うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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93. 空を自由に飛びたいな

「あ、そういえば灰」

 

 今日も同じ一日が続く。同じように提督と今日の秘書艦である鈴谷は書類を片付け、灰色と時雨は遠征任務の書類を作成していた。

 すると提督から思い出したかのように灰色は呼ばれる。

 

「はい、何でしょうか」

「お前に一度会いたい奴がいるのを忘れる所だった。呼んでも構わないか?」

「大丈夫ですよ」

 

 灰色の了承を得て、提督は手を二回叩く。執務室のドアからその会いたい人物が現れた。白い長髪に白い肌、その姿を見て灰色は目を丸くする。

 

「……え?」

「ん? どうした? ご対面だぞ?」

「え、いやその……白さん……この方って深海棲艦、ですよね?」

「そうだけど? 一度お前に会いたかったそうだ」

「えぇ……」

 

 生まれて初めて深海棲艦を生で見た灰色。美しく華麗な姿に一瞬見蕩れそうになった。両頬を叩いて目を覚ますも、敵を目の前にして怖気付いてしまう。

 

「大丈夫だぁ、安心したまえ。艤装は剥がしてあるし、そもしもそいつ自身に敵意は無い」

 

 敵意は無いとはいえ、その姿は圧倒的なものだ。一般人なら怯えても仕方ないレベルで恐怖を感じる取り敢えず飛行場姫と灰色は応接間のソファに座り、面と面で話す事になった。

 

「初メマシテ……飛行場姫ヨ……」

「ど、どうも……灰、です……」

 

 沈黙が続く。

 お互い緊張しているのか一言も話さない。

 まるで初めての男女がお見合いしたら、恥ずかしくて何も話せない様な雰囲気だ。沈黙は約十分続き、痺れを切らした提督が話し掛ける。

 

「お見合いじゃねーんだぞー、何か話したらどうだー?」

「……すいません、ちょっと席を離れますね。すぐ戻るので……」

「分カッタワ……」

 

 灰色は一旦席を離れ、提督の元へ向かう。執務机の陰に隠れた灰色と提督は小さな声で話し合いをした。

 

「どうした灰」

「どうしたじゃないっすよ!! 最も危険な姫クラスじゃないっすか!! 安心しろと言われて安心しない方がおかしいっすよこれ!!」

「だから艤装は剥がしたし、敵意は無いって言っただろうが。あれでも俺に怯えてんだぞ」

 

 灰色がそ〜っと頭を上げ、ソファに座る飛行場姫を確認する。飛行場姫はただ何もせずに下を向いたまま無表情だ。

 

「アレでですか!?」

「アレでだよ」

「人をゴミの様に見てるような目ですよアレは!!」

「お前から見た飛行場姫は天空の城の末裔にでも見えてんのか」

 

 灰色が迫真に訴える。

 確かに灰色が怯えるのも無理はない。初めて深海棲艦を見た挙句、話したいと申し込まれたのだから。普通は敵対しているはずが何故かこの鎮守府で大人しくしており、手錠や足枷もなく自由にしている。訳の分からない状況に頭がパンクしそうだった。

 

「だって私、深海棲艦を見るの初めてですよ!? 敵意は無くとも緊張しちゃいますって!!」

「うるさいなぁー!! つべこべ言わずにさっさと話してこい!!」

「うわっ!!」

 

 執務机の陰で話していたが、提督に蹴られて飛行場姫の視界に飛び出される。気まずくなった空気を変える為、灰色はまたソファに座り、飛行場姫に話し掛けた。

 

「えーと……あのー……すいませんね。少し白さんと話してました……」

「イイエ大丈夫ヨ……」

 

「話した方が楽だぜ!」

「灰さん頑張って!」

「言っちゃいなよ、男でしょー?」

「(あの人らはぁぁ……!!)」

 

 外野から小さな声で話せと唆された。思わず拳を握って歯を噛み締める灰色。他人事だと思ってるのかニヤニヤとこの場面を楽しんでいる。

 

「モシカシテ……怖イ、ノカシラ。私ノ事……」

「……っ! そうですね……失礼ながら少し怯えています。ごめんなさい」

「イイエ、仕方ナイワ。元々ハ敵同士ダモノ……怯エテ当然ヨネ……」

 

 飛行場姫の言葉に灰色は考えた。確かに提督の言う通り、敵意は感じられない。ましてや敵同士である事を悲しんでいた。悲しげな表情で灰色に話し掛けている。

 

「デモ信ジテホシイノ……話ガシタイッテイウノハ、コウイウ事デ……エート……ソノ……ナ、仲良ク……ナリタイ、カナッテ……」

「仲良く、ですか……」

 

 ただ単に飛行場姫は仲良く話したかっただけのようだ。敵でありながら仲良くという言葉を初めて聞いた。飛行場姫の様に人型の深海棲艦は存在している。

 

