許さない。
憎き艦娘共を私は許さない。
阿賀野、矢矧を私は許さない。
制裁を。
藻掻き苦しみ続けるような制裁を。
この私が直接手を下す。
私の元の名は──、
──□□だ。
「軽巡棲鬼を目視で確認! 周辺海域の制圧を急いで!」
「敵潜水艦は確認したけどいなかった! 攻撃可能だよ!」
『分かった! ありがとう最上! 飛龍と蒼龍は制空権を頼むよ! 取った後に戦闘開始だ!』
「了解!」
灰色の指揮に合わせ、提督に選ばれた艦隊が青い海を駆けていく。目視で確認した飛龍達は戦闘態勢に入った。飛龍と蒼龍が航空機を発艦させ、空を制圧。海の中では潜水艦達が魚雷を装填させ、待ち構えている。
「確かに特殊ね……あの軽巡棲鬼は……」
「艤装が変形して、異様な姿になってる……」
「皆警戒して……何してくるか分からないよ……!」
軽巡棲鬼は攻撃されても尚、一歩も微動だにしない。周辺に水柱が立つも表情一つ崩していなかった。
だが突然、軽巡棲鬼の艤装が真横に回転。
標的を艦隊に定めて砲撃した。砲弾は一直線に最上へ向かう。
最上は砲弾を回避し、偵察機を飛ばした。
「視線を外さずのブラインド砲撃!?」
「ってかそれに反応出来た最上も凄いよね!?」
最上自身も驚いてはいた。敵の突然的な砲撃に反応し、咄嗟に回避出来たのは訓練の積み重ねによって編み出された物だ。プリンツや摩耶に扱かれる内に戦闘能力は十分に上がっている。
「まるで私達には興味が無いみたいね……!」
「どちらにせよ提督からは殲滅する様に言われてる。抵抗しなくてもやるよ私は」
依然として軽巡棲鬼は一歩も動かない。動く気配すら感じない。飛龍と蒼龍の攻撃隊が発艦され、空を艦載機で埋め尽くす。
「……空カラ……」
初めて軽巡棲鬼が動いた。飛龍と蒼龍の攻撃隊を眺め、首を上げて空を見上げる。次に遠くにいる艦隊に目線を移した。
「成程……少シハ変ワッタノカ──ッ!?」
軽巡棲鬼の周辺に水柱が立つ。突然の攻撃に怯み出した。この攻撃はあの艦隊からではない。水中から攻撃されている。
一方、水中では──、
「私達潜水艦に気付かないとはまだまだそちらの訓練は甘いでちね!」
「酸素魚雷六連発射するの!」
「魚雷一番から四番まで装填! さぁ、戦果をあげてらっしゃい!」
潜水艦達が一斉に魚雷を発射させていた。唯一海中を魚のように泳ぐ事が出来る艦娘は潜水艦のみ。彼女達はある意味特殊な存在とも言えるだろう。この攻撃は灰色の指示によって行われている。
軽巡棲鬼は情報として対潜装備が存在せず、潜水艦による雷撃が有効とされていた。恐らく提督はそれを睨んで潜水艦達を出撃させたのだろう。灰色もその事は理解していた。飛龍と蒼龍の空からの攻撃、海上での砲雷撃戦、そして水中からの雷撃。軽巡棲鬼を撃沈させる上では理にかなった戦法だろう。
だが──、
「チッ……!! 邪魔ヨッ!!」
軽巡棲鬼は跳躍。
身体を横に捻り、縦に回転した。
そして水中に潜む潜水艦目掛けて砲撃。大きな水柱が立ち、砲弾は潜水艦達に直撃した。
「ゴーヤ! 皆!!」
『対潜攻撃!? 軽巡棲鬼は持ってないはずじゃ……!!』
潜水艦のほぼ全員が中破。辛うじて意識を取り戻した伊168が倒れた伊19達を運び出す。
撃たれた砲弾は特殊な物で水中で分散し、小規模の爆弾が炸裂するタイプ。言わば水中型三式弾の様なもの。深海棲艦側でこの攻撃は初めてだった。記録に無い、情報にも乗っていない。新たに観測された新型砲弾だ。
