「そ、そんなッ……」
「……」
黒い箱の中身を確認した一同は驚きの表情を隠せずにいた。提督でさえもその表情を浮かべ、そしてニヤリと口角を上げている。中に入っていたのは一枚の写真と一つの束ねられた書類。
「提督……」
「……この資料で全て把握出来た。この鎮守府には元々いたんだよ、軍人が」
提督は束ねられた書類を手に取る。ホッチキスでまとめられた書類には驚愕の真実が事細かに書かれていた。それがまるで幻想に思える程、提督は手を震わせる。
「何故前任が新たな深海棲艦の親玉になったのか、それはある目的からだった」
「目的?」
深海棲艦と艦娘が現れたその当時、解析不能とされていた技術を軍は一から解明しようとしていた。深海棲艦という存在、艦娘という存在、どちらも現実世界ではイレギュラーな存在であり、小型化された艦載機や艤装の仕組みは全く分からない。どれも女性の姿をしながら自身の意思で攻撃可能、海を駆ける事が出来る。現代の科学技術では到底追い付けない、遥か未来の技術が駆使されていた。
当然軍は恐れた。
遥か未来の技術を駆使した兵器に勝てる作戦は無い。今は深海棲艦という敵が存在し、人間を敵視する事は無いだろう。だがやがて深海棲艦という存在が消滅し、艦娘だけとなったこの世界で戦う為に生まれてきた自我のある兵器達は次に誰と戦うか。
誰もが簡単にその結果に辿り着いた。
「次の敵は……我々人間に違いない、と……」
「ッ!?」
何故当時の軍はそう思ったのか。
理由は
「そんなのでっちあげよ!! 私達が反抗するはずないじゃない!!」
「今のお前らはそう思って当然だ。だが昔のお前らはそれだけ俺らにとって脅威でしかなかったんだよ」
だからこそ軍は徹底的に艦娘を支配させた。偶然にも提督という存在を艦娘達は欲しており、支配する上ではこの上ない機会だった。
そして兵器と決めつけて感情を無くす事で人間からの反抗意思を消失させ、将来深海棲艦が消えたとしても反抗する事が無いように軍は指示を出した。
これが後に続く艦娘兵器思想の始まりになる。
後は深海棲艦をどうするか。
艦娘達が戦っている相手として今は時間稼ぎをしてくれているようなもの。いつ滅んでいくのか分からない。
生態も謎でしかない連中だ、どうする事も出来なかった。しかしそこにちょうどよく深海棲艦の提督らしき人物の発見が目撃された。
そこで各国の軍は軍と通じる事が出来る者を深海棲艦の提督として着任させ、互いに情報を共有。お互いを戦わせる事で相討ちにさせ、この世から深海棲艦と艦娘を消滅させる計画を立案した。
その計画の名は『人造人間型生体兵器完全消滅計画』、通称『ABC計画』。
計画に基づき、各国の軍は艦娘達を使って深海棲艦の提督を徹底的に追い詰め、ようやく確保に至る。深海棲艦の提督という椅子が空き、誰が操るのかという国同士の会議で日本が選ばれた。
選ばれた日本海軍は誰が操るのかを決める為に一度、各鎮守府の提督達を招集。当時荒くれ鎮守府の提督だった存在αは何らかの方法でその事を知ってしまい、上層部に訴えてしまった。極秘情報だった為に世間に知られてはまずいと上層部は暗殺を計画。その暗殺を実行したのは存在αの部下であった前任だった。
前任は上層部から存在αの暗殺を承諾し、暗殺を試みる。しかし──、
「この資料を見た通り、暗殺は失敗している。だが……」
暗殺に失敗した前任は次に艦娘に殺させる様に計画した。どちらにせよ殺した所で隠蔽され、表沙汰には広まらない。上層部から保障されている以上、殺し方は自由だ。そこで前任は存在αの秘書艦だった■■を利用し、■■に事故の様にして殺害させる方法を考えた。結果、作戦は成功し、■■は存在αを殺害。事件は上層部によって表沙汰には■■■鎮守府憲兵殺害事件と呼称され、存在αや■■、前任は表に出る事は無かった。
そして上層部の計画が始動。初め前任は荒くれ鎮守府の提督として着任し、深海棲艦と繋がるまでは自由にしていた。艦娘を兵器として蔑み、自身は神様だと思い込むような自尊心の塊で荒くれ鎮守府の艦娘達の精神は大きく歪み始める。元帥が変わっても尚、前任はその事を隠し続けた。ようやく深海棲艦と繋がる事が出来た前任は鎮守府を捨てる様に夜逃げ。この鎮守府に爪痕を残したまま、去っていった。
「だが上層部とはいえ必ずしもそう思える者はいなかった様だ」
黒い箱の中身には写真と計画書の他にメモ書きが内封されていた。メモに書かれていた言葉は、『これを見た者へ託す、この世界に抗え』。そして最後に現在は■■大将の名前が。当時は中将だったのだろう、ならば上層部には詳しいはずだ。
