「あの……初めてこういう所来たんですけど……」
「何だ? 後輩」
「艦娘ってめちゃめちゃ可愛いっすね」
「それな」
初めて鎮守府の警護を任された憲兵達は艦娘達の美貌に見蕩れていた。この鎮守府に来てからというものの、艦娘を初めて見て少し浮かれていた。
「いいなー……少し憧れてしまいます」
「止めといた方が無難だぜ。過酷過ぎる仕事ナンバーワンってどの雑誌やテレビでも言われてるんだぞ? バラエティ番組に軍関係者の特集でどれだけ面倒に伝えられたか知ってるだろ」
「ですよねー……」
艦娘という存在を操りながら深海棲艦と戦う。国の為に戦い続けている軍人達は命を失くす覚悟で働いている。艦娘達とのコミュニケーション、深海棲艦討伐の為の作戦考案、艦隊の作戦指揮や戦闘指揮、数々の報告書作成。それ以外にもやる仕事はいくらでもある。
「結局俺らはこうやって警戒を怠らず、艦娘達の仲睦まじい光景を見守ってればそれでいいのさ」
「それが一番ですねー」
倉庫の裏や広場中央、司令本部の中庭などを徘徊する。歩きながら憲兵達は世間話をしていた。艦娘達は戦闘に備えて、訓練をしている。艦娘達からは避けられるようになっている状態だ。
「まぁどこかの鎮守府では艦娘と交際している奴もいるらしい。憧れちゃうね」
「まぁそれを白さんが許してくれるかどうかですけどね」
「それが出来るかも分からないけどなー」
「……えっ?」
恐る恐る後ろを振り向くと提督と摩耶がゆっくりと歩いていた。いつの間にか背後にいた提督にサボっていたと勘違いされないように慌てて敬礼する。
「す、すいません白さん!! サボっていた訳では──」「別にサボるなとは注意してないだろ。あ、うーんそうだなぁー……まぁ付き合っても構わんぞ」
「え!? マジすか!?」
「おいおい、聞いてなかったのか? 出来るかどうかも分からないんだぞ!?」
提督が先程話し掛けてきたように出来るかどうかすら分からない。ただでさえ距離を置かれているような気がする。そんな事など到底は無理だろう。
「その通り。お前らも知ってる通り、ここはブラック企業ならぬブラック鎮守府だ。艦娘達の心はズタズタに引き裂かれている」
「可哀想ですね……」
「だからなるべく今は艦娘達とは触れ合わないように。隊長にもそう言っといた、各自気をつけるように」
「「分かりました!!」」
提督と摩耶が過ぎ去り、廊下に佇む憲兵達。避けられている理由が分かった気がした。ブラック鎮守府によって艦娘達は人間に対して怖がっている。それならば避けるのも仕方ない事だろう。
「ブラック鎮守府か……可哀想ですね、艦娘達が」
「仕方ないさ。俺達は少しずつやっていくしかないよ」
──執務室。
「仕事はどうかね、灰君」
「はい! 遠征任務の報告書をまとめ終わりました。後、頼まれた書類を提出しました」
「ほう……どれどれ……お前、意外にまとめるの上手いなぁ」
「そ、そうですか!? ありがとうございます!」
川内と一緒にした仕事。それは整備士や憲兵達の振る舞いだ。一人ずつ丁寧にまとめている。誰がどんな性格でどんな趣味をしているのか、分かりやすく記されていた。
「性格はお気楽で仲間思い、趣味はサバゲーや国内旅行。性格はパリピ、趣味は合コン。まぁ多種多様な奴らがいっぱいだぁ、面倒臭くてやってられん」
「でも何故まとめさせたのですか?」
「分からないか? ■■達がもし憲兵を引き込むとしてどんな奴らが狙われるか、そして艦娘達に気安く触れてくるのか。それぞれ把握し、予測する必要がある」
憲兵や整備士と言えど人間だ、可能な限り艦娘達に触れてくるだろう。■■達も然り。如何にその人間の本質を見抜き、これからどうしていくかが鍵になる。慢心は絶対にしてはいけない。
「艦娘達のメンタルケアの為もあるのですね……私にやらせてください!」
「当然だ、俺がやれって言ったんだからな。メンタルケアとかそういう表なのはお前がやるんだ、俺は裏で計画を進める。分かったな? ヒーロー候補生」
