府にいらしたのですか?」
「まぁ昔だけどねー」
提督が無名の頃の話だ。川内や不知火が所属していた少数精鋭の鎮守府をまとめていた事がある。その時に風呂でやたらと騒がしかったのを思い出したようだ。
「司令官、髪を纏めるならポニーテールよりタオルで巻いた方がいいよ」
「出来る事ならそうしたいがこの状況で人の恥部を晒せというのか響。少しは周りを見る事だぁ。最もその小さな身体では周りどころか自分すら見えていないようだから牛乳でも飲んで身長を伸ばすといい、少しは周囲も見渡せてマシになるだろう」
風呂は三つに仕切られている。その内の一つに響が提督に助言した。仕切り越しから提督の事を覗いている。提督は白い長髪をポニーテールにしてまとめていた。髪が濡れない為にゴムを使っているが、長い故に風呂の湯に浸かりそうだ。
「何か提督と響って親子みたい」
「……はァ!?」
艦娘の言葉を全て聞き過ごしていた提督。鈴谷の発言に二度見し、異議を申し立てた。
「いやだって同じ白い長髪だし、白い肌だし、何となく似てない?」
「ふざけるな!! こんなガキと親子関係などこちらから契約破棄してやる!!」
「いやでも二人並べたら……」
鈴谷が響を猫のように持ち上げ、提督の背中に座らせる。その姿を見て鈴谷が涙を浮かべながら笑った。
「やっぱ親子じゃん……!」
「鈴谷お前ェ!! 人の背中に響を乗せるなァ!!」
提督が暑苦しいと激昴する。しかし鈴谷と響本人は面白がっているようだ。提督は無理矢理暴れて、響を強制的に降ろす。響は情の籠らない声で驚き、風呂の中へダイブ。流石に逆上せたのか提督は風呂の端に寝転んだ。
「つかお前らは俺がいて平気なのかよ」
「え? 何が?」
「別に」
暁達が頭にはてなマークを浮かべる。摩耶は面白半分でコソコソと暁達に話した。提督は嬲られた暁と雷を心配して問い掛けたらしく、近くにいた朝潮達もその理由に納得する。
「あーそういう事……」
「何気に気遣ってるのね~」
「変な事で優しい所ありますね、司令官」
「そこ何喋ってんだ!! うるさいぞ!!」
艦娘達のコソコソ話が癇に障ったのか提督が朝潮達を怒鳴りつける。満潮や霞は逆ギレし、提督と口喧嘩になった。
といっても満潮と霞が一方的に提督の頭を何度も踏みつけているが。暁と雷は理由を聞いて、提督に近づく。
「大丈夫よ司令官。確かに今も人間は怖いけど司令官は別だもの」
「そうよ! 命の恩人だものね!」
「あーあー聞こえなーい。俺はそんな事など知ーらなーい!!」
理由を知られて提督は耳を塞ぎながら知らないフリをしている。提督からは見栄を張るなと大声で言いたい。近くに来ながら身体が震えているのが目視で確認出来たからだ。何故ついてくるのか分からない。
「それに何か、女性っぽいし」
「よし鈴谷。お前は減給だ」
「はぁ!? そんなの無くない!?」
提督は男でありながら女性の様にやせ細った姿なりをしている。それと合わせた身体中の傷痕。そして白い長髪。傍から見れば女性と見られてもおかしくはない。女性である事を好まない提督は不機嫌になり、発言した鈴谷に罰を与えた。
「自業自得だぁ、己の愚かさに打ちひしがれるがいい」
「うっわ……汚い」
「セナカオシテヤル、ノネ!!」
「ピョンピョンナノネ!!」
「キズダラケナノネ!!」
提督の背中の上で妖精達が楽しく跳ねている。更には風呂の中で浮き輪に揺られながらのんびりと湯に浸かる妖精までいた。
「何で妖精までいるんだよ!!」
「ナントモシツレイナ、ナノネ!!」
「ワレワレモ、フログライ、ハイルノネ!!」
「ウキワデ、ウカブノサイコウ、ナノネ!!」
「いつもの事ですよ?」
「クソッ……久しぶり過ぎて俺の記憶が曖昧だ……!!」
提督は頭を抱え、馴れ初めに侵されていくのを実感した。ここにいたらまずいと即座に風呂から上がる。部屋着に着替え、執務室に向かった。何故か最上達と木曾が後を追い掛けてくる。
「あー最悪だった」
「あれ提督、いつもの服は?」
「……あのな、俺が軍服しか着ないと思ったら大間違いだぞ。お前ら馬鹿共と違って俺は色んな服を持ってる。何故お前らはいつも正装なのかこちらとしては寒気がするね」
「いやだって正装しかないし」
その言葉を聞いて提督が身体を跳ねらせる。そういえばこの鎮守府の艦娘達が外の世界に興味すら持たない事を思い出した。貰ったお金も全く使っていないだろう。
「……あぁそうか。金が無いんじゃ服も買えない訳で……いい気味──」
「それは仕方ないだろ。提督、外出許可かインターネットの環境を許可するしかない」
