うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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72. 馬鹿と気狂いは真実を言う、かもしれない

「……ここは」

 

 見た先には白い潔白な天井。窓から太陽の光が差し込んでいる。空気はとても綺麗で、営倉より心地が良い。

 

「おや、目を覚ましましたか明石さん」

 

 誰かが声を掛けてきた。顔を見る為に首を動かす。目の前に■■医師が治療器具などを使って、確かめていた。手足に違和感を感じる。

そうだあの時、■■医師を抱えてきた深海棲艦に暴行され、意識を失っていた。医務室にいるという事は全てが終わった後だろう。

 

「自由の身にはならず……か……」

「ごめんなさいね」

 

 結果がどうであれ、 自分は拘束される身だ。仲間は助けに来ない上に医務室でも拘束器具で見張られている。

 結局また孤独だ。孤独と言えばあの事を思い出す。

 

「……貴方は覚えていますか?」

 

 恐らく()()()を覚えているだろう■■医師に問い掛けた。殆どの艦娘が忘れてしまったとはいえ他の人間は覚えている。だがそれでも()に記憶を操作され、この鎮守府の事は一切覚えていないだろう。

 

「覚えてはいます。ですが……どうしても恐ろしくて言いたくはありません」

「そう……ですか……」

 

 会話が止まり、医務室の中が静かになる。梅雨の時期でありながら天気が晴れというのは少しばかり嫌な気持ちだった。雨でも降っていればあの事を考えずに済む。

 

「お目覚めやっほー、前明石君」

「っ?」

 

 今度は男の声が聞こえた。言わずとも憎らしい提督がベッドの奥で座っている。隣にはプリンツが見張っていた。嫌味なのか手を振ってニコニコとしている。

 

「どうやらお前ら二人は何か隠してるようだなぁ」

「……趣味悪いですね」

「今に始まった事じゃないだろう」

 

 提督は近くの椅子を持ち歩き、反対側にして座る。少しばかり苛立つ前明石。ここに居たという事は先程の会話も聞かれているだろう。

 

「大方お前ら脅されてるだろ。■■か、()()()()()に」

「……だから何なんですか。()()()に触れれば貴方だろうと無事では済みませんよ」

「だろうなぁ。あの鬼の大佐も怯えるほどだ、だが俺は知ったこっちゃない。例え自分の身がどうなろうが真実を知ればこちらの勝ちだ」

 

 前明石はだんまりとしている。この様子から見て余程の事があったと見える。人が話している中、黙り込むのは一番の面倒だ。不本意だが別の話題にするしかない。

 

「……はぁ……話すのは中々しぶとそうだから今はやめておく。んじゃ別の話題に切り替えるとして。明石、お前は改造した戦闘意欲増進剤を開発した張本人だ、艦娘を洗脳させ、差別意識を続けさせたのはお前か?」

 

 前任の話で艦娘達の洗脳及び差別の原因が前明石が開発した戦闘意欲増進剤なのは既に分かっている。だがどうやってそれを実行させ、継続させて来たのか。■■ではという予想もしているが、本当とは限らない。それが唯一知りたいところだ。

 

「……知りませんよ」

「知らないかどうかを聞いてるんじゃない。差別意識を続けさせたのはお前か■■なのかと聞いてるんだ、早く言え」

「……」

 

 また前明石は黙り込む。余程教えたくないのか口を開こうともしない。提督はあまりの沈黙に呆れてしまった。頭を抱えて溜息を吐く。

 

「……これは教えとくが……■■や榛名に裏切られた挙句、お前はトカゲのしっぽ切りだ。お前をどうしてもいいとアイツらから処分を言われている」

「そう……ですよね」

 

 分かり切っていた事だ。作戦に失敗した挙句、提督に囚われた。

 前明石自身はどうでも良くなっていた。この世に未練は無い、生きる意味すら無い。ただ自分は縛られたまま道具として扱われるだけの存在だ。

 

 

 もう自分は必要とされていない。

 

 

「そして今お前は自由の身になり、それと同時に道具として扱われる身となった。皮肉な話だよなぁ、道具を扱っていた奴が道具に成り果てるんだから」

「うるさい……!」

「何がうるさいだぁ、本当の事だろう。洗脳の為に薬を開発し続け、仲間を道具として扱い、更には自ら拷問器具を開発し、道具を調教させるようにしたのは他の誰でもないお前なんだから」

「黙れ……!」

 

 明石を追い詰めるように提督が言い詰めた。歯を食い縛り、拳を強く握る。どう悔しがろうが関係ない。提督は明石の気持ちを代弁して話し続けた。

 

