うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

95 / 199
何とk投稿出来た


95. 人生で一度は人の金で焼肉を食べたい

「元■■■鎮守府所属金剛型戦艦、榛名。面会だ」

 

 薄暗い廊下を一人の憲兵が艦娘の名前を冷たく呼ぶ。頑丈に作られた白い壁の中で艦娘専用の拘束具を身につけられたまま座っている榛名は憲兵が呼ぶ声に反応した。牢屋の中というよりかは実験施設に等しく、至る所から照明が榛名を照らし、眠る事すらままならない。

 

 そして肌寒く、周辺の音は一切感じない無音の部屋。

 時間の感覚は掴めず、鳴る音はジャラジャラと奏でる鎖の音。

 

 まるで死刑囚の様な待遇に榛名は微塵も疑問に思わなかった。

 

「やぁやぁ榛名君、牢屋の住み心地は如何かな?」

 

 連れていかれたのは面会室。榛名は拘束具で縛られたまま車椅子に乗り、憲兵に移動させてもらっていた。ようやく拘束用のマスクを外してもらい、久しぶりに新鮮な空気を吸えた榛名。何十枚もの強化ガラスの先にはあの提督がいた。直接話す事は許されず、お互い目の前のマイクで話す事になっている。

 

「何の用ですか」

「なァに、別に怪しい事はしないさ。久しぶりにお前と話したかっただけだよ」

 

 あれほど過酷な環境下にいながら、榛名は血相一つ変わらない。目にクマは出来ておらず、如何にも健康に見える。榛名は真っ直ぐに提督の事を睨んでいた。

 

「何も話す事はありません」

「そうかなー? わざと俺達にヒントを与える様な真似をしたのは演技だと言うのかい?」

「えぇそうですよ……あんな事を言えば彼女は黙っていられない。動揺させる為の虚言です」

「んじゃ何で黙っていられないのかなー?」

 

 黙っていられないのならそれなりの理由があるはずだ。それこそ舞鶴の榛名が動揺する程の事実であれば至極当然。明らかに存在‪α‬と何かしら関係性はあるようだ。前任が暗殺を企てて■■が存在‪α‬を殺した事実をこの榛名は知ってしまった。その結果、前任に洗脳される羽目になっている。■■と結託した理由もただ■■の言いなりになっていた訳では無い。そうならざるを得ない理由があったはずだ。

 

「……知りませんよそんな事」

「いいやお前は知っている。全てな」

「勝手に思っててどうぞ。私は何も知りません」

「まぁいいさ、時間はまだまだある。これからじっくりと話していこうじゃあないか」

「結構です」

 

 潔く榛名は提督の返事を断り、憲兵に連れていかれていく。提督は当然の反応に何一つ表情を変えず、面会室を出ていった。提督は確かに見ていた、榛名が連れていかれた際の表情が明らかに悲しげな表情だったという事を。

 

 面会室を出ると廊下には随伴艦の瑞鶴が待ってくれていた。提督から借りたスマホゲームに熱中している。

 

「んで、どうだったの? 提督」

「クマムシ程度」

「何それ分かんないんだけど」

「ナノメートル程の小さな不死虫だ」

 

 聞いた事のない虫の情報に困惑する瑞鶴。口を開けたまま、頬を引き攣っている。提督と瑞鶴が来た場所は大本営本拠地。榛名が収容されている地下施設に提督達は出向いていた。エレベーターで地上へ上がり、窓から溢れる太陽の光を浴びる。

 

「これはこれはごきげんよう、■■大将。調子は如何でしょうか?」

 

 途中の廊下で■■大将とすれ違った。■■大将といえばあの中継で提督と言い争った軍人。厳格な雰囲気を醸し出し、他人を寄せ付けないオーラを感じる。流石の瑞鶴も時雨と夕立を貶めた一員として警戒した。

 

「……すこぶる快調だよ。マラソン大会に出れる程にな」

「それは良かったです。私としても貴方がいなくなるのはとても心細い」

「お気遣い感謝する。こちらとしても君がいなくなるのは寂しくてね……何、この先の平和の為にも君は必要なのだよ」

 

 互いに振り向かず、背中を向きながら話している。顔すら見ずに相手の気分を伺っているようだ。次第に緊張感が増してくる、空気が張り詰めてきた。

 

