うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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97. 勝手に写真を撮るのは肖像権の侵害

 ノシロとの遭遇前、提督と瑞鶴は呉鎮守府を訪ねていた。

 

 訪問手続きは事前にしていた為に名前を言っただけで許可を出してくれた。時雨と夕立の件で顔を晒して以降、憲兵や艦娘達は興味深々に顔を覗こうとしている。意外にも影響力はあったのか、海軍一の減らず口の嫌われ者のイメージは少なからず変わったらしい。

 

「元気かなー?」

「白くんか、こっちは大丈夫だよ。そちらこそ調子は如何かな?」

 

 提督の後輩と執務室で出会う。鎮守府襲撃前に潜伏していた前任によって重傷を負わされていたが、医師達の懸命な治療によって回復。無事戦線に復帰し、今は普通に仕事を全うしている。後輩の隣には加賀が黙々と書類を書いていた。提督に気付いたのか一旦仕事を止め、立ち上がって礼をする。

 

「こんにちは、また会いましたね白さん。そちらは……瑞鶴ですね」

「ゲッ……加賀さん……」

「何怯えてんだ、別の加賀だろうが。何故俺の髪を触る、そして俺の背中に隠れるな、暑苦しいんだよ!!」

 

 呉鎮守府の加賀を見て、瑞鶴は提督の背中に隠れた。暑苦しいと提督は無理矢理身体を捻って瑞鶴を追い出す。

 

「今日訪問された理由を伺ってもよろしいでしょうか?」

「あぁ今日は保管庫に入る。一時このちんちくりんを預かってくれ。後、菊月がいるだろ、呼んでくれるか」

 

 

 保管庫。

 

 

 瑞鶴は聞いてもはてなマークを浮かべたが、後輩と加賀はその言葉を聞いて慎重になった。呉鎮守府在籍時代、提督が保管庫に行く事は危険且つ重要な事がこれから起きるか、もう既に起きているかの二択になる。提督と選ばれた艦娘以外、誰も入る事は許されない。それ故に保管庫に何があるのかも分からない。

 だが入ってはいけない事ぐらいは誰にでも理解出来ていた。

 

「分かりました。すぐにお呼びします」

 

 

 

 

 

「司令官か、久しぶりだな」

「死神みたいな顔をしているなぁ菊月。早速だが保管庫に来い」

「……了解した」

 

 簡素な挨拶を済ませ、二人は地下深くの保管庫へ向かう。保管庫の扉は頑丈且つ厳重で、提督しか知らないパスワードを五回、ランダムで指定された順に言わなければならない。それを提督は軽々と意味不明な単語を並べ、扉の施錠を解除。重い鉄の扉が五段階に別れて鈍く開き、提督と菊月が中へ入る。

 

「これで司令官の保管庫に入るのは三度目か。最早慣れてしまったな」

「まぁそんなに変わってないからな」

「今回は何を探すのだ?」

「薬と資料。菊月はその金属棚から、えーっと……Eの五段の中から薬を取ってくれ」

 

 保管庫の中は埃臭く、そして異臭が混ざっている。

 半永久的に冷凍保存された深海棲艦のサンプルや既に新式解体済み艦娘の艤装、科学室に置いてある様な薬品や並べられた試験管にフラスコ。奥には壁に敷き詰められた本棚が部屋を囲うように設置されている。保管庫内は散らかっており、足の踏み場を探すのが一苦労だ。

 

 菊月は薬の取り出しを頼まれ、訳の分からない化学薬品が並べられた鉄棚の前まで辿り着いた。常人では重過ぎてまともに引く事すら出来ない引き出しを菊月は簡単に引く。

 

「これか? 司令官」

「そうそうそれそれ。テーブルに置いてくれ」

 

 見るからに怪しい半透明な液体が入っている瓶を取り出し、近くのテーブルに置く。粘り気があるのか瓶の内側にしつこく残っている。

 

「これは……何だ?」

「効果消去薬だ。危険度第一級に指定されている薬、所持するだけで俺が牢屋に収容される」

「はぁ……こんなの所持しているのがバレたらまずくないか?」

「だと思うじゃん? 正直やばいと思ってる」

「思ってるのか」

「……あったあったこれだ」

 

 提督が本棚からあるファイルを取り出す。中を開き、並べられた資料を一枚ずつ目を通していった。気になった菊月も提督の背中に乗り、資料の中身を覗く。

 

「鍵……鍵……鍵……これかな?」

 