「これはあの男の……」
「成程、これを残したのは■■大将か。恐らく誰かに止めて欲しくて託したんだろう、次の後継者に」
「後継者って事は提督に?」
「かもな。アイツは元からのこの事情を知っていた、そしてその闇を暴く為に元帥と俺にだけ知らせたんだ。黒幕にバレない為にな」
黒幕にバレない様に隠した黒い箱。頑丈に施錠され、鎖で封じられたこの箱を■■大将は資料室のどこかに隠したのだろう。次の確かな正義を持つ者へ託す為に。
「その黒幕ってのは……」
「この世界の“人間”だよ」
「ッ……!!」
この世界にいる人間を黒幕だと示唆する提督。あまりにも無謀且つ、詭弁過ぎる解答に摩耶でさえも疑問に思った。提督は黒い箱ごと応接間に持っていき、テーブルに置く。そのままソファに座り、リモコンでテレビをつける。今まで自分が纏めた資料と照らし合わせた。摩耶やプリンツ、瑞鶴もソファに座り提督の話を聞く。
「人間の誰もがそう思ってしまった。一度思いついた思考からはそう簡単に抜け出せない。思考はやがて周辺に感染し、艦娘は脅威だと信じて疑わなくなってしまった。何故ならそれを目の前でお前らが実践していたから」
深海棲艦に侵略されていた当時、突然現れた艦娘という存在は世界の在り方を大きく左右させた。今まで対抗出来なかった深海棲艦をいとも簡単に倒し、圧倒的な戦闘力や機動力で海域を制圧した艦娘は良くも悪くも人間からのイメージを変えてしまったのである。
「人間は他の人間の空気に流されやすい、故に思考の感染も早い。今でも艦娘は兵器だとか人間だとか言い争っているのも、違う思考の感染による衝突だ。誰かが最初に決めた事を否定もせずに肯定し、違う事に気付いた時には既に遅く、対立しながら言い争うんだよ。愚かな人間達は」
『艦娘はどちらだと思いますか?』
『艦娘が兵器か人間か? 兵器に決まってるでしょう』
『ああいうのは兵器でいいんだよ』
『僕は人間でいいと思いますけどねー……』
『兵器じゃなかったら何なんですかアレは』
『人間の方がいいと思います。はい』
テレビではインタビューで艦娘は何なのかを問い掛けていた。艦娘は兵器か人間か意見が別れている。
「敵は人間って……これからどうすれば……」
「当時の上層部は殆ど病で死んでいるのに対して何故か計画は進んでいる。だとすればこの計画を進めているのは世界各国の軍にいる上層部の人間達。いくら立ち向かってた所で無理がある。しかもお前らに聞かなければならない事が出来た」
「聞かなければならない事?」
提督は神妙そうな顔で摩耶達を見る。
この計画書に今も躍らされている艦娘達の運命はもう決まっていた。いずれはこの世からいなくなる、つまりはこの世界から存在しなかった事になる。
愚かな人間達の憶測な思考によって理不尽に淘汰され、何事も無かったかのように世界はまた戻るのだ。自我を持つ兵器はこの事実を知り、どう思うのだろうか。
「もしこの計画を阻止したとして、お前らや深海棲艦はどうなるのか。当然各国の軍は黙っていられないだろう。どんな手段を投じてくるか分からない、もしかすれば艦娘に対抗できる武器で殲滅されるのかもしれない。俺や元帥、■■大将は殺されるかもしれない。日本が非難されるかもしれない。そうなった場合でも、お前らはどうする?」
計画を阻止したという事は世界を敵に回すようなもの。例え力を持っている提督や艦娘達でさえも、世界を相手に出来るのか。今までこの計画に触れたマスコミやメディアが消えた様に存在ごと抹消される可能性すらある。昔は艦娘に対抗できなくても今は対抗しうる武器がある。例え計画が頓挫しても一箇所に集めた所に新たな人類の叡智の兵器と炎で消される事だろう。
実際は深海棲艦や艦娘は滅ぶべきなのかもしれない。元々イレギュラー的な存在だ、自分達がいなくなれば世界はまた平和になる。世界は元通りの世界へと変わるのだ。
だがそこで自我を持っている艦娘はどう思うのだろうか。今まで国の為に戦い続けており、平和を心の底から願っている艦娘達が、この世界にいなくなる事で平和になるという真実。
全く皮肉でしかない。
当然摩耶達は葛藤した。このまま生きていきたい、だが死ねば平和になる。
仮に深海棲艦の親玉である前任を倒し、深海棲艦を絶滅出来たとしても生き残った艦娘や摩耶達は何らかの手段で殺されるだろう。逆に各国の軍が建てた計画が成功した時には艦娘や摩耶達は存在していないだろう。
所詮は早く死ぬか、遅く死ぬかの違いだ。
