今話も■が特に多い上に一部台本形式です、ごめんなさい。
「これで何とかなりそうだよ灰さん!」
「そうだね。んじゃ早速白さんに報告だ」
夜二十時半、駿河鎮守府から抜け出した灰色と白露は青葉の証人獲得に喜んでいた。交渉の末、駿河鎮守府の青葉は会議に証人として出席してくれる事になり、先輩と協力して当日は■■少尉に隠して移動するらしい。
駿河鎮守府の青葉さえいればこちらの勝ちは取ったも同然。早速スマホで摩耶のLINEから朗報を伝えた。摩耶曰く、提督はニヤニヤと喜んでいるとか。
「白さん、喜んでたよ。よくやったね白露」
「ありがとう!」
後は青葉を駿河鎮守府から脱出させ、大本営に向かわせればいい。灰色の家まで歩いていた灰色と白露はスキップ歩きで感情をあらわにしている。
だが──、
「アイツらは俺らに仇なした兵器だ! 解体じゃなきゃ意味ねーんだよ」
「そうだそうだ。兵器は兵器らしく軍人様に使われてればいいんだよな」
「まぁ可愛いのが少し勿体なく感じるけど」
「兵器じゃなくて道具なら何でもなるな!」
艦娘を兵器として見るデモ隊が集団で灰色と白露の前に歩いてきた。自分達の存在を知らせない為に静かにを通り過ぎる。デモ隊の時雨と夕立の罵倒に白露は手を握った。
「……待てよ……!」
「っ?」
デモ隊の横を通り過ぎた時だった。白露の声が響き、一番灰色に近かったデモ隊の男が白露に気付く。振り返れば怒り震える白露が灰色を置いて立っていた。
「色々言っといて何も知らないくせに!! 勝手に人の事決めつけないでよ!!」
「白露……」
「私達は道具なんかじゃない!! ちゃんとした人間だ!!」
「……んだとゴラァ!!」
──荒くれ鎮守府門前。
「さっきからうるさいのよ、黙ってくれるかしら」
「本当だよねー。馬鹿みたいに騒いじゃって」
「あ? 何だ兵器共」
「兵器じゃねぇ……お前らと同じ人間だバーカ」
「言いたいことがあるならさっさと殴りかかってみては? 最も、人間である私達を殴れば罪を被るのは貴方達ですけど」
「……やっちまえ」
静かな夜を迎える荒くれ鎮守府。雨は小降りで思わず眠りそうな心地良い音がする。執務室にいた提督と摩耶は会議に向けて、事件の資料をまとめていた。
すると執務机の受話器が突然鳴り始める。お互い身体を跳ねらせた後に摩耶が受け取った。
「こちら■■■鎮守府……ってはァ!? 灰と白露が!?」
「何があった」
「提督!! 加賀さん達が!!」
「ッ!?」
突然執務室に朝潮達が駆けつけてきた。皆焦燥で大変な事が起きたと表情で伝わってくる。提督と摩耶は急いで医務室に走って向かう。医務室には■■医師や隊長、白髭にプリンツが既に来ていた。
「集団で暴行を受けたようで……頭を強く打ってて、意識が戻らない……駿河の病院では灰君は意識不明の重体、白露ちゃんの方はもっと酷くて、下半身を中心に襲われた痕が……」
「何でそんな事を……犯人は?」
「はい、先程憲兵隊達に拘束されて生意気な兵器だからとか、灰達の方は兵器に同情する馬鹿な軍人だから、と……」
暴行を受けたのは加賀、長門、比叡、鈴谷、最上、熊野、球磨、天龍、不知火。
■■医師が言うには全員共に鉄の棒で何十回も叩き殴られ、重度の外傷と意識不明。灰色は複数の殴打跡、刃物で斬られたような跡と何ヶ所の刺し傷。白露も複数の殴打跡、首を絞められた様な跡と性器の外傷。明らかに度を超えた暴行を受けていた。
「馬鹿な真似を……!!」
提督は静かに怒りに震える。加賀達が行った暴動の意味は理解出来ていた、今度の会議で僅かでも提督が有利になる為だ。自分達が酷い目に遭えば世間の価値観も変わるのではないかと思ったのだろう。
