うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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94. 役者は揃いも揃って下手ばかり

「帰還したわ~って、珍しいわね。アンタが私達を迎えるなんて」

「勘違いするな、たまたま居合わせただけだよ。もう少し頭を柔軟にしたまえ年中反抗期の幼稚園児」

「ハァ!? 本当に何なのアンタ!!」

「まぁまぁ満潮さん落ち着いて……提督、ご報告があります。執務室にてお願い出来ますか?」

 

 天龍が小型ジェット噴射機を装備して工廠を飛び出した後、遠征任務を終えた浜風率いる艦隊が帰還してきた。整備士達によって艤装のメンテナンスが始まり、話し合う場面を見れば艦隊との仲もそう悪くは無い。少しずつではあるが距離は少しずつ縮まっているように思える。

 

「んで何だ報告ってのは」

「はい。ある深海棲艦に動きが見られました」

 

 旗艦浜風から報告があると執務室に戻された提督。執務室には秘書艦の鈴谷や、灰色と時雨がいつも通り仕事をしている。

 

「私達は遠征帰還途中に偶然遠くから確認しただけなので戦闘になる事はありませんでしたが、明らかに他の深海棲艦とは特殊な艤装をしており、強化された深海棲艦、軽巡棲鬼と私は推測しています」

 

 浜風の報告ではその軽巡棲鬼は異様に感じたという。他の深海棲艦とは違って艤装の展開が珍しく、そして単騎行動で制圧海域外を徘徊しているらしい。

 

「特殊な艤装ってのは普通の軽巡棲鬼より何か違かったのか?」

「はい。艤装では無く足で海を立っており、軽巡棲鬼を囲うように艤装が浮いている様な感じでした」

「そうか……」

 

 確かに通常の軽巡棲鬼とは異質だ。

 特殊な艤装展開に謎の単騎行動、また何か企んでいるのかもしれない。制圧海域外というのがなお厄介だ。視察が目的か、はたまたそれ以上の目的か。どちらにせよ警戒は怠らない方が良さそうだ。

 

「この軽巡棲鬼は制圧海域に侵入していないので、例え侵入されたとしても他の鎮守府の艦隊が制圧すると思います。ですが様子が変でしたので一応提督にも把握してもらいたく、報告しました」

「分かった、念の為に警戒レベルを上げておこう」

「ありがとうございます……しかしながら提督、少し質問があるのですが」

 

 ずっと気になっていた事を質問した浜風。周りは何気ない表情で仕事をしているので自分だけおかしいのかと自問自答しかけていた。

 

「何だ?」

「そのアンパンマンみたいな顔はどうされたのですか?」

「鍼治療」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

「矢矧、先に部屋戻ってるね」

「分かった。気をつけて」

「うん」

 

 講堂の奥で話し合いをしていた■■達の輪から外れ、一人で部屋へ戻る阿賀野。周囲から視線を感じたが、阿賀野は気にせずに部屋へ戻った。

 

「はぁ……」

 

 部屋の中に入り、ドアを閉めた途端に力が抜けた。阿賀野はその場に座り込み、溜息を吐く。もう一度立ち上がり、ベッドに身体を投げ込んだ。そして天井を見つめ、静かに呟く。

 

「悲しいなぁー……」

 

 阿賀野自身、どう考えても■■側に非がある事は分かっていた。

 差別意識の延長や徹底的な艦娘達の支配、日に日に弱っていく艦娘達を眺める事しか出来なかった。勿論差別された側の艦娘の気持ちも理解している。今まで自分がしてきた事も当然許される訳では無く、あの時まで罪の意識を心の底で抱えて生きていた。

 

「もう嫌……終わって……」

 

 阿賀野は前任による優遇制度が始まって以降、差別意識は芽生えなかった上に元々無かった。前任が施したとされている薬の事は知らず、周りが豹変していくさまに怯えて過ごしていた。

 

 今まで全て演技で誤魔化してきた。

 

