うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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80. 他人の不幸は蜜の味

 あの事件後、犯人グループ五人は営倉に収容。提督は事件を隠蔽する為、憲兵や整備士に口外無用にした。時雨は過去のトラウマを呼び寄せた為、■■医師の元で精神治療を受けている。灰色の秘書艦は白露が代わりに受けてくれた。また憲兵や整備士と艦娘の関係は悪化し、不穏な空気が漂っている。

 

「あーもう面倒事はやめてくれー……」

 

 変な頭痛に苛まれ、軍帽で頭を隠す。椅子に寄り掛かり、机に足を乗せて休んでいる。憲兵や整備士、灰色が来るまでは順調だったはずの計画が数々の厄介事で大番狂わせだ。

 正直泣きそうである。摩耶は提督を心配して、珈琲を出してくれた。

 

「お疲れ様だ、提督」

「本当だよ。マジで疲れるわ~、ストレス溜まる~」

「白さん……本当に申し訳ございません!」

 

 灰色が突然立ち上がり、提督の目の前で頭を下げた。どうやら昨日の事件で時雨を危険な目に合わせたことに負い目を感じていたらしい。灰色の秘書艦とはいえ元は提督の部下だ。その部下を預かった責任があるのだろう。

 

「何でお前が謝るんだ」

「私が休んでいいと言ったばかりに……あんな事件が……!」

「別にお前は悪くないだろ。悪いのはあの五人だ、お前はただそれを予測出来なかっただけ」

「失礼します」

 

 執務室に憲兵隊隊長、整備士のリーダー白髭が入室。入ってくるなり提督の前で土下座した。

 

「この度は本当に申し訳ございませんでした!!」

「お前らもか」

「あの事件は私達の管理不足にあります……! 貴方の大事な部下を大変な目に会わせてしまった……!」

「あー大丈夫だって。悪いのはあの五人だから、許してほしければさっさと持ち場に戻ってくれ」

「いや……もう一つ、謝らなければならない事がございます」

 

 憲兵隊隊長が執務室に設置したテレビをつける。その光景に執務室にいる誰もが目を疑った。

 

「……はァ!?」

 

 そこには昨日の事件が一大ニュースとして報道されていた。出された新聞にも大きく見出しがついている。更には写真までが貼り付けられていた。その写真とははたかも夕立と時雨が憲兵と整備士を暴行したかのような絵面。

 提督は慌ててスマホでSNSを確認する。キーワードで検索するとその写真がネット上ど瞬く間に広められていた。

 

「どういう事だ……オイ……」

「私達の間で調べたのですが……誰もそんな事はやっていないと述べており……」

「儂の所も全員そうじゃ」

 

 何故だ、何故こんな事になったのだろうか。全く理解が追いつかない。

 あの場にいたのは全員この鎮守府の寮に住んでいる。艦娘達にはインターネット環境は常に遮断している上、外に情報を伝える事は不可能だ。■■の犯行では無い。

 憲兵や整備士達には機密情報漏洩を防ぐ為に誓約書で誓わせている。例外を除いては漏洩するなど絶対に有り得ない。それこそ憲兵隊隊長や白髭が証言しているように、そんな写真を取る奴などいないはずなのだ。

 

「チッ……あーもォォォォ!!! ふざけんなァァ!!!」

 

 次から次へと面倒事を負わせてくる。ぶつけようのない怒りに苛まれた。ただでさえ■■との戦争が控えているのにこれ以上の面倒事など厄介でしかない。

 

「提督、一回落ち着こう? な?」

「……すまない摩耶。少し取り乱した……」

「どうされますか……白さん……」

 

 摩耶に窘められ、落ち着きを取り戻す。数々の面倒事に抑えた怒りが限界に来たのだろう。一回椅子に座り、天井を見つめる。

 

「こうなったら徹底的に犯人を突き止めるぞ!! ヒーロー候補生、すぐに青葉と川内を呼び出せ! 隊長は全ての憲兵を集めろ! 白髭も同じだ!!」

「な、何をするのでしょうか?」

「尋問だ!! 一人一人じっくり問い詰めて吐かせた後にその腐った根性をボッコボコにしてやる!! 分かったら今すぐ動け!!」

「「了解しました!!」」

 

 提督の指示通りに憲兵達や整備士達が廊下の奥まで並んでいる。執務室で提督と摩耶が一人ずつ呼び出し、あらゆる手段で聞き出した。背後には青葉がいる。簡単に嘘はつけないようにした。

 

「え、何? あの列は……」

「あれ大井っち、テレビ見てないの?」

「え?」

「昨日の事件がバレて、そのバラした犯人を探してるんだって」

 

 憲兵や整備士を集める前に艦娘達を呼び寄せ、領地内の壁に五メートルの範囲で警戒させた。これは尋問前に犯人が逃げないようにする為の逃亡阻止柵になっている。警戒している艦娘達は差別された側と着任した艦娘が請け負っていた。

 

「凄い徹底ぶりだよねー」

「だから私達はここにいるんですか……」

 

 

 

 

「次で最後か……」

「……来ないな」

 