「そんな言葉を言ってくださるとはこちらも戦い甲斐がございます。お互い頑張らなければなりませんね」

「そうだな……そういえば、君に伝えたい事があった」

「何でしょうか」

 

 

 

 

 

「君の鎮守府に所属している、時雨と夕立の件……すまなかった」

 

 背中を向けながら■■大将は提督に謝り始めた。それを聞いた瑞鶴は思わず声を漏らし、驚いてしまう。如何にも頭が硬そうな軍人が、目下の人に対して謝っている。提督は中将、ましてや■■は大将。簡単に出来る事ではない。

 

 それこそ自分の面子が潰れたも同然だ。そんな事など絶対にしないと瑞鶴は思っていた。

 

 前任がいい例だからだ。

 部下だった自分達に対して謝りもせずに除け者にし、偉い人が来れば必死に頭を下げている。幾度となくその場面を見た事があった。

 

「私とした事が少しばかり熱くなりすぎていた……本当であれば目に見えるような犯罪を息子の為にと、一方的に彼女達に押し付け、酷い目に合わせてしまった」

「……いえ、こちらも貴方を愚弄する様な発言を幾度かしてしまいました。謝るなら私もです……本当に申し訳ない」

「お互い様だな……明日、暇があれば君の鎮守府を訪問させてくれ。彼女達の謝礼も合わせて、な」

 

 提督も■■大将を貶める様な数々の言動に謝罪した。提督といえど罪の意識などは充分に感じている。時雨と夕立の為、灰色達の為とはいえ全国に醜態を晒す様な真似をした事は当然許される事ではない。

 

 人が持つ他人に対するイメージの八割が第一印象で決まる。提督と■■大将に対する全国民のイメージがどうなっているか分からない。

 

 それでも二人はそんな事など気にしておらず、軽い謝罪でこの場を収める事にしたようだ。それに■■大将は時雨と夕立に謝る為にも近々、荒くれ鎮守府を訪問したいと願っている。

 

「こちらは大歓迎ですよ■■大将。貴方とまた会えるのが楽しみだ」

「……では失礼するよ」

 

 ■■大将は一度も提督の顔を見ずにその場を去っていく。しかし提督が顔を背後に向け、大将の名前を呼んだ。

 

「■■大将」

「……何かね?」

「貴方が思う平和な思想、とてもいい考え方です。また会う時にじっくりと話し合ってみたい……抗う為にも」

 

 抗うと聞いた途端に■■大将は顔を僅かに動かした。あの黒い箱の持ち主が当時の■■大将ならば誰かが持っていったのかも確認しているはずだ。この反応は確信したに違いない。■■大将は一言を言った後、その場を去った。

 

「……だろう?」

 

 

 

 

 

 

 

「長門」

「何だ?」

「最近無理してないかしら。ずっと訓練に行ってばっかしで休んでる所なんて見た事ないわ」

 

 荒くれ鎮守府では艦娘達が訓練に励んていた。ある者は近接戦闘術を、ある者は模擬演習を、ある者は休憩を。艦娘達は自由に過ごしている。長門も模擬演習と近接戦闘を休む暇なく交互に繰り返し、寮の建物の裏で密かに休憩していた。それに気付いていた陸奥は長門に話し掛ける。

 

「ちゃんと休んではいる」

「えー本当かしらー? その休んでいる時間が数秒程度だったら休憩とは言わないわよ?」

「心配してくれるのか?」

 

 長門の言葉に陸奥は目を丸くする。

 ため息を吐きながらも陸奥は簡単に説明した。

 

「当然、貴方の妹よ? 心配しない方がおかしいじゃない」

「それはすまない事をした。少しばかり焦っていてな」

「焦り? 何かあったの?」

 

 長門は焦っていた。

 提督と摩耶が着任してから約一ヶ月半になる。深海棲艦が力をつけていく中で護る者の為に強くならなければならないと考えていた。

 

 理由は簡単だ。

 長門の中である存在が余計にその思いを焦らしていた。

 

「摩耶は知っているだろう?」

「えぇ知ってるわよ」

「どうしてもあの摩耶の強さに辿り着けるビジョンが見当たらなくてだな。ひたすらに訓練を受けていた」

 