「……標的、照準施錠。敵艦隊、全員捕捉。残弾確認……装填完了、戦闘形態ニ移行」
聞き慣れない言葉を言い放つ軽巡棲鬼は艤装を特殊展開。無いはずの両足が海面に立ち、二手に別れた艤装は軽巡棲鬼を囲うように変形する。眼が蒼く光り、身体全体が蒼いオーラに包まれた。約十二基近くの小型化主砲が出現し、両足の太腿に約八基の魚雷が装備される。
「……軽巡棲鬼・壊。砲雷撃戦ヲ……──」
全員が悟った。
この敵は一筋縄ではいかないと。
「──……開始スル」
一瞬の静寂が訪れた後、軽巡棲鬼と飛龍率いる艦隊は即座に戦闘開始。円を描く様にそれぞれ海上を高速で駆けていく。
「第二次攻撃隊、発艦!!」
「主砲、放てッ!!」
「次弾装填完了! 撃て!!」
飛龍と蒼龍は攻撃隊を発艦。軽巡棲鬼目掛けて爆弾を落としていく。
日向の主砲と瑞雲の急降下爆撃を華麗に回避し、軽巡棲鬼は隙を見て砲撃した。
お互いに高速走行を止めず、容赦ない攻撃が続ける。灰色の指示通り、連携陣を単縦陣に変更。
徹底的に軽巡棲鬼を追い詰めていく。
「(この深海棲艦、明らかにヤバすぎる……!! 他のと比べて性能が桁違い過ぎだ!!)」
「(ここで仕留めなければ後々まずい事になるぞ!!)」
「(今ここで倒すしかない!!)」
『潜水艦の娘達から援護が来ます! それまで出来るだけ耐久力を減らしてください!』
「了解!」
伊168の意識回復により、潜水艦達は戦線に復帰。まだ戦えると伊58を始め、伊8達も戦闘態勢に再度戻ってきた。両手から魚雷を展開させ、軽巡棲鬼に定めて発射。海上は水柱が立ち、黒煙が空に舞う。軽巡棲鬼との戦闘はより激しく熾烈になった。
一方で執務室及び司令室では──、
「軽巡棲鬼に壊がいるなんて知らなかった……早く対策法を練らないと!!」
「この軽巡棲鬼は対空や装甲が重圧は勿論の事、対潜装備まで備えてる。従来の軽巡棲鬼とは比較にならない程の強さだ……青葉!!」
『はいはい! 何でしょうか!!』
「新たな個体を軽巡棲鬼・壊と認定! 対策の為に資料として画像が必要になる! お願い出来るか?」
『了解了解! 任せてください!』
摩耶が新しくこの深海棲艦を軽巡棲鬼・壊と命名。未曾有の危険個体として新たに情報と対策が必要になる。摩耶は青葉に軽巡棲鬼の姿を撮るように指示。青葉の護衛として金剛と隼鷹、那智と阿賀野と矢矧が向かい、飛龍達の援護も兼ねて艦隊が結成された。
「チッ!! すばしっこい!!」
思わず飛龍が舌打ちして嘆く。軽巡棲鬼・壊の戦闘能力は凄まじく、飛龍達の猛攻を受けても尚小破には行き届いていなかった。立て続けに来る砲弾を両足で弾き飛ばし、潜水艦達の魚雷を跳躍で回避。空中で身体を回転させながら隙をついて砲撃してきた。
「ッ……!! 確認……!!」
「待て!! どこへ行く!!」
『方向転換!? どこへ!?』
突然軽巡棲鬼が戦闘を中止し、高速走行で戦場を離れた。飛龍達も逃がすまいとその後を負う。
軽巡棲鬼が向かった先には──、
『まさかッ……!! ッ、護衛援護艦隊の皆! 今すぐ戦闘態勢に!! 軽巡棲鬼が貴方達に目掛けてやってきます!!』
「やはり逃がしたか。仕方ない、私達が……」
青葉率いる護衛援護艦隊が飛龍達の場所へ向かう途中だった。灰色から急かすような無線が届く。
しかし矢矧達は歴戦の艦娘、余程の事がない限りはヘマはしない。現に鎮守府襲撃の際も那智、阿賀野、矢矧は損傷ありで事なきを得ている。