「さぞかし気分が良かった事だろう、自分が必死に開発した物がありがたく使用され、その都度に幸福感と同時に自分は必要とされているんだと心の底から実感した。更に開発はエスカレートしていき、拷問器具もありがたく開発した。道具がどう嘆いていようが構わない! どう金切り声を上げようが構いやしない! だってそのおかげで自分は優位な立場にいるんだから!!」

「黙れッ!!」

 

 激昴する明石が提督の首を絞めようと起き上がる。拘束された両腕で掴もうとするも■■医師とプリンツに止められた。ベッドの上で暴れ出し、何度も襲い掛かる。

 

「貴方に……私達の気持ちが分かってたまるか!! 脅されて何も出来なかった私達の……苦しみを……理解すらしてないくせに!!」

「当たり前の事を何言ってるんだお前は」

「言わせておけばァァ!!」

 

 明石の叫びが医務室に響く。暴れ出す明石を抑えるだけプリンツ達は精一杯だ。その顔は提督を、いや人間そのものを恨み憎むような表情だった。涙も頬を伝い、唇を噛んで血が出ても気にしていない。

 

「やっとそれらしい顔してるじゃないかぁ、前明石君。その憎悪に溢れた顔がまさに人間そのものだ……そのお前と話したかった」

 

 提督はわざと明石の前に近づき、顔を寄せる。ニヤニヤしながら明石の表情を見詰めた。随分と何かに恨みがあるようだ。

 

「前明石、脅されてるんだろ? 誰にだ?」

「言える訳が無いでしょう!!」

「言ってくれたら俺が何とかしてやる……と言ったら?」

「ッ!?」

 

 一瞬、明石は戸惑った。

 確かに提督はそれを出来るだけの権力と実績、行動力がある。認めたくはないがその強さは本物だ。■■側でも一番手を煩わせている存在になっている。

 

「分かってるんですか!? 例え中将の貴方だろうと死ぬかもしれませんよ!?」

「何の話をしているんだ? 俺は洗脳を続けたのは誰かを知りたいんだが」

「しまっ……!!」

 

 思わず口が滑ってしまった。また罠に嵌められた明石。今提督が聞いていたのは洗脳を続けたのは自分か■■か。だが前明石は興奮し過ぎてあの事を答えてしまった。

 

「実にいい顔だぁ明石。あぁ確かにロクな目には合わないだろうなぁ。だが生憎俺はしぶとい人間でねぇ、そこら辺の拷問された所で別に何とも思わない。それに俺はくだらない事で死ぬつもりは無いのだよ」

 

 親指と人差し指を擦りながらニヤニヤと笑う提督。何か仕掛けようと企むような表情だ。言葉に説得力がある故に反論が難しい。

 

「本当に……手を染めるつもりですか……?」

「あぁ勿論」

「失敗したらお終いですよ、責任取れるんですか?」

「取るわけないだろ? 馬鹿なのか?」

 

 何故なら失敗しないからだ。提督の仕掛けた作戦は尽く成功している。多大な情報網に権力行使と手段は多種多様だ。それ故に自信は満ち溢れているのだろう。

 

「……もし」

「ん?」

「もし本気で私達が覚えている()()()を解明しようとしているなら……■■さんの事も助けてくれますか?」

 

 ■■を助けてくれるか。思い切って明石は問い掛けた。提督は少し驚いた表情をしている。だが先程までの笑みは消え、口角は下がっていた。

 

「……考えよう」

 

 そう言葉を呟き、提督とプリンツは医務室を去る。代わりに球磨と多摩が監視に入ってきた。医務室を出た提督とプリンツは医務室のドアの横で待ち伏せしていた摩耶と出会う。

 

「提督」

「分かってる。心配しなくても大丈夫だ、摩耶がいるからな」

「またアレはもう二度とごめんなんだけど」

「別にやれって言ってるわけじゃない。ただ……俺がそうなるかもしれないって事だ、よく覚えておけ」

「……分かった」

 

 少し不穏な表情の摩耶。時間を置いて考えた後に仕方なく了承した。摩耶自身は正直言ってアレは起こしたくない。自身が暴れた事により、たった一人で横須賀鎮守府と大本営を壊滅寸前に追いやったあの事件を思い出してしまうからだ。少し複雑な気持ちになるも摩耶は提督に黙ってついていく。

 

「さーて今日は色々なローテーション決めるかぁ~」

 

 執務室に戻り、提督と摩耶とプリンツは日頃のローテーションを決める会議をしていた。日常的な生活でもある洗濯、掃除、調理、深夜の見回りや出撃任務や遠征任務の役決めを未だに決めていない。その為、艦娘達は生活習慣に慣れておらず、今後の為にと提督が考えた。

 だが決めた本人である提督が物議を醸し出す。

 

「おいちょっと待て。何故秘書艦も範囲に加えられてるんだ」

「だって摩耶だけじゃ苦労が重なると思いますし、一日ずつで決めた方が効率良くないですか?」

「摩耶とお前だけいれば充分だ」

 