「……分からない。けど、そんな事考えた所で前には進めない。艦娘として生まれた自分を憎みたくはないんだ。なら最後まで抗い続けるよ、提督と一緒に」
「摩耶……」
「それにあの時約束しただろ? 死ぬ時まで共に生きていくって」
そうだ、約束した。共に最後まで抗い、生きていくと。
あの地獄から抜け出す為に必死に生き抜いた二人が貫き通した決意。お互いに助け合い、励まし合い、戦い続けると決心した。
再度目を開いた提督は微笑み返す。
「……摩耶ならそう言うと思ったぜ、流石は俺が惚れた女だ」
「当たり前だぜ……提督……!」
互いに右手を振るって叩く。叩いた音が執務室中に響いた。
そして提督と摩耶はニヤリと笑う。今度もまた乗り越えてみせようと静かに決意した。それを見ていたプリンツが頬を膨らませて会話に乱入する。
「もー! 二人でいい気分になるのは構いませんが、私達がいる事も忘れないでくださいよー!!」
「あ、あぁそうだな。お前らは?」
「勿論! 貴方についていきます!」
「……ッ──!! だったら私だって!! やってやろうじゃないの!! 私達艦娘がどれだけ良いのかを思い知らせてやるんだから!!」
プリンツや瑞鶴も摩耶と同じく提督の手を叩き、共に戦う事を表明。この先どんな未来が来ようとも抗い続ける。皆の覚悟は決まっているようだ。
「ま、取り敢えずだ。前任を倒すしか方法は無いという訳だろ? 提督」
「そうだ。唯一の可能性として前任を確保すれば何かしら変わるかもしれない。だがその前にお前らのイメージアップも必要だ」
「イメージ……アップ……?」
「まぁ後々考えるとしよう。さて……もう一つの問題は……」
それは一枚の写真に写された二人の姿。計画を知り、口封じに消されたと存在αとその口封じに利用された■■がいた。殺害方法についても前任が■■を使って事故死に見せかけたと書かれている。
「存在αの殺害に■■が利用されたのか……」
「存在αじゃなくて正式には■■■中尉。かつてのお前の提督だ、瑞鶴……瑞鶴?」
名前を聞いた途端に瑞鶴が頭を抱えてしゃがみ込む。唸り声を上げ、苦しそうだ。摩耶とプリンツが傍に駆け寄る。頭痛にしては叫びたい程の激痛に暴れたくなる。息が荒くなり、膝を床に着いた。
「痛い……! 頭が……うっ……!」
「瑞鶴!? おい瑞鶴、しっかりしろ!!」
「記憶に何かしら響いたようだなぁ、何が思い出したのかな?」
舞鶴の榛名が言っていた様にこの鎮守府の艦娘達は記憶障害を引き起こしている。存在αは記憶から抹消され、前任が提督だったと改竄されている以上、名前を聞けば何かを思い出すかもしれない。現に瑞鶴は変な頭痛に苛まれている。
「大丈夫か? 瑞鶴。医務室行くか?」
「いや……大丈夫。続けて……!」
瑞鶴は最後まで話を聞くらしい。激しい頭痛に頭を抱え、汗を掻きながらも存在αについて知りたいようだ。提督はその姿を見て、話を続ける。
「……■蒼■中尉を殺したのは前任であり■■。もう存在αって呼ぶの面倒だし、色々危ないから蒼と呼ぼう。まぁでも腑に落ちないなぁ、であれば何故■■は差別意識を続けさせるような事をしたのか、理由には全くならない」
「直接聞いてみますか? ■■に」
「まぁそれが一番だ。だが■■は容易に吐かないだろうな」
「だったら……私にやらせて……!!」
瑞鶴が自ら志願してきた。
確かに瑞鶴から聞いた方が早いかもしれない。以前■■の仲間だった、艦娘同士という点も含めて最適だろう。
しかし問題もある。洗脳より目を覚ました瑞鶴を■■達はどう扱うのか、下手をすれば怪我する可能性もある。
「瑞鶴……」
「お前がやるのか?」
「えぇそうよ……! これは私達の問題よ……私にやる権利がある……!!」
真剣な目で提督に訴える。必死になっているその表情はまさに人間そのものであり、本当に解決したいという意気込みが伝わってきた。
「だったらやってみろ。精々怪しまれないようにな、それにこの事は他言無用だぞ」
「分かったわ……」
答えた瑞鶴はプリンツに支えられ、執務室を出ていく。執務室に取り残された提督と摩耶は計画書の続きを見る事にした。
「瑞鶴は大変だろうな。これから先は」
「俺らも同じ事だ、こちらの計画を少し崩すぞ」
ジェット・イエロージルコン・エクリプス・ヘマタイト・マラカイト・アポフィライト・メタモルフォーシス・ゴールドダスト・モルダバイト・メテオライトetc...
呪文とかじゃないです。
一番好きな結末は何ですか?
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