確かに共に戦う仲間として戦ってくれるのはありがたいと思った。だが戦うからといって自分の命を天秤にかけるような真似をしろとは言っていない。無駄に自分の命を投げる様な事はしてほしくなかった。
提督は手を握り、歯を噛み締める。恐らく暴動のリーダーである加賀に近付き、傷痕だらけの頬に触れた。すると提督の目が蒼から紅へと変貌し、表情が無感情のように変わる。
「Admiral、駿河鎮守府の青葉さんからご連絡が」
「後で話す……マスコミに大々的に報じさせろ」
「どこに行かれるのですか……!?」
「反撃だ」
提督は医務室を素早く出ていく。
摩耶や■■医師達を置いて一人、廊下で呟いた。
「そこで待ってろ馬鹿共……!!」
――朝九時。
『■■■鎮守府暴行事件により二人の艦娘の処分が決まった中、処分の見直しをする為に大本営にて急遽会議が開かれました。つい先日に静岡県駿河市と和歌山県串本町で数名の艦娘と人間一人が暴行の被害に会う事件が多発しており、世間では物議を醸しています。なお今回は会議の撮影許可が出ており、神出鬼没とされていた白中将の顔が見られると多くのマスコミが駆けつけていまおり、あ! 白中将です! 白中将が会議室に現れました! 長い白髪に青年の顔、成人男性と何ら変わりはありません!』
「まさか提督……!」
「覚悟は既に決まっているという訳ね」
「顔を晒そうとも二人を救えるなら構わないという事か」
「頑張って提督……!」
──大会議室。
「では始めようか」
一同席を立ち、礼をする。再び椅子に座り、会議を始めた。壁の周りには多くの記者やカメラマンが撮影機器を並べ、提督達を撮っている。中でも情報や顔公開が一切無く、不思議な存在として語られていた提督が顔を見せて現れたのは多くのマスコミの興味を引かせていた。カメラの殆どが提督に向けられている。この撮影は全国のテレビ中継、動画サイトの生放送で大きく注目されていた。
「大変異例にも関わらず新たな証人の尋問を許可して下さり、感謝を申し上げます元帥閣下」
「待て! 二人の処分は決まったんじゃないのか!?」
「■■少尉、確かに時雨と夕立の処分は決まりましたが、あまりにも重過ぎる為にこちらから新たな処分案を提示したく元帥閣下に許可を頂きました。どうか静かに聞いてくださればと思います」
「■■君、静かにね」
突然の会議に■■少尉が物申す。適当に嘘をついて、元帥が注意してくれた。とりあえずは会議は続けさせてくれるようだ。
「今回は最初に来てくださった方に尋問をしたいと思います。大本営所属憲兵隊隊長、■■■■■さん。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「では最初にこの録音テープをお聴き下さい」
ラジカセから貰った録音テープを流す。■■少尉の必要以上の攻撃的な尋問の内容が全国に知れ渡った。あまりにも残酷で卑劣、■■少尉の本性が相見えた瞬間だった。やがてテープが流れ終わり、終始不穏な空気が流れる。
「……この録音テープを聞いて■■少尉、何か心当たりは?」
「知るか!! こんな事私はしていない! 捏造だ!!」
「でしたら大本営所属憲兵隊隊長■■■■■さんに質問します。貴方は以前時雨の尋問の際、■■少尉の護衛の為に共にいた事が記録されています。この録音テープに心当たりはございますか?」
全視線が扉の手前にある机の傍にいる大本営所属憲兵隊隊長■■■■■に向けられる。緊張した空気の中、隊長は真面目に答えた。