 提督が探していたのは鍵に関する資料。深海棲艦の提督として確保されたあの人との尋問内容でそう思える確かな証言がいくつか残っていた。

 

 

 

 

『残■たヨ。でも教え■しなイ』

 

『僕は知って■ル。■■が■した罪を■当化しようと■の娘達を■■の敵として■■■■事をネ』

 

『なに、ただの戯言サ。僕はどう■ろうと構わない。後はあの娘達が鍵を使ってやって■れるさ……だけどその時に■達は──』

 

 

 

 

 

 

『──どれくらい()()()()()と戦えているのかナ?』

 

 

 

 

 

 

「虚構の……概念……」

「鍵と言ったのはここだけだ。散々コピーした中でこれしか記されていない……なるほどね」

 

 提督が安心したかのようにため息を吐く。

 

 あの人が言う鍵とは何なのだろうか。

 この文だけでは分からない。

 

 唯一ヒントとして虚構の概念というキーワードが引っ掛かる。更には何か重要な事が書かれていたのか一部、文が消されていた。

 

「……本当は覚えてるんじゃないのか」

「何を?」

「いや……何でもない……」

 

 菊月が慎重そうに提督に問い掛ける。菊月は提督が無名の頃に所属していた艦娘だ。勿論、提督の過去や事情は知り得ている。

 

 だからこそ菊月は提督を心配しているのだ。提督は感情のこもらない声で菊月に答える。提督の眼を見た菊月は一瞬動揺し、提督の背中から降りる。調べ物が終わった二人は保管庫の扉を固く閉め、地上へ向かっていった。

 

「いやー良かった良かった。調べたい事があったが順次解決に向かってきている。ありがとなー!!」

「いえいえ、大丈夫ですよ」

 

 提督が黒い鞄を持ちながら後輩に別れの挨拶をする。執務室では瑞鶴と加賀が珍しく話していた。何か共通性があったのか盛り上がっていたようだ。提督は瑞鶴を連れていき、呉鎮守府を出ていった。

 

「どうしたの、菊月」

「いや……久々に司令官の眼を見て、少し驚いてな」

「眼……?」

「あぁ、あの眼は…… ──

 

 

 

 

 

 

 ──ヤツの眼だった……」

 

 

 

 

 

 

 その眼は紅黒く、憎悪に溢れていたという。

 

 

 

 

 

 

「ここは……?」

「何でも揃う激安の殿堂様」

 

 提督は素顔のままでスーパーの中に入る。瑞鶴もその後を追うが、中の混雑様に驚いていた。ダンボールが何個にも積み重なり、お菓子や飲み物が山のように積まれている。棚と棚の間に出来た道はとても細く、すれ違うのにも苦労した。

 

「何買うのよ」

「片栗粉とか色々」

 

 買う物を物色している提督と瑞鶴に周りの人々は興味深々だ。遠くから有名人の様にマジマジと見ている。スマホで写真を撮る者もいた。

 

 確かに軍服のままでスーパーの中にいれば物珍しそうな目で見られるのも無理はない。更には謎の存在として語られていた提督だ。素顔を一目見ようと集まって来ている。そんな中、提督の携帯から着信音が鳴り響いた。

 

「何だ摩耶」

『提督か、敵襲だ』

「……んで敵の数は? 種類は? クラスは?」

『哨戒艦隊旗艦浜風の報告によると、数は一体、種類は海上型、クラスは鬼。恐らく特殊な? 軽巡棲鬼を目視で確認したとの事だ』

「成程ね……分かった、今すぐ艦隊を再編成しろ。旗艦は飛龍、その他は蒼龍、日向、最上、五十鈴、不知火。潜水艦は全員出撃な。その他の馬鹿共は近海の警戒レベルを引き上げ、決められた警戒網を見張るように。近隣住民、整備士と憲兵の避難を急げ」

『分かった』

 

 提督は小声で聞こえない様に摩耶に伝える。周辺を気にしているのか左右をゆっくりと見ていた。

 

「後、作戦指揮は灰に任せる。摩耶がサポートしてくれ。今俺は呉にいて手が離せない。尚軽巡棲鬼は鹵獲不要、沈めてよしとする。もし飛行場姫が何か言ってくるなら意見も聞いてやれ」

『わ、私ですか!?』

「いいじゃないかぁ、これも経験だよ灰君。だが何かしでかしたら許さんからな」

『は、はいぃ……』

 

 灰色の怯える声が微かに聞こえた。それを聞いた提督はゲス顔でキシシシシと変な笑い声を上げている。

 