 周りが差別意識に芽生え、かつての仲間を蹴落としていくように、自分も差別した側として混ざるようになった。全ては自己保身の為、差別された側に混ざりたくないが為の行動。皆は何故仲間を貶めているのか分からない、何故そんな気軽に仲間を殴れるのか分からない。理解出来ない野蛮な行動の数々、阿賀野自身もそれを真似するしか生きる道は無かった。

 

 もし助ければ自分も差別された側の仲間入りだ。いや、差別した側とされた側に蔑まれ、ろくな事にはならないだろう。赤城や長門の様に反抗する艦娘も現れたが、前任を消す事は到底叶わなかった。■■も何故その制度を進めたのか分からない。前任の秘書艦である■■が、提督が来るまで進めていたのか分からなかった。

 

 分からない事だらけだ。考えたところで時間の無駄、だが頭の中で強く引っ掛かる。もう気にしたくない、そんな気持ちでいっぱいだった阿賀野は両目を片腕で隠し、そのまま眠りについた。

 

「……寝てたわ」

「おはよう阿賀野姉、調子はどう?」

 

 目を覚ませば隣に矢矧が居た。阿賀野が起きるまで待ってくれていたらしい。窓を見れば空が赤く焦げている。そろそろ夕飯の時間に差し掛かっていた。

 

「大丈夫よ……そろそろ夕飯ね、行きましょう矢矧」

 

 いつも通り食堂へ向かう阿賀野と矢矧。食堂内は通常運転で賑やかになっている。一部視線は感じるがお互いに無視し合っていた。

 

「待て鹿島ァ!!」

 

 食堂内に提督の怒声が響き渡る。賑やかさを一瞬掻き消す程の大声は二階からだ。提督は鈴谷、灰色や時雨と一緒に食べている。道を挟んだ隣の席には鹿島が座っていた。

 

「人の味噌汁にオレンジジュースを入れやがったな!! おかげで味噌汁が酸っぱい上に不味くなっただろうか!!」

「そっちこそ!! 牛乳を入れられた所為で味噌汁がシチューになっちゃいましたよ!! どうしてくれるんですか!!?」

 

 また提督と鹿島が騒いでいる。どちらも似たような悪戯をして、苦言を申し立てたのだろう。二人はまたジャンケンをして、変なアメリカン口調で話している。

 

「騒がしい連中ね」

「そ、そうね……」

 

 あまり会話が続かない。

 ここ最近は機密情報が漏れないように最低限の会話以外は何も話さない事になっている。阿賀野は仲間と話せなくなる事に少し不満を感じていた。

 

「矢矧……そ、その……調子はどうなの?」

「問題無い、直に■■が行動に起こすみたい。奴が落ちるのも時間の問題かな」

「後は行動に移すだけ……か……」

「ん? 何か名残惜しい事でも?」

 

 矢矧が阿賀野の表情を見て、未練はあるのかと問い掛けた。声を大にして未練はありありだと訴えたい。だがそんな事でもすれば怪しまれるのは必然だろう。また演技しなければいけない。

 

「い、いやただ単にそろそろ終わるのか……って思っただけ」

「そうだな……やっと終わるんだ……」

「終わる……」

 

 終わる、という言葉がとても心に深く刺さった様な感覚がした。また■■の支配が続く、自分達が死ぬまで一生続く。また自分を偽って演技し、自身を守らなければならない。途方に暮れる様な自分の無様な人生に無言を保つ他無かった。

 

 このままでいいのだろうか。このまま何も知らずに終わらせればそれでいいのだろうか。

 

 分からない。

 結局自分は人を裏切る様な事は出来ないのだ。

 

 裏切る勇気も、裏切る覚悟も。

 

 自分の人生は誰かの為に存在し、いい様に扱われ、最後はゴミのように棄てられる様な物。変わろうと思わない、変えようともしない。差別された側と同じ、自分は周りに振り回されるだけの臆病者だ。

 