摩耶に殴られた提督は頭を大事そうに摩っている。途中で嫌味を言いそびれた。
「久しぶりに殴られた……まーそうしてあげたい所だが、計画に影響するから嫌なんだよなぁ」
「何で?」
「何故相手側が有利になるような事を自ら進んでやらなければならない。自分で墓穴を掘るようなものだ、簡単には許可出来ない。だから事前に申請書を出せと言っているんだ」
欲しい物があれば簡単な申請書を書けば摩耶かプリンツの監視下の元で買う事を許されている。全ては■■との戦争において有利に立つ為。回りくどい方法ではあるが、前のように盗聴器を仕掛けられたらこちらが不利だ。不幸中の幸いとして土地勘が無いのがありがたいが。
「なら提督と一緒に行けばいいじゃん」
「嫌だね、そんな面倒な事などこちらからお断りだ」
「ならインター……ネット? みたいなのは?」
「断る。変なの購入されて仕掛けられたらたまったもんじゃない。それか申請書を書いてこい」
八方塞がりで鈴谷が頬を膨らませる。どの方法も全て否定され、苦言を申し立てた。最上と熊野もやれやれとお手上げ状態。
「んじゃどうすればいいの!!」
「提督」
「何だ木曾、ゲッ」
後をついてきた木曾が提督の肩を掴む。嫌な予感がした提督は思わず声が漏れる。恐る恐る背後に顔を向ける提督。木曾はニヤニヤとやけに笑っていた。
「褒美の件、俺達の買い物に付き合う事にして使わせてくれ」
「……」
全身の汗腺から滝のように汗が流れていく。提督は目を逸らして、知らぬ顔をしている。徐々に顔が青ざめていった。
「まさか忘れたとは言わないよな?」
「いやー……忘れたッ!」
忘れたと行った途端、提督は全力疾走。木曾達も慌てて追い掛ける。
「待て!! 何が忘れただ、勝手に約束しといて一方的に破ってんじゃねーぞゴラァ!!」
「んな事知るか!! お前は言っただろうが俺は覚えてねぇんだ馬鹿共め!!! ウキャキャキャキャキャ!!!」
提督は屁理屈を並べて木曾達を小馬鹿にする。提督の走る速度が何故か早い。このまま追いつけるか分からない状況だ。
「くそッ……!! なんて逃げ足の早い野郎だ……!!」
「いや木曾、剣投げればいいんじゃね?」
「あぁ成程」
摩耶の助言通り、木曾は剣を鞘に納める。そして提督目掛けて投擲した。
そしてその剣は──、
「ケツガァァァァァァァ!!!」
提督の尻に直撃した。
「お前……投げるのは無しだろ……」
「自業自得だ、己の不甲斐なさを恨め」
提督は声を上げるにはいられず、その場で悶えている。何度も身体を伸び縮みさせ、木曾達に追い詰められた。さりげなく提督は木曾の剣を抜き、堂々と座っている。
「……分かった。万が一にも逃げ出した事は仕方ないとして……」
「いや仕方ないじゃねーから」
「上官のケツにサーベルを投げて刺すのはどうかと思うんだ」
「いやだって全力で逃げようとするからじゃん」
「ほらよく見ろ、俺の下半身からク〇吹き散らかしたみたいになってるじゃないか」
「もうちょっと言い方なかったのか、会話が一気に汚くなったぞ!!」
「はぁ……」
「あ! あそこにUFOがー!!」
「「「え!?」」」
「今だッ!」
提督が窓の空に指さした。木曾達はつられて空を見る。目を離した瞬間、提督はまた逃げ出した。
「何がUFOだ!! ただ空を飛んでる鳥じゃねーか!! ちょっと期待した俺らの純情を返せこの野郎!!」
「うるさい黙れ!! 騙されるお前らが悪いんだ!! もう少し知識を養え馬鹿共!! ウキャキャキャキャキャキャ!!!」
先程は剣を投げれたから止められた。しかし今はその剣が無い。走っている提督に奪われてしまった。
「くっそー!! 剣があったら必ず止められるのに!!」
「あ、でも木曾。艤装展開し直せば戻ってくるんじゃない?」
「あぁそうだった」
艤装を一回収納させ、もう一度展開。すると提督が持っていた剣が木曾の手元に戻ってきた。そしてまた投擲。
「ケツガァァァァァァ!!!」
またまた提督の尻に直撃した。そのまま執務室へ衝突する。
「……お前……それズルくない?」
「仕様だ、さぁ観念してもらおうか」
「つか何で二回もケツなんだよ……」
提督ら床に寝転び、再度悶える。木曾達に囲まれ、逃げ場を失った。摩耶に介抱してもらい、何とか椅子に座る。天井を眺めて上の空だ。
「結局どうするの?」
「……あー!! もう分かった! 考えるから待ってろ!」
木曾達の喜ぶ声が聞こえた。これにより提督と艦娘の買い物付き合いが約束される。提督は頭を抱えて先を思いやられた。
「あー本当に面倒だ」