「は、はい!」
表の仕事は灰色、裏の仕事は提督が。互いに理にかなった関係が出来上がっている。通常の仕事も少し楽に感じた。
「見事に操ってるな」
「意外にも候補生が来た事が吉になるとは思わなかったなぁ~。こうも良く手駒を動かせるとは案外悪くはないらしい」
「灰さん、撫でて撫でて!」
「どれどれ」
「白露が先だよ!」
灰色と白露達が仕事もせずにじゃれている。隣で気にせず騒いでいる灰色達に提督は嫌気が刺していた。
「つくづく棒演技に寒気がするよ」
「まぁまぁ。気にするな、提督」
「うーん、やっぱ執務室を別けるべきかなー……」
やがてこんな日々が一週間続く。
候補生の来訪は意外にも艦娘達に効果があり、艦娘達にとって親しみやすい存在となった。
整備士達も明石や良い人柄のおかげで艦娘達と何気なく話しており、憲兵達とはまだ距離は遠いものの徐々にその距離は縮まりつつある。
「時雨、今日は大丈夫だよ。ゆっくり休んでね」
「うん、ありがとう灰さん」
今日も忙しい秘書艦の仕事が終わり、部屋に戻る時雨。とても忙しかったが充実はしていた。悪くない毎日が続いている。
「しーぐれー!!」
「うわっ、白露! 夕立! 倒れちゃうよ!」
「へへへ、どう? 秘書艦としてちゃんと働けてる?」
「うん大丈夫だよ。灰さんは優しいからね」
「もしかして好きになってたり~?」
途中で白露と夕立に抱き着かれ、秘書艦としてちゃんと働けているかどうか聞かれた。灰色は皆にとても優しく、皆から慕われている候補生だ。秘書艦としてどう思っているのか、夕立がからかって聞いてみた。
「いや……そんな事は……無いとは思いたい……けど……」
「いいねぇ~姉として嬉しいよ~」
「灰さんは優しいっぽい!」
時雨は少し恥ずかしがりながらも否定はしない。少なからずそういう感情がある事は隠しておきたかった。灰色との距離はいつの間にか近くなっていたらしい。
正直、嫌いだ。
「あ、そういえば時雨。明石さんが装備について話し合いたいみたいよ?」
「あっ、そうなの? 分かった。ありがとう夕立」
夕立の言う通りに一人で工廠に向かう。工廠には整備士達の話で賑わっていた。多くの人達がいる中で時雨は明石を探す。
「明石さーん……いるかーい?」
だが全く見当たらない。桃色の髪で目立つはずがどこにもいない。ジャンプしたり、キョロキョロする時雨に一人の整備士が話し掛けてきた。
「ん、どうしましたか時雨さん」
「いや明石さんに呼ばれて来たんだけど、知らないかい?」
「あー、明石さんでしたら第四倉庫に向かいましたよ」
「えっそうなの? 教えてくれてありがとう」
明石は第四倉庫にいるという。人の事を呼んでおきながら別の場所にいるとは失礼な艦娘だ。そう思いながらも時雨は第四倉庫へ向かった。
「……作戦成功~♪」
「明石さーん、ここにいるのー?」
第四倉庫の中に入り、明石の名を呼ぶ。声がエコーのように響き渡った。
ここにもいない。というか気配すら感じない。あるのは大量の資材だけだ、何も無い。
「あれ……いないなー……──ッ!?」
時雨はおかしいと首を傾げた途端、背後にから猿轡をされ、手錠のようなもので両腕を拘束された。腕が邪魔で艤装が展開出来ない。
「や、やめッ……誰か──」
「よし拘束器具をはめた。奥に連れて行け」
「了解」
動けなくなった時雨を倉庫の奥に運ぶ。何事も無かったかのように倉庫の扉は閉ざされた。
「時雨、捕獲完了~」
「よっしゃ上玉じゃん」
奥まで運ばれるとゴミのように放り投げられる。小さな光で照らされると、周りには整備士や憲兵が拘束された時雨を囲んでいた。皆ニヤニヤしていて気持ち悪い。
「少尉からは来るまではヤってもいいって言われてるんだ。さーて楽しみだなー……」
「っ!?」
男達が一斉に時雨の正装を脱がし始めた。時雨はそれを見て絶望する。
この男達は自分を襲う気だ、と。