 しかしどの個体も対話は不可能と教え込まれていた。何故なら対話をしようと接近を試みた軍人が裏切られ、殉死した記録があるからだ。その事も踏まえ灰色は怯えていたのだろう。

 

 だがこの飛行場姫だけは提督が言っていた様に敵意は無い。本気で対話を望んでいる。折角緊張しながらも話し掛けてきている飛行場姫に対し、怯えていた自分が失礼に思えた。

 

「……分かりました。ではこれから仲良くなる為にも、お互いに握手しましょう」

「ソウネ……」

 

 互いに手を差し伸べて握る。意外にも飛行場姫の体温は温かく、人間とさほど変わらない。白い肌の手はとても綺麗で、触り心地がいい程だった。二人とも照れながら優しく手を握っている。

 

「よろしくお願いします。飛行場姫さん」

「コチラコソヨロシク……灰サン……」

 

「何だろう……見ててイライラする」

「同感だ時雨、いっちょバズーカ砲でもぶち込んでやるか」

「提督、そのバズーカ砲にパイを入れてみようよ」

「名案だ、よし砲雷撃戦よーい」

「どこから持ってきてのか知らないけどやめなよ二人共。いい所なんだから──うわっ!!」

 

 鈴谷の忠告を聞きもせずに提督はお手製のバズーカ砲で時雨が持ってきたパイを発射。灰色目掛けて直撃するかに思えた。

 だが──、

 

「提督ー、明石から──」「「「あ」」」

 

 一同青ざめて声を揃える。

 提督が撃ったパイは執務室に入ってきた摩耶の顔面に直撃。摩耶はそのまま立ち尽くしている。

 

「え? どうしました白さー……ん……」

「エ……? ア……」

 

 灰色や飛行場姫も提督達の視線を辿って惨劇を目撃する。何とも言えない状況に二人は固まった。そして固まった首で提督を見つめる。

 

「時雨、鈴谷、今日の仕事は任せた」

「え?」

「あれ提督──」「最後のガラスをぶち破れェェェェ!!!」

「待てェェェ!!!!」

 

 提督は地上三階の窓から突き破って飛び立つ。その後を鬼の形相の摩耶が追い掛けた。数秒後に提督の断末魔が鎮守府内に響き渡る。時々ベチャグシャなどの悍ましい音があからさまに聞こえた。

 

「あれはやられたね」

「やられちゃったね」

「白さん……何であんな事を……」

「アァ……提督ガ……」

「誰がパイを撃つなんて考えたのやら……」

「いや時雨だよね?」

 

 

 

 昼が過ぎ、午後の時間になる。前に提督をボコボコにした摩耶に伝言を聞いた提督は天龍と一緒に工廠へ向かっていた。

 

「いらっしゃいませー……って、どうしたんですか、アンパンマンみたいな顔して」

 

 提督の顔は面影が無いほどにまで腫れていた。まるで蜂に刺されたようなあられもない姿に思わず明石は引いてしまう。何故か甘い匂いもする為、余計に奇妙だ。提督は渋々と落ち込んだ表情で説明する。

 

「摩耶にパイを投げられた挙句、殴られた」

「びっくりしたぜ。いきなり窓から提督と摩耶が出てくるからよ、そしたら今度は摩耶が馬乗りになって鬼の形相で──」「やめて天龍、それ以上俺の心を殴らないで」

 

 やけに提督が弱気だ。流石に天龍も弱った提督を見て驚いている。どうやら摩耶と口が聞けなくなった事に落ち込んでいるらしい。

 

「ま、まぁ取り敢えず、提督に報告したい事があって来てもらいました!」

「もう俺はパイを投げられ続ける運命なんだ……」

「まぁまぁ仕方ねぇって! こういう日もあるぜ提督!」

「うおぉぉぉぉ天龍ぅぅぅぅ~!! 今初めて俺はお前にこんな事で感動させられたよ~!! やっぱパイがデカイ奴は心もデカいんだなぁぁ~!」

「褒めてんのか貶してんのかどっちかにしろ、ヒラメの五枚下ろしにして叩き殺すぞゴラァ」

 

 提督が天龍に縋り付き、無様にも涙や鼻水を流して喚いている。天龍は声を掛けて励ますも、提督の言葉に苛立ち、縋り付く提督を引き離そうとしている。

 しかし提督の握力は凄まじく、粘着テープの様に離れない。天龍は無理矢理提督を引き剥がそうとしていた。

 

「白髭さん……これ、話聞いてくれるんですかね」

「さぁな」

 

 

 

 ──五分後。

 

 

 

「んで報告ってのは?」

「やっと落ち着いてくれた……はい! 実は白髭さんと共同で、ある代物を開発しました! これです!」

 

 明石が出してきたのは前腕に装着する形をした長さ約三十センチメートル、半径約三センチメートルの筒の様な物。ドラム缶を小型化したようなその装備は少し重く、成人男性なら軽く持てる程だ。