「はい。私は■■少尉が時雨の尋問時の護衛の為に尋問室にいました。ですがあまりにも■■少尉の野蛮な行為に耐え切れず、証拠として録音させていただきました」
「お前まさか!!」
「何慌てているのですか■■少尉。まだ私の質問が続いています……その野蛮な行為とは一体どんな行為でしょうか。可能な限りお話し願います」
絶えずカメラのシャッター音が鳴き喚く。カメラのフラッシュが提督と隊長、■■少尉を照らし続けていた。大会議室で軍人同士の戦争は熾烈を極める。提督は一回も笑わず、本気の紅い眼をしていた。
「はい。念の為、言葉は優しく包みますが……時雨や夕立に対しての暴行は勿論の事、二人を蔑むような言葉を並べていました」
「貴方はそれを野蛮な行為だと感じ、この録音テープを録ったという事で間違いありませんか?」
「はい。間違いありません」
各席に座る軍人達、壁に寄り添うメディア達が唸りの声をあげる。■■少尉の蛮行を記事にしようと、パソコンやメモ帳で書き殴っているようだ。提督はそんな事など気にせずに次の話に切り替えらせる。
「次に駿河鎮守府所属青葉型重巡洋艦一番艦、青葉さんです。彼女から証言したい事があると聞き、この場に立って頂きました」
「何故青葉がここにいるんだ!?」
「■■君静かに!」
予想外の証人に■■少尉が大声をあげる。
■■少尉が反応する度に疑問の視線が移動した。
「では青葉さん。証言したい事を」
「……はい。わ、私があの時雨とゆ、夕立が暴行した写真を……ととと撮りました!!」
「おい青葉ァ!!」
■■少尉が机を叩き、青葉に怒鳴りつける。しかし駿河鎮守府の青葉は怯えながらも震えた声で真実を明かした。
「■■少尉に殺すと脅され、し……白中将をおと、貶める為に■■■鎮守府の艦娘の過激写真を……取るように強要されました……!! あの日私は■■■鎮守府に潜入し、時雨が襲われた場面から夕立が時雨を守る為に憲兵達を押し退けた場面を見ていて、ちょうどその時に写真を……撮りました!!」
「何を嘘を並べている青葉! 恥ずかしくないのかァ!!」
「恥ずかしくありません!!」
「ッ!?」
今度は駿河の青葉が叫んだ。甲高い声は大会議室に響き渡り、変貌ぶりにその場にいる全員が驚く。提督と■■大将は駿河の青葉をずっと眺めていた。
「こんな愚かな事をして黙っている事こそが恥ずかしいです!! 私はもうお前の言う事は聞かない!! もう私は……人間です!!」
「こっの……!!」
「私だって……! こんな事……したくなかった……!」
「青葉ァ!!」
「静粛に!!」
暴れる■■少尉は憲兵隊に押さえられ、強制的に椅子に座らせられる。徐々に■■少尉の犯行が見えてきた。泣き崩れる駿河の青葉に提督は気にせず質問を続ける。
「ちなみにこの写真は偽の物だと?」
「……はい。工作された、偽の写真です」
「工作された写真で時雨と夕立は暴行したという事実にされていた様ですよ■■大将閣下。真犯人はあの憲兵と整備士達であり、時雨と夕立は正当防衛になるのではありませんか?」
「どういう事かな白君。この写真は巧妙に作られた偽造で、本当の被害者は時雨、守ったのは夕立だったって事かな?」
元帥が途中で話を整理し、提督に問い掛ける。元帥は頭が無駄に良いだけに理解力は充分にある男だ。物分りが良くてとても助かる。
「そういう事です元帥閣下。つまりは■■少尉は時雨と夕立を貶める為に青葉さんを利用し、この写真を撮った物と思われます……青葉さん、ありがとうございました」