「って事で、後は頼んだぞ摩耶──(ドン〇~ホーテ~♬︎)あ、やべ」

『おいちょっと待て。呉にいるんじゃッ──』

「ふぅ……危なかった」

「いや間に合ってないでしょうよ、どう考えても」

 

 激安の殿堂で買い物を終え、専用車に乗る。某独国との会議に行った際の運転手が駅まで送ってくれた。その最中にまた摩耶から着信が来る。提督はため息を吐きながらも携帯を開いた。

 

「今度は何だ摩耶」

『あの軽巡棲鬼なんだけどさ、どうやらこの鎮守府の事を知っているみたいなんだよ』

「ふーん……」

『一応記録する為に青葉の護衛援護艦隊を出撃させたんだ、あの軽巡棲鬼はとてつもなく阿賀野と矢矧に憎悪を向けてる』

 

 その名も軽巡棲鬼・壊。恐らく何かしら改造された上級の個体だろう。記録の為に青葉や艦隊を組ませたのは正解と言える。その艦隊に阿賀野と矢矧もいたが、その軽巡棲鬼はその二人を目の敵にしているらしい。

 

「なるほどねぇー……んじゃ予定変更、討伐から鹵獲にしろ。そして鹿島を向かわせるんだ、ビデオ通話でマイクに近付けろ」

『分かった』

 

 その後はしばらくノシロと阿賀野達の会話を聞いていた提督。隣に座っていた瑞鶴も耳を寄せて、一緒に聞いている。ノシロがどういう存在か、矢矧の罪や阿賀野の絶望ぶりが無線から聞こえてきた。最早戦いどころの話では無くなっている。

 

『逃がすかッ!!』

「っ? 飛龍か。おーい飛龍、深追いは禁物だー。帰還しろー」

『提督!?』

 

 飛龍達の艦隊も追いつき、逃げゆくノシロを追いかけるのを止めさせた。後は鹿島がやってくれる。わざわざ挟み撃ちにする必要も無い。飛龍は提督の命令に反対の意を唱えた。

 

『でも提督! あの軽巡棲鬼は!!』

「分かってる。超特殊な新個体だ、今逃がせば後々脅威にはなるだろうな。だからアイツに任せろ』

 

 アイツとはまさに鹿島の事だ。

 

 提督は知っている。あれこそ本物の化け物だという事を。

 

 提督が無名の頃に着任した頃の鹿島は既に強かった。提督がわざわざ教えずとも、他の艦娘とは比べ物にならない程の戦闘能力を有していたのだ。剣術や体術、戦術の全てを知り尽くしており、摩耶ですら勝った事がない。彼女はこの世に造られた時から完璧な艦娘として完成されていた。

 

『お前らも一度は目に焼き付けた方が良い。この女が俺が苦労する程のどれだけの化け物か、かつては鈴谷と加賀を窮地に立たせた最強の北上様を物の五分足らずでボコボコにした野郎だ。んじゃ後はよろしく、鹿島』

 

 日本海軍最終決戦兵器が一人、香取型練習巡洋艦二番艦、鹿島。またの名を――、

 

 

 

 

(シロガネ)

 

 

 

 

 鐐の髪を輝かせる彼女を前に立つ者は、如何なる生物でもひれ伏せられると言われている。

 

 

 

 

「あの鹿島ってそんなに凄いの……?」

「摩耶と何回か、戦ったが全て引き分けだ。最終決戦兵器として例外的に編入が認められているが、アイツこそ我々人間が一番警戒するべき……悪魔だよ」

 

 提督でさえも鹿島の存在は恐れていた。

 数多の艦娘を見てきた提督だが、あれ程思考が読めない艦娘は鹿島が初めてだった。彼女自身は練習巡洋艦だからと屁理屈を並べて戦場に出撃する事はなく、寧ろ出撃する事を拒む艦娘。鹿島さえいれば戦況を一変させる事など容易いだろう。それなのにも関わらず出撃したがらない。

 

 ある時その理由を聞いた事がある。

 

 

 

 

『一気に殲滅させたら……その後はヤっても楽しくないじゃないですか? だから私は出撃しません』

 

 

 

 

「そりゃ上層部もお前らを怖がる訳だ」

「……」

 




鹿島は茨城県の鹿島神宮から分祀されているようですね。
その為か様々な剣流が生まれて、色々と広まったみたいです。

滅茶苦茶カッコいいので使っちゃいました。

一番好きな結末は何ですか?

  • ハッピーエンド
  • バットエンド
  • ビターエンド
  • メリーバットエンド
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