うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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78. 演じろ最低最悪なヒーローを

「……」

 

 夜の二十三時。いつもと違って見回りは任されず、灰色は廊下の窓際に寄りかかっていた。艦娘は人間だ、その考えは覆らない。だがその考えを灰色は他の人や艦娘に押し付けてしまった。誰もがそう考えているだろうと思い込み、仮にも上司である提督に反抗。そして返り討ち。

 

 提督は決して灰色の艦娘に対する価値観を否定していない。それも一つの考えだと肯定してくれていた。だが他にもこんな価値観があるんだと教えてくれた。

 誰かが人間や兵器だと勝手に決めるから艦娘達に居場所が無くなる。自由にそう決める権利も、素晴らしい尊厳も。本来決めるのは自分達では無い、艦娘達が決める事なのだ。

 

 今になって自分の愚かさが身に染みる。艦娘達を救おうと人間だと決めつけ庇おうとしたはずが、それは逆に居場所を無くすような事だった。

 

「提督にこっぴどく叱られたな」

「……摩耶さん」

 

 夜の見回りをしていた摩耶が話し掛けてきた。窓から漏れる月の光で廊下は薄く照らされている。摩耶は懐中電灯で廊下を照らし、ゆっくりと歩み寄った。

 

「提督は少し特殊なんだ、許してやってくれ」

「……摩耶さんは何とも思わないのですか? 白さんの考えについて」

 

 摩耶が立ち止まり、顔を上に向ける。

 そして灰色の顔を再度見た。

 

「んー……別に一度も否定的に思った事は無いなー……何せ提督はああいう人間だし」

「摩耶さんは自身の事をどう考えてるのですか?」

「兵器だな」

「えっ?」

 

 自身を兵器だと即答する。この摩耶は提督と一番親密度が高い艦娘だ。提督と共に居てその価値観に何も疑わないのだろうか。

 

「えっ、て……兵器だぞ? あたし達は。でもそれと同時に人間だとも思ってる」

「同時に、ですか?」

「そう。あたし達の事は自由にあたし達が決める。だからあたしは兵器であると同時に人間だと自由に思ってるぜ。提督とあたしは何より自由が好きなんだ」

 

 微笑みながら摩耶は灰色とすれ違う。すれ違いざまに肩を叩かれた灰色。自由、成程そういう事か。

 

「自由に、ですか……凄い考え方ですね。全くそんな事など範疇に無かった」

「自由って案外面白いもんなんだ。アンタも少しは自由に考えてみてもいいんじゃない? んじゃあたしはこれで、ゆっくり休みな」

 

 

 

 

「自由に、か……」

 

 

 

 

 ──朝八時半、執務室。

 

「んで挨拶早々に何頭下げてんの?」

「昨日の事について、謝りたく思っております……! 数々の無礼、本当に申し訳ございませんでした!!」

 

 朝を迎え、執務室に入るなり提督に頭を下げる灰色。あの後一人で考えを改め、人間にはそれぞれ違った価値観がある事を学んだ。決して人間が一番偉いとは限らない事、艦娘達の存在を勝手に決めない事。

 灰色は改めて考え方を変えたが、艦娘が人間だという考えは絶対に変わらない。もし悩んでいるような艦娘がいるのならば積極的に以前より元気そうでなによりだ。

 

「あー……面倒だから後で。今は仕事をしろ」

「わ、分かりました!」

 

 面倒事が嫌いな提督は灰色に仕事を振らせる。元気に返事をした灰色は時雨と一緒に書類を書いている。摩耶にとっては提督は少し嬉しそうに見えた。すると突然ドアをノックする音が聞こえる。

 

「失礼します!」

「どうぞー」

「本日付けでこの鎮守府に配属されました憲兵隊隊長、■■■■■■です。階級は大尉、好きな食べ物はパンです! よろしくお願い致します!」

 

 今日から鎮守府の警備をする憲兵隊と工廠で働く整備士が配属される日だ。一同代表として憲兵隊隊長、もとい大尉が来てくれた。この様子だと真面目な頑固タイプ、はっきりいって苦手なタイプである。

 

「んじゃさっさと警備を頼むわ。それぞれの配置についてはこの書類を読むといい。後で全員分を渡しておけ」

「分かりました! では失礼しました!」

 