駿河の青葉に一礼する提督。同じく礼を交わした青葉は涙を拭きながらそのまま大会議室を去っていった。大会議室に重い空気が流れ込む。まさかの真実判明に皆、手が止まっていた。
元帥は会議を進める為に旧式解体案を提案した■■少尉、及び■■大将の話が始まった。
「事件発生前、現場付近では多くの人々から目撃されています。証拠と証言、総合的に考慮すれば疑う余地はありません」
「■■■鎮守府所属憲兵隊第一分隊、■■■■。重巡寮を徘徊中に夕立が第四倉庫に行くのが見えた。実験結果は提出した資料の通り、第四倉庫からは駆逐艦寮で見えません」
「憲兵隊との実験結果とは大きく異なりますし……信用性の高い目撃証言が実に多い」
「フン」
「何か?」
「多過ぎますよ」
両者共に睨む。
張り詰めた空気の中で提督と■■大将は話を続けた。
「普通は目撃者などそうそういる訳では無い」
「恵まれましたな」
「■■■鎮守府所属憲兵隊第三分隊、■■■。休憩時間にふと広場を歩いていたら夕立が第四倉庫に向かうところを見た。■■■鎮守府所属憲兵隊第一分隊、■■■■。トイレから出た後、ふと窓を除けば夕立が第四倉庫に行くところを見た。よくもまあピンポイントで夕立が行くところを見るものです。私の鎮守府には第四倉庫を憲兵が半径三メートルずつ見張らなければならない条約でもあるのでしょうか?」
「憲兵達の証言は自信を持っており、嘘だとは考えにくい」
「そりゃあ自信に満ち溢れているでしょう。私の鎮守府で第四倉庫に向かっていたのが例え霊長類最強の吉田〇保里でも夕立に見えたに違いない。皆がそれを望んでいるから……人は見たいように見て、聞きたいように聞き、信じたいように信じてるんです。大将閣下だってそうでしょう?」
「何が言いたいのかな?」
「教えてあげましょうか? 艦娘の為ではなく日本海軍の信頼の為にあの議会を開いたんです」
「我々は軍人だ。日本海軍の信頼を懸念するのも犯罪を犯した艦娘を判断するのも当然だろう」
「その日本海軍の信頼の為に敵か味方かも分からない艦娘を一方的に敵と決めつけるのがですか?」
「愚かかな?」
「えぇ愚かで醜く、卑劣です」
「傲慢極まりない。海軍は信頼される機関であり、私は素晴らしく誇り高き軍人だと思っている」
「素晴らしい誇り高き軍人が普通、暴行しただけの艦娘を旧式解体という処遇にさせますか?」
「本来であれば艦娘は兵器と称されている。兵器であれば所有権を持つ我々がどうしようと自由であり、我が軍では常識だ。その時雨と夕立は我々に歯向かった平和な未来の危険因子になりかねない」
「平和は一人一人が人間として確かな価値観を持たなければ一生なりえません。それは艦娘にも与えられる権利です」
「貴方が人間派とは意外だな」
「いいえ、元から人間だとは思ってませんよ。目には目を、歯には歯を、化け物には化け物を。素晴らしい考え方だ、ただ我々はその艦娘達の尊厳と自由を隠して縛り、何も知らない国民は兵器だとかこの国は平和だと呟く事が卑劣だと言っているだけです」
「白昼堂々と艦娘が戦う場面を見ろと言うのか?」
「その通り、青空の下鎮守府オープン状態で艦娘達がどうやって戦っているのかを実際に見せた上でこの国の現状をその目に焼き付けてから思い知らせた方が遥かに健全だ。だが我が国の愚かな国民はこの世界を平和だと認識し続けたいんです……自分達は平和な所にいて、誰かが死の海域で艦娘という名の兵器が深海棲艦を消し去ってくれるのを待つ。そうすればそれ以上怯えるなんて事は考えずに済み、この世界は平和であると思えるからだ。違いますか?」
「仮にそうだとしても、それもまた日本の平和だ」