 初めて艦隊として共に戦った時、模擬演習で敵として戦った時。摩耶の圧倒的な戦闘力を目の前で見ていた長門は摩耶の動きを参考に、様々な戦闘スタイルの応用を試していた。だがいくらやってもあの摩耶の強さに勝てる道筋が存在せず、辿り着けるかどうかすら悩み続ける羽目になっている。正直長門は少なからず憧れを持っていた。

 

「確かにあの摩耶は特別強いわね。やっぱ右眼が関係しているのかしら」

「第一に我々は提督と摩耶の事を何も知らない。過去や経緯、それまでの全てが不明だ」

「私は元深海棲艦説ってのを推すけど?」

 

 それは誰もが思っても当然の理由だ。摩耶の右眼、右顔辺りは深海棲艦を思わせる容姿になっている。透き通った白い肌に暗闇でも紅く光る眼。紅い線の様なものが眼を中心に頬に刻まれている。傍から見れば深海棲艦だと思われてもおかしくはない。

 

「それは皆把握している。あの眼は重巡棲姫そのものだ。摩耶の前では誰も言わない事にしている。摩耶自身も嫌っているだろうからな」

「んじゃ提督は?」

 

 摩耶が元深海棲艦だとすれば提督は何なのだろうか。

 

 摩耶同様に頬の傷と身体の斑な傷痕、白い肌に蒼く冷酷な眼。そしてあの性格。どのような境遇でこの地に来たのか分からない。それに暴行されても即時回復する程の自然治癒力、致死性の毒でも耐え切れる生命力。聞いた話では天龍を勢いよく蹴り飛ばしたとも聞いている。

 

 全てが想像のつかない事ばかりだ。

 

「……分からない。全てが謎だ……」

 

 よく思えば不気味だ。あの提督の方が遥かに人間を超越している。艦娘以上のハイスペックを兼ね備えているのに対し、それを周辺の者には行使しようとはしない。大体は暴力ではなく暴言で済まされている。

 

「とにかくだ、私はあの摩耶のように強くなりたい。今度こそ救える力を持つ為にも」

「目指す事に関しては何も言わないけど……時には休憩も必要よ。無理しないでね」

「ありがとう陸奥」

 

 

 

「あのお肉……食べてみたいなー……」

「うっ……思わず涎が……」

「とても美味しそうですね」

「アレだと腹が減ってしまうな」

 

 講堂にて休憩していた秋月達が設置されたテレビのバラエティ番組を視聴していた。グルメレポーターが美味しそうにステーキを食べている。更には食欲をそそる様な言い方で秋月達を魅了していた。

 

「たまにはガブって無造作に食べてみたいよね。こういうステーキとかさ、口に頬張ってガブっと」

「分かる~やってみたいよね~」

「今度提督にお願いしてみようかな~」

「案外頼めばやってくれるよー、あの提督は」

 

 楽しそうに話している中、通りかかった川内に話し掛けられる。川内は正装に着替え、訓練から戻ってきていた。神通も川内の後を追っており、同じく訓練から戻ってきている。

 

「川内さん!」

「提督は自由が大好きだからねー。私達の自主性を重んじてるのさ、アレでもね」

「まさに自由奔放って感じですものね。提督は」

 

 

 

「へーじゃあ、改二になりたいとか言ったらやってくれるかな」

「可能だと思いますよ北上さん。そろそろ練度も近いですし」

「頼めば買ってきてくれるクマー」

 

 秋月達と川内の会話を遠くから聞いていたのは北上と大井、そして球磨。訓練をサボっていた北上と大井は怠そうに休憩している。姉の球磨は可愛らしい熊の恰好をした部屋着を着たまま講堂に来ていた。

 

「球磨姉さん、その恰好は……」

「前、東京行った時に買ったクマー。どう? 似合ってるクマ?」

「まぁ可愛いらしいですけど……」

「淡白だなクマー! もうちょっと褒めろクマー! あ、因みに多摩もあるクマ」

「猫じゃないにゃー」

 

 多摩は可愛らしい猫の恰好した部屋着を着ている。北上と大井の対面席に座り、窓の光を浴びて気持ち良さそうに寝ていた。まるで猫のような姉の仕草に二人は言葉を失う。

 

「姉さん達は今日は休みか?」

「摩耶から訓練し過ぎって言われて強制的に休ませられてるクマー。後二日残ってるクマ」

「ゆっくりおやすみ出来て嬉しいけどねー」

 