だが今回だけは違った。
「……? どうしたの、や……はぎ……」
左の光景ばかり見続ける矢矧の様子に疑問を感じた阿賀野が左に顔を振り向ける。そこには──、
「沈メ!!!」
「っ!? 能代──」
誰かの名前を叫んだ途端、阿賀野と矢矧は軽巡棲鬼に顔を掴まれた。
そして掴んだまま海面に引き摺り続け、上空へ投げ飛ばす。
軽巡棲鬼は大跳躍し、矢矧と阿賀野をまとめて蹴り飛ばした。この間、僅か五秒である。
「阿賀野!! 矢矧!!」
「まずいぞ!! 早く!!」
意識を失いかけた。
真横からの突然の攻撃に対応出来なかった。反応出来なかった訳では無い、目視で確認していたはずだった。攻撃も出来た、それでも阿賀野と矢矧は攻撃出来なかった。
「の……しろ……!!」
妹の名前を呼ぶ阿賀野。阿賀野と矢矧の目の前にいるのは深海棲艦化した能代だった。頭を抱えながらもゆっくりと立ち上がる。しかし攻撃を食らった所為か、意識が朦朧としていた。目眩で相手の姿がよく見えない。
「許サナイ……」
「……?」
「許サナイ……!! 絶対ニ許サナイ!!」
私怨がこもった声で軽巡棲鬼及びノシロは叫ぶ。身体に纏う蒼いオーラが活発化し、炎のように燃え盛った。ノシロは阿賀野と矢矧に指さして訴える。
「沈メテヤル!! 阿賀野! 矢矧! オ前達ノ所為デ……! コンナ姿ニナル事ナンテナカッタノニ!!」
「能代姉……!? 何故……!?」
「今更許シテト言ッテモ無駄ダゾ矢矧!! オ前ガ沈ンダト見セカケ、私ヲ見捨テタンダカラナァ!!」
「え……」
戦闘態勢に入ろうとした阿賀野は何故かその手を止めてしまった。知らなかった真実に絶望してしまう。能代は矢矧と同じ艦隊で、深海棲艦との戦闘の際に矢矧を庇って沈んだと聞いている。だがそのノシロが話す真実は全くの逆だった。阿賀野は目線を矢矧に移し、矢矧の肩を揺さぶる。
「どういう事……矢矧……!! 能代は貴方を庇って沈んだんじゃないの!!?」
「そ、それは──」「違ウ!! 私ハ矢矧ヲ庇ッテ沈ンダンジャナイ!! 私ヲ捨テタイガ為ニワザト見捨テテ沈メタンダ!!」
矢矧は目の前の現実を受け入れられないのか、ただ呆然としていた。目は見開いており、僅かながらに呼吸が荒れている。阿賀野に肩を揺さぶられても人形の様に立ち尽くしていた。
「そんな……!! じゃあ嘘だったって言うの!? 何でそんな事を!!」
「落ち着け!! 気を取り乱し過ぎだ!!」
「ッ!?」
ノシロが艦隊からの攻撃を受け、一歩下がる。隼鷹の航空機と金剛の砲撃がノシロに襲い掛かった。護衛援護艦隊が到着し、先に那智が阿賀野達の前へ出る。
「落ち着け……阿賀野、矢矧……! まずこの軽巡棲鬼が能代かどうかも怪しい事に気付くんだ。本当かどうかも分からないのに信じ込むのは相手の思う壷だぞ」
「ドコガダ那智!! 知ッテルンダヨ、アノ鎮守府ノ事情ナンテ!! 優遇制度トカイウ馬鹿ゲタ制度ニ踊ラサレテ、アイツノ人形デシカナイ屑共ガ!! 私ハ忘レテナンカイナイカラナァァァァ!!!!」
攻撃を受け続けながらもノシロは叫びながら隼鷹の航空機を全て破壊する。空が爆煙で埋まり、衝撃と風圧が周辺を揺らした。ノシロは憎悪を纏うような表情で一気に阿賀野達まで接近する。咄嗟に那智が止めに入り、ノシロを押し退けた。
「そんな……」
「阿賀野! 立て! 今はそれどころでは──」「沈メェェ!!」