 あっという間に昼が過ぎ、最後の整備士を一人残して全員に尋問した提督。しかし誰もそんな事はやっていないと証言していた。嘘かどうかは青葉が見抜いてくれる。青葉は全員本当の事を言っているようだ。

 

 その最後の整備士は全く入室してこない。変に思った提督はドアの向こうにいる白髭に問い掛ける。

 

「白髭、最後の一人は?」

「それが……探してもいないんだ……」

「……は? ッ……やられた!!!」

 

 提督は憲兵や整備士の名簿を床にたたきつける。予測していた一番最悪な事態が本当に起こってしまった。

 

「提督!? どうしました!?」

「恐らくコイツが犯人だ! だがコイツは俺が尋問するの予見して、その前に昨日の夜にここから逃げたんだよ!! ちくしょうがァ!!!」

 

 頭を掻きむしり、怒りをあらわにする提督。提督がこんなに怒るのは久しぶりだ。大体は冷静沈着にキレるが、今は焦っているようで感情が表に出ている。その場にいた青葉は何も言い出せなかった。

 

「そんな……突き止めようがないって事か?」

「言いたくはないがそういう事だ……! チッ……!!」

 

 為す術もなく、提督は執務室へ向かう。今までクレーム対策で通信環境を切断していた電話機を再接続。その途中にある人物から連絡が来た。

 

「はい、こちら■■■鎮守府責任者、白と申します」

『一体どういう事かねこれは!?』

「誠に申し訳ございません。私の不徳の致すところでございます」

 

 元帥だ。

 先程のニュースを見て、怒りより驚きが先に出ていた。今ではこのニュースを見た各社記者やマスコミが大本営に押し寄せている。受話器は止まることを知らず、毎秒鳴り続け放題だ。この鎮守府もいずれはこの波がやってくるだろう。

 

『この報道は本当なのか?』

「いえ全くの偽造です。この事件の被害者はそもそも艦娘です。憲兵や整備士ではありません」

『でも写真では──』「それは偽造です! あたかも夕立が暴行した後の写真に見えますが、彼女は男達から時雨を助けています!! この写真は偏見させる為に撮られた偽造の写真です!! 第一にどうやってこのアングルからこの写真が取れるのですか!? それに夕立には男達を暴行する理由が無い!! 元帥殿、よくお考えに──」

 

 元帥との通話はヒートアップし、話し終わるまで三十分が経過。電話機を下ろし、提督は頭を抱えた。

 

「提督……」

「……犯人グループ、時雨と夕立の連行が確定した」

「っ!?」

「そんな……彼女達は被害者なのにですか!?」

「そうだ……詳しい話は大本営で聞くと言われた。クソがッ!!」

 

 提督は椅子を蹴り飛ばし、執務室を出る。摩耶や灰色、憲兵隊隊長や白髭がその後を追った。提督は急ぎ足である場所へ向かう。

 

「提督!? どこへ!?」

「時間は無い。時雨達を尋問する」

「でも時雨は……!」

「トラウマで怯えていようが知ったこちゃない。気を遣って時間を置かせるほど暇じゃないんだ。一刻を争う事態だ、青葉を呼べ。今すぐ行くぞ」

 

 急いで医務室の扉を勢いよく開き、勝手に侵入する。提督の突然に■■医師が止めに入った。しかし提督はそれを無視して真っ直ぐ時雨の元へ向かう。時雨の傍には夕立、白露が見守っていた。

 

「ちょ、何やってるんですか貴方は!!」

「時雨、トラウマを思い出して怯えている所すまないが尋問だ。お前らもだぞ」

「何言ってるの!? 時雨ちゃん達はまだ──」「んな事分かってんだよ!! この先時雨達を死なせたくなければ黙って聞いてろ!!」

 

 ■■医師の胸倉を掴み、提督は怒鳴り吠える。一々艦娘の精神状態に構っていられるほど事態は一刻を争っている。出来る限り時間を無駄にしたくないのだ。

 

「……分かった。受けるよ、提督」

「時雨ちゃん……」

「素直でよろしい、時間も無いからここで始めるぞ。いいな?」

 

 医務室で尋問は行われた。時雨はベッドに座りながら、夕立は椅子に座りながらそれぞれ質問していく。

 

「では時雨、お前はどうやってあの場に呼び出された?」

「昨日夕立が明石さんが呼んでるってのを聞いて、工廠に行ったんだけど……明石さんはいなくて、整備士の人が第四倉庫にいるって言うから、大人しく第四倉庫に行ったら……」

「よし、そこまでだ。夕立、お前はその明石が呼んでる事を誰に頼まれた?」

「……私も、その整備士に頼まれて……時雨に言った」

 

 やはり昨日夜逃げした整備士が企てた事だ。

 だが動機が不十分過ぎる。この鎮守府と全く関係の無い、ましてや配属されたばかりの整備士が艦娘を貶めようとする事など全うな理由が無ければ起こらないはずだ。

 

 であれば考えられる事は二つ。

 

 一つ目は裏で誰かが糸を引いている可能性。存在‪α‬について模索していた事が上にバレて、何かしらの方法で艦娘や提督を貶めようという理由があるからだ。

 