 木曾も合流し、球磨型が全員揃ったところで話は更に盛り上がる。部屋着を着たままの球磨と多摩は摩耶に訓練し過ぎだと忠告され、なくなく休暇を持て余していた。疑問に思った木曾が問い掛ける。

 

「……? 何で訓練のし過ぎで休ませるんだ?」

「摩耶曰く、提督から『訓練のし過ぎで無駄な怪我を負い、万が一出撃する事になった場合、戦闘では足手まといにしかならないから適度に休ませろ』って忠告された」

「後、『サボってる奴らがいたら片っ端から摩耶に連れていく様に報告させろ』とも言われてるらしいクマ。ほらちょうどこんな風に」

「「え?」」

 

 球磨が話し終わった途端、大井と北上は正装の襟を誰かに掴まれた。背後を確認するとプリンツがいる。訓練をサボっていた二人は思わず青ざめた。

 

「あーれー」

「ちょ、北上さんが! やめっ、やめなさい! プリンツ!!」

 

 襟を掴まれたまま二人は摩耶に引き摺られていった。二人とも抵抗するがプリンツには勝てず、そのまま講堂を去っていく。

 

「サボってたのは北上姉と大井姉か……」

「変わらないクマ」

「うん、本当に……ッ!?」

 

 突然警報サイレンが鳴り響く。まるで戦中の空襲を思い出させるかのようなサイレンは鎮守府にいる者達と近隣住民達を恐怖に陥れた。

 

「何事クマ!?」

「警報……敵かッ!!」

 

 球磨達は急いで執務室に向かう。執務室に入ると提督の姿は無く、灰色と時雨、摩耶が忙しそうに話し合っていた。摩耶は小さな板のような物を耳にかざして誰かを待つように立っている。

 

「摩耶! 敵襲か!?」

「その通りだ木曾。今提督と連絡してる、もう少し待ってくれ」

『何だ摩耶』

「提督か、敵襲だ」

 

 小さな板から提督の声が聞こえた。それと同時に変な物音が鳴る。ため息を吐いた提督は面倒くさそうに摩耶へ伝えた。

 

『……んで敵の数は? 種類は? クラスは?』

「哨戒艦隊旗艦浜風の報告によると、数は一体、種類は海上型、クラスは鬼。恐らく特殊な? 軽巡棲鬼を目視で確認したとの事だ」

『成程ね……分かった、今すぐ艦隊を再編成しろ。旗艦は飛龍、その他は蒼龍、日向、最上、五十鈴、不知火。潜水艦は全員出撃な。その他の馬鹿共は近海の警戒レベルを引き上げ、決められた警戒網を見張るように。近隣住民、整備士と憲兵の避難を急げ』

「分かった」

 

 提督の指示通りに摩耶は鎮守府全員に指示を伝える。それを聞いた艦娘達は即座に訓練を止めて出撃準備、整備士や憲兵達は防空壕に避難し始めた。警報サイレンを聞いた近隣住民達も地下施設に逃げ込んでいる。

 

『後、作戦指揮は灰に任せる。摩耶がサポートしてくれ。今俺は呉にいて手が離せない。尚軽巡棲鬼は鹵獲不要、沈めてよしとする。もし飛行場姫が何か言ってくるなら意見も聞いてやれ』

「わ、私ですか!?」

『いいじゃないかぁ、これも経験だよ灰君。だが何かしでかしたら許さんからな』

「は、はいぃ……」

 

 軽巡棲鬼討伐の作戦指揮は灰色に任された。今艦娘を指揮する事が出来るのは摩耶と灰色のみ。であれば勉強も兼ねて灰色がやるべきだと提督は言った。突然作戦指揮に任命された灰色は緊張して、自身を落ち着かせている。

 

『って事で、後は頼んだぞ摩耶──(ドンキ~ホーテ~♬︎)あ、やべ』

「おいちょっと待て。呉にいるんじゃッ……切られた……クソが」

 

 摩耶はスマホをスリープモードにし、灰色を指揮席に座らせる。摩耶と時雨に見守られながら、灰色の本格的な作戦指揮が始まった。

 

「とりあえず始めよう」

「わ、分かりました!」

 

一番好きな結末は何ですか?

  • ハッピーエンド
  • バットエンド
  • ビターエンド
  • メリーバットエンド
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。