「はーい、全員揃いましたかー」
荒くれ鎮守府の門前に提督と艦娘達が集合していた。時間は早朝五時、白い雲に覆われ、小雨が降っている。提督は変装を施し、長い黒髪のカツラに黒いサングラス、右頬の古傷を化粧で隠していた。
「私は大丈夫です」
「大丈夫だクマー」
「行けます!」
「いつでも行けます!」
「行けるネ」
「大丈夫よ」
「よーしうるさい黙れー、行くぞー」
門前に集合したのはプリンツ、不知火、第六駆逐隊、球磨、木曾、伊168、羽黒、鈴谷、金剛、瑞鶴、加賀。プリンツと不知火以外、持つ荷物が無いのでそれぞれ軽装だ。プリンツに至っては私服に着替えている。
「外行くの初めて……」
「ドキドキするクマ」
「お出かけ楽しみだなー」
初めて送迎バスに乗り、騒ぎ始める艦娘達。まるで小学生の遠足のような騒ぎようだ。随分と楽しみにしているのだろう。
「うるさくてすまない」
「いえいえ大丈夫ですよ」
「急遽時間を早めて来てくれるのはこちらとしてもありがたい」
「いえ私は元々この時間帯に来る予定でしたよ」
送迎バスの運転手とは仲が良い。幾度か様々な場所やここへ送ってもらった事があった。提督の過去を唯一知っている外部の人間で、それ故に提督の性格や考えも少し分かってくれている所がある。
「……? あぁ成程、世話が焼けるな」
「ふふっ……そうですね」
荒くれ鎮守府から新大阪駅まで約何時間。ここから新幹線に乗り換える。都会に初めて来た艦娘達は上京したての田舎者のように、並んだ高層ビルを眺めていた。都会に艦娘がいる事はそう決して珍しくはなく、それほど目立ってはいない。一番目立っているのは変装した提督だけだ。傍から見れば不審者と間違ってもおかしくはないだろう。提督とプリンツは遠足の引率のように艦娘達を引っ張っている。
「早く来ーい」
駅構内へ入り、プリンツがそれぞれ切符を渡して優しく教える。提督は駅務員と手続きを終わらせ、艦娘達はオドオドしながらも改札口を通っていく。そして東京行きのホームをエスカレーターで登った。勝手に動くゲートや勝手に動く階段、シュワシュワする飲み物や甘いお菓子に目を光らせている。
「自由席だが固まって乗るようにー」
「「はーい」」
無事新幹線に乗り込む提督御一行。初めて乗る新幹線に艦娘達は緊張でソワソワしている。次第に動き出し、時速三百キロメートルで走行する新幹線の窓から眺める景色に夢中だ。小さな窓に張り付いたまま離れるのをやめない。天候が悪いとはいえ艦娘達にとっては思い出に残る物だろう。
「はい着きました東京」
新東京駅に降りた提督御一行は送迎バスで大本営に向かう。東京は深海棲艦強襲に常時備える為、一日中艦娘が海を見張っている。商業施設には空襲対策用で地下に核シェルターが用意され、歩道や車道にはある程度の爆発の衝撃にも耐える透明型のトンネルが配備されていた。軍港には護衛艦が停泊しており、妖精達が整備士と話し合っている。
「プリンツ、不知火。今日はお前に任せる。来い瑞鶴」
「わ、分かったわ……」
「分かりました! 頑張ってくださーい」
提督と瑞鶴、プリンツと不知火達に別れて行動する。提督と瑞鶴は会議の出席、プリンツと不知火達は洋服や欲しい物のお買い物。別れた提督と瑞鶴は大本営の門前まで歩き、近くの憲兵と視線を合わせる。
「今日って何の会議なの?」
「さーて何の会議かなー」
「ねー何なのよー?!」
「……えーっと、独国元帥との会議ですね、ご案内致します」
「えっ」
突然固まる瑞鶴。某独国元帥と聞いて、提督の話を思い出した。いやしかしアレは提督が冗談半分で言った事だ。真に受ける方がおかしい。内面心配だった瑞鶴は恐る恐る提督に聞いてみた。
「元帥ってあの?」
「その」
「……え、嫌だよ!? 成り済まさないし異動なんてしないから!! 尻なんて触らせないからね!?」
「ただの話し合いだバーカバーカバーカバーカ」
小馬鹿にしながら提督は駆け足で大本営の敷地へ入る。頬を引き攣りながらも瑞鶴はその後を追った。流石この戦争の最終拠点だ、最新の設備が整っている。荒くれ鎮守府には無いものばかりだ。途中で提督と別れた瑞鶴は憲兵にある場所へ連れていかれた。