 二つ目は■■の計画に嵌められた可能性。その配属されたばかりの憲兵や整備士に知っている顔が存在し、互いに利益の為に結託。差別された側の艦娘を捨て駒に夜逃げした整備士が写真をばらまいた。

 

「じゃあ質問を変えるぞ。夕立が時雨を助けた時、何か違和感は無かったか?」

 

 撮られた写真は夕立が時雨を助けた後の場面だ。

 だが世間からは夕立が憲兵や整備士をストレス発散で暴行したかのような絵面になっている。だとしたらその場面を撮られる時に何か違和感があったはずだ。

 

「……そういえば、何か気配を感じたの」

「気配?」

「そう。助けた直後に何か視線を感じて……だけど気の所為だと思って……」

 

 青葉はコクっと首を傾け、本当だと証明する。助けた直後に視線を感じたという事はその視線が写真を撮った者となる。

 となればやはり犯人は夜逃げした整備士か。

 

「……提督」

「何だ時雨」

「真犯人、分かったかもしれない」

 

 時雨の発言に一同は驚く。被害者である時雨が真犯人を特定出来たようだ。ならば話は早い。

 

「誰だか分かるか?」

「あの……私が襲われる前に言ってたんだ……」

 

 

 

『少尉に来るまではヤっていいって言われてるんだ』

 

 

 

「ッ!!!」

「多分その少尉って人が犯人だと……思う……」

 

 少尉の存在が明白する。提督はそれを聞いて、拳を握った。成程、そういう事か。

 

「提督、これって……!」

「あぁやっと分かってきた。事件の真相が……」

 

 この事件を企てたのが誰なのかをようやく理解出来た提督。事件発生直後から初めて提督は笑みを浮かべる。この事件は全て個人の怨念によって発生した予め仕組まれたモノだった。

 

「時雨、夕立、これから話す事について受け止めてもらいたい」

 

 提督は余裕が出来たのか、腕を伸ばして時雨と夕立の肩に触れる。これから二人が想像を絶する程の経験をする事を優しく伝えた。

 

「お前らはあの事件の重要人物として明日大本営直属の憲兵隊によって大本営まで連行される。この事が終わるまでお前らここには一生帰れない」

「そんな……」

「だがそこには証人尋問がある。その時に嘘偽りなく全てを話せ。何もかもだ、根掘り葉掘り聞かれようとも真実を話すんだ。大丈夫だ、お前らは何一つ間違ってはいない。自分を信じろ」

 

 大本営に捕まったが最後、事件が事晴れるまで鎮守府には一生帰れない。現に提督はその艦娘を目撃した事がある。本当の事を吐かせるまで徹底的に痛めつけ、衛生環境や精神状態は最悪、正直薬を使って本当の事を言っても、都合が悪ければ最後の最期まで尋問させる。挙句の果てにはその艦娘は自殺し、大本営からは解体を選んだと報告していた。

 これは提督しか知らない事実だ。時雨達もいずれはそうなってしまう可能性がある。

 

「……はい……!」

「いいか? これは俺が危ないから言ってる訳じゃない。お前らが死ぬ可能性があるから言っているんだ」

 

 時雨達は涙を流し、震えた声で答える。身体は震えており、時々跳ね上がった。

 

「お前らが連行されたら必ず俺達も後を追う。心配するな、お前らは一人じゃない」

「……提督、灰さん……抱きしめてもいい?」

「構わない」

「うん、いいよ」

 

 普段は嫌がるような提督がすんなりと抱擁を受け止めてくれた。時雨は灰色を抱き締め、夕立は提督を抱き締める。それぞれの男の抱擁はとても包容力のある優しい抱擁だった。

 

「お前らは俺の過酷な道に巻き込まれた一番の被害者だ。巻き込んでしまって本当に申し訳ないと思っている」

「怖いよ……」

「寂しいよ……」

 

 二人は提督の厄介事に巻き込まれた被害者だ。小さくてか弱い艦娘が大きな責任を負い、死ぬまで大本営と戦わなければならない。二人にとっては背負いきれない重く巨大な首枷だろう。

 

「だがお前らは幾つもの過去という名の障壁を越えてきた今がある。お前ら二人とっては苦しく、悲しく、寂しい道だろう。だが俺はそんな道だろうと乗り越えられる君達を信じてる。感情論になってしまうが……きっと大丈夫だ」

「提督さん……ごめんなさい……」

「なぁに謝る事じゃないぞ夕立。艦娘も人間と同じなら間違いの一つや二つ、起こしてしまうもんだ」

 

 時雨と夕立は泣きじゃくる。提督と灰色の優しさに涙が止まらない。この小さく震えた手にどれだけの想いがあるだろうか。提督は夕立を包むように抱き締め、そして夕立の顔を見た。

 

「分かったか? お前らなら必ず大丈夫だ。最後に一つ、忠告しておく……――」

 

 

 

「――絶対に自分が自分である事を見失うな」

 

 

 

「絶対にだ。いいな?」

「私達も後を追うから。負けちゃダメだよ、時雨」

「うん……ありがとう、灰さん、提督」

 

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