 

「……これが?」

「はい! 天龍さん! 装備出来ますか?」

「おう、いいぜ」

 

 明石の指示通りに天龍はその装備を左前腕に装着する。手首の長掌筋辺りに装着され、意外にも装着は簡単で艤装にある程度は邪魔をしない。しかも軽めに設計されているのか腕の負担も殆ど無かった。

 

「これは何なんだ明石」

「はい! これはで──」「うわッ! グヘッ! バッ! ギャッ! ヤッ!」

 

 突然天龍が空を舞い、空気が抜ける途中の風船の様に工廠内を駆け回った。壁や天井に激突し、怯み声を出しながら地面に激突。上半身が地面の中に埋まった。反応が無い天龍に提督が近づく。

 

「おーい天龍ー、大丈夫かー? 下着見えるぞー? あ、見えた。黒かよお前、誰狙って──」「殺すぞクソ野郎!!」

 

 下着を見られたのが恥ずかしかったのかすぐさま起き上がり、提督を思い切り殴る天龍。寝転がった提督を足で抑え、刀を持ち出して提督に向ける。

 

「あのー……」

「あ、あぁ腹空かして待ってろ明石、今すぐこのクソ野郎を三枚下ろしにするからよ!」

「いいえーご遠慮しておきますー」

 

 流石に明石も提督を食べるなどといったカニバリズムでは無いので丁寧に断った。

 

「退け天龍! んでこれは何なんだ?」

「はい! これは艦娘でも一時的に空を飛ぶ事が出来る、その名も! テッテテッテーテーテテー! 小型ジェット噴射機です!」

 

 某青狸の曲を真似たような音程で装備を紹介した。更には決めポーズまで決めて自信満々な表情をしている。明石が言うには小型ジェット噴射機というらしい。

 

「小型ジェット噴射機ー?」

「はい! 以前の古鷹さんと加古さんの模擬訓練を参考に、斬新な艦娘の戦闘スタイルとして開発しました!! 予め圧縮した空気を内蔵し、噴射口から一気に空気を放出します! これを装備すれば一時的に空を飛ぶ事は勿論! 反動の応用で瞬間移動、なんて事も出来ちゃうんですよ!!」

「あーだからさっき天龍が空気が抜けていく風船みたいのあちらこちらに飛んでったのか」

「まぁそれまだ試作型なんですけどね」

「それを早く言えェ!!」

 

 被害を被った天龍が苦言を申し立てる。何も知らずにつけて教えられもせずに勝手に作動し、怪我を負わされれば怒るのも当然だろう。

 

「いやいやテストですよ、テストテスト」

「そうじゃよ、テストも兼ねてじゃ」

「そうだそうだ、テストなんだよバーカ」

「他人事みたいに言いやがって……!! しかも最後悪口聞こえたぞコラァ……!!」

 

 明石や白髭がテストだと言い張る。提督も一部罵言を混ぜて仲間になっていた。調子のいい提督に拳を握り、天龍は怒りをあらわにする。何分か経ち、四人は小型ジェット噴射機について色々と話し合っていた。

 

「うーん……確かに使い道はあるが、それ相応の訓練も必要になるな」

「飛んだ時の腕の反動が凄まじかったぜ……慣れないと無理あるぞ提督」

「だと思った。反動があるなら腕自体の衝撃も充分にある。使うにしても慣れがある訳だ」

「でもこれはまだ試作型なので完成型になれば多少の衝撃は中和出来ますし、出力の調整も操れると思います」

 

 確かにまだ試作型だ。完成型になれば衝撃緩和や出力調整など意のままに操れるだろう。そうすれば本格的に実用も悪くは無い。

 だが難点もいくつか存在する。その装備を扱う為に慣れる訓練が必要になる事だ。いくら試作型とはいえ完成型もそれ相応の衝撃は腕全体に響き渡る。順応しなければ到底は扱えない。

 

「……分かった。完成型はいつ出来る?」

「早くて一週間程かと」

「一週間か……まぁ大丈夫だろう。完成したら報告するように」

「分かりました!」

 

 完成型となれば実用性は充分だろう。使い方次第では艦娘の戦闘スタイルに革命を起こすかもしれない。熟練度が上がれば敵の不利な状況にさせる可能性すらある。提督は小型ジェット噴射機の開発を認め、完成型の開発を急がせた。

 

「なぁ提督、これ使って訓練やってもいいか?」

「構わないが医務室送りはやめろよ」

「よっしゃあ!!」

 

 

 

 

「あ、天龍」

「何だ?」

「黒パン見えないようにしろよー」

「黒じゃねぇよ!! 紺だ!!」

一番好きな結末は何ですか?

  • ハッピーエンド
  • バットエンド
  • ビターエンド
  • メリーバットエンド
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