 元気に返事をした後にドアを勢いよく閉める。まるで旋風のような振る舞いに灰色達は言葉を無くした。しかし提督はニヤニヤとしている。

 

「さーて面倒事が起きるぞ~」

「白さんは警戒しているのですか?」

「当然だ。まだ人間に慣れていない艦娘共が毎日嫌でも目に映るんだぞ? どういう事か分かるかだろ?」

「はい……」

 

 提督が言っていたように、艦娘達の心はまだ癒えていない。会いたくもない人間がトラウマになっている艦娘達に対して、毎日会わせてしまうような生き地獄を作っているのだ。初め提督は拒否したが、司令官候補生の為と言われて受け入れる他なかった。

 

「……お前はヒーローになりたいとか言ってたな」

「はい、そうですが……」

「俺はあの馬鹿共を馴れ合うつもりはない。だからお前が馬鹿共のヒーローになってやれ、その方がこちらとしても都合がいい」

 

 つまりは自分が艦娘達の心を癒してやれ、という命令だ。提督は自ら進んでやるつもりはない。ならばとヒーロー志望の灰色に任せたのだ。提督としては計画を進める上でちょうどいい存在になっている。早く仕事を教えたのもこの為だ、後は──、

 

「は、はい! 分かりました! ありがとうございます!!」

「……摩耶、苦労するぞ」

「分かってる、容赦はしない」

 

 

 

 

 

「何で憲兵が……」

「怖いなぁ……」

 

「チッ……邪魔が入ったな」

「落ち着いて矢矧。それはあちらも同じ事よ」

 

 憲兵隊が来た事により多くの艦娘達に不穏な空気が生まれていく。元々人間人間に対して良いイメージを持たない艦娘達にとってストレスが溜まるような出来事だ。差別している側や差別された側など関係無く、憲兵隊を目の敵にしている。

 

「提督さん! 提督さん! 憲兵がいるっぽい! 何でっぽい!?」

「候補生の所為だ、俺は知らん」

「夕立、怖い~! 何とかして~!!」

 

 突然現れては執務机で駄々をこねる夕立。首を掴まれ、前後に身体を揺らされた。提督は馴れ馴れしい夕立に苛立ち、逆に夕立の身体を掴む。

 

「断る、てか出来ない!! 俺だって欲しくて呼んでる訳じゃねぇんだ!! あのクソジジイが無駄な心配をするから、こんな面倒な事になってんだよ!! 分~か~る~か~!!? こ~の~大根役者がァァァ!!!」

「あ~あ~あ~あ~」

 

 今度は夕立が身体を前後左右に揺らされ、思うがままにされている。本当であれば提督だってこんな事はしたくなかった。計画において一番邪魔となる他人の存在は提督と■■との戦争において第三勢力を意味する。如何にその第三勢力を味方に惹き付けるかが勝利の為に重要になるだろう。

 

「憲兵隊が来たおかげでトラウマ持ちの艦娘はまた部屋に閉じこもり、整備士の方は明石と意気投合して仲良し状態。んーハチャメチャだな」

「こっちも仕事に悪影響。最悪だ、前より動きずらくなった」

「動きずらくなった……とは?」

「あーそういや色々あって教えてなかったな。摩耶」

 

 摩耶はある資料を取り出し、灰色に全てを見せる。それは前任の事や■■の事、そして鎮守府の現状などだった。身の毛がよだつ程恐ろしい事が記されている。

 

「まさか……そんな事が……! ここで……!!」

「信じられないようだが全て事実だ。前任は今や深海棲艦のボス、艦娘同士の仲は過去最悪」

「そこまで……全く分からなかった……」

「やっと色々手を尽くしてここまで持ち直してきたんだ。言っとくが■■達と戦いながら犯罪紛いの事をしてまでだぞ? 憲兵が来れば難しいと思わないか?」

 

 提督が今までやってきた事なども書かれてある。自爆装置や差別意識、洗脳の正体。読むだけで途方に暮れそうな内容だった。何をすればいいのか分からない、どうやって立ち向かうのか。自分がその立場にいるビジョンが思いつかない。

 

「確かに……これからどう戦うおつもりですか?」

「お、協力してくれるのか?」

「当然です! 艦娘達を救うならば、どんな事で──」「例えそれが正義に反している事でもか?」

「っ……!!」

 