「秘書艦の方はこちらへ」
「は、はい……」
提督は大会議室にコソコソと泥棒のように入り、壁を伝っていく。大会議室はとても暗く、奥のプロジェクターで某独国海軍元帥が国際テレビ通話で話していた。
「──こちらの艦娘を何名かを独国への異動先へ……」
「六名程送るとしよう。どの鎮守府で決めようか」
既に会議は始まっているようだ。書かれた書類には会議の開始時間は午後十三時。しかし今は昼の十時だ。本当に十三時にいけば会議はとっくに終わっていた事だろう。
「Ich will Schlachtschiffe, große Kreuzer, Zerstörer」(こちらは戦艦、大型巡洋艦、駆逐艦が欲しいかな)
「成程……」
「あの荒くれ鎮守府とかで良いんじゃないか?」
異動する艦娘を荒くれ鎮守府から選ぼうと言う意見が出た。他の軍人達は首を縦に頷き、賛成している。どうやら提督を呼ばなかったのはこの為らしい。正直な所、反吐が出る。
「いやー俺がいない間に勝手に決めるとは些か海軍の知能指数も低下したようだ、ハッキリ言って反吐が出る」
「っ!?」
提督が堂々と名乗り出た。元帥と大将の中間にパイプ椅子で座り、長机に堂々と足を乗せている。突然の提督の登場に大会議室が驚きの声で埋まった。
「おや何を驚いてるのでしょうか。会議を続けて頂いて結構でしてよ」
「Wer bist du?」(貴方は誰だ?)
「久々に会えて光栄です■■■■元帥閣下、私はあの白と申します。この仮面を見ていただければお分かり頂けるかと」
提督は机の上に乗り上がる。般若の仮面を被り、自分が何者かを証明した。それを見て独国元帥ら手をポンと叩き、何かを思い出す。
「Weiß! Es war schön, sich zu treffen!」(白か! 会えて良かった!)
「Es ist schön, dich zu sehen」(こちらこそお会いできて嬉しいです)
独語で返事する提督。発音はまだまだだが独国元帥には伝わったようだ。提督は長机に降りて、パイプ椅子に再度座る。
「さて……はい、続けてどうぞ」
提督が会議を進めるように促すも他の軍人達は沈黙状態だ。提督がいる事が不都合なのか、目線を逸らして周りを見ている。ため息を吐きながらも提督が自ら進行させた。
「……今回は欧州棲姫討伐の件でこちらの日本艦を独国に援軍へ行かせるといった会議ではなくて?」
「あぁ……そうだが……」
「そしてその異動先を我が鎮守府にすると……つくづく日本海軍も落ちたものだ。まだ矯正すらしていない艦娘を送るなど、余程自分の戦力を引き渡したくないらしい。あ、これは翻訳無しで」
と言ったものの、独国元帥の隣にいる翻訳者のビスマルクが困惑している。途中まで伝えてしまったのかオロオロとしていた。独国元帥は全く気にしておらずに真剣な表情だ。
「貴方の手でも矯正は出来ないと?」
「それは議会とは関係ありませーん。今は別のお話でーす、ちゃんとお話を聞きましょうかー」
頭の横で指を動かし、ニヤニヤとする提督。頭は大丈夫ですかーと遠回しに言ってきた。その表情にイラついたのか舌打ちする音が聞こえる。そこで提督は机にまた乗り、ある提案する。
「であれば私個人の意見として横須賀鎮守府の長門、陸奥、利根、筑摩、天津風、島風を援軍に向かわせる事をおすすめします。何故なら横須賀鎮守府では今絶大な軍事強化を行っており、歴戦の艦娘がゴロゴロといるわけです! えぇ~えぇ~素晴らしいと思いませんか? この艦娘達が入れば欧州棲姫など恐るるに足りません。海域に出撃すれば目視した敵艦隊をばったばったと薙ぎ倒し、そこら辺の中ボスなんて人捻り、欧州棲姫もひえ~と泣き叫び、いずれ海を平和な海にする事でしょう!! 素晴らしい! 素晴らしい! ブラボ~!!」
机の上で堂々と歩く提督は一人拍手で歓声をあげた。大会議室が提督の拍手する音で響き渡る。他の軍人達はだんまりだ。
「というわけで私の意見を参考にして頂ければと思います。以上」
「……何か他に提案は?」