ノシロの言葉に絶望する阿賀野。沈んだノシロの真実に耐えきれず、膝から崩れ落ちた。矢矧は驚いた様な表情で息が荒くなり、過呼吸になりつつある。灰色が確認を取ろうと呼び掛けるも声は全く聞こえていない。
「チッ……!! 邪魔するなァァァァ!!!!」
ノシロの拳と那智の拳が衝突。
そして両者同時に砲撃。
爆煙が風に運ばれ、二人は姿を現す。
ノシロは次の攻撃に移り、那智を蹴り飛ばす。
那智は蹴りを受け流すも腕が震えていた。ノシロも直撃した場所が悪かったのか那智の砲撃で膝を着く。
「ハァ……ハァ……次カラ次ヘトッ……!!」
空にまた埋め尽くす程の航空隊がノシロを襲う。先程戦った飛龍達の艦隊が追い掛けてきたようだ。流石に二艦隊も相手はしていられないノシロ。戦況が悪い事に気付き、歯を噛み締めながらも訴えた。
「私ハ絶対ニ許サナイ!! オ前達屑共ヲ私ガ制裁シテヤル!! 覚エテロ!!」
ノシロは周辺に煙弾を撃ち、姿を眩ませた。
しかし飛龍達は姿を捉えている、再びを追い掛けようとした。が──、
『飛龍、深追いは禁物だ。帰還しろ』
「提督!?」
突然無線から提督の声が聞こえた。司令室では摩耶の携帯から提督がビデオ通話で声を流していた。飛龍達と阿賀野達の声も聞こえるようになっており、先程の場面を黙って聞いていたようだ。提督の帰還命令に飛龍達は疑問の意を唱える。
「でも提督! あの軽巡棲鬼は!!」
『分かってる。超特殊な新個体だ、今逃がせば後々脅威にはなるだろうな。だからアイツに任せろ』
「アイツ? アイツって……」
『お前らも一度は目に焼き付けた方が良い。この女が俺が苦労する程のどれだけの化け物か、かつては鈴谷と加賀を窮地に立たせた最強の北上様を物の五分足らずでボコボコにした野郎だ。んじゃ後はよろしく──』
『──鹿島』
「ッ!? 誰ダ!!」
「私は大いなるこの海を眺め、戦場を駆ける戦乙女……」
逃げようとするノシロに立ちはばかるは銀髪の艦娘。腕を広げ、演劇の様にジェスチャーを繰り返す。
「提督を愛し、そして愛された艦娘であり……」
「ッ!!」
挙動不審な行動にノシロは戦闘態勢に入る。ゆっくりと近づくその艦娘は殺気がまるで無かった。気配すら精神を研ぎ澄まさなければ分からないほどだ。
「全ての艦娘を蹂躙し尽くし、歴戦の猛者として鍛え上げる。何の取り柄もない……」
その艦娘は瞬きした途端、ノシロの真横にいつの間にかいた。
気付けなかった、全くの無音だったのだ。
何故だろうか、真横に向いてはいけない気する。そこに悪魔の様な表情を浮かべた艦娘が砲口を全てこちらに向けさせ、嘲笑っていたからだ。
「ただの艦娘……鹿島であります。以後──」
「沈メッ!!!」
ノシロは反撃しようと身体を動かした。その時には──、
「──お見知りおきを」
──目の前が真っ暗になった。
ハッピーエンドが好きなようですね。
一番好きな結末は何ですか?
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ハッピーエンド
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バットエンド
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ビターエンド
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メリーバットエンド