 灰色の言葉を遮って提督が忠告する。これは■■との戦争だ、どんな手だろうとこちらが有利になるのなら何がなんでも使い果たす。生き残りを賭けた戦争なのだ。その戦争に灰色も加わる事になる。汚い手だろうと、罪に近い手だろうと。生き残らなければならないのだ。

 

「いいか? もう一度言うぞ? ■■達はありとあらゆる手で俺達に仕掛けてきた。だから俺もありとあらゆる手段で対抗したんだ。犯罪に近いような事でも、非人道的な事でも。お前はそれを喜んでやる事になるんだぞ? いいのか?」

「も、勿論……!! やって……みせます……!!」

「もう二度とヒーローにはなれないかもしれないぞ?」

「それでも……! 艦娘達のヒーローになれるなら本望です……!!」

「……ならいい。手伝わせてやろう」

 

 艦娘達のヒーロー、悪くない考えだ。世間から褒め称えられるヒーローでは無く、身近な艦娘達の小さなヒーローになる事を選んだ灰色。その目に迷いは無かった。

 

「あ、ありがとうございます!!」

「これからは厳しく過酷な道だ、覚悟しておけ」

「は、はい!」

「では早速仕事だ。その書類を書き終えた後に川内と一緒に仕事をしてもらう、いいな?」

「了解しました!」

 

 提督は仕事内容を灰色に渡し、傘を取り出す。今は梅雨の季節、雨はずっと降っている。

 

「んじゃ俺は一時、執務室を離れる。書き終わったなら別の仕事に移って構わない」

「はい! 分かりました!」

 

 

 

 

 

 ──工廠

 

「さてさて……工廠に到着だ」

「おや、お前がここの責任者かい?」

 

 工廠の前に辿り着き、入ろうとすると誰かに声を掛けられた。横に目線を移すとドアの陰に鋭い目をした老人が寄りかかっている。細身でありながら腕や脚の筋肉が素晴らしい。

 

「儂はこの整備士をまとめているリーダーだ。まぁ気軽にどうとでも呼んでくれ」

「では私は白髭と呼びます、私の事は白とお呼びください。それで工廠では今何をやっていますか?」

「今は工廠の設備を明石に教えてもらっとる。あの娘は凄いねぇ、何でも簡単に教えちまう」

 

 整備士達は明石と仲良く開発関係の話を楽しそうに話している。弄れた妖精達とも打ち解けたようだ。

 

「仲はどうですか?」

「大丈夫さ、すぐに打ち解けたよ!!」

 

 あるある話で盛り上がっている。関係は良い方向に進んでいるようだ。見たところ怪しそうな奴らはいなさそうにも見える。だが警戒は怠らない。

 

「なら構いません。今日は少し挨拶に参りました、これからよろしくお願い致します」

「こちらこそよろしく頼むよ、白提督殿!!」

「早速呼んで頂き感謝します。では失礼しますね」

「おぅよ! 開発は儂らに任せな!!」

 

 適当に挨拶を済ませ、次に向かうは憲兵寮。本日付けで配属された憲兵隊が到着し、荷物を整えた後に寮の講堂で集まっていた。

 

「──以上が指示された配置だ。それぞれ忠義を持って行動するように」

「「はい!!」」

「元気がいいねぇ」

 

 突然の提督登場に憲兵達は驚き出す。気配も無く登場した提督にどよめいている。長い白髪に白い肌、とても異質だ。

 

「て、提督殿! こんな所までご足労いただき感謝します!」

「あーはいはい、大丈夫だから。えーっと、お前らがこの鎮守府の警備する憲兵達だな? 改めて歓迎しよう、一部の者は知っているだろうが私の名は白、白と呼んでくれて構わない」

 

 全体的に白いのか白と呼ぶように言われた。確か大本営で白と呼ばれた軍人が暴れているという噂を聞いた事がある。まさかその軍人が提督だとは思わなかっただろう。

 

「んじゃ警備は任せたよ。私は失礼する」

「お任せ下さい、白殿!!」

 

 

 

 

「はぁ……──

 

 

 

 

 

 

 ──まだ何も考えていないのに本当に一波乱起きそう」

 

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