気を取り戻したのか提督は拍手をやめて、自分の位置に戻る。日本元帥が他に提案を求めた。すかさず横須賀鎮守府に務めている■■中佐が書類を持ち出し、言葉を並べる。
「白中将殿は以前、最強の深海棲艦と呼ばれた戦艦棲鬼を金剛という艦娘が単騎で瀕死に追い込み、また天龍が暴君と呼ばれた南方棲鬼を討伐しています。その他の艦娘も並ならぬ戦果を納めている為、援軍としては充分かと」
「白くんは?」
「■■中佐、残念ながらうちの鎮守府の艦娘達はまだまだ弱いのですよ。それこそ表沙汰に聞けば確かに素晴らしい戦果です。しかしその時の金剛や天龍はどちらも満身創痍、とても有利に戦えていたとは思えず、戦艦棲鬼の方は逃しております。欧州棲姫を討伐するならこれくらいは損害無しの状態でどちらも討伐出来なければいけません……ですがですが!! 横須賀鎮守府の先程六名であれば最近発見された未曾有の新個体や単騎で攻めてきた港湾棲姫を無傷で討伐又は鹵獲している戦果がございます!! これほど優秀な艦娘がかつてこの世にいたでしょうか? いいやいません!! 彼女らには申し訳ないですが、あの六名の他はいないでしょう!!!」
提督はまたまた机の上を堂々と歩き、納得出来る理由をネットショッピング風に紹介した。荒くれ鎮守府と横須賀鎮守府の違いをハッキリと述べ、格差をつけていく。
「Es gibt sicherlich einen Grund……Lass es uns tun!」(確かに理由があるね……それにしよう!)
「決まったようだな……」
「んなッ!?」
提督のプレゼンがお気に召したのか、提案を受け入れてくれた。独国元帥も乗り気になってニコニコとしている。他の軍人達は異議を唱えた。
だが──、
「ちょっと待ってく──」「ありがとうございます!! 私の意見を参考にして頂き誠に恐悦至極! 頭が下がる他ありません! 後日正式な手続きを済ませた後に援軍を送らせて頂きます! 必ずや貴方達の力となるでしょう!! では会議はこれにて以上とさせていただきます!! ありがとうございましたー!!」
独国元帥との通話が終わり、大会議室が蛍光灯で明るく照らされる。カーテンを開けて、太陽の光が差し込んだ。提督の一方的な話の進め方に他の軍人達は茫然としていた。
「……派手に暴れたね……白くん」
「お褒めの言葉、ありがたく受け取らせていただきます」
「ふざけるなッ!!」
「こんな事が通っていいのですか元帥殿!!」
「そうですよ!! こんな男の意見をなど罷り通っていいわけが無い!!」
他の軍人達が怒りをあらわにし、異議を唱えた。こんなのは間違っている、横暴だと提督に訴えた。元帥は顎髭を触り、困り果てている。
「うーん……と言われてもあちらの人達が決めちゃった事だし……もう変えれないんだよねー」
「おやおやそれは仕方ないですねぇ」
「何故だ……あまりにもこれはおかしすぎる!!」
「へーだったら何故俺に送られた書類だけ会議の時間がおかしいんだが、どういう事か教えてもらおうかー?」
「ッ!!」
一部の軍人が驚いた表情をしながら俯いた。しかし■■中佐だけは敵視するような目で提督を睨んでいる。どうやら首謀者は■■中佐だったらしい。
「大方、俺がいると邪魔だからこんな事をしたんだろう■■中佐。俺を一番目の敵にしてるのはお前だもんなぁ~」
「何が言いたい……!」
「別に。セコい手使うぐらいならもうちょっと技術を上げてもらいたいかなー? だとしても分かっちゃうけどねー」
提督は耳の穴をほじくりながら丁寧に話を続ける。■■中佐は何も言えずに歯軋りしていた。余程嫌いなのか机を叩き、自身を落ち着かせている。
「第一に君達はある失態を犯した事を言わなかった私に感謝したまえ。あのまま強行採決に出ようものなら力づくで公表していた所だ。私が喋ってる時は、それはそれは緊張したものでしょう」
「それは今の議会と関係ないだろ……!!」
「まぁその議会の話題は既に終わってるけどねー」
会議は口喧嘩に勃発し、外の廊下まで聞こえる程になる。誰もいない廊下にただ一人、艦娘がある場所へ向かっていた。
「……ここね」