「灰さんに頼まれて時雨に渡すのを忘れてたっぽい。工廠にいなかったから、恐らく倉庫にいるんだろうな~」
時雨に灰色から忘れ物を届けて欲しいと頼まれ、時雨を探していた夕立。工廠にはいなかったので辺りの倉庫を確認していた。一番遠い第四倉庫まで歩き、中に入るとそこには──、
「ぽーい、時雨ー! いる──」「嫌だ、やめっ、痛っ!」
「暴れんな!! ヤりずらいだろうが!!」
「おい! 早く抑えろ!!」
夕立の目には複数の男に襲われている時雨が写っていた。男達は下半身を露出し、暴れる時雨を抑えようとしている。
一方で時雨は襲われまいと必死に足掻いていた。その光景を見て夕立は絶望し、即座に艤装を展開する。
「何してるの?」
「ッ!?」
誰かの声に敏感に反応する男達。襲う前に邪魔が入ったようだ。男達の視線にいるのは禍々しい気を放った夕立がいた。艤装を展開させ、金色のまとめられた髪は逆立ち、紅く輝いた目が男達を睨みつける。
「その手を離して……話さないと全員殺すよ……!!」
「チッ……大きかったか!!」
「離せッッ!!!!」
言った直後に夕立は急発進。
男達に急接近し、五人の男の顔を瞬時に殴打。
殴られた男達は意識を失い、人形のように倒れる。あまりの急加速に突風が夕立を追い掛けた。
「時雨!! 大丈夫!? 怪我はない?」
「うん……大丈夫だよ。助けてくれてありがとう……夕立」
「良かった……!!」
猿轡と手錠を外し、時雨の無事に安心する夕立。時雨は助けてくれた夕立にすぐに抱き締めた。身体が震えている、恐らく襲われた過去のトラウマが甦ったのだろう。夕立も抱き締め、時雨を安心させる。
しかし──、
「──ッ!!」
「どうしたの夕立?」
「……何か……いる」
「え?」
気配を感じたのか、倉庫の天井近くにある窓を見る。窓は全て閉まっており、誰もいない。
しかし夕立はある一線をずっと睨んでいた。まるで誰かに覗かれていたような、鋭い視線を感じたのだ。
「夕立?」
「……いや気の所為っぽい」
「時雨さーん、ここにいますかー?」
明石の呼ぶ声が聞こえた。夕立が睨むのをやめたのも明石が来たからだろう。第四倉庫に入り、書類を持ったまま時雨を探している。
「明石さん……」
「あ、ここにいましたか……ってどうしたんですか!?」
「実は……──」
数分後に提督と灰色、そして憲兵隊や整備士、艦娘などが駆けつけてくれた。夕立と時雨の周りには殴られた男達が手錠で拘束されている。早速の事件発生に提督は頭を悩ませた。
「はぁ……襲われそうになったところを夕立が助けてくれた、と」
「うん……」
「青葉」
「時雨さんと夕立さんの言葉は本当です。嘘偽りはありません」
「ならお前らが被害者だ」
憲兵が拘束された男達を縛り付けている。憲兵が三人、整備士が二人。例え艦娘が被害者だろうと犯罪だ。強姦未遂は重い罪として、厳しい処罰が下される。提督は今にでもこの五人を殴りたい気持ち■った。
「白殿、この馬鹿共は」
「地下営倉にぶち込んでおけ。後、隊長と白髭にお前らは悪くないから気に病むなと伝えておくように」
「了解しました、わざわざありがとうございます」
拘束した犯人達を抱え、憲兵達は去っていく。倉庫の外では艦娘達が蔑んでいた。あれだけ憲兵隊隊長に言われていたのに配属されて一週間で事件を起こすとは、憲兵と整備士としては申し訳ない気持ちだった。
やっと信頼関係が結べ■うな気がしたというのに。提督も面倒事を起こされ、流石に気が滅入る。倉庫の外に出る途中で灰色とすれ違った。
「ヒーロー■補生、お前の出番だ」
「……了解しました」
「今にも怒りで連中を殴りたいだ■うがやめておけ、自滅だぞ」
「分か■■ます……!」
これ■機に、■ずれ提督と■■達は知る事に■る。
――こ■鎮守■■真実を。
──そ■■世界を敵に回■結果■■■事を。
──……今■■のは序■■過ぎ■い。
──これは、信念■■げ■者達■巨大な■に立■■■■……
──語■■■■■■■■い『戦争』だ。
goめ■な*い