「……もしもの話、だけどさ。もし私が提督側についてしまったら……矢矧はどうする?」

「裏切るの?」

「いやいや……もしもの話よ」

 

 心臓の鼓動音が聞こえてくる。裏切るの言葉で心が苦しくなった。実際に裏切る訳では無い、だがもし裏切ったら妹の矢矧はどうするのか。別に変な意味は無い、ただ率直に聞きたかった。

 

「そうね……その時は阿賀野姉についていく、かな」

「私に?」

「もう失う訳にはいかないからね。例えどんな事だろうと私は阿賀野姉の味方だし、裏切ったとしてもついていくよ」

 

 阿賀野達は過去に妹の能代も酒匂を失っている。前任の無茶な作戦行動で深海棲艦から大打撃を受けた能代は航行不可能と宣告され、危険海域にて放棄。酒匂は矢矧と同じ艦隊に所属していたが、深海棲艦の襲撃を受け、酒匂が消息不明となっている。

 

「そう……」

「それにその話は冗談でしょ?」

「勿論よ」

 

 阿賀野は流暢に言葉を返す。夕飯を食べ終え、矢矧は■■と話し合いがあると言われ解散。先に部屋に戻った阿賀野は部屋に着くなり、感情をあらわにする。

 

「何が勿論、よ……そんな訳ないじゃない……!」

 

 先程誤魔化す為に勿論といった自分を殴りたい。

 

 心の中では裏切るつもりでいた。これから■■達がやる事を全て提督に報告する。そうすれば■■の支配を止めさせ、■■は地に落とされるだろう。やろうと思えば簡単だ、だがそう上手くいく訳では無い。

 

 裏切る勇気も覚悟も無い自分に出来るはずもない。所詮は臆病者だ、差別された側と同類に相違ない。自身の保身の為に仲間の艦娘を蹴落とし、演技で誤魔化し続けた。

 

「嫌だ……もう……嘘つきたくないよ……」

 

 もしたった一つ、願いが叶えられるとしたら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──どうか神様、私に感情を奪ってください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女達の存在を決めるのは我々人類ではない……彼女達自身が決める事だ。いい見出しだよなー!」

 

 朝九時。

 太陽の光が暑く思える今日も、涼しい執務室で提督と今日の秘書艦である瑞鶴、灰色と時雨はいつものように仕事をしていた。

 しかし途中でサボって新聞を読んでいた提督は時雨と夕立の会議で述べた自身の言葉を見出しに使われ、新聞に大きく取り上げられていたのを灰色達に見せびらかしていた。

 

「なァに自分にベタ惚れしちゃってるのかしら」

「提督がテレビに出た時から提督の人気は急上昇、この鎮守府のイメージも少しは良くなりつつあるね」

「いやーこれだから人気者は困っちゃうよー!! テレビに出たら俺の美貌に可哀想な子羊達が誘惑されてしまうからなぁー!! だからテレビには出たくなかったんだー!! あー本当に困った困ったー!!」

 

 随分とご機嫌な提督は椅子から立ち上がり、窓の景色を覗きながら体操をしている。神出鬼没だった理由が下らない事に時雨がため息を吐いた。

 

「まぁでもこの提督の絶望的人格を知れば、誘惑された人達は幻滅だろうね」

「お前の本心見え見えの大根役者程じゃないがな」

 

 時雨の嫌味を即座に反論する提督。また椅子に座って瑞鶴が書いた書類の添削を始めた。意外にも瑞鶴の仕事ぶりは悪くなく、提督からガミガミ言われる事は無かった。

 

「提督さん、戦力強化の為に建造任務書が届いてるわよ」

「却下、そこら辺のボロ鎮守府にでも食わせておけ……さーて、今日は少し出掛けてくる。灰、一旦はここをお前に任せるぞ」

「分かりました、お気をつけて」

 

一番好きな結末は何ですか?

  • ハッピーエンド
  • バットエンド
  • ビターエンド
  • メリーバットエンド
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