 この鎮守府に着任してから日頃の秘書艦は摩耶が九割、プリンツが一割を務めている。殆ど摩耶が秘書艦だったため、提督との交流やビジネス関係を学ばせる為にプリンツが考えた。だが提督は摩耶が良いと駄々を捏ねる。

 

「提督、頼りにしてくれてるのはありがたいし嬉しいけど……あたしも少しは外れてみたいかなー……なんて」

 

 摩耶は少し恥ずかしながらも何とか提督に頼んでいる。目線を逸らし、顔が赤い。提督は頬を引き攣りながらも摩耶の事を考えた。確かに働かせ過ぎな所もある。

 

「……はぁ……分かった。許可する、プリンツ達で決めておけ」

「分かりました!」

 

 プリンツが敬礼しながら笑顔で応える。溜息を吐きながらも自由に決めさせる事にした。どちらにせよこれが来る事は分かっていた事だ。来る時間が少し早くなっただけに過ぎない。提督は予定帳を取り出し、明日の確認をする。

 

「えーっと……明日は()()十三時で大本営にての某独国との会議か……面白い真似してくれるな」

「提督、新幹線の切符は買っておいたぞ。今回は送迎のバスは出せるけど送迎の船と交通費は出せないって言われたからな」

「あ、そこまで進めてるのか。交通費出さないとかどんだけケチなんだ大本営は」

「提督も人の事は言えないけどな」

 

 明日は某独国との会議が予定されている。地方の鎮守府では通常、ビデオ通話で会議する事が多い。しかし海外との会議をする場合、一度南方や北方を除く日本にいる全員が大本営か横須賀鎮守府に集まり、執り行う事が殆どな為にわざわざ出向かわなければいけない。その際交通費を免除してくれる事があるが今回に至っては無いらしい。どうも不自然だ。

 

「それで? 連れていく艦娘は決まったのか?」

「一応決まっている。あたしは行けないけど、代わりにプリンツが行くから。それぞれ代表で決めたらしい」

「あーやっぱ面倒だぁぁ……」

「机の中に縮こまろうとすーるーなー」

 

 これから艦娘共に付き合わされると思うと身体が震えてしまう提督。机の中に潜り込み、体育座りで篭っている。だが摩耶に強制的に引きずり出され、椅子に座らせる。

 

「泊まる場所も決めておいた。あたしに感謝するんだな」

「まさか俺の金で払ったのか?」

「当然だ」

「……最悪だな」

「別にいいだろ? 有り余るほど持ってんだからさ」

 

 貯金は腐るほどある。それこそ島一つ買える程の額だ。実際鎮守府襲撃や深海棲艦の密告者の件でかなり稼げている。しかし本人は例外を除いて自分の為にしか使わない。

 

「それにそろそろ記念日だし特別な物が欲しいかなー?」

「……考えておこう」

 

 記念日はケッコンカッコカリした日の事だ。そろそろその日が迫ってきている。摩耶はちょうどいいと提督におねだりした。仕方なく提督もそのおねだりを受け入れる。

 

「ところで摩耶。確認なんだが新幹線の切符は自由席か?」

「とりあえずはそうしてある」

「そうか……んじゃ送迎バスの時間、予定より五時間早くしてくれ」

「何でだ……? あっ、成程な。分かった」

 

 摩耶は書類を見て、途端に納得した。プリンツは首を傾げて、頭にはてなマークを浮かべている。何の事か、提督に問い掛けた。

 

「Admiral、何で時間早めたんですか?」

「これを見ろ」

 

 書類の内容に書かれた時間。午前十三時と表記されている。しかも十と時の間に無理矢理三を付け足している様に見えた。明らかに訂正したような痕跡がある。

 

「これは嘘の時間が表記されている。前に皐月達から貰った書類には午前十時と表記されているが、先程貰った書類だけには午前十三時と表記されている。あまりにも不自然だ」

「まさか……わざと時間を早めて……?」

「だろうなぁ。俺がいたら会議なんてすぐ終わる上に自分達にとって不都合な事しか起こらないからな」

 

 提督が書類を机に投げつけ、足を乗せる。どうやら提督にだけ何か隠したい事があるらしい。皐月や瑞鳳、ガングートに連絡させて正解のようだ。この書類はつい先程送られてきた物。本来なら会議を始める際は数日前に送られる。

 だが日付は会議が開かれる日は明日、全員が出席しなければいけない会議に提督だけが遅く送られ、更に遅い時間に呼ばれている。

 

「さーて……面白くなってきたぞー……」

 

 

 

 

 

 

 

「あ、すまん提督。新幹線の切符も提督の金だったわ」

「よーしぶん殴ってやるから覚悟しろ!!!」

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