「平和の為なら何もかも正しいんですか?」
「それが平和主義だ」
「そんな平和主義があるから戦争が起こるんだ!!!」
「果たしてそうかな?」
「そうに決まってるでしょう」
「些か古いな……人間は海上に浮かぶ敵、深海棲艦に対抗出来ない。誘導ミサイルや機関銃、迫撃砲を持ってしても討ち倒せなかった。だがその敵に対抗出来たのは……我々海軍、だよ。深海棲艦に対抗出来る兵器である艦娘、そしてそれを正式に扱えたのが海軍であり、日本を護る上で国民からの信頼は必要不可欠だからだ。日本という国の国民達を守り抜き、艦娘という唯一対抗出来る手段を使い、深海棲艦を倒す。その覆されない絶対的な信頼こそがこれからの平和な日本の未来を照らす。日本海軍はまさにその光だ。そして日本国民が考えた結論は、艦娘という兵器を使った軍人達が平和な日本を守ってくれている、というモノだった。愛する家族と、友人と、子供達の平和な未来の為に。艦娘は兵器だ」
周囲に座る軍人達が次々に拍手をする。それはまるで■■大将の演説を拍手喝采するような応援の拍手だった。拍手をしないのは提督と権力の低い新米司令官。提督は机に足を乗せたまま無表情でいた。
「いやー流石■■大将閣下、素晴らしい演説だ……いいでしょう、解体にすればいい」
提督は立ち上がり、長机に並ぶ軍人達を見ながら話し掛ける。
「確かに夕立はこの国を歯向かった反乱因子です。解体しなければならないかもしれません。次に襲われるのは貴方の家族かもしれませんからね、貴方の友人かもしれない、貴方の恋人かもしれない、貴方の艦娘かもしれない、或いは貴方自身かもしれない」
一人ずつ指をさし、誰しもが襲われる可能性を喋った。
「解体にしましょう。現場の目撃証言はあやふやだけれど解体にしましょう。証拠の写真が本当なのかよく分からないけど解体にしましょう。本当は夕立の正当防衛なんじゃないかという証言もあるけれど気にしないで解体にしましょう。事件発生時の状況なんて関係ない。脅迫されていたのにも関わらず、ストレス発散の為に自ら計画しましたと言っていたのだから解体にしましょう。それが反逆した艦娘という名の兵器の正しい末路だ、それがこの国の平和なんだ、なんて素晴らしいんだ。平和の為なら正しい、平和の為なら何をしようが全て正しい。ならば……平和の為と言えば暴言や暴力も許されるわけだ。私の大切な部下である灰司令官や白露、加賀達がどんな苦労をしてきたのか何も知らないのにも関わらず、今まで散々ボロクソに叩きのめしてきたのも平和の為と言えば問題無いわけだ……」
提督の語り声が全国に響く。家のテレビ、店の公共テレビ、街の大型街頭ビジョン、公共のラジオ放送、動画サイトの生放送。ありとあらゆる情報伝達手段が提督の姿、声、感情を世に発している。そして──、
「……ふざけるなよ……――」
「――……ふざけんのも大概にしろよッッ!!」
──ぶつけようのない怒りに提督は激しく怒鳴った。
「本当の平和は、人類がいる限り存在しない……架空の現実だよ。こんな会議で艦娘の存在を争っているようでは一生あり得ない。であれば私は何度でも言い続けよう……彼女達の存在を決めるのは我々人類ではない、彼女達自身が決める事だ」
何度でも提督は言い続ける。
兵器だ、人間だ、それを決めるのは自分達人間ではなく艦娘達が決める事。自分を人間だと決めて思い込んでいるように、艦娘達も自身が何者なのかを決めて思い込む事こそが重要な事なのだ。周りに頼ってはいけない、周りに何を言われようとも自身を肯定し続ける。それこそが大事なことだと提督は思っていた。
「だが我々愚かな国民は艦娘を兵器だと信じて疑わず、人間らしい行動でもすれば兵器として感情を無くさせ、人である事を喪失させてしまう……それが愚かな我々だ。だが世の中にはその人である事を喪失してしまった艦娘を支えようとする馬鹿達や自身の誇りを賭けて自らを人間だと証明しようとする馬鹿達もいる。己の信念だけを頼りに他者を救おうと自らを犠牲にする馬鹿達がね」
その馬鹿達とは誰の事だろうか。昨日暴行された灰色と白露の事か、それとも荒くれ鎮守府でわざと傷を負った艦娘達の事か。それは提督にしか分からない。だが荒くれ鎮守府の方で食堂のテレビで生放送を見ていた艦娘達は理解していた。
「その馬鹿達のおかげで今日、駿河鎮守府の青葉さんは人である事を取り戻し、時雨と夕立が無実であり冤罪である事を自らの意思で証言してくださいました。更には艦娘とはどういう存在かを世に知らしめる為に戦ってくれたモノ達もいます。それらは塵一つにも満たない行動かもしれませんが、確かに艦娘という常識と偏見を変えたのです……――」
「――……私はその馬鹿達こそ……褒め称えるべきだと思う……!」
荒くれ鎮守府の憲兵や整備士達もテレビ中継をまじまじと見ていた。個室や講堂、医務室や食堂で見ていた彼等は艦娘達を見て驚く。元々この鎮守府にいた艦娘達は僅かに身体が震えていた。
秘書艦待機室で待機中の艦娘達も黙って会議の様子を見ている。提督の秘書艦である摩耶は微笑んで空を眺めた。
一方で連れていかれた瑞鶴は大本営の資料室で黒い箱を探し続けていた。提督が何の為に戦っているのかを摩耶に教えてもらっているからこそ、瑞鶴も揺るぎない信念で必死に頑張っている。人の心を持つモノとして抗わなければならない。
「信頼と平和の為とはいえ、反乱因子だと仰るならばどうぞ解体したって構いません。所詮この一連の議会の正体が貴方のご子息によるくだらない恨み晴らしでしかないのですから。単なる人生の暇潰しの為にね。そうでしょう■■大将閣下」
提督と■■大将がすれ違う。提督はこの事件の正体が息子である■■少尉による犯行だと確信している。■■少尉の親である■■大将は息子にせがまれ、仕方なく名乗り出たのだろう。
「元帥閣下は何の為にその偉大な席に座っておられるのですか? 兵器と決めつけるならあの場にいる艦娘達を秘書艦として連れていく事も待機室に用意されているベットやソファも必要ない。判決を下すのは断じて我々ではない……我が国が誇る最強の海軍の頂点であられる貴方とこの日本を護り続けている彼女達だけなのです!!」
元帥の目の前に立ち、この国の元帥がどういう存在かを知らせる提督。艦娘は何者かというどうでもいい事で争っている暇があるなら、深海棲艦を倒しに行った方が遥かに平和の道へ進むはずなのだ。誰もそんな単純な事を分かっていない、分かろうとしていない。如何にこの国が、国民が、意識が適当な物なのか、改めて確認出来た。
「……どうか日本とその日本国民を護る者の矜恃を持ってご決断ください……お願いします」
自ら頭を下げる姿を全国に晒す提督。元帥と共に大勢のカメラのフラッシュに照らされ、長い時間をかけて頭を下げた。提督にとって唯一の手段だろう、仮にも中将である提督が頭を下げる姿を全国に晒すなど自身のプライドを溝に捨てたも同然。それでも提督は一切の躊躇もなく、その軽い頭を大切な部下の為に下げたのだ。
「数々の無礼、お気を悪くされたかも知れませんが、所詮は海軍一の減らず口で嫌われ者の軍人の戯言です。どうかお聞き